1127 悲しい笑顔
誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません。
「ほぉ、それはそれは・・・確かに王族が各地に顔を出して、民に声をかけて回れば感動する者も多いだろう。民を護るという国の意思も伝わり、ある程度の不安は払拭できるかもしれんな」
二人の王子を北と西の中間地点まで同行させるという女王の言葉に、シャクール・バルデスは顎に手を当てながら、感心したように二度三度と頷いた。
決戦の時は来た。だが少しでも民の心を救う事ができないかを考え、アンリエールは王子達の慰問を決めたのだ。
「・・・陛下、マルス様とオスカー様は、中間地点の軍事施設まででよろしいのですね?」
四勇士ルーシー・アフマダリエフが、視線の先に二人の王子を映しながら確認に入る。
「ええ、恥ずかしながら、マルスもオスカーも戦闘力ではあなた方に遠く及びません。戦場に出ても足を引っ張る事になるでしょう。中間地点までたどり着きましたら、そこを拠点に国内の安定、そして写しの鏡を使いロンズデールとの連携に力を尽くしてもらいます」
アンリエールがそこまで話すと、マルスとオスカーが一歩前に進み出た。
堂々と胸を張るマルスとは対照的に、オスカーは一は控えめな印象である。
「第一王子マルスだ。陛下のおっしゃる通り、俺とオスカーは戦う事はできない。だが今日までロンズデールの国王、並びに有力者と写しの鏡を通して会談を重ねてきた実績はある。兵達が後ろを気にせず戦えるように、ロンズデールと協力して、補給などの後方支援を徹底する事を約束する。だから力を貸してくれ」
「第二王子のオスカーです。皆さんばかりを戦いの場に立たせて、心苦しく思っております。 僕達も戦闘訓練を受けてはいますが、帝国の師団長クラスと戦う程の力はありません。そして王族という立場上、もし敵に捕まってしまえば致命傷になりかねません。ですから僕達は僕達にしかできない事で、戦いたいと思ってます。そのためにはみなさんのお力が必要なんです」
二人の王子の口から発せられた言葉も対照的であった。
自分が戦えない事を恥じとは考えず、王子として強く兵を引っ張っていく姿勢を見せるマルス。
戦いの場に立てない事を後ろめたく思い、臣下に対して頭を下げる事さえいとわない姿勢のオスカー。
将来の国王候補としては、おそらくマルスでほぼ決まりだろう。
この口上だけでも、オスカーが優しい性格だというのは分かる。だがおそらく、オスカーは優しすぎるのだ。民には慕われるだろうが、一国の王としては、つけ入る隙を与える事になりかねない。
王子二人が話し終えると、再びアンリエールが口を開いた。
「すでにクインズベリー軍が外で待機しております。マルスとオスカーの事は、軍団長に任せてありますので、皆さんが直接接する事はあまりないかもしれません。ですが万一の時は力をお借りする事になるでしょう」
「はっ!承知しました。我々も王子達に危害が及ばないよう、全力を尽くします」
ルーシーが胸に手を当て一礼をすると、アンリエールは、頼みましたよ、と一言返した。
そして一度目を閉じて小さく息を吐くと、強い決意に満ちた表情で、段上から最後の言葉を発した。
「勇敢なるクインズベリーの戦士達よ、今や帝国は夜の闇さえも意のままに操ろうとしています。帝国が闇を従えてしまえば、この大陸全土が掌握されてしまうでしょう。我々はこの世界に生きる人々を護るためにも、帝国を倒さなければなりません・・・全てはこの戦いにかかっているのです。そして皆さんならそれができると信じています。この国の未来をあなた方に託します!」
アンリエールの激昂を受けて、段下に並んだ戦士達は、皆一同に声を大にして返事をした。
いよいよ出立の時である。
レイジェスも、騎士団も治安部隊も、一人一人、それぞれがそれぞれの想いを胸に戦場へと向かう。
レイチェルは、ふと視線を感じて段上の端に顔を向けた。
「・・・店長」
優しい微笑みを称えながら、ウィッカーはレイチェルを見つめていた。
とても優しい笑みだった。
普通に見れば、親しい間柄での親愛の笑みに見える。
しかしレイチェルには・・・・・
ずっとウィッカーを見て来たレイチェルには、その優しい微笑みがとても悲しい笑顔に見えた。
そう、それはまるで・・・・・
「・・・・・店長、どうして、そんな・・・・・」
どうしてそんなに悲しい笑顔を私に見せるんですか?
・・・・・まるで、お別れみたいじゃないですか




