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第十五話 最後の側近ヤンベリー①

 広間に出ると、背の高い美形の男が待っていた。

 ザイン・レイが叫んだ。

「ヤンベリーだ!」

「ついに出たか!」

 金色銀色の絹糸で織られた生地に、豪華絢爛な輝きを放つ刺繍が施された召し物。

 ヤンベリーには、それがとてもよく似合っている。

 さらさらのロングの金髪が輝いてジュークフリードは羨ましくなった。

 ジュークフリードの髪は、黒くて硬くてくせがある。

 ジュークフリードのコンプレックスをこれでもかと刺激する。

 こんなコンプレックスが、自分にあるとは思わなかったジュークフリードが少し動揺した。

(いや! 羨ましいと思ってはだめだ! 邪念を捨て、平常心で戦わなくては!)

「あれが、最後の側近のヤンベリー? なるほど、Sクラスらしいいでたち」

「伊達男だな。とても、死刑執行人に見えない」

 ブローノもミドゴイルも思わず称賛してしまう色男。

 ジュークフリードは、チラリとエアリシアを見た。

 エアリシアも見とれているので思わず焦る。

 ザイン・レイがジュークフリードにささやいた。

「コンプレックスを刺激されただろう」

「う……。いや、そんなことは……」

 また見抜かれて、いろんな意味で恥ずかしくなる。

「恥じることはない。あれがあいつの術だ。あの色気で男であろうと女であろうと、まどわし虜にする。特に、女はいちころ。一旦落ちると、決して逆らうことができなくなる。戦わずに敵が戦意喪失して勝利を手にする恐ろしい奴だ」

