1033 発見と奇襲
「くそっ!あのクサレ騎士はどこに行った!まさかすでに下山したのか?・・・いや、それはない。何千匹もの蛇達を這わせているんだ。見つからずに降りられるわけがない。絶対にこの辺りにいるはずだ」
黒い大蛇の背に立った男、蛇使いのバドゥ・バックは苛立ちを隠せずにいた。
息子とまで呼んだ大蛇のトランとスターンを殺され、その憎き仇をいまだに見つけられずにいたからだ。
闇の力を持った数十匹の大蛇、そして闇の力は持たないが数千匹もの蛇達をパウンド・フォーに放ち、もう何日もレイマート達を探させている。
だが一向に影も形も掴む事ができない。すでに山を降りてしまったのでは?
蛇達から逃げられたという報告は上がっていない。だがそう思わせられるくらい、標的の手がかりは何も出てこなかった。
「くそッツ!帝国からの援軍も来ないし、イライラするなぁぁぁーーーッツ!いったいヤツらはどこに・・・ん?」
怒りに震えるバドゥ・バックの体から闇の瘴気が溢れ出そうとしたその時、一匹の斑模様の蛇がバドゥ・バックに近づいて来て、バドゥ・バックの目をじっと見つめてきた。
「どうした?・・・ん、まさかお前、見つけたのか!?」
蛇の目を見て、バドゥ・バックの直感的に理解した。
そしてバドゥ・バックの問いかけに、蛇は首を縦に振ったのだ。
蛇使いのバドゥ・バックはどの蛇とも簡単な意思の疎通ができる。
聞いた事に対して、正解か間違っているか程度のものだが、それで十分蛇達を動かす事は可能であり、この力のおかげでバドゥ・バックは、帝国軍で独立した地位を手にしていた。
「おぉぉぉぉぉぉーーーーーッツ!でかしたぞ!とうとう見つけたか!今すぐ案内しなさい!」
バドゥ・バックの目がギラリと光った。
そして山の端々まで響き渡るかと思う程の、歓喜に満ちた叫び声を上げた。
案内しろという指示は理解できるらしい。
斑模様の蛇は返事をするように首を縦に振ると、地面を這って前へ進み出した。
「サローン、いよいよだな。トランのスターンの仇が討てるぞ。あの青い髪の騎士は生きたまま丸呑みにして、ゆっくり溶かしてやるんだ。兄弟の痛みをじっくり味合わせてやれ」
バドゥ・バックが歪な笑いを見せると、黒い大蛇サローンもそれに答えるように、フシャァァァァーと空気を噴射させた。
そこはパウンド・フォー西側の2800メートル地点。
数メートル先の見通しも悪いくらいに、果てしなく広く樹々が密集していた。
斑模様の蛇は、迷う事なくその中に入って行った。
10メートル級の大蛇サローンも、斑模様の蛇の後に付いて入って行く。
胴回りは優に40cm以上の巨体だが、樹々にぶつかる事もなく、器用に合間を縫って続いて行く。
そしてサローンの背に立っているバドゥ・バックは、振り落とされないどころか一歩も姿勢を崩さず、まるで大蛇と一体化しているように平然と乗っていた。
これは蛇を息子と呼ぶ程に愛情を持ち、意思の疎通ができているからこそ、なせうる事だろう。
そして先へ進む事数百メートルのある地点で、斑模様の蛇は動きを止めた。
そこは一見するとただの岩壁にしか見えない。洞窟への入口も何も無い。赤茶色の肌をした岩壁だ。
ただ地盤が粘土質だからか、赤茶色の岩壁は粘ついた感じがあり、沢山の枝葉が貼りついていた。
「・・・ここにいると言うのか?」
バドゥ・バックが怪訝な顔をして見せると、斑模様の蛇はじっと顔を見つめて首を縦に振った。
そして岩壁を二回三回と頭で叩いて見せる。まるで壊してくれと訴えるように。
「・・・おお!なるほど、そういう事か!」
それでバドゥ・バックも理解した。
ここは粘土質の土なんだ。だったらその土を利用して隠れる事も可能だ。例えば洞窟の穴を塞ぎ、繋ぎ目に落ち葉や枝をくっつければ、さも自然に見せる事だってできるだろう。
「こざかしい真似をしおってぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーッツ!サローーーーーーーンッツ!」
「フシャァァァァァァーーーーーーーーーーーーッツ!」
突撃の合図を出すようにバドゥ・バックが腕を振るい声を上げると、大蛇サローンもそれに答え空気を噴射させて鎌首を持ち上げた。
そして蛇特有の柔軟性を生かして後方に首を大きく捻ると、全体重を頭に乗せて岩壁へと振り下ろす!
いくら見た目だけ取り繕っても、所詮は粘土で作ったハリボテである。
サローンの頭突きによってあっさりと粉々に砕かれ、乾いた衝撃音と共に洞窟内にその破片を吹き飛ばした!
「よぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっし!かくれんぼは終わりだ!行けぇサローーーン!」
頭突きによって姿を現した洞窟に、黒い大蛇サローンがそのまま頭から侵入する。
こんな洞窟の中では満足に戦う事もできないだろう!
とびきりの恐怖と絶望を感じながら、食われてしまうがいい!
バドゥ・バックは勝利を確信し歓喜した。
生きたまま蛇の体内で消化される事は、どれほどの苦痛だろうか?
蛇の消化能力は高くない。捕食した獲物を数日かけてゆっくりと溶かしていくくらいだから、生きたまま丸呑みにされた獲物が長く苦しむ事は、想像に易くない。
「トランとスターンの仇だ!生き地獄を味わわせてや・・・!?」
狂喜の声を上げた時、ふいに頭の上から落ちて来た数枚の葉が、バドゥ・バックの視界に入った。
そして聞こえた木の葉が揺れる音・・・一緒に落ちて来る陰・・・・・・
反射的にバドゥ・バックが顔を上げると、青い髪の男が空から降って来た。
「なにィッッッツ!?」
バドゥ・バックはもう少し慎重に行動するべきだった。
まだ相手の誰一人として姿を見ていないのだから、待ち伏せの可能性も考えて、周囲への警戒を怠るべきではなかった。
だが何日も何日も見付からない相手に苛立ちが募り、頭に血が上っていた。
そしてやっと見つけた手がかり、手の込んだ隠れ方に、絶対に憎き仇はこの洞窟に隠れているものだと思い込んだ。
疑う事はできなかったし、疑う気もなかった。
その結果、自分は最大の隙を作り、相手には最高の機会を与える事になった。
武器は持っていない。だがその青い髪のゴールド騎士にとって、最大の武器は剣ではない。
獅子の鋭い前足に見立てられた五指には闘気が漲り、強く大きな光を放っていた。
その爪に引き裂けぬものは無し!
ゴールド騎士レイマート・ハイランドの最大最強の必殺技!
「レオンクローーーーーッツ!」
右手に集約させた最大最高の闘気の爪が、バドゥ・バックの頭に叩き込まれた!




