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1080 光の突破

「ぐっ・・・!」


突然頭の中に響き出した笑い声に、レイチェルは立っていられず膝を着いた。



なんだコレは!?男?いや、女か!?若いようだが、年寄りのような声にも聞こえる。

耳ではなく、直接脳に響かせるような無数の笑い声に、頭が割れそうなくらい痛くなる。


前の方からも座り込む気配を感じる。この現象は、どうやら私だけではないようだ。

これも闇の渦、トバリが原因なのか?



ぐっ・・・駄目だ、あまりの痛みに眩暈までしてきた・・・・これではとても先に進めない・・・ここまで・・・なのか?



ここを抜けた時に使おうと思っていたが、もうそんな事は言っていられない。


私は腰のベルトに掛けた、革のポーチに手を伸ばした。


ポーチの中にはパウンド・フォーへ出発する時、店長からもらったガラスの玉が入っている。

店長はこの玉に光の力を込めたと言っていた。これを使えばこの場は乗り切れるはずだ。


だけど効果時間を考えれば、山を降りた時に使った方がいい。

本当の夜の闇に包まれるまでは、消身の壺に頼って山を降りる。山を降りた頃には、本物の夜闇が世界を覆っているはずだ。コレはその時に使おうと思い温存していた。


だけどもう限界だ。

このままでは山を降りるどころか、ここで全滅だ。


まずはこの場を乗り切る事だ!


覚悟を決めてポーチの中に手を入れたその時、私の隣に立つアラタの体から、強く大きな光が放出されて辺りを照らしだした。





「アラタ・・・光が・・・・・」


どういう事だ?もう力はほとんど残ってなかったはずだ。

だけど今キミの体から発せられている光は、この闇にも負けないくらい強くて大きい。


光の力が回復したのか?


・・・シンジョウ・ヤヨイが力を貸したのか?それとも風の精霊か?

分からないが、アラタに力が戻った事は確かなようだ。そしてその力で、私達は最大の危機を脱せるかもしれない。


「アラタ・・・」



やはりキミを連れてきた事は正解だった。

私がキミに同行を求めたのは、闇と戦うからという理由だけではない。

キミはいまいち自分に自信をもっていないが、そんな事はない。キミは土壇場で強い。

マルコスと戦った時も、偽国王と戦った時も、ロンズデールに行った時だって、キミは勝負所で勝ってきた。


私はキミなら、どんな状況下に陥っても、なんとかして切り抜ける術を見つけると思っている。

そしてキミは今回も、その期待に応えてくれた。




私が助けてやらないと・・・そう思っていた。

けれど、いつの間にか・・・・・


「・・・成長したな、アラタ」




「ウォォォォォォーーーーーーーッツ!光よぉぉぉぉぉぉーーーーーーッツ!」



アラタの叫び声がパウンド・フォーに響き渡り、全身から発せられた光が闇を打ち払った。






ッ!?これは・・・アラタ、お前か!?まだ力が残っていたとは・・・よし、これは好機だ!

頭の中で笑い声もしない、光が闇を払った今こそ行くんだ!


「全員走るぞ!体力型は魔法使いをフォローしろ!」


先頭に立つアルベルトは振り返ると、大きく声を張り上げた。


暗闇に包まれた中、一切の物音を立てないように歩く事は、神経を擦り減らし、体力も気力も大きく削っていた。

そして突然頭の中に鳴り響いた不気味な笑い声は、各々を行動不能にまで追い込んだ。


ここまでか・・・ゴールド騎士のアルベルトにそう思わせる程、追い詰められていた。


だがこのギリギリの状況で、突如発生した大きな光が闇を打ち消した。

そして光は、正体不明の笑い声も取り払ってくれたようだ。頭の中がクリアになり、体中に張り付いていた不快感も無くなっている。



迷っている時間はない。

行動するのならここだ!多少無理をしてでも、この光があるうちに行くしかない!



アルベルトの号令で、うずくまっていたメンバー達も立ち上がった。

自分達の体を蝕んでいた闇が消えて、力強い光が辺りを照らしている。

この状況が自分達に好影響を与えていると瞬時に察すると、体力型は魔法使いの手を取り、迷わず山を駆け下りた!





斜面を駆け下りながら、アルベルトは隣を走るアゲハに目を向けた。


「下までどのくらいかかる?」


「はぁ・・・はぁ・・・二時間、くらいかな・・・」


元々消耗していたところに、ここまで闇に圧迫された事で、更に大きく削られたアゲハは、額に浮かぶ大粒の汗を左手の甲で拭った。

呼吸も乱れ、肩で息をする姿はかなり苦しそうに見える。


「キツかったら言え、背負ってやる」


「ハッ、なめてんの?・・・このくらいで、まいるような・・・鍛え方はしてないよ!」


前を向いたまま口の端を持ち上げると、アゲハは前を遮るように伸びる枝を薙刀で斬り払い、大きく前に踏み込んだ。


「・・・余計なお世話だったな、分かった。俺達は後ろを付いて行く。道案内は任せたぞ」


先頭に立ったアゲハは頷かなかったが、返事の代わりに薙刀を振るい、道を塞ぐ枝葉を斬り払った。




二時間か・・・・・

この光は、それまで持つだろうか?


この光のおかげで今は昼間のように明るい。闇も完全に消えている。

だが逆を言えば、この光が消えれば再び闇に包まれると言う事だ。


次またあの笑い声にやられたら、今度はもう立てないだろう。

アルベルトは後ろを振り返り、全員が付いて来ている事を確認した。



全員だ・・・・・

一人も欠ける事なく、全員で帰る。


これは賭けだ、絶対に負けられない賭けだ。

この光が消えないうちに山を降り切る!



アルベルトは決意を固め、拳を握り締めた。


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