 ジュークフリードには絶対にできない技だ。

「そうだろうね。あの美しさじゃ、つい、擁護したくなる」

 人間は、美しいものに弱い。

 それは、異世界のモンスターも同じなのだろう。

 人の弱みにつけこむ術に長けた魔王らしい大傑作がヤンベリーだろう。

 ヤンベリーは、長いまつげと宝石のような美しい瞳でジュークフリードを一瞥した。

「お前が勇者か? ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」

 声も美しかった。

 ジュークフリードは、いつでも抜けるよう背中の剣に手を乗せた。

「ジュークフリード、まずいぞ」

 ザイン・レイが周囲を見て言ってきた。

「何が?」

「ブローノたちの心が、すでにヤンベリーに囚われている」

「なんだって?」

 ブローノ、ミドゴイル、エアリシアは、棒立ちとなって心ここにあらずの表情になっている。

「皆! しっかりしろ!」

 ジュークフリードは、慌てて三人の肩をゆすったが目が死んでいる。

「ジュークフリード、ヤンベリーを倒せば元に戻る。戦力にはならなくなったが、放置しても危険はないだろう。先にヤンベリーと戦おう」

「ああ、そうだな」

「嫉妬を捨てろ。美しさに惑わされるな」

 ザイン・レイもヤンベリーに惑わされていない。

「ザイン・レイは大丈夫なのか?」

「僕は、平気だ。それより、解毒剤を手に入れたいんだろ?」

「そうだった。コツツメツマの解毒剤はあいつが持っているんだな」

 ヤンベリーが美しく眉間にしわを寄せた。

「いつまでもしゃべっているなら、こちらから行くぞ!」

「ちょっと待ってくれ! その前に聞きたいことがある!」

「なんだ?」

「お前、毒を仕込むのが得意らしいな」

「お前……だと?」

 ヤンベリーは、ジュークフリードの言葉遣いに目の色を変えた。

「勘違いするな。貴様と私とでは格が違う。ヤンベリー様と呼べ!」

「いや、敵なんだから、そうは呼ばないだろ」

 結構、面倒な性格をしているなとジュークフリードは思った。

「体に仕込んだ毒カプセルの取り出し方法を教えろ」

「何のことだ?」

「お前は、忠誠を誓う手下の体に毒カプセルを仕込むんだろ? 取り出し方を教えろ。もしくは、解毒剤があるのならくれ」

 ヤンベリーは、単刀直入に要求するジュークフリードを鼻で笑った。

「貴様は、顔だけじゃなく頭も悪いのか? どうせ、普段から怠け者なんだろ」

 ヤンベリーの皮肉に、さすがのジュークフリードもカチンとくる。

 ダメクズヒキニートの自覚はあるが、他人から指摘されるのはちょっと違う。

「うるせー! ああ、直接聞いた俺がバカだったよ! こうなったら、力尽くで聞いてやる! 俺が勝ったら教えろ!」

「ハハハ! そうこなきゃな! では、勝負だ!」

「望むところだ!」

 ジュークフリードとザイン・レイが剣を構えたところ、ヤンベリーは笑い出した。

「ハッハッハ! 勘違いするな。お前らごときザコと戦うのは私じゃない。格が違う。戦うのはこいつだ!」

 ヤンベリーの背後から、巨大な蜘蛛モンスターが現れた。

「なんだと!?」

「でかい蜘蛛!」

「私はゆっくりと見物させてもらうよ」

 ヤンベリーが後退すると、巨大蜘蛛が向かってきた。

「二人で挟み撃ちにしよう!」

「ああ!」

 左右に分かれて回り込んだところ、巨大蜘蛛はお尻からネバネバのネットを吹きだし、ザイン・レイの体を捕らえた。

「しまった! クソ! 切れない!」

 細身剣(レイピア)で糸を切ろうとするが、粘性が高くて刃が立たない。

「フフフ……」

 ヤンベリーは、いつの間にか出てきた玉座のような椅子に座って余裕の見学をしている。

「ザイン・レイ! 今、助ける!」

 ジュークフリードは、翼を広げると蜘蛛の糸を避けて天井高く飛び上がった。

 巨大蜘蛛がジュークフリードに向けてネットを吐いたが、間一髪避けた。

 空を飛ぶジュークフリードにヤンベリーが驚いた。

「空を飛べたのか?」

「どうせ俺をバカにして、下調べもしなかったんだろ! 見くびるなよ!」

 ジュークフリードは、ランダムに瞬間移動した。

 巨大蜘蛛は、背中の八個もある目を光らせて必死に動くが、ジュークフリードに追いつけない。

 蜘蛛のネット攻撃を避けると、翼を折りたたんで高速回転しながら蜘蛛を目掛けて降下した。

