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1077 闇の中を進む

この感覚は経験した事がある。

もう一年も前になるが、ジェロムの父親の夢の中で、闇に飛び込んだ時だ。


あの時は光を体に纏っていたおかげで、闇に取り込まれる事はなかった。

だが今は違う。肌に纏わりつくような生ぬるい空気、あらゆる方向から見られているような感覚。呼吸の一つでさえソレに感づかれそうな緊張感は、まるで猛獣の檻の中に身一つで入れられたような気分だ。


最後尾の俺とレイチェルの前を行くみんなも、同じ事を感じているのかもしれない。


ほとんど視界の効かない闇の中、誰もが慎重に手探りで先を歩いて行く。それは当然だ。

ここでトバリに襲われるわけにはいかない。焦って存在を気付かれては元も子もない。


だがそれを考慮しても、一行の歩は非常に遅かった。



結論から言えば、エミリーの消身の壺は闇にも効果を発揮した。

一行が闇に足を踏み入れておよそ一時間、その間トバリの気配は近くで感じたが、トバリが襲ってくる事はなかった。


一時間もの間トバリを躱した事実を見れば、エミリーの消身の壺は良い意味で予想を裏切ったのだ。


だがそれは心身に非常に大きな負担を与えていた。


決して音を立ててはならない。視界がほぼ閉ざされた闇の中で、砂利を踏む音にも細心の注意を払って歩かなければならない事は、体力も気力も大きく消耗させた。




・・・・・はぁ・・・・・ふぅ・・・・・


少し荒い息遣いが聞こえる。


隣を歩くレイチェルではない。

どこからだ?この暗闇だと方向感覚が狂いそうだ・・・これは前の方か?


男・・・いや、女性のようだ。キツそうだ・・・アゲハか?いや、魔法使いの誰かか?


無理もない。みんなボロボロなんだ・・・山を降り始めてどのくらいだ?

30分は経っていると思うが、せいぜい一時間くらいか?


それでこの状態だ。これで最後まで行けるのか・・・・・

多少山を降り始めても、下まであとどれだけの距離がある?こんなスローペースで日没までに下山できるはずがないんだ。これでは上に残っていようが、下に降りようが、結果は変わらないんじゃないのか?


そこまで考えて焦りと不安が胸を埋めようとした時、ふいに隣を歩くレイチェルが俺の腕を掴んで足を止めた。


「レイチェ・・・」


突然の事に驚いて、つい声がもれてしまいそうになると、レイチェルが空いている手で俺の口を塞いだ。


「しっ!・・・」


動くな。表情までは見えないが、耳元でそう短く告げられ、俺も状況を理解した。


俺の前を歩いているはずのリーザも、その前を歩くみんなも、誰もが足を止めて息を殺している。

これは下山を始める前に話し合った、想定できる状況の一つにおちいったという事だ。



・・・・・誰かがトバリに感づかれかもしれない。



思い当たる節はある。さっき聞こえた前の方から息遣い。おそらくあれが原因だろう。

だいぶ抑えようとはしていたみたいだけど、それでも静寂に包まれた闇の中では、音がよく通るのだ。


誰だ?多分あれは女性だ。レイチェルではないし、リーザも違うようだ。


じゃあ先頭にいるアゲハか?それとも、真ん中辺りにいるエミリーかロゼ?

だれであってもまずい・・・どうする、俺もなけなしの力を振り絞れば、一発くらいは拳を振るえると思うが、やるか?


助けに行くかどうするか?決断を迷っていると、体に力でも入ったのだろう。まるで俺の考えを読み取ったように、俺の腕を掴むレイチェルの手に力が入った。


顔は見えなくても空気の動き、気配で分かる。

レイチェルは首を横に振っている。待て、行くなと言っているようだ。


でも、このままじゃ・・・・・



ここで俺が光の力を使えば、この場面は乗り切れるだろう。

だけどそれからどうする?光の力を使えば、俺達の存在感を希薄にしている、消身の壺の煙も吹き飛んでしまうだろう。

エミリーは多少回復した魔力をつぎ込んで、なんとか全員に煙をかける事ができた。

だけどもう一度全員にかけ直す事は、おそらくできない。



だが、それでも・・・・・


そんな俺の躊躇いを感じ取ったのか、俺の腕を掴むレイチェルの手に、グっと大きく力が入った。


いくな!と、そう強く訴えるように。


レイチェル・・・・・・・・


俺は迷った。誰が狙われているか分からないけど、次の瞬間にはトバリに食われてしまうかもしれない。

これは仲間を見捨てるようなものなんじゃないのか?そんな罪悪感すら覚えてしまいそうになる。


だけど、一旦立ち止まった事で、俺はこうも思った。

レイチェルは決して仲間を見捨てたりはしない。そのレイチェルが助けに行くなと言うんだ。

だったら今は動かない事が最適解なのだろうか?


俺が動いてこの場だけ切り抜けても、そこから先は何も思いついていない。

それでは全滅して当然だろう。


全員で生き残るためには、今は心を押し殺してでも、ここで耐えなければならないのかもしれない。



そう・・・信じるんだ。

消身の壺は闇にも効果があった。だからここまで気付かれずに来れたんだ。

だったらここも乗り切れるはずだ!



まだ体には力が入っているが、アラタから前に出て行こうとする気が無くなった事を感じ取ると、レイチェルはアラタの腕から手を離した。


レイチェル自身も気持ちは同じである。

仲間の誰かが今この瞬間、トバリに襲われそうになっているのだ。

当然助けに入りたいと思っている。


だが全体を見なければならない。

ここで飛び出して一時をしのいでも、存在が見つかってしまえば、トバリに食われる事は時間の問題だろう。このまま消身の壺で凌ぎきる事ができるのならば、それに懸ける事が、全員が生きて山を降りられる可能性に繋がるんだ。



だから頼む・・・!気付くな!気付かないでくれ!



爪が食い込む程強く拳を握り締めて、レイチェルは暗闇の中、ただ前だけを見ていた。



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