1109 いつか友として
「・・・じゃあ、いろいろと世話になったな」
翌朝7時30分。
開店前のレイジェスの店先では、ルーシー・アフマダリエフが、自分の見送りに並んでくれたレイジェスのメンバー達と言葉を交わしていた。
昨日の大雨が嘘のように晴れ渡った青空は、ルーシーの心の楔が解けた事を祝福しているかのように、どこまでも澄み切って見えた。
「フフフ、ルーシーさん、あなたスッキリした良い顔してるわよ」
シルヴィアが前に出て、ぐいっとルーシーの顔を覗き込むようにして見た。
「ああ・・・不思議と心が軽いんだ。昨日までの締め付けられていたような感じが、嘘のように無くなってるんだ。これはきっと、お前達のおかげなんだろうな・・・ありがとう、本当に感謝している」
角度がついてキツイ印象だった眉も、緊張が解けたからか自然と下がり、優しい印象になっている。
ルーシーが微笑むとシルヴィアも笑顔を返し、気になっていた事を尋ねた。
「ルーシーさん、これからどうするの?実家に戻るの?」
「・・・一度は戻る必要がある。今回の件を報告しなければならないからな。その上で今の私の気持ちを正直に話してみるよ。それでどうなるかは分からないが・・・・・」
ルーシーはそこで言葉を切ると、シルヴィアの青い瞳を真っすぐに見つめた。
そして迷いの無い晴れやかな表情で、その先の言葉を結んだ。
「どんな結果になっても、これからは一人のルーシーとして生きて行くよ」
もう兄の背中は見ない。
自分は自分として、自分で決めた道を歩く。
レイジェスで一夜を明かし、ルーシーは自分でそう考え決めたのだ。
「そう・・・ルーシー、応援するわ」
昨日までとは違う。自分自身を見つめて選んだ道。
誰の背中も追わないと決めたルーシーの選択に、シルヴィアも満足そうに頷いた。
そしてルーシーは最後に一言、また会おう、そう言い残してレイジェスに背を向けた。
「・・・レイチェル、確か今日はお城へ行くのよね?・・・頼めるかしら?」
ルーシーの背中が見えなくなると、シルヴィアは後ろを振り返って、レイチェルに目線を合わせた。
「そうだが・・・・・あぁ、分かった、そのくらいはしてやるか。アンリエール様には、幸い店に損害は出なかったし、和解したと話しておくよ」
シルヴィアの言いたい事を察したレイチェルは、ルーシーへの処罰が軽くなるよう、女王アンリエールへの嘆願を了解した。
一般的な認識では、レイジェスは町のリサイクルショップにすぎない。
だがレイチェル達が国のために戦っているという現実を考えた場合、レイジェスはただのリサイクルショップではなくなるのだ。レイチェル達は公に語る事はしない。そして認める事もないだろう。
だがレイジェスが女王から目をかけられている事を考えると、そこに襲撃をかけたルーシーが、なんのお咎めも無しとは考えられなかった。
だからこそシルヴィアは、アンリエールに話しを通しておこうと考えたのだ。
「フフ、ありがとう、レイチェル」
「いいさ、このくらい。それより、ずいぶん彼女を気にかけるんだな?」
和解したとはいえ、命懸けで戦った相手に変わりはない。戦いから芽生える友情もあるだろうが、それにしてもシルヴィアがここまで気にかける事は意外だった。
レイチェルの質問に、シルヴィアは口元に指先を当てて、少し考えるように空を見上げて答えた。
「そうねぇ・・・なんとなくって言ったら軽く聞こえちゃうかもしれないけど、なんだか放っておけないのよね。あんなに必死だったんだもの、味方してあげたくなっちゃった・・・じゃ、ダメかしら?」
「・・・いや、そんな事はないさ。いいと思うよ。実家での話し合いがどうなるかは分からないが、彼女にとって良い形でまとまる事を願ってやろう」
「ええ、そうね・・・今度は敵ではなく、仲間として会いたいわ」
その後ルーシー・アフマダリエフは、父と母、そして親族と話し合いの場をもうけ、これまで打ち明けられなかった辛かった事、苦しかった事、心に溜め込んでいた全てを話した。
それを聞いた両親と親族達がどう感じ、どう答えたのか・・・それは分からない。
だが話し合いを終えた後、ルーシーの口元には微かな笑みがあった。
レイジェスに襲撃をかけた事は、全くお咎め無しというわけにはいかなかった。
だがレイチェルの口添えもあってか、ルーシーが大きな罰を受ける事はなかった。
四勇士のお役目を下ろされる事もなく、ルーシーは今日もクインズベリー城を護る四つの塔の一つ、南東の塔から、青い空と白い雲、そして美しいクインズベリーの街並みを見つめていた。
「家、か・・・・・今なら分かるよ、私もこの国を護りたいと思う。そしてこの国に住む人達を護る事が、四勇士たる私の役目だ・・・・・」
シルヴィア・・・私は、四勇士は城を守護する事が最優先の任務だ。
だがこの戦争では、私達四勇士も出陣する事になるかもしれない。
その時は・・・・・
「友として肩を並べて戦えたらな、と思うよ・・・」
口元に小さな笑みを作り、ルーシーは静かに瞳を閉じた。