 エンモーンを見て会得した技だ。

 体全体でスクリューし、剣をドリルのように使って蜘蛛の胴体を突き抜けた。

 体に穴を開けられた蜘蛛は、一気に粉砕した。

 ザイン・レイを縛り付けていたネットも同時に消えた。

「なんだと!」

 目の前で起きたことをヤンベリーは信じられない顔で見ていたが、すぐに不敵な笑みを浮かべて余裕を取り戻す。

「なるほど、さすが勇者。もっとも、ハイドサクルに比べれば、まったく及ばないがな」

「強がるんじゃない。次はお前だ!」

 ジュークフリードは、剣先をヤンベリーに向けて決め顔を作った。

「フフフ……。次の相手はこいつらだ」

 ヤンベリーの椅子の後ろから、職業訓練校のクラスメイトだった、ゴブリンのヤタマエル、ドワーフのキリ、狼男のリューヒアが出てきた。

「お前ら!」

「ジュークフリード、久しぶりだな」

「勇者を目指していたんじゃなかったのかよ! 魔王に寝返るのか!」

「ハイドサクル王国は魔王様とヤンベリー様のものだ!」

 すっかり、ヤンベリーに魅了されてしまったようだ。

「俺たちは、ここでお前を倒して魔王様に認めてもらうんだ!」

「お前のような落ちこぼれが、魔王様に勝とうなんてやっぱりバカだろ」

「バカはバカなことしかできないんだな。俺が食ってやる! ガー!」

 ヤンベリーを後ろ盾に、言いたい放題だ。

 頬杖をついて足を組んだヤンベリーは、まるで魔王のような態度でニヤニヤと見ている。

「お前ら、私にケツを向けるな」

「すみません」

 三人は、ヘコヘコしながら横向きに並んだ。


 ジュークフリードは、ザイン・レイと相談した。

「三人は、すっかりヤンベリーに取り込まれている」

「まいったな、いくら魔王側だとしても、クラスメイトを倒すわけにはいかない」

「そんな甘いことを言っていると首を取られるぞ。あいつらは、躊躇なくお前を殺す」

「そうだけど……」

 職業訓練校での授業でも、何度も殺されそうになった。

 ここは非情にならなくてはならないのだろう。ジュークフリードだって分かっているが。

 三人が煽ってくる。

「腰抜け人間め!」

「やれるもんならやってみろ!」

「今日こそは食ってやる!」

 矛先がザイン・レイにも向けられる。

「ザイン・レイも、あそこで死んでいれば良かったのにな」

「どういうことだ?」

「ペガサスから落ちてしまえば良かったってことだ。ついでにジュークフリードもな」

「もしかして、ペガサスが急に暴れたのはお前たちの差し金だったのか?」

「その通り。ようやく気付いたか」

「俺たちがペガサスに興奮草を食べさせたんだよね」

「なんだと……」

「ケケケ……」

 三人は、残忍に笑っている。

 ジュークフリードは、自分が受けた仕打ちの数々まで思い出し怒りで震えが止まらない。

 この三人にはもうなんの情けも感じない。

「分かった。お前らはもうクラスメイトでもなんでもない。遠慮なく行かせてもらう!」

 ジュークフリードは、勇者の剣を遠慮なく構えた。

 ザイン・レイが小声で作戦を伝えた。

「ジュークフリード、あいつらは僕に任せておけ」

「そうか。それなら頼む」

 ザイン・レイにも三人と戦う権利があると、ジュークフリードは引っ込んだ。

 ヤンベリーは、あたかもコロッセウムで奴隷同士が殺しあう競技を見物しているかのようにこの状況を楽しんでいる。

「フフフ……。かつて仲間だったお前たちが、どんな戦いをするのか楽しみだ」

 三人が咆哮しながら走り出した。

「ドリャアアアア!!!」「ウオオオオ!」「ワオオオオ!!」

「トオリャアアア!」

 ザイン・レイが叫ぶと、レイピアの刀身が呼応するように恐ろしく伸びた。

 それが緩やかにカーブして、先頭のヤタマエルの眼球を貫いた。

「アギャアアア!」

 ヤタマエルが絶叫する。

 刀身を縮めて引き抜くと、すかさず、もう一方の眼球に突き刺した。

 ヤタマエルはガックリと膝をつき、目を抑えてもんどりうった。

 次に、レイピアをキリに向けたので、キリは興奮した。

「クソ! やられる前にやってやる!」

 だが、キリからザイン・レイまで距離が遠くて反撃できない。

「ヒュッ」

 ザイン・レイは、目にもとまらぬ素早い動きで、キリの両目も伸びるレイピアに貫かれた。

