1059 あの日から11年
「アァァァァァァァーーーーーーーーッツ!」
「聞かれた事に答えれば、楽に殺してやる。なぜ貴様は新を知っている?新はこの世界にいるのか?」
片手でレイチェルの頭を掴み、自分と同じ目線の高さまで持ち上げる。
デュークが指に力を入れると頭蓋骨が軋み、頭が握り潰されると思える程の激しい痛みに襲われ、レイチェルは悲鳴を上げずにはいられなかった。
「どうした?答えないのならば、このまま頭を潰してやるか?」
デュークが更に力を込めると、レイチェルの頭から、メキッ!と一際強い軋み音が鳴った。
「うあァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーッツ!」
「さっきまでの威勢の良さはどうした?所詮貴様も口だけか?」
デュークの五本の指に力が入り、レイチェルの頭部から血が流れ出した。
額や頬を伝い、ポタポタと流れ落ちる赤い血が、地面に色を付けていく。
引き離そうと腕を掴んでもビクともしない。それどころかますます腕に力が入り、レイチェルの頭を強く締めつけて来る。痛みなど我慢の限界をとっくに超えていた。
「ぐッ!・・・ウアァァァァーーーーーッツ!」
レイチェルは声を張り上げると、左右の腰に差した二本のダガーナイフを抜き取ると、自分の頭を掴むデュークの右腕を斬りつけた!
だが・・・
「・・・な、に・・・!?」
レイチェルは言葉を失った。
両手のナイフを交差させ、デュークの右腕を挟み、斬り落とすつもりで斬りつけた。
だがその刃は、デュークの体から発せられている黒い光によって止められ、腕まで届く事はなかった。
その黒い光は石のように硬いわけではない。
だがレイチェルのナイフは光を切る事はできず、反対に黒い光が一層強い力を放出すると、ナイフは弾かれてしまった。
地面に落ちて突き刺さったナイフを一瞥すると、デューク・サリバンはつまらなそうに口を開いた。
「・・・最後のあがきか?無駄だ、この光を出した以上、いかなる攻撃も俺には届かない」
「う・・・く・・・・・」
頭が潰れる寸前まで締め上げられ、最後の望みを懸けたナイフも通用しなかった。
レイチェルには、もはや戦う力は残っていなかった。
そしてだらりと両手が下がった事を見て、デュークの目からレイチェルに対する一切の関心が消えた。
「・・・気を失ったか・・・まぁいい、クインズベリーに行けば何か分かるだろう。こいつはこのまま死・・・」
「やめろォォォォォォォーーーーーーーーーッツ!」
レイチェルの頭を潰すために、デュークが力を込めようとしたその時、それまでずっと戦局を見ていたリカルドが飛び出した!
なにか考えがあったわけではない。
自分の力が全く通用しない事も分かっている。
だがそれでも、目の前で仲間が殺されそうになって、黙って見ている事はできなかった。
リカルドは拳を握り締め、頭からデュークに突っ込んで行った。
その表情は強い怒り、そして硬い決意で満ちていた。土壇場で怖気づく事も、後悔する事もないだろう。
「・・・ほう」
さっき始末しかけた弓使いが向かって来る事を見て、デュークは意外そうに目を開いた。
こいつ、あれだけの力の差を見せつけられて、まだ俺に向かって来るのか。
心が折れたと思っていたが、意外に強い精神を持っているようだ。
「いい覚悟だ、敬意を表して、ひと思いに殺してやろう」
「オラァァァァァァァーーーーーーーーーーーッツ!」
リカルドは叫んだ!
声を張り上げ、そして地面を蹴って飛んだ!
レイチェルの限舞闘争をあれだけまともに受けて、それでも倒れなかったデュークを相手に勝てるなんて、リカルドも思っていない。
だがそれでも、せめて・・・一発殴ってやらないと気が済まなかった。
リカルドは右拳を握り締めると、デュークの顔面に打ち放った!
そしてデュークも右手で掴んでいたレイチェルの頭を離すと、顔の横で右拳を構え、そのまま腰を回して真っ直ぐに右拳を打ち出した!
・・・埋めようのない体格差だった。
身長もリーチもデュークが上、そしてデュークは、いや村戸修一はボクサーである。
拳の差し合いで、リカルドがデュークに勝てる要素など、最初から一つもなかった。
リカルドの拳ははるか遠く、デュークの拳はリカルドの目の前まで迫っていた。
当然の結果だった。そしてこのままデュークの右拳が、リカルドの顔面を潰す。
そうなるはずだった。
しかし・・・
デューク・サリバンの拳は空を切った。
拳が鼻先に触れるというところで、何者かが横から飛び出し、リカルドを押し飛ばして、デュークの拳をギリギリだが躱して見せたのだ。
「・・・・・なに?」
デューク・サリバンはゆっくり拳を戻した。
拳を躱された事などどうでもよかった。それよりも今、自分はなにを目にした?
一瞬だったが視界を通り過ぎたのは、黒髪の男だった。
そしてその男はデューク・サリバンの、いや、村戸修一の記憶を強く刺激した。
まさか・・・・・いや、見間違いだろう・・・・・いるはずがないのだ。
だが、自分がこの世界にいる事を考えれば、可能性はあるのではないか?
なにより、あいつの顔を忘れるはずがない。
言葉では形容できない思いを胸に・・・・・
デューク・サリバンはたった今、横から飛び込んで来た者にゆっくりと顔を向けた。
「・・・・・・・・・新、か」
俺の言葉が聞こえたのかどうか、その男、坂木 新は、呆然とした表情で俺を見つめていた
あの日から11年経った
もう二度と会う事はないだろうと思っていた
再会を諦めていた
だが忘れるわけがない
俺を実の兄のように慕ってくれたこいつを・・・・・
俺が忘れる事など無い
「・・・・・村戸、さん?」




