エピローグ ダメクズヒキニート、真の勇者になる
魔王を倒したジュークフリードたちは、街に戻ると王宮に招聘された。
初めて入った王宮は、それはそれは豪華絢爛で、眩いばかりの装飾が施されているが、ガーゴイルが目立たぬよう配置されている。
ミドゴイルの仲間たちだ。
王様から直々にご褒美を賜り、魔王討伐を祝う宮中晩餐会が盛大に催された。
豪勢な料理、楽団の生演奏、美女のダンス。
一行は、夢のような時間を過ごした。
王様からは、「勇者ジュークフリードよ。私の宝である第一王女を妻に娶るがいい」と、言われたので驚いた。
「いや、あの……」
エアリシアと結婚するつもりだったから、大いに困った。
王様の横でうつむく王女は、清楚で可憐な方だった。
思いっきり心を動かされたが、こんなことで揺らぐような気持ちでは、勇者を名乗る資格はないとジュークフリードは自ら言い聞かせた。
「恐れ多くもありがたきお言葉を賜り、感激至極でございます。ですが、大変申し訳ございませんが、お断り申し上げます。私には心に決めた方がおります」
「そうか。それは残念だ。その幸せな娘を大事にするがよい」
王様は、意外にもあっさりと前言撤回。
王女は、ホッとされている。
王様から命じられたが、乗り気でなかったようだ。
(いくら勇者とはいえ、どう見ても冴えない男だもんなあ。イケメンでもなく、勇ましくもなく、金持ちでもなく。嫁ぐのは嫌だっただろう)
ジュークフリードは、いつものように自虐した。
宴も終わり、いつもの生活に戻った。
「俺は、まだ職業訓練校を卒業していない」
ここはきちんと卒業して名実ともに勇者の称号を得たいと、ジュークフリードは、授業を再開した職業訓練校に復学した。
ブローノ教官は、今日も怒鳴る。
「戦え! 走れ! 飛べ! いつ魔王が復活しても立ち向かえるように、己を鍛えよ!」
ジュークフリードにも容赦なく怒鳴り、駄目出しばかりしてくる。
「そんなに情けない動きでは、魔王を倒せないぞ!」
(いやいや、あんた、俺の活躍を間近に見てきただろう)
でも、仕方がない。
相変わらず、不合格ギリギリの成績しかとれないからだ。
リンドもザイン・レイも、同じように、残っていた授業を受けている。
カククスは、結局、戻ってきた。
魔王軍に入ったと言ったのはウソでしたと、ブローノに泣きついたらしい。
ここでは、勇者の働きをしたものであろうと、ホラ吐きであろうと、差別も贔屓もされない。
在籍資格は、無職であり、働く気があり、いつでも働ける状態にあるかだけ。
それだけ、公平な学校だ。
ヤタマエル、キリ、リューヒアの三人は退学した。
改心したというか、さすがにあれだけ見事に裏切っておきながら、勇者の称号が欲しいとは言い出せなかったらしい。
現在は、町で商売をしている。
馬術の単位を取得した後は、今まで学んだ全てが範囲の卒業試験を受けた。
登校最終日。
ブローノが教室に入ってきた。
「卒業試験の結果を伝える」
全員が緊張した。
「ジュークフリード!」
「はい!」
「合格だ。頑張ったな」
「ありがとうございます!」
ジュークフリードは、卒業証書を恭しく受け取った。
卒業式など職業訓練校にはないので、合格発表イコール卒業証書授与となる。
卒業証書にはこう書かれていた。
『ジュークフリード。右の者に勇者の称号を与える。ハイドサクル王国ハローワーク職業訓練校』
ついに仮免が取れて真の勇者となれた。ジュークフリードは胸が熱くなる。
「もう、戻ってくるなよ」
「はい! しっかり勇者として働きます!」
ダメクズヒキニートだったとは思えないセリフが、ジュークフリードの口から出てきた。
リンドとザイン・レイも合格したが、カククスだけは落第となった。
「なんでだよ!」
「君は、最終試験で及第点にならなかった」
ここにきて、勇者の資格がないと判断されてしまったようだ。
「勇者なんてくだらない! 誰がなってやるか!」
カククスは、負け惜しみの捨て台詞を吐いて出ていった。
リンド、ザイン・レイと三人で涙の別れをした。
「これからも仲間だよ」
「魔王が復活したら、助け合おう」
「ああ。全員勇者なんだから」
勇者は何人いてもいい。
「さらば、職業訓練校!」
卒業証書を握りしめて学校を後にしたジュークフリードは、エアリシアが待つ家に急いで戻った。
「エアリシア! ただいま!」
「お帰り。どうだった?」
「卒業したよ! 勇者になった!」
「おめでとう! ジュークフリード! 頑張ったね!」
ジュークフリードは、エアリシアに抱きついた。
「ありがとう、全部、エアリシアのお陰だ」
ジュークフリードは、いよいよあの言葉をエアリシアに伝えられる時が来たと緊張した。
「これを手に入れたから、約束の言葉をついに君に伝えられる」
「ええ」
エアリシアも期待して待っている。
ジュークフリードは、跪くと片手を差し出した。
「一生、幸せにします。俺と結婚してください」
「………………」
「大好きです。愛しています」
「ジュークフリード……」
エアリシアは、とても戸惑っている。
「恥ずかしいの?」
「えーと、私が聞きたかったのは、そうじゃなくて……」
照れているのかと思ったが、どうもそうじゃないらしい。
「勇者になったら、働いて家賃と食費を入れて欲しいって言いたかっただけ……」
「え?」
頭の中が真っ白になった。
王女の結婚も断ったのに。
キスもしたのに。
一生懸命マッサージをしてくれたのに。
美味しい料理を毎日作ってくれたのに。
(全部、勘違いだったってこと?)
