1062 交差する想い
誤字を見つけたので訂正しました。内容に変更はありません。
「新・・・・・」
たった今殴り飛ばし、地面に倒れている新を見下ろした。
起き上がる様子もなく、手足を投げ出して倒れている姿は、意識を失っているように見える。
「俺が・・・新を・・・・・」
右手に残る感触に、少なからず心が痛んだ。
これは俺にもまだ、人の心が残っているという事なのかもしれない。
俺を兄のように慕い、今も俺に必死に言葉を伝えようとしていた新・・・・・
そんな新を俺は殴り飛ばした。
日本にいた時の俺なら、間違っても新に手を出す事はなかっただろう。
だが今の俺は、もうあの頃の俺ではない。生きるために、全てを帝国に売り渡したんだ。
人としての心も、体も、魂さえも・・・・・
新・・・・・
お前は俺の前に現れるべきではなかったんだ。
お前は立ち上がってはいけなかったんだ。
お前の知っている村戸修一はもういない。
ここにいるのは、ブロートン帝国第七師団長デューク・サリバンだ。
「・・・・・俺はもう」
目を瞑り、今日まで俺が生きて来た日々を思い起こした。
たった一人でこの世界に来た俺は、生きていくためには何でもした。
原理は分からないがこの世界に来て、俺の身体能力は信じられない程に上昇していた。
ただの左ジャブでも石壁を粉砕し、何時間走っても疲れを知らない体力、憧れていたボクシングのヘビー級王者が、可愛く見えるくらいだった。
そして不思議な光の力を手にしていた。
この光の力は凄まじかった。
生身でも恐ろしいくらいの腕力を手にしていたが、光の力は更に何倍もの力を上乗せしてくれるのだ。
ただ・・・最初の頃は太陽のように、眩い輝きを放っていた光だったが、いつからか闇を思わせるような黒い光に変わってしまった。
俺はこの黒い光を見る度に思う事がある。
これは俺の魂の色なのではないかと・・・・・・
俺の手はそれほどまでに汚れてしまったんだ。
言い訳はできない・・・生きるためにどれだけの人を手にかけてきたのか・・・・・
もう俺は戻れない。
俺の前に立ちはだかるのならば、今度こそお前を殺さなくてはならない。
だから新・・・もう立たないでくれ・・・・・
俺はお前を殺したくないんだ・・・・・・
「なのに、なんで・・・・・なんで立つんだ」
意識を失っているように見えたが、アラタは両手を地面に着き、膝を立ててゆっくりと起き上がった。
「新・・・そこまでだ。立つんじゃない。今の俺の力は分かるだろう?お前じゃ俺には勝てない」
アラタは口元の血を左手の甲で拭うと、口内に残った血を地面に吐き出した。
「・・・村戸、さん・・・・・なんで、光の力で殴らなかったんですか?光の力で殴れば、俺なんか今の一発で殺せたんじゃないですか?」
「・・・その口ぶり・・・そうか、お前も俺と同じ境遇なら、お前も光の力を使えて不思議ではないな」
アラタが村戸修一の拳を指差すと、さっきまで放出されていた黒い光は消えていた。
生身の拳でも大きなダメージを受けたが、もし光の拳で殴られていたら、アラタは死んでいたかもしれない。
「村戸さん・・・」
「深い理由などない。お前を相手に、わざわざ光の力を使う必要もない。ただそれだけだ」
アラタの言葉を遮るように、村戸修一は少しだけ強く大きい言葉を発した。
新・・・頼むからそれ以上何も言うな
もし、これ以上の何かを口にするのなら
これ以上、俺の前に立つというのなら
俺はお前を・・・・・・・
「違う・・・村戸さんは俺を殺せたのに殺さなかった・・・俺を殺さないように光の力を消したんだ!村戸さん、俺は村戸さんと戦いたくない!だから・・・」
アラタはそこまで話して言葉を切った。
自分を見つめる村戸修一から発せられた、あまりにも冷たく鋭い殺気に息を飲み、それ以上口を開けられなかった。
「新・・・そこまで言ったんだ、覚悟はできているな?」
首筋に刃物を当てられても、ここまで戦慄はしないだろう。
さっきまではほとんど感情の見えない、ただ黒いだけの空洞のような目をしていた。
だが今の村戸修一は違う。
背筋が凍りつくような冷たい目を向け、全身を切り刻まれるような鋭い殺気を放っている。
そしてその体から放出される黒い光・・・・・
「村戸、さん・・・」
一筋の汗が頬を伝い落ちた。
アラタは自分に向けられる強烈な殺意に、村戸修一が本気で自分を殺しに来ると、直感で察した。
「違う、俺は・・・デューク・サリバンだ」
黒い光を纏ったデュークの左拳が、アラタの顔面に打ち放たれた!
「なっ!?どういう、ことだ・・・?」
デューク・サリバンは目を見開いて、驚きの声を漏らした。
「・・・・・え?こ、これは・・・」
緑の風が吹いた・・・・・
アラタが首にかけていた麻紐には、かつて新庄弥生が使っていた薙刀、新緑の欠片が付けられている。
そして新緑の欠片から発せられる緑色の風が、アラタの目の前でデュークの光の拳を止めていた。
懐かしさと力強さが感じられるその風は、アラタに一人の女性を思い起こさせた。
「弥生さん・・・」
また、俺を助けてくれたんですね・・・・・




