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1071 アラタ 対 スカーレット

「いけ!火炎鳥!」


スカーレットが右手を前に出すと、真っ赤な火の粉を撒き散らしながら、炎の鳥が翼をはためかせた!


標的は目の前の黒髪の男。

スカーレットが火炎鳥に攻撃の合図を送っても、黒髪の男には動く気配が無い。

顔を上げてこっちを睨みつけてはいるが、足腰には満足に力が入らないのだろう。

やはりデューク・サリバンを倒すために、力の全てを使い切ったようだ。



火炎鳥は、術者であるスカーレットよりも体積が大きい。

翼を広げると、スカーレットの体が隠れて見えなくなる程だ。

そして足が地面を離れると、炎で形作られたくちばしを前に出し、一直線に飛び出した!




フッ!風の精霊で護られている貴様には、炎は効果がないかもしれん。

私も魔力をこの火柱と同調させている以上、他の属性の魔法を使う事はできない。


だがな、この深紅のローブから生み出す生物は別だ。火の精霊が生み出した、火の化身と言ってもいいだろう。

火炎鳥にしても、炎の獅子にしても、炎を纏った物理攻撃ができるんだ。

これならば、いかに風に護られていようと、無傷というわけにはいくまい。


その瀕死の体で耐えられるか?いいや無理だね、ここで死ぬがいい!






「ぐァッッッツ!」


火炎鳥の体当たりがアラタの腹を強く打ちつけた!

近距離だった事もあるが、初速が尋常ではない速さだった。

足が地面を離れたと思った時には、すでに眼前に迫っている。かろうじてくちばしは避けられたが、炎の羽に腹を打たれ、あっけないくらい簡単に弾き飛ばされてしまった。


背中から地面に落ちると、そのままゴロゴロと転がされ、ようやく岩壁にぶつかって止まる事ができた。


火炎鳥の体当たりはものすごい衝撃だった。

アラタは日本にいた時に事故にあった経験はないが、もし車に撥ねられたとしたら、これぐらいの衝撃はあるのかもしれないと思う程だ。

力を使い果たした今の状態では、こらえるなどとても無理な話しだった。



「うっ・・・ゲホッ!ゲホッ!・・・うぅ・・・」


風の精霊の護りがなければ、今の一撃で終わっていたかもしれない。

ダメージは大きい。しかしこのまま寝ているわけにはいかない。すぐにでも起きなければ殺される。


だがアラタが地面に手を着いて体を起こした時、すでに火炎鳥はアラタの真上にいた。


「ッ!しまッ・・・」


気配に気付いて顔を向けようとしたその時、火炎鳥の両足がアラタの背中に圧し掛かり、そのまま地面に押し潰された。


「ぐッ!あがァァァァァーーーーーーッツ!」


風の護りでかろうじて炎は防げている。だが背中を押さえつける重圧はどんどん強くなり、体が地面にめり込んでいく。背中が軋み、胸が圧迫されて呻き声がもれる。


このままでは圧殺される!なんとか脱出しなければ!


「ぐっ・・・こ、こんな、ところで・・・死ぬ、わけには・・・いかない!」


右手で地面を掴むと、土と一緒に拳を強く握りしめた。




今ここで、残り全ての力を振り絞って光の拳を叩き込めば、この鳥は倒せるかもしれない。

だがあの緋色の髪の女が残っている以上、鳥は倒せても俺は殺されてしまうだろう。


考えろ・・・鳥は倒さなくてもいいんだ。


倒すべきは術者である、あの緋色の髪の女だ。鳥を躱してあの女に近づくんだ。


だがどうやって?



あの女はわざわざ俺に言ってきたんだ。

自分は決して近づかない。俺を近づけさせもしない。安全圏から火の鳥でなぶり殺しにしてやると。

好戦的に感じるが、その実は慎重な性格をしている。


おそらく俺が距離を詰めれば、その分下がるはずだ。そしてより警戒を強め、護りが硬くなるだろう。

だから俺があの女に仕掛けるのは一度だけ。それも一歩で距離を詰めなければならない。


一歩で懐に入り、一発で決める。これしかない。


問題はどうやってその一歩を踏み出すかだ。

3~4メートルなら一歩で詰める事はできる。だがその倍は離れている。


普通の方法じゃ無理だ。どうすればいい・・・考えろ・・・・・



「ぐっ!・・・あ、あがぁぁ・・・うぅぅ!」


背中を押し潰す火炎鳥は、アラタから苦しそうな声が上がる度に、まるで嗤っているように嘴を歪めた。


鳥が嗤うなど考えられないが、それもまた、好戦的な火の精霊によって生み出されているがゆえだろう。火炎鳥は苦痛の声を喜び、ひと思いには殺さず、もてあそぶように背中を踏みつける力をジワジワと強めた。


背中と胸を圧迫され、ミシミシと嫌な音が体の内側から響いてくる。

このままでは骨ごと胸を潰される。死を感じるくらいにまで、アラタは追い詰められていた。


「うぐぁッ!ぐっ、うぅ・・・こ、このままじゃ・・・がぁっ!も、もう、やるしか・・・!?」


打開策は見いだせない。だがこのまま終わるわけにはいかない!