ジュークフリードは、エアリシアが異世界ハローワークに送り出した時の言葉を思い出した。
『仕事を見つけて自立してね』
(ああ、そういうことだったのか……)
勝手に勘違いして暴走したのは自分だった。
ジュークフリードは、ショックでその場にぶっ倒れた。
目が覚めると、アニメのポスターが貼られた自分の部屋にいた。
「あれ? ここは、自分の部屋? 俺は異世界に転生したんじゃなかったのか? ああ、全部、夢か……。長い夢を見ていた……」
もう一度、ふて寝した。
トントンとノックの音がして、ザイン・レイが入ってきた。
「ジュークフリード、目が覚めたか?」
「ザイン・レイ!」
リンドも入ってきた。
「リンド! じゃ、ここは?」
「エアリシアの家のお前の部屋だろ?」
改めて見ると、異世界ハイドサクルの自分の部屋だ。
元の世界に戻ったと思った方が夢だったようだ。
自分の居場所は、異世界ハイドサクル王国。
それは、変わらない。
「エアリシアが泣いているよ」
「エアリシアが? どうして?」
「君のプロポーズを断ったことを後悔している」
「そんな! エアリシアのところに行かなきゃ……」
ジュークフリードは、起き上がった。
リンドとザイン・レイが心配した。
「無理するな」
「倒れたんだろ? まだ寝ていた方がいい」
「疲れが溜まっていただけだよ。魔王を倒して職業訓練校に戻って忙しかったから。緊張が解けて寝てしまっただけだ」
どちらかというと、倒れたのは精神的ショックのせい。
恥ずかしいので、本当の理由を黙っておくことにした。
「エアリシアはどこ?」
「自分の部屋にいるよ」
部屋を出ると、エアリシアの部屋に行った。
「エアリシア……」
「ジュークフリード……。目が覚めたのね……」
泣き腫らした目をしている。
「あの、驚かせてごめん。考えてみれば、俺は自分の中でだけエアリシアにプロポーズするんだって考えていただけで、エアリシアに対して何も言っていなかった。それでいきなりプロポーズしたら、誰だって驚くよね」
「ジュークフリード……。そうね。それならそうと、先に言ってくれなきゃ」
「改めて、結婚を申し込みたい。いきなり結婚が無理なら、交際から始めてもらえないだろうか」
「……」
エアリシアは、悩んでいる。
「俺のこと、好きになれない?」
「そうじゃなくて、エルフと人間の結婚は難しいの。私たちエルフは草花の露から生まれる。結婚という概念がないのよ」
「結婚って、ずっと、二人で生きていくことだよ」
「そうなの?」
エアリシアは、立ち上がるとジュークフリードのところに来た。
「私でいいんですか? 勇者様」
「勇者様だなんて他人行儀な。今まで通り、ジュークフリードでいいよ。怒っていいし、我がままだって言っていい。それが、妻の特権だ」
エアリシアは、ニコッと笑った。
「それなら、喜んでお受けします」
「本当!?」
ジュークフリードは、飛び上がって喜んだ。
「やった! OKをもらった!」
ジュークフリードの喜ぶ声に、リンドとザイン・レイがやってきた。
「良かったな、ジュークフリード」
「おめでとう」
リンドとザイン・レイも祝福してくれた。
夜になると、魔王退治と卒業を祝う宴を開催した。
ミドゴイル、シフォンヌ、ブローノ、リンド、ザイン・レイとともに、キャンプファイヤーを囲み、酒を飲み、歌を歌い、踊り、笑いあい、武勇伝を語りあった。
(異世界に転生して良かった。もし、魔王が復活したとしても、また倒してやるからな)
ジュークフリードは、心から楽しんだ。
「少し、酔ったな」
アルコールとキャンプファイヤーの熱気。
体の熱を冷まそうと、宴の輪から外れて一人になったジュークフリードの前に、女神アンジェリカ・ジェリカが現れた。
『ありがとう。晴雄』
ジュークフリードは、その名をとても遠い過去に感じた。
「その名前は言わないでくれ。俺はもうジュークフリードなんだ。最初は、とんでもないところに来てしまったと恨んだが、今では感謝している。転生させてくれてありがとう」
ジュークフリードは、女神アンジェリカ・ジェリカの前に盃を掲げる。
「俺は、これからもエアリシアや仲間たちとともに異世界で生きていく。ハイドサクル王国に乾杯!」
女神アンジェリカ・ジェリカは、ジュークフリードに優しく微笑んだ。
「ジュークフリード! こんなところにいたの?」
エアリシアがやってきたので、アンジェリカ・ジェリカは姿を消した。
「誰かいた?」
「いや……。どうかした?」
「あのね……」
エアリシアは、顔を赤らめてもじもじしている。
この態度には、何度も勘違いしてきた。今度こそ、間違えないようにしなければ。
(これはきっと、お金の催促だ!)
言われる前に、ジュークフリードから切り出す。
「あ、あの、カップルになったとはいえ、お金のことはきちんとしないといけないよね。これからは下宿代を払う。でも、まだ稼ぎが乏しいので待ってもらえると嬉しいんだけど」
「違うわよ」
「じゃあ、出て行ってほしいとか?」
「それも、違う。もう、ジュークフリードったら!」
エアリシアがジュークフリードの手を取る。
「エアリシア……」
ジュークフリードとエアリシアは、お互いの手を握り合い、そっと体を寄せ合った。
―― 終わり
これで完結です。
お読みいただきありがとうございました。




