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108 友達

朝目を覚まして、壁に掛けてある時計を見ると、七時になる十分前だった。

今日は八時出勤なので、いつもより早起きをしようと思っていたが、あまり変わらなかったようだ。


上半身を起こして隣のベッドに顔を向けると、リカルドの足が目に入った。

俺と同じ向きで寝ていたから、真っ先に足が目に入るのはおかしい。視線をそのまま足から横へスライドしていくと、リカルドの体が180度回転していた事が分かった。



「・・・よく下に落ちなかったな」

ある意味感心できる寝相の悪さだ。放っておくとまだまだ起きなそうなので、体を揺すって起こすと、大口を開けて欠伸をしながら、全く聞き取れない朝の挨拶をしてきた。



「んだよ~、もう朝かよ~」

リカルドはベッドから降りると、文句を言いながら、昨日着ていた服に着替え始める。

計画して泊まりに来たわけではないので、着替えが無いのだ。


こういう時は、魔道具のクリーンがとても役に立つ。体は風呂上りのようにサッパリして、服は汗や汚れが綺麗に無くなり、洗濯した後のような快適な着心地になるのだ。


俺も土の寝間着を脱いで、Tシャツとデニムパンツに着替えたところで、部屋のドアがノックされた。


返事をしながらドアを開けると、ユーリが立っていた。

ユーリもやはり昨日と同じ服装だ。

薄ピンクの長袖パーカーに、七分丈の黒パンツを合わせている。同じ服を着ている割には、シワやヨレた感じがしないところを見ると、すでにクリーンを使った後のようだ。


「おはよう。ご飯だよ」

「おはよう。ユーリ早いな。俺達、今着替え終わったとこなんだ。すぐに顔洗って行くから」


ユーリは黙って頷くと、そのままダイニングの方に歩いて行った。



リカルドと二人、顔を洗い、ダイニングに入ると、カチュアとユーリは向かい合う形でテーブルを挟み、座っておしゃべりをしていた。


「おはようカチュア、遅くなっちゃってごめん」

「あ、アラタ君おはよう。ご飯できてるよ。今、スープ持って来るね」

「はよー。カチュア、俺のスープは具沢山な」

「おはよう。リカルド君は、相変わらず朝から食べるね」


いっぱい食べないと力つかねぇんだよ、と言いながら、リカルドはユーリの隣のイスに腰を下ろす。

俺はカチュアの隣のイスに座った。昨日の夕飯の時と同じ場所だ。



「はい、今日の朝は野菜スープだよ。体温まるから、いっぱい飲んでね」


一口サイズのキャベツや、細く刻んだ人参など、沢山の野菜と、小さく切ったベーコンも入っていた。

コンソメの香りが食欲を刺激してくる。


そして、リカルドに出されたスープに目を向けると、俺の倍以上は具が入っていて、カップが野菜でぎっちりして見える。スープというより、主食と言ってもよさそうだ。


全員揃ったところで、いただきますと声を揃えて食べ始める。



今日の朝は、ご飯に焼き魚、ポテトサラダ、そして野菜スープだ。

カチュアは朝六時に起きて朝食の準備をしたらしい。


「早起きして作ってくれたんだ。ありがとう。美味しいよ」

「うぅん、簡単なものだから、そう言ってくれると嬉しいよ」


野菜スープを半分程飲むと、体がポカポカしてくる感じがした。最近朝が寒いので、体が温まるスープは特に美味しく感じる。


「カチュア、具沢山でおかわり」


リカルドは大盛りスープを飲み切ると言うか、食べきると、カチュアの前にカップをぐいっと突き出した。


「本当によく食べるね。そんなに入るの?」

「おう、このスープめっちゃ美味いわ。さすがカチュア」


料理を褒められるのはやっぱり嬉しいようで、カチュアは少し照れた様子でリカルドのカップを受け取り、キッチンに足を運んだ。


本当に気持ち良いくらい、よく食べるなと感心してしまう。




「アラタ、聞いておきたい。カチュアの家にはいつ挨拶に行くの?」

食事が終わると、ユーリが食後のコーヒーを飲みながら、話を振って来た。


そう、俺は結婚の許可をもらいに、カチュアの祖父母に挨拶に行く予定だが、まだ日程は決めていない。


「まだ、ハッキリとは決めてないんだ。カチュア、謁見も終わったし、時間作れそうだから、次かその次の休みあたりはどうかな?」


隣でコーヒーを飲んでいるカチュアに予定を聞くと、カチュアは唇に人差し指を当てて、考えるように天井に目を向けた。


「ん~、私とアラタ君の休みが一緒なの、確か来週あったよね?お店に行ったら一緒に確認しよ?

それで予定合ってたら、私おじいちゃんに聞いてみるね」


「分かった。しかし、なんか具体的に話が決まってくると、今から緊張してくるな・・・」

両手を握って、視線を落とし一つ息を付くと、カチュアがそっと手を重ねてきた。


「アラタ君、大丈夫だよ。おじいちゃん達、アラタ君の事良く想ってくれてるから」


「そうなの?それならちょっと安心していいのかな・・・でも、やっぱ緊張はするもんだよ」

「じゃあ、アラタ君が緊張しないように、私が隣に座ってちゃんとフォローするからね」


そう言ってカチュアが微笑むと、前方から小さななにかが飛んできて、手に当たった。



「ん?チョコ?」

透明な包み紙に入った、一口サイズの四角いチョコだった。二個ある。

顔を前に向けると、ユーリが俺とカチュアを指差して、口を尖らせている。


「アラタ、カチュア、二人見てると甘党の私でも甘過ぎて虫歯になる。チョコあげるから一回休んで」


慌ててカチュアが俺に重ねた手を離す。ストレートな指摘を受けて、俺もカチュアも顔が少し赤くなる。


「なぁ、ユーリ、俺にもチョコくれよ」

「・・・ここでそれ?リカルドは食べる事だけなの?」


全く場に合わない発言に、ユーリが呆れた顔をしながら、チョコを袋ごと渡すと、リカルドは嬉しそうに包み紙を開けてチョコを食べ始めた。


「まぁ、ユーリ、そういう訳で、多分来週行く事になるかな」


「ん、分かった。来週ね。結果も教えて」

「うん。それはもちろんだ。レイジェスの皆に良い報告できるように頑張ってくるよ」



「カチュア」

ユーリは飲み終えたコーヒーカップを置くと、背筋を伸ばし、体をきちんとカチュアに向けた。


「ん?ユーリ、どうしたの?」

なんとなく、あらたまった雰囲気のユーリに、カチュアが小首を傾げる。



「カチュア、私は友達としてカチュアが幸せになれる事を心から願ってる。アラタが告白した時、私はカチュアの幸せそうな顔が見れて、とても嬉しかった。今度は結婚式でカチュアの喜ぶ顔が見たい。

だから、おじいちゃん、おばあちゃんに、ちゃんと認めてもらえる事を願ってる・・・頑張ってね」



いつも淡々としているユーリだが、今はとても柔らかく優しい表情をしている。


ユーリの友達を想う純粋な言葉を聞いて、カチュアの瞳に涙が浮かんだ。


「・・・ユーリ、ありがとう、嬉しい。私、ユーリが大好き、ずっと友達でいてね」

「うん。ずっと友達」



隣で見ている俺も、胸に響くものがあり、とても温かい気持ちになった。

カチュアとユーリは仲が良いと思ってたけど、お互いが本当に大事な存在なんだなと感じた。



リカルドはチラチラと二人を見てはいるが、黙々とチョコを食べて、袋の中を空にした。

コイツは本当にブレない。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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