1053 異次元の腕力
ラヴァル・レミューは曲芸の如き芸当をやってのけた。
デューク・サリバンの喉元を目掛けて、体当たりのような突きを繰り出そうとしたが、腕を伸ばす途中で剣を手放したのだ。
そしてそのまま足を止める事なく、剣の柄を踏みつけて地面に押し込むと、勢いはそのままに反動をつけて飛び上がった。
淀みないレミューの動きは、デューク・サリバンがレミューの姿を一瞬見失い、そして簡単に頭上を取られる程スムーズだった。
普通に地面を蹴って跳躍しただけでは、デュークにその動きを見切られていただろう。
だが加速した状態のまま、足で剣を地面に突き刺し、その反動で飛び上がる。
この予想だにしない動きが、デュークの目をレミューから外し、その体を一瞬とはいえ止める事に成功した。
曲芸の如きこの一連の動きは、レミューが格上の相手と戦う時、力量の差を埋めるために編み出した技だった。
トリッキーな動きで翻弄して刺す。一度しか通用しないだろうが、戦場ではその一度が決まれば十分である。
そして今、渾身の蹴りがデュークの顔面を打ち抜いた。
決まった!
闘気を込めた全力の蹴りだ!耐えられるはずがない!
右足が捉えた感覚は十分だった。
並の相手ならば顔面を粉砕されてもおかしくない。この一撃で勝負はつくはずだ。
そう、勝負がついておかしくない一撃だった。
威力、タイミング共に、そ確信が持てる一撃だった。
だが・・・・・
「ッ!?」
レミューは戦慄した。
蹴りを受けたデューク・サリバンの上半身は、地面に頭が付きそうなくらい、大きく後ろに反り返っている。普通ならばすでに倒れている。いや、倒れていなければおかしいのだ。
だが腰から下、まるで丸太のように太く強靭な両足は、大地に根を張ったように体を支え、デューク・サリバンが倒れる事を阻止していた。
そしてグンと頭を上げたデューク・サリバンと、空中で目が合った。
渾身の蹴りをまともにくらったはずなのに、まるでダメージが見えないくらい、デュークの黒い目はハッキリとレミューを映していた。
レミューはゴールド騎士との組手でも、一方的に遅れをとる事はない。
今の蹴りだってまともに入れば、ゴールド騎士さえも倒せる自信があった。
だがこの男デューク・サリバンには、背中に土を付ける事さえできないというのか?
凍り付くレミューを見て、デューク・サリバンは静かに口を開いた。
「いい蹴りだったが、俺をダウンさせるには軽いな」
空中を舞うレミューの耳に、デューク・サリバンの声がやけにハッキリと届いた。
次の瞬間、デュークは腹筋の力だけで上半身をガバッと起こした。
「ッ!」
レミューの目が驚愕に開かれる。
そしてデュークは、そのまま空中のレミューの顔面を右手で鷲掴みにすると、地面に向けて叩き落とした!
死ぬ!
レミューは顔面を掴まれただけで覚った。
これまで感じた事のない圧倒的な腕力。かつてクインズベリー最強と謳われた男、マルコス・ゴンサレスも驚異的な筋力を誇っていたが、そのマルコスさえも及ばないだろう異次元の力。
その力を持って、頭から地面に叩きつけられてしまえばどうなるか・・・想像するまでもなかった。
だがレミューの頭が地面に叩きつけられる直前で、デューク・サリバンはその手を離し、一歩後ろに体を引いた。
結果としてレミューは、頭から地面にぶつけられはしたが、直前でデュークの手が離れた事で、致命的なダメージだけは回避する事ができた。
しかしそれでも強烈な一撃を頭部に受けたレミューは、そのまま力無く倒れ、立ち上がる事はできなかった。
そしてデュークが体を引いたのとほぼ同時に、一本の矢が頬をかすめていった。
薄く一の字に裂けた頬から、一滴の赤い血が流れ出る。それを右手親指で拭うと、デュークは矢が飛んで来た方向に顔を向けた。
「チッ、避けてんじゃねぇよ、カス」
弓矢を構えたリカルドが、デュークを睨みつけながら、忌々しそうに舌を打った。
「ほう、貴様弓使いか・・・いい腕だ」
デューク・サリバンは自分の頬を切りつけた弓使いを、感情の籠らない目でじっと見つめた。




