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114 睡魔

誤字を見つけたので修正しました。内容に変更はありません。

「どれどれ、前菜もスープも美味しかったけど、大事なのはメインのパスタだからね・・・いただきます・・・あ、うわっ・・・なにこれ美味しい!あの店員本当になんなの!?」


ケイトはパスタを一口食べるなり、美味しさに感動の声を上げた。


俺もカチュアのおすすめの、海老のトマトソースのパスタを食べてみるが、濃厚なトマトソースがパスタに絡まり、弾力のあるエビと一緒に口に入れると、美味しさに思わず唸ってしまった。


「うわ、カチュア、これ本当に美味いな」

「でしょ!?私もこれ美味しくて、もう一度食べたかったの!今日食べれて本当に良かった!」


カチュアもフォークにパスタを巻いて、口に入れると、美味しさに顔をほころばせた。




「・・・でも、本当に美味しいけど、やっぱりパウロさんの味だよ・・・何でなんだろ」


パスタをフォークで巻く手を止めて、カチュアは一人言のように呟いた。


その言葉に、俺も、ジーンもケイトもパスタを巻く手を止める。


さっき、気にするのは止めようと言ったジーンも、やはり気になっていたのだろう。

自分なりの考えを話し始めた。



「例えば、パウロさんの息子という事はないかな?それなら、父親の味を引き継いでいたとして、何も不思議はないだろ?」


「・・・そうなると、なんで一度店を閉めたのかな?見たところ、内装を変えたリニューアルって感じでもないし、それに店名も変える必要ないよね?」


ケイトは店内を見回しながら言葉を返した。掃除は行き届いているので綺麗で清潔感はあるが、新しくリフォームをしたという感じには見えない。ケイトの疑問に、ジーンは重ねて仮説を立てていった。


「一度店を閉めたのは、厨房をいじる必要があったのかもしれない。修理とか、器具の入れ替えとか。それで時間がかかったのだとしたら、どうだろう?

客席のフロアは、これだけ清潔感があるなら、費用をかけていじる必要もないんじゃないかな?

店名を変えるのは、単純に息子の代は、息子の名前でという理由かもしれない。以前の店名は、確かパスタ・パウロだったよね?だから、今回は息子の名前に変えたというのはどうかな?」


ジーンの説明を聞き、ケイトは、なるほど、と呟いた。

一応の理由付けはできている。ありえなくはない。



「あの店員が、息子って線は確かにあるな。俺は前の味は知らないけど、みんなが同じ味って言うんだから、十分その可能性はあるよな」


ここは俺も同意できた。息子という可能性は高いと思う。

ケイトもカチュアも、息子説は有力視しているようで、その線から色々と話を広げている。





「じゃあ、息子が店を引き継いだけど、勝手に店の名前を変えた事に激怒した父親が、もう知らん!って出て行った。それで強がって一人で営業を続けてるけど、実はけっこうショックを受けてて、そのせいで客に不愛想な対応をするようになった。これでいい?」


ケイトは顔の横に人差し指を立てると、俺達三人の顔を確認するように順に見ていった。

なんでこんな結論になったんだろう?