「アアアウウウウ!」

 キリも目が見えなくなり、激痛に苦しみ倒れた。

 視界を奪われて、戦うことはもうできない。

 ジュークフリードを襲うつもりだったリューヒアだが、この惨状に恐れをなして動けなくなっている。

 ザイン・レイは、リューヒアに飛び掛かると両目を切りつけた。

 体を回転させて、その勢いで両足のアキレス腱を切断した。

「ワオーン!」

 リューヒアの遠吠えは、負けのサイン。

 三人は倒れたが、死んではいない。

 だが、もう動けないだろう。

 ヤンベリーは、あっさりとやられた三人を冷めた目で見ている。

「全く、職業訓練校の奴らは役立たずばかりだ」

 ジュークフリードとザイン・レイは、ヤンベリーに襲いかかった。

「ヤンベリー! 覚悟しろ」

「お前の最後だ!」

 しかし、まったく動じない。

 勇者の剣とレイピアをヤンベリーの喉笛に突き立てたが、まったくたじろがない。

「毒カプセルの外し方を教えろ。それと、解毒剤はどこだ?」

「おやおや、私を脅すのか?」

「お前はもう負けている。見ろ」

 さきほどまでヤンベリーの術に掛かっていた、ブローノ、ミドゴイル、エアリシアは、正気を取り戻している。

 全員の武器がヤンベリーを狙っている。

 エアリシアは弓矢。ミドゴイルは投げ槍。ブローノは鉄の斧。

「全部吐け!」

「なんのことかな?」

 ブローノが、「これではどうだ」と、肘掛けに乗せていたヤンベリーの右腕を斧で切り落とした。

「ウグ!」

 さすがに、うめき声が出た。

「……こんなことでは、死にませんよ」

「では、次だ」

 もう片方の腕も切り落とした。

「グググ……」

 手が無ければ、押さえることもできず身悶えるしかない。

 ブローノが脅した。

「話さなければ、次は足だぞ!」

 ヤンベリーが、苦悶の表情で言った。

「分かった……。教えてやる……。毒カプセルを外す方法はない。だけど、解毒剤があることだけは教えてあげよう。ただし、どこにあるかは教えない」

 両腕からは、とめどなく血が流れ出している。

 激痛のはずだが、ヤンベリーは解毒剤の在処を言わない。

 エアリシアが叫んだ。

「下を見て!」

 ヤンベリーの切り落とした手首が、椅子の下でうごめいている。

「本体から切り離されても動くのか?」

「ククク……」

 ヤンベリーが不気味に笑った。

 やばいかもと思った瞬間、ヤンベリーの手がジュークフリードの足首を掴んだ。

「うわ!」

 引っ張られて倒された。

「ジュークフリード!」

「くそ! 離れない!」

 ジュークフリードはヤンベリーの手を外そうとするが、とんでもない力で掴んでいる。

 足首の血流が止まるほどだ。

「ククク……。アッハッハッハ! 私がこの程度で苦しむわけがなかろう。遊びに付き合ってやったのさ。解毒剤があることだけはサービスで教えてやった。あとは自分たちで探すんだな」

「本体を倒せば、手首は外れるはず。ヤンベリーを倒してくれ!」

 ヤンベリーは、椅子の後ろに身を隠した。

「待て!」

 後を追ったが、ヤンベリーの姿はどこにもない。

 ヤンベリーの手が、ジュークフリードの足から離れた。

 カサカサと、部屋の隅に逃げていく。

「きっと、ヤンベリーのところに戻って接着されるんだ」

「追ってみよう」

 手首を追った。

 赤い血を垂れ流しながら進むから簡単につけられる、と思ったが、壁の穴に入ってしまった。

「くそう。シフォンヌがいれば行けたのに」

 シフォンヌなら、空気が通っていればどこへでも入りこめる。

「俺たちでは、これ以上の追跡は無理だな」

 先に、解毒剤を探すことにした。


 ジュークフリードは、ザイン・レイに聞いた。

「ザイン・レイ、ヤンベリーのことで、何か思い出すことはないか?」

「そうだなあ……」

 ザイン・レイは、考えた。

「ヤンベリーはたくさんの蜘蛛を飼っているけど、これって、関係あるかな?」

「さっきみたいな巨大蜘蛛?」

「あれではなく、普通の大きさの蜘蛛。多分、ペットだ」

「蜘蛛をペットにするんだ」

「そうだね」

「それはどこにいる?」

「蜘蛛専用の飼育室がある」

「そこに行ってみよう」

 飼育室へ向かった。

 しばらく歩くと、すすり泣きが聴こえてきた。

 “ヒィィー、ヒィィー”

