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1139 リカルドの猛攻

「ぐっ!・・・き、きさまぁ・・・」


鉄の矢が刺さったままの右手を押さえながら、アダメスはリカルドを睨みつけた。

赤い髪の女戦士レイチェルに気を取られてしまい、自分に向かってくるもう一人の存在が頭から抜け落ちていた。

サンティアゴを殺された事によるショックが要因ではあるが、この負傷は己の油断が招いた失態だった。




「はぁ・・・はぁ・・・リ、リカルド・・・すまない、助かったよ」


弓を構えながら近づいて来たリカルドがとなりに立つと、レイチェルは前を向いたままリカルドに声をかけた。息も絶え絶えな声から、レイチェルがどれ程のダメージを負っているのか、容易に想像させられた。



「・・・俺がいて良かったな?あとは俺がやっからよ、レイチェルはそこで休んでろよ」


リカルドはまだ起き上がる事のできないでいるレイチェル一瞥すると、前に向き直って言葉を返した。


左脇腹の出血がひどい、深手を負ったようだ。できるだけ早くヒールをかけないと危険だ。


リカルドは一目でレイチェルの状態を見抜いた。

レイチェルの脇腹の傷はかなり深く、流れ出る血の量も多い。そう長くは持たないだろう。


一秒でも早く目の前の敵を片付けて、戻らなければならない。



「・・・リカルド、頼んだ、ぞ・・・・・」




レイチェルの声が耳に届くと同時に、リカルドは構えていた弓の弦から指を離し、鉄の矢を撃ち放った。





一直線に最短の距離を迷いなく。リカルドの射った鉄の矢は、アダメスの額に吸い込まれるように突き刺さった・・・かに見えた。


「ぐッ!」


矢はアダメスの左手に刺さった。

考えるよりも早く、自分に向けられた殺気に対応する、言わば本能で腕を出していた。


リカルドとアダメス、睨み合う二人の距離はほんの数メートル程度である。

だがアダメスはその距離で撃たれた鉄の矢を、己の手を犠牲にして防いでみせた。


手の甲を貫通した鉄の矢は、アダメスの顔スレスレで止まっている。矢尻から散らされた己の血液によって、アダメスの顔にも赤い色が付いた。



「・・・ッ!?」


文字通り目の前で止まった鉄の矢に、アダメスの心臓が大きく高鳴り、息を飲んだ。


矢の威力がもう少し強ければ、自分の顔面に突き刺さっていた事だろう。

まさに紙一重だったが、かろうじて防ぐ事はできた。


これで右と左、両手を矢で貫かれた事になるが、痛みを気にしている暇などない。


「このッ・・・!?」


矢を受け止めた左手を下ろし、反撃に移ろうとしたその時、アダメスの目に飛び込んできたのは、緑色の髪の少年が自分に向かって跳躍して、右の前蹴りを繰り出したところだった。





「オラァッ!」


リカルドの飛び前蹴りが、アダメスの顔面を正面から蹴り抜いた!

ブーツを通して足の裏に感じる確かな衝撃に、リカルドは今の蹴りがアダメスの鼻の骨を潰したと確信した。


身長は160cm、体重は50キロ程度のリカルドは、体力型として力は弱い方である。

だから弓を学び、遠距離に体力型としての自分の可能性を見出したわけだが、力が弱いからと言って格闘が弱いわけでも、できないわけでもない。



己を弾として体ごと突っ込む。

そして途中で止まる事など考えない全体重を乗せた蹴りは、体格でリカルドをはるかに上回るアダメスの足を浮かせ、数メートル後方に飛ばす程の威力だった。



「ぐぶぁッ!」


アダメスは受け身もとれず、背中から地面に落ちた。

潰された鼻からは粘着性のある赤い血が吹き出し、アダメスの顔も首も胸も真っ赤に染め上げていった。


「ぐ、ぐぬぅ・・・ッ!?」


「ウオラァァァァァーーーーーーーッツ!」


アダメスが鼻を押さえながら上半身を起こすと、飛び込んで来たリカルドが右膝を顔面に叩きこんだ!


「ウ、ガァッ・・・!」


潰れた鼻にさらに膝がめり込み、耐え難い程の激痛が顔全体に走る!


「このクソ帝国野郎がぁぁぁぁぁーーーーーーーッツ!」


膝蹴りでアダメスが頭から倒れると、リカルドはそのままアダメスの腹にまたがり、左右の拳を速射砲の如き連打で打ち込んだ!

無防備に打たれ続けるアダメスの顔からは血が飛び散り、砕けた歯がリカルドの頬にまで飛んでくるが、それでもリカルドの拳は一瞬たりとも休む事なく、アダメスを打ち続けた!


「このクソがッ!てめぇら帝国のせいで俺は戦争に駆り出されたんだぞ!ボケがッ!人様に迷惑かけてんじゃねぇぞハゲッ!」


矢が止められたのならこのまま殴り殺す!

怒声を上げながら拳を振るい続けたリカルドだったが、一方的に殴られているはずのアダメスの口元が、微かにニヤリと笑ったのを見て、リカルドの拳が止まった。



え?・・・なに?こいつ今笑ったのか?この状況で?なんで?変態なの?

いや、変態なんだろうけどそれだけか?他にもなんかあんじゃね?いや、なにかあるはずだ。

なんだ?こいついったいなんで笑った?まさかこの状況で逆転できる手が・・・!



それはリカルドのハンターとしての経験と直感だった。

顔を上げて空を見上げると、見覚えのある黒い球体が浮かんでいた。


「なッ!?あ、あれは!なんで?・・・まさか戻ってきたのか!?」


さっきの大爆発が脳裏に思い起こされ、全身から一気に汗が噴き出した。

アラタとアゲハがいなくては、自分もレイチェルも生きてはいなかっただろう。それほどの爆発だった。


そしてこの黒い球がここにあるという事は、あの爆発をもう一度起こせるという事なのだ。


動揺を隠しきれないリカルドの耳に、地面に倒されている男の笑い声が届いた。



「フッ、ハハハ・・・・・貴様らは、生かして・・・帰さん・・・俺とここで・・・死ね」


「く、くそっ!」



アダメスの目にギラリとした狂気が光ると、空に浮かぶブラックスフィアが、一度目と同様の大爆発を起こした。



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