アラタがいよいよイチかバチかの特攻をしかけようとしたその時、首から下げた新緑の欠片がアラタの心に語り掛けてきた。


「・・・弥生さん?」






スカーレットは宣言通り、アラタから一定の距離を取りつつ、戦況を見ていた。


「・・・火炎鳥め、遊んでいるな。さっさと殺せばいいものを」


すでに勝負はついている。

アラタを地面に押し付け、動きは完全に封じている。この状況からの逆転は考えにくい。

なにかあるのならば、こうなる前に出しているはずだからだ。


だが隠し玉はギリギリまでとっておく、そういうタイプもいるだろう。

その可能性も考慮して、スカーレットはこれだけ優位に立っても警戒を切らしてはいなかった。


相手の息の根を止めるまで、戦いは終わらない。

ここまで慎重なスカーレットが相手だからこそ、アラタの逆転は考えられないところまできていた。


この時点でスカーレットは九分九厘、勝利を手中に納めていた。

だが、スカーレットには僅かな懸念があった。



「チッ、やはり炎の化身は役に立つが、自我があるのが問題だな。しかも火の精霊の影響が強いから、残忍さが色濃く出ている。なぶり殺しにするとは言ったが、長引かせ過ぎだ」


深紅のローブから生み出す炎の化身は、自我を持っている。

基本的には術者であるスカーレットの指示通りに動くが、好戦的な火の精霊の力で作られているため、戦闘が始まれば本能のままに行動する事が多い。


スカーレットとしては、アラタを地面に押し潰したのなら、そのまま止めを刺して終わらせてよかった。

だが火炎鳥はアラタの呻き声に心地よさを感じ、ジワジワと殺していくつもりのようだ。


「これさえなければ文句の無い能力なのだがな・・・まぁいい、もう一度指示を与えれば済む事だ」


スカーレットは右手に魔力を込めると、火炎鳥に手の平を向けた。

魔力を送る事で自分に意識を向けさせ、指示を送る。これが炎の化身との意思の疎通のやり方である。


すでにアラタの体は地面にめり込む程の押し潰されている。

このまま待っていても勝利は揺るがないだろう。


だがスカーレットは、殺せる時に殺しておくべきだと考えている。

時間を与えるという事は、相手に生きる機会を与えていると事だ。それは不測の事態を起こしかねない行為である。



そしてスカーレットは、この直後に自分の考えはやはり正しかったと思い知った。



「ッ!なッ!?」



スカーレットが火炎鳥に魔力を送ろうとしたその時、地面に押し付けられているアラタの体から、突然風が捲き起こり、火炎鳥を吹き飛ばしたのである!


あまりに突然の事で、何が起こったのか瞬時には状況を掴めず、スカーレットの行動に一手遅れがでる。


そしてスカーレットの動きが止まったその一瞬で、アラタは体を起こすと同時に、地面を強く蹴っていた。


「っ!?」


自分に向かって突撃をしてくるアラタに気付く。

ここでスカーレットは、アラタが風の精霊の力を使い、火炎鳥を吹き飛ばしたと理解した。


やはりこの男は余力を残していた!

だからもて遊ばずに、さっさと殺しておくべきだったんだ。

炎の化身の悪い癖が、この男に力を使う機会を与えてしまったんだ。


スカーレットの表情が苛立ちに歪む。




アラタはこの一歩で、自分とスカーレットの距離を半分まで詰めていた。本来ならば一歩でスカーレットの懐に入れなければお終いだった。

だが初動で先手を取り、スカーレットの隙をつく事ができた。

そのためスカーレットが迎撃態勢に入る前に、もう一歩地面を蹴る事ができた!


「ウオォォォォォーーーーーーーッツ!」



そしてその一歩は、アラタをスカーレットの懐に潜り込ませた。






くっ、こいつ!なにかあると思っていたが、まだこんな足を残していたのか!たった二歩でこの距離を詰めてくるとは!


だが惜しかったな。確かに貴様は私の先手を取ったがそこまでだ。

私の懐には入れたが、私もすでに貴様を撃つ用意はできている。

私を止めるにはもう一手必要だったな。



中級火魔法 双炎砲



私の懐に入ったという事は、私の魔法をゼロ距離で受ける事も意味しているんだ!

両手に漲らせたこの炎!貴様の体に直接叩きこんでやる!


「風の精霊に護られていようとも、その弱り切った体で耐えられるかな!?」






そうだ。


確かに俺は先手を取れたが、それは五分に持っていけただけの話しだ。

俺が距離を詰め切れなければ、お前は後ろに下がって再び距離を取るだけ。

もし俺に射程内まで迫られれば、迎撃をするだけの事。


その魔法は知っている。中級火魔法の双炎砲だな。

俺に直接ぶつけてくるつもりだな?


いいぜ。それはこっちも望むところだ。受けてやる!



だがな・・・・・


左足をスカーレットの懐深く入れて腰を落とす!

そして上半身を右に回すと、今まさに炎を撃ち放とうとしているスカーレットの両手目掛けて、緑色の風を纏った左拳を繰り出した!


「お前の狙い通りになると思うなァァァァァーーーーーーーーッ!」






「っ!?」


こいつ、私の双炎砲に拳をぶつけるつもりか!?

馬鹿が!勝てると思っているのか!?風を纏っていようが関係ない!

貴様は私の双炎砲を浴びた瞬間に、吹き飛ばされるのだ!


第四師団長にして、黒魔法兵団団長の私の炎が、どれだけ凄まじいか・・・・・



「受けてみるがいいーーーーーーーーーーッツ!」



スカーレットの両手から発せられた紅蓮の炎が、緑色の風を纏ったアラタの左拳とぶつかった!



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