「ここにも嘆きの岩がいる」

「警備が強化されたているんだろう」

 すすり泣きが大きくなってきた。

「こっちに向かってくる。このままでは見つかる」

「隠れるか」

 ザイン・レイの手招きで、空いている部屋に隠れるとすすり泣きが遠ざかった。

「いなくなった」

 ホッとして外に出た。


 ある区画に来ると、ザイン・レイが足を止めた。

「この先は特別エリア。出入口はタロースが警備しているが、中は完全にヤンベリーのプライベートゾーンとなって警備がなくなる。もちろん、嘆きの岩もいない」

「つまり、入ってしまえば、余計な魔物はやってこないってことだな」

 嘆きの岩がいないだけで精神的にはかなり楽。

 入り口を覗き見ると、ザイン・レイの言う通り、タロースが二体立っている。

「僕が仲間の振りで近づく。油断させて倒すよ」

「頼んだ」

 ザイン・レイが、見回りのタロースの振りで近づいた。

 タロースは警戒していたが、すぐに仲間と判断して武器を下ろして警戒を緩めた。

 ザイン・レイは、二体の前に来ると、わざとよろけて倒れ、足首の栓を素早く抜いた。

 二体とも、その場に崩れた。

「よし、やった。これで、次の警備が来るまで気づかれない」

 ザイン・レイの手招きで飼育室まで来た。

 警戒しながらドアを開ける。

 中には熱帯植物が植えられ、ガラスに囲まれた大きな飼育用ケースが置かれている。

 脚が太くて毛深い蜘蛛が歩き回っている。刺激しなければ、おとなしそうだ。

「こいつらか……、あれ?」

 何匹かの蜘蛛が、背中に何かを背負っている。

「背中に何かあるなあ」

「カプセルかな?」

「カプセル? あ、もしかして、毒って、あいつらから抽出されたものなんじゃないか?」

「そうか。ああやって集めているんだ」

「それなら、解毒剤はありそうだ」

「この部屋のどこかに置いてあるかも」

 幸い、ヤンベリーは現れない。まだ、手がくっついていないのだろう。

「急いで探そう」

 部屋にはいろいろな実験器具が置いてあり、鍵のかかった棚もある。

「どこも鍵がかかっている」

「まあ、そのあたりに放置はしないよな」

 焦っていると、声がした。

「そこにいるのは、誰だ?」

「ハ!」

 振り向くと、ヤンベリーではなく、白衣の爺がいた。

 ザイン・レイが名前を呼んだ。

「セカハドマ! ……様」

「おや、その声は、タロースではなくて、ザイン・レイか」

 ケンタウロスをはく製にしたセカハドマだった。

 ザイン・レイとは顔見知り。

 ザイン・レイが裏切ったことはまだ知られていないようで、敵意は見られない。

 周囲にいるブローノやミドゴイルたちのことも疑っていない。

 自分の研究以外に興味がないとザイン・レイは言っていたが、その通りのようだ。

「こんなところで、何をしている?」

「セカハドマ様こそ、どうされたんですか? ここは、ヤンベリー様の飼育室のはずですが」

 ザイン・レイは、咄嗟に部下の振りをした。

「わしは蜘蛛を貰いにきたんじゃ」

「そうだったんですか。実は、僕たちは解毒剤を持ってくるようにヤンベリー様にたのまれたんですが、うっかりどこにあるか聞きそびれてしまって困っていました。手ぶらで戻るわけにもいかず。セカハドマ様、どれが解毒剤か教えて貰えませんか?」

「ずいぶんと、うっかりやさんだな」

 セカハドマは、手持ちの鍵を使って棚を開けるとアンプルを取り出した。

「これのことか?」

「そうです。助かりました」

 アンプルを受け取ると、退散しようとするジュークフリードたちを呼び止めた。

「ああ、ちょっと待ってくれ」

「はい? なんでしょう?」

 バレたかと、全員緊張した。

 危険になれば倒すしかないと、剣に手を掛ける。

「ヤンベリーの好きな特製カクテルがここにある。ヤンベリーに会ったら、これを飲ませてやってくれ」

 ザイン・レイは、セカハドマから液体入りの水筒を預かった。

「よろしく伝えてくれ」

「分かりました」

 そそくさと、飼育室を出た。

「疑われなくて良かったな」

「気づいていたのに、見逃してくれたんだと思う。僕は、あの爺さんにかなり親切にしたから。恩返しだ」

「恩返しって、あるんだ」

「あの博士は特別。そもそも、異常だし」

(いい人そうに見えたけど、マッド博士なんだよな)と、ジュークフリードは思った。

「兎にも角にも解毒剤は手に入った。これでコツツメツマを助けられる」

「僕らが生きて帰らなきゃな」

「ああ、そうだ。まだ、ヤンベリーも倒していないし。リンドも助けなきゃならない」

 ザイン・レイはジュークフリードに水筒を渡した。

「これでヤンベリーを油断させられるかもしれない。ジュークフリードが使ってくれ」

「ああ」

 ジュークフリードは、水筒を腰に下げた。


 特別エリアを出ようとしたところで、魔物がやってくることに気付いた。

「いたぞ!」

 多くの魔物が結集して、こっちに向かっている。

「やられたタロースのことを知られたんだ」

「どうする?」

「まともにぶつかっては切りがない。こっちだ!」

 ザイン・レイの案内で通路を戻ると、一人ずつ体を通せる通気口に潜り込んだ。

 必死にザイン・レイについていく。

 追ってきたタロースが、屈んで潜り込むことができずに狭い入口を塞いでしまっている。

「あれなら、他の魔物も入ってこられないな」

「この隙に進もう」

 肘で必死にほふく前進した。

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