第四話 職業訓練校② 『剣技』
『剣技』は、似非剣を用いての実技となる。
オークのブローノ教官が剣技の極意を伝授した。
「敵の隙を見定めろ! 敵よりも早く懐に入り込み、剣を体に当てろ! 当てたらすぐ逃げろ!」
まずは、一人でシャドウ相手に型の練習。
これはなんとかなった。
問題は、二人一組になっての訓練バトル。
クラスメイトたちはモンスター。
強靭な体の持ち主ばかりで体格も筋力も違う。
右手に剣、左手には盾。頭には兜という出で立ちだが、人間にとってはどれも持つだけで疲れる重さ。
これでモンスターたち相手に戦えというのかと、始まる前から絶望している。
最初の相手は、怪物ケンタウロスだった。
その高さから振り下ろす剣の威力は、岩をも砕きそうだ。
ジュークフリードは、盾を駆使しての防戦一辺倒。悲鳴しか上がらない。
遥か上から振り下ろされる剣は、盾で防いでもダメージは大きい。
逃げ回っていると、とうとう、ブローノ教官に怒られた。
「剣を使って戦え!」「だって、届かないです!」
攻撃しようとしても、まず、敵の剣まで届かない。
「ヤメ!」
「ハアハア……ゼエゼエ……」
ブローノ教官が終わらせた時には息も絶え絶え。そのまま、地面にぶっ倒れた。
「次! 相手を変更! 人間、サボるな!」
ジュークフリードは、何とか立ちあがった。
目の前には、ゴリラの獣人モンスターがいる。
当然、力はゴリラ並み。
ジュークフリードは、ブローノ教官に聞こえないようにゴリラに頼んだ。
「俺、人間なんだ。お前ほど力がないから、手加減、頼むよ」
「ウホ」
言葉が通じない。
ブローノ教官がジロリと睨んだ。
「実践では手加減などない! 甘えたことを考えていると死ぬぞ! 全力でぶつかれ!」
「え? 聞こえた?」
ブローノ教官は、耳がいいようだ。
「ウホオ!」
ゴリラは、雄たけびと共に全力でジュークフリードに向かって剣を振り込んだ。
間一髪、かわす。
すかさず反撃するが、盾で防御された。
別の取り組みの周辺で、物凄い歓声が上がった。
「オオ!」「ワアア!」
「なんだ?」
そちらを見ると、イケメンがケンタウロスを倒していた。
「ウソ! どうやって?」
ケンタウロスを見下ろし、剣を振り上げるイケメンはどこかの王子様のように見えた。
お昼休みになると、エアリシアに作ってもらった弁当を持っていそいそとイケメンに近づいた。
「隣、いいかな?」
「どうぞ」
隣に座ると、改めてイケメンを見た。
獣人でも妖精でもない。自分と同じ普通の人間に見える。
もっと知りたいジュークフリードは、先に名乗った。
「俺の名は、ジュークフリード」
「私は、リンド。ホムンクルスだ。よろしく」
「ホムンクルスって?」
「人造人間だよ」
人造人間も勇者を目指すのかと驚いた。
「それにしても、イケメンだね」
リンドは、褒められても眉毛一つ動かさない。
「ここでは、イケメンなど意味がない」
「そうか……」
モンスターだらけのこの異世界では、美醜の基準が違うのかもしれない。
それでも、ジュークフリードから見れば充分に羨ましい。
転生したのにイケメンにならなかったことが、ただただ残念だ。
イケメンでなくても、ホワンホワンやモフモフ、プルンプルンのゆるいモンスターなら、働かないで生きていけたかもしれないなどと妄想する。
「私は、かつてこの世界を救った勇者に似せて作られている」
「そんなイケメンな英雄がいたんだ」
「この勇者コースも、その勇者が残した『勇者極意草紙』を元に作られている」
綺麗事ばかりとバカにしていたが、実績ある勇者が残したものだった。
「教えて欲しんだけど、どうやってケンタウロスを倒したんだ?」
「簡単さ。あいつは自分の足元が見えない。そして、足首が細い。そこで、徹底的に足首を狙った」
頭を使って、敵の弱点を容赦なく叩く。これが、勝つための極意のようだ。
人間には力がないけど、頭脳戦ならできそう。
「君と話せて良かった。これからも仲良くしてくれないかな」
「いいよ。似た者同士、仲良くしよう」
お互いに、手を差し伸べて握手した。リンドとは、硬い友情が結べそうだ。
それからは、相手の弱点を突いて善戦した。
例えば、サイクロプス。
一つ目なので視野が狭いと読んだ。
素早く後ろに回り込んで攻撃すると成功した。
ゴブリンは小さい。
体の大きさを生かし、ジャンプしての上から攻撃を繰り返した。
こうして何回かは勝てたのだが、同じ相手との勝負ではこちらの戦略に対策を立てるようになり、勝てなくなった。
「あああ……、また、負けた……」
結局、最後の総当たり戦では負け続け、接戦どころかダントツのビリとなった。
(このままでは落第かも……)
うなだれて家路につく。
(職業訓練校に通うのが辛い……)
もう、辞めようか、もう、辞めようかと、己の怠け心と葛藤する日々ではあったが、エアリシアの存在がかろうじて逃げの行動をせき止めていた。
「学校はどう? 楽しい? 勇者になれる日が楽しみね」
エアリシアは、ジュークフリードが勇者になることを信じて楽しみにしている。
彼女の期待を裏切れないと思うと、今日も学校へ行こうと頑張れる。
学校で落ちこぼれのいじめられっ子であることは、エアリシアには絶対に内緒だ。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
今はそんな会話が楽しい。
エアリシアは、ジュークフリードのマドンナ。
しかし、学校が近づくと、「オゲエ……」と、吐き気に襲われるようになる。
なんとか堪えて教室に入ってきた。
クラスメイトは、あれから数名が脱落してさらに人数が減っている。
しかし、嫌な奴ほど残っているのは、世の倣い。
いつもジュークフリードをからかってくる、ドワーフのキリ、狼男のリューヒア、ゴブリンのヤタマエルは辞めない。
ケンタウロスは、リンドと人間のジュークフリードに倒されたのがショックだったのか、名前を覚える前に来なくなった。
全身甲冑の奴は、未だに声すら聴いたことがない。
昼飯時は、どこかに行ってしまうので話す機会がない。
「ねえ、リンド。あの、全身甲冑の奴がいるだろ?」
「ああ」
「名前、知っている?」
「ザイン・レイ、だろ?」
「え? 話したの?」
「話さなくても、教官の呼びかけで分かるよ」
「私がどうしたって?」
後ろから、ザイン・レイに声を掛けられた。
意外にも、鈴のようなかわいらしい声をしている。
「あ、ごめん、君の名前を知りたくて、リンドに聞いていたんだ」
「そう」
ザイン・レイは、少し離れた席に座った。
剣技の最終日に合否結果が出る。
ブローノ教官が、成績表を手に全員の前に立った。
「今から、剣技の合否結果を伝える。全員、合格!」
落第を覚悟していたジュークフリードは、逆に驚いた。
「合格ですか?」
「そうだ。この授業は総合で判断する」
ケンタウロス、サイクロプス、ゴブリンなどを次々に倒したことが評価されていたようだ。
「ジュークフリード、良かったな!」
ジュークフリードの合格につまらなそうな顔の中、リンドだけが喜んでくれた。




