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第十話 仲間とともに魔王城へ

 空に黒い雲が不気味に広がり、一向に晴れる気配がない。

 ほとんどの住民たちは気に留めていないが、あれは魔王復活を示す不吉の兆しなのだ。

「魔王の勢力が強くなる前に、なんとか止めなきゃ!」

 職業訓練校へ急ぐ。

 教室に駆け込むとザイン・レイがいたので一番に声を掛けた。

「ザイン・レイ!」

「どうした?」

 血相変えたジュークフリードの顔を不思議そうに見ている。

「リンドが行方不明だ。何か知っているか?」

「そうだったの? いや、何も知らないけど」

「そんなことないだろう!」

 とぼけているのだろうと、ザイン・レイに詰め寄った。

「ちょっと、待て。落ち着いて説明してくれ。僕が何を知っているって?」

「リンドを学校帰りに誘って、眠り草で眠らせて連れて行っただろ」

「は? 僕はそんなことをしていない」

 ザイン・レイは、疑われて心外な顔になった。

「では、潔白を証明するため、リンド救出に手を貸せ。できるだろう?」

「ああ、いいさ。いくらでも貸してやる」

 売り言葉に買い言葉で予想外の展開となる。

(ザイン・レイが真実を言っているのか、それともウソか。見抜く方法は、あるのだろうか……)

 考えていると、ブローノ教官がやってきた。

 こちらにも大事な用がある。

 ジュークフリードは、タイミングを計った。

「全員、着席!」

 登壇したところで、ジュークフリードはブローノ教官に頼んだ。

「教官、少しだけ時間をください」

「どうした?」

「ハイドサクルのため、クラスメイトのため、とても大事な話が皆にあります」

 ブローノ教官は、ジュークフリードの切羽詰まった顔を見て、「分かった」と、快く承諾してくれた。

 ジュークフリードは、教壇に立つとクラスメイトたちに向けて訴えた。

「皆! 聞いてくれ!」

 クラスメイトたちは静かに注目する。

「魔王グロデヒムドが復活した!」

「なんだって?」

「そして、リンドが魔王に捕まっている!」

「リンドが?」

「そういえば、しばらく見てないな」

 リンドがいないことに、今頃気づいたものもいる。

「俺は今からリンドを救い出し、魔王を倒しに行く! 皆で協力しないか? 勇者コースの皆が力を合わせれば、きっと魔王を倒せる!」

 教室内はザワザワした。

 お互いに顔を見合わせ、話し合っている。

「魔王だって?」

「俺たち、まだ勇者じゃないし」

「未熟な勇者が千人集まったって倒せないと言われている魔王相手にこのメンツで戦えるか?」

 当初、30名いたクラスも人数が減って今では10名しかいない。それでも、10名全員が参加すれば大きな力になるはずだった。

 ジュークフリードは、誰も賛成しない様子を見てガッカリした。

「お前ら、勇者を目指しているんじゃないのかよ! 何のために勇者コースで学んでいるんだよ! クラスメイトを助けようと思わないのかよ!」

 馬顔のクラスメイトが、おずおずと出てきて言った。

「勇者を目指したのは、ハイドサクルには魔王がいなかったからだよ。魔王が復活したなら話は別だ」

 他のクラスメイトも口々に言い出した。

「勇者は命知らずの無鉄砲とは違うからな」「俺たち、まだ修行中の身だし」「命は大事だよな」

 否定的な意見ばかりが出てくる。

 誰も参加しないようだ。

「分かった……。無理を言って悪かった」

 肩を落として教室を出ようとするジュークフリードに、ブローノ教官が声を掛けた。

「私が仲間になろう」

「え? 本当ですか? 魔王ですよ?」

 ブローノ教官は強いが、冒険できる年齢ではないと思っている。

「生徒が戦うというのに、教官が逃げるわけにはいかないだろう。それに、私のひいじいさんは勇者ハイドサクルの盟友だった。いろいろ聞いているから、役に立つと思う」

(いにしえ)の勇者ハイドサクルの盟友だったんですか?」

 魔王を倒すヒントも分かるかもしれない。

「ありがたいです! ありがとうございます! ブローノ教官!」

 結局、三名となった。

 三人で校舎を出ると、「ピイイイ!」と、リントブルムが飛んできた。

 盛んにジュークフリードにまとわりつく。

「なんだろう?」

 ブローノ教官がリントブルムの気持ちを代弁した。

「一緒に連れいけと言っているんだよ。よほど、君を気に入ったんだな。リントブルムは、空を飛べるし炎攻撃ができるから役立つ。この子は連れて行ってもいいと思う」

「リントブルム、俺たちと一緒に行くか?」

「ピイイイ!」

 リントブルムは、嬉しそうに鳴いた。

 勇者コースのクラスメイトより頼もしい仲間ができた。

 三人と一匹で、エアリシア、ガーゴイルと合流すると、シフォンヌを呼び出す。

「御用でしょうか?」

「これからリンドの救出と魔王退治にいくが、協力してくれるか?」

「承知しました」

 ジュークフリードは、全員に向かって目的を説明した。

「俺たちの目的は、魔王を倒し、魔王城の拷問部屋に捕まっているリンドを救い出すことになる。まずは、リンド救出だ。こうしている間にもリンドは拷問を受けている。一刻も早く助けてあげたい」

 お互いを知りあうため、メンバー紹介することにした。

「彼女は、俺と契約した風精霊のシフォンヌ」

「よろしくお願いします」

 丁寧に腰を落としてレディの挨拶。

「俺がお世話になっている、エルフのエアリシア」

「エヘ! チャオ!」

 エアリシアは、顔の前でピースを作った。

「ガーゴイルの……」

(名前、なんだっけ?)と、ジュークフリードは思った。

「ミドゴイル」

 ガーゴイルの名前を初めて知った。

「ミドゴイルさんです」

「さん付けはいらん。ミドゴイルと呼んでくれ」

「はい。ミドゴイル」

 ブローノ教官を紹介する。

「職業訓練校勇者コースのブローノ教官」

「学校外では、『教官』はいらない。ブローノと呼んでくれ」

「わかりました」

 ジュークフリードが余計な気を遣わないように気遣ってくれている。

 ザイン・レイとリントブルムを紹介した。

 ザイン・レイの真の目的については、あらかじめ説明しておくことにした。

「彼女には特別な事情があってパーティーに加わった。かいつまんでいうと、リンドを魔王に引き渡したのがザイン・レイによく似た全身甲冑らしいんだ。ザイン・レイになりすまして俺たちの前に現れることも考えられるから、気を引き締めて欲しい」

 ジュークフリードは、今の段階で分かっていることを話した。

「変身能力のあるモンスターなら、いくらでも化けられるからな」

「では、我々にザイン・レイの顔を見せて貰えるんだろうね」

「ザイン・レイ、いいか?」

「ああ。もちろん」

 ザイン・レイは、兜を脱いだ。

 現れた眉目秀麗の美女に、一同感嘆した。

「そんな顔だったのか」

 ブローノが一番驚いていた。

 ジュークフリードは、久しぶりに見られたことを喜んだ。

 ミドゴイルは、甲冑の足首の栓に気づいた。

「タロースにも足首に栓があり、それを抜くと死ぬと言われてるで。そちのそれは?」

「疑うなら、抜いてみな」

 ミドゴイルは、躊躇うことなく栓を抜いた。

 何も出ないし、ザイン・レイに変化はない。

「タロースではないと納得したか?」

「ああ」

 ミドゴイルは、栓を元に戻した。

 ジュークフリードは、メンバーの顔を眺めて思った。

(俺がリーダーか……)

 重責が()し掛かるが、ここまで来たらやるしかない。

「出発前に確かめておきたいことがある」

 ブローノがジュークフリードに声を掛けた。

「君は、まだ勇者の免状を持っていない」

「そうですが……」

 ジュークフリードは、(せっかく、みんなの気持ちが一つになっているこの状況で言うことか)と、恥ずかしくなる。

「しかし、単位はほとんど取っている。ということで、君には勇者の仮免を与える」

「仮免!?」

「仮免勇者として、頑張ってくれ」

「ありがとうございます」

(仮免勇者か……。迫力に欠けるが、ないよりはあった方がいいよな)

 気を取り直して、勇気を奮い立たせた。

「では、魔王城に向かって、出発!」

 エアリシアに聞かれた。

「ところで、どうやって魔王城まで行くの?」

「シフォンヌに連れて行ってもらう。よろしく!」

「それは、無理です」

 シフォンヌに断られて出鼻をくじかれる。

「え? なんで?」

 シフォンヌはパーティーメンバーを見た。

「いくらなんでも、人数が多いです。私の力では、こんなに連れていけません」

「そうか……。どうしよう……」

 ミドゴイルが、シフォンヌに聞いた。

「魔王城の場所は、分かっているのだろう?」

「はい」

「では、案内してくれ。空を飛べるものは、後ろを付いていく」

 ブローノが止めた。

「待て。こんなに大勢で魔王城に乗り込んだら、すぐ見つかって攻撃される」

「でも、リンドは魔王の魔力でつながれていて、それを外すには、皆の力が必要です。助けても、魔王城を抜け出さなくてはならない。出来れば、一緒に行動したい」

「それについては、わしが何とかするで」

 ミドゴイルの力強い言葉を信じて、皆で魔王城に向かうことにした。

 ジュークフリードとザイン・レイはリントブルムの背に乗って、エアリシア、ミドゴイル、ブローノは空を飛び、前を行くシフォンヌに従った。


「到着です」

「ここが、魔王城か」

 そびえたつ漆黒の魔王城。

 真っ黒な雷雲が上空で渦巻いている。

 稲妻が雷鳴を