表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1073/1570

1073 決別

誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません。

「村戸さん・・・」


緋色の髪の女、スカーレットの後ろに立った村戸さんは、俺の目をじっと見つめていた。

しかしその目は、さっきまでのような憎悪に満ちたものではなく、何かを懐かしむような・・・そして悲しみを湛えた色を映していた。



「新・・・・・強く・・・強くなったな・・・」


険の無い声色だった。

少しだけ昔に戻ったような、優しさをも感じられる言葉を向けられて、俺の心は少しだけ揺れ動いた。


もしかしたら戻れるかもしれない。

今なら自分の話しもちゃんと聞いてくれるんじゃないのか?

あの頃の・・・優しかった村戸さんに戻ってくれるんじゃ・・・・・


そう、願い求めた。




「・・・お前の力、お前の心・・・この世界でどう生きてきたのか・・・お前の拳が教えてくれたよ」


村戸修一はスカーレットの前に歩き出ると、僅かに表情を崩しアラタに話しかけた。


敵に対しての態度としてはありえない。

いつも抑揚の無い話し方をするデューク・サリバンの、こんな人間らしい一面は見た事がない。


スカーレットはデュークが何を考えているのか分からず、その手を掴んで止めようとした。

どうやら正面の黒髪の男とデュークは、旧知の中のようだ。戦いの中で説得をされたのかもしれない。


それでデュークの心が移ってしまったら・・・・・



しかし、そんなスカーレットの心の内を読んだかのように、デュークは前を向いたままハッキリと言い切った。


「心配するなスカーレット・・・お前の考えている事にはならない」


「・・・信じていいんだな?」


デューク・サリバンが前を向いたまま頷くと、スカーレットは少しの逡巡の後、その手を離した。



「・・・俺はもう村戸修一ではなく、デューク・サリバンだからな」


自分に言い聞かせるように、そう言葉を口にした。



日本にいた時の名は捨てた。


この世界で皇帝に名を問われた時、村戸修一と名乗ろうとしたが、実際に口から出た名がデューク・サリバン・・・・・ボクシングの初代ヘビー級王者の名前だった。



なぜ村戸修一と名乗らなかったのか・・・俺は怖かったんだ。

日本では殺人は許される行為ではない。だがこの世界で俺は数えきれない程の人間を殺した。

もし日本に帰れたとしても、もう父も母も友人も、みんなが知っている俺はどこにもいないんだ。


だから別人になりたかった。

村戸修一は死んだんだ。みんなが知っている村戸修一はもういないんだ。


俺は村戸修一ではない!俺は・・・俺は・・・・・!



皇帝に名を問われた時、俺の頭には憧れのヘビー級王者が、輝かしい表情でベルトを掲げている姿が思い浮かんだ。





「・・・・・村戸さん」


新の前に立つ。新は俺より5cm程低いから、少しだけ見下ろす形になる。

かつての俺の名前を口にするその表情は、何かを期待しているようにも見える。


新の体から発せられる風は、新の精神状態に左右されるのか、一時の激しさは治まり今は静かに吹いていた。



「新、その名で呼ばれた男は死んだ。俺はデューク・サリバンだ」



今、俺はハッキリと決別を告げた。

新の目を真っすぐに見て、村戸修一は死んだと告げたのだ。



「っ!・・・・・む、村戸さん・・・そんな・・・」


新の表情が一瞬で絶望に染まる。

か細い声で未練を口にしているが、もうどうしようもないのだ。




「・・・新、お前はこの世界で護るべき者ができたんだな・・・ならばもう俺との思い出など捨てろ、お前の道と俺の道が交わる事は決してない。今日だけは、かつてのよしみで退いてやろう。だが次に会った時は容赦はしない・・・・・」


俺の言葉をどう受け止めたのかは分からない。

だが新は、その顔を悲しみに暮れさせながらも、俺から目を逸らさず最後まで聞いていた。


そうだ・・・お前も本当は分かってるんだろ?

俺達はもう戻れない。戦うしかないんだ。



だが今は・・・俺ももう新に拳を向けられない。新もこれ以上の戦闘を望んでいない。


俺と新はしばらく視線だけを交わした・・・・・


やがて互いに目で語る事を終えると、俺は踵を返した。


一歩、二歩・・・足を前に出して、新と決別の道を歩く。






「・・・・・いいパンチだったぜ・・・・・」




数歩歩いて足を止めると、背中を向けたままそう告げた


振り返りはしない

だが新が俺の言葉を受け取った事は分かった


俺が村戸修一として、新の兄貴分として、最後にこれだけは伝えておきたかった


俺がボクシングを教えたんだ

足の使い方、拳の構え方、俺が全部教えたんだ


そんな何も分からなかったあいつが、俺をダウンさせる程の一発を打った



それがとても



とても誇らしかった




「・・・デューク・・・お前・・・・・」



スカーレットは振り返った俺の顔を見て息を飲んだ。

よほど驚いたのだろう、何か言いたそうに俺を見つめたが、結局それ以上言葉を紡ぐ事はしなかった。




「・・・・・行くぞ」


震えそうな声を押さえ、それだけ口にするのがやっとだった。


立ち止まらずに歩く俺の後ろを、数歩遅れてスカーレットが無言で付いて来る。

今は沈黙が有難かった。



さらばだ、新・・・・・

次に会う時はデューク・サリバンとして、全力でお前を倒す。



枯れ果てたと思った雫が頬を濡らした



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