「う、うん・・・なんか、違うと思うけど、僕はもう疲れたからそれでいいや」

「私も、けっこう失礼な感じがするけど、それで・・・」


ジーンもカチュアも、やや苦笑いを浮かべながら、片手を上げて了解の意を示した。


議論に疲れた俺も、了解です、と返事をすると、自分の説で決着がついた事に、ケイトは満足したようで大きく頷いた。


「いやぁ~、やっと結論が出たね。良かった良かった。じゃあ、そういう事で」


長々話していたが、時計を見ると、すでに19時を回っていた。カーテンが閉められているので、外を見る事はできないが、真っ暗で何も見る事はできないだろう。

暗くなってから、他にお客が入って来る事はありえないので、店内には変わらず俺達だけだった。



「失礼します。お下げします」



俺達の会話が止まったタイミングで、男性店員がいつの間にか現れ、皿を取りワゴンに乗せていく。

相変わらず、気持ちの入っていない言葉だ。


「ただいま、食後のワインをお持ちします」


テーブルの上の皿を全て取ると、そう一言添えて、男性店員はワゴンを押して厨房へ入って行った。


「う~ん、やっぱ事情が分かると、あんな態度でも寛大な気持ちで見れるもんだね」

ケイトは自分の推察が正解だと確信しているようで、腕を組み、妙に温かい眼差しを厨房に向けていた。




食後に出されたワインは、口当たりがスッキリしていて、とても美味しく飲めた。

俺は、日本にいた時から、ワインなんて一、二回しか飲んだ事がなく、味も正直よく分からないが、このワインはそんな俺でも普通に美味しいと思えた。



「パスタもスープも、みんな美味しかったね。ご馳走さまでした」

食後のワインも飲んで、カチュアの頬は少し赤くなっていた。

お酒は飲めるが、あまり強くはないようだ。


「そうだね。アタシも最初はどうなるかと思ったけど、この味なら満足だよ」

ケイトはお酒が入ってもまるで顔にでていない。

ワイン二杯だけど、カチュアよりは強そうなのが分かる。



食事が済むと、俺達は男性店員に二階の寝室に通された。

一階は食事をする場所。二階は夜、食事をしたお客が泊まる事ができる寝室として提供しているようだ。


階段を上がると、通路を挟む形で二部屋づつ、合計四部屋あった。



「各部屋、作りは同じです。一部屋にベッドが二つありますので、お二人様でお休みいただけます。

本日は他にお客様がおりませんので、一人一部屋でもご利用できますが、最初にお伺いしました通り、二部屋でよろしいですか?」


先頭にいる男性店員が説明をし終えると、振り返り確認をとってきた。


この世界には、電話が無いので、予約をするためには、事前に直接店まで出向き、口頭で伝えるか、手紙を書いて文書でやりとりをするしかない。


一人一部屋だと、その分料金もかかるし、今回のメンバーなら、そうする必要も無い。

ケイトは二部屋で予約をとっていたのだ。


「いや、二部屋で大丈夫ですよ。それで、朝は七時に一階で食事が出るんですよね?」


「はい。では、お風呂は部屋にございます。タオルも備え付けをご利用ください。七時に一階で朝食をご用意してお待ちしております」


男性店員は最低限の説明だけをすると、一礼して階段を降りて行った。



男性店員の姿が見えなくなると、俺とカチュア、ジーンとケイトで、自然と二組に分かれた。


「ふぁ~・・・なんか、眠くなってきたね。二人ともおやすみ」

「うん、なんか、僕も眠いや・・・アラタ、カチュア、おやすみ」


「俺もなんか眠い・・・おやすみ、じゃあ、また明日」

「うん。なんだろ?私も眠い・・・おやすみ」



簡単な挨拶だけして、俺達は部屋へ入った。


部屋の中は簡素な作りだった。


石造りの壁に触れると、ひんやりとした感触が壁から伝わって来る。

10月はまだいいかもしれないが、もう少ししたら、暖を取れる道具が欲しくなりそうだ。


俺の家も、冬の備えは何もない。

魔道具でなにかあるだろう。補助系だろうから、今度ジーンやケイトに聞いてみよう。


シングルベッドが二つあり、後はお茶を飲む程度には使える小さな丸いテーブルが一つ。

服をかけるためのハンガーラックがあるくらいだった。


窓が一つあるが、夜は当然カーテンで閉められており、外を見る事はできない。



とりあえずベッドに腰を下ろすと、枕元の発光石が目についた。

どの程度の範囲を照らすかで、大きさを決まるが、この部屋は、十畳くらいの広さなので、発光石は10cmくらいの大きさだった。


今は明るいが、寝る時はこれ蓋を被せれば、真っ暗になる。



「アラタ君・・・クリーン持ってる?」

「あぁ、一応二個持って来たよ」


カチュアが俺の隣に腰を下ろし、斜め掛けにしていたバックを、目の前の小さなテーブルに置く。



「良かった・・・なんかね、すごく眠い・・・せっかく二人きりなのに・・・クリーンあるなら、今日はお風呂いいや・・・ごめん。私・・・寝る・・ね・・・・・・」


カチュアはそう言うと、俺の肩に頭をもたれさせてきた。


「う~ん・・・なんだろ、俺もめっちゃ眠・・・い・・・・・・」


夕食が終わり、二階に上がるあたりから、眠気を感じていたが、部屋に入り腰を下ろすと、眠気はいっきに強くなり、俺も耐えきれず瞼を閉じた。


そのまま倒れこむようにベッドに背中を乗せると、そこで俺は眠りに落ちた。




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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