表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
来し方行く末   作者: ふじたごうらこ
第一章  来し方
10/22

第十話・継彦の子どもたち



 豆島芳夫と夕子の長男、豆島継彦は大学卒業後、新毛農協に就職をしたが、すぐに退職した。これまた美富子の肝いりで農協発行の冊子を編集する会社を起業する。新毛農協だけではなく、市内の農協全てを合併する話が出てきており、大きな取引ができると踏んだのだ。その読みは当たった。継彦は組合員に「いつもお世話になります」 というより、編集会社の社長に収まる方が楽しいらしい。会社の役員には妻の芳江の名前を連ねるが長男や次男にもいずれ成人すれば名前だけでも役員にさせる。

 継彦は外車好きに絵画好き。ヨットやキャンピング、海外旅行を楽しむ多趣味な男だ。年に一度の個展開催にも金をかける。大阪の自営業の後継者が集う青年会議所の役員でもあるので、そのつきあいもある。

 小遣いは、最初のうちは芳江が粕田家から持参した結納金三千万円で賄っていたがすぐに底がつき、金銭が必要になったら美富子にお伺いをたててもらう状況が我慢できない。そのうち美富子と継彦の関係は険悪になった。芳夫や夕子は往年の気強さはなく、二人とも寝てばかりいる。美富子は継彦の要求に対し、土地や貯金、株がいくらあるかを決して教えない。

「時期がきたらちゃんと教えたる。それまで私が預かっとく」

 美富子の言葉に継彦は反論する。

「それっていつまでの話や。ぼくも、もう子供もおるし、ええ大人やがな。それに長男やで」

「私はな、この家の財産管理をまかされている。なんで長男というだけで十歳以上年下のあんたに財産をまかせなあかんのや」

「みっちゃんはいつまでたっても嫁に行くつもりはないやろ。出ていく気はないんか」

「このあたしを出て行かせる気? 私がいなくなったらこの家はどないなる? 新毛農協はこのあたしがいるからみんなええ思いができるんや。ええ加減なコト言うなや」

「行かず後家で仕事ばかりしていたら、そりゃ支店長ぐらいなれるわ。農協の人は皆知ってるけど、みっちゃんて、若い時から大林組合長と不倫の噂まであるやないか、恥ずかしいとは思わんのか」

「不倫。組合長と私がか? そないなええ加減なこと、誰が言うんや」

「助役の天下りで農協に来てからつくえまでくっつけて朝から晩まで一緒やてな。奥さんもちゃんといてはる人なのに毎日お弁当まで作ってやってるってな。みんな言うてるわ」

「ひどいぃ」

 姉と弟のケンカが耐えない。豆島家では誰も止めるものがいない。継彦の長女の四季子はすでに念願のイギリスに留学して帰ってこない。成人後は国連関係で働きそのまま国際結婚をした。四季子の弟、長男の太朗は重度の知的障碍児だ。他人とのコミュニケーションはまったく取れない。芸術関係の通信教育のみ受けている。また家にも太朗のためにデザイン室を建て増ししている。豆島家では太朗の障碍はタブーで、頭がいいという話しかしない。他人の話は鸚鵡返しにする子だが、それも豆島家では知性ある証明になる。

 春子もまた豆島家の人間らしく、太朗の頭の良さを自慢する。

「あの子は知能指数が平均よりずいぶん上の方にあるらしい。豆島の跡取りは違う」

 ならばどうして新毛小学校、中学校もしくは継彦が通学していた近大付属へいかないのか。それを聞くのもタブーだ。葉奈子も公男も春子の自慢に横やりも入れずただ黙って聞く。太朗の弟、つまり次男の治郎は近大付属小学校からずっと在籍している。可も不可もない落ち着いた印象の子でゲームが大好きだ。この子も成人すると新毛農協に勤務しなさいと言い聞かせているらしい。

 それにしても、美富子の勢いは凄い。町長や市長すら美富子には丁重な挨拶をする。親戚一同も会社の運転資金を美富子の顔で融資してもらうために、丁重に扱う。浴元国会議員の息子が二十代で市会議員から立候補したときも女性ながら後援会長になった。そういう意味では豆島家始まって以来の女傑が誕生したといえる。

 継彦はその美富子の陰に隠れていると感じる。酒が入ると「俺が長男やのに、くやしい」 と泣き上戸になる。美富子は美富子で「確かに長男で跡取りには違いないが、休日には部屋に籠って絵を描くか、外車を見せびらかすためにドライブに行くかどちらかで、巨額のお金を動かすことをまかせられぬ」 という。数億のお金を動かすのが趣味という美富子に、結婚は無理だろう。かといって享楽的な継彦に一切をまかせるのには不安がある。

 美富子と継彦の妻、芳江とは王様と奴隷だ。それは周知の事実だ。美富子から見れば葉奈子同様、芳江もぼんやりとした娘に見えるらしい。すでに三人の子どもをあげた今でも、「ここに茶シブが残ってる、洗いなおしや」「味付けが濃すぎる、やりなおし」「ここホコリがある、ちゃんとせえや」 と未だ指導をする。日中は美富子が仕事に出ているので、家の中の仕事は必然的に芳江がすることになる。美富子に仕えるために豆島家にきたのかと思うほどだ。

 運転免許を持たぬ美富子のために、土日や冠婚葬祭のつきあいの送迎はすべて芳江がしている。物心ついた四季子は長期留学を前に芳江に「豆島家は普通じゃない。お母さんはみっちゃんの奴隷になるために嫁いできたんか、一体なにが楽しいのか。私は日本を出たら、この家にもう帰ってけえへんで」 と言った。その言葉は現実になった。

 世帯主の豆島芳夫はすでに発言権はない。寝てばかりでも新毛本町の人々に会うと「わしのとこのみっちゃんは、すごいやろが。みっちゃんの顔で融資も通ったやろ。市営住宅もみっちゃんのコネで当たったやろ、なんか言えや」 とからむ。芳夫は新毛本町の人々からはすっかり嫌われてしまった。 

 家族に身体に関わる重大な決定権は美富子が持つ。卦配家では春子がそうであるように。夕子は美富子の不倫騒ぎで完全に寝ついてしまった。芳江が食事を部屋まで三食運ぶことになる。かくして春子ご自慢の実家、豆島家は完全に新しい世代に入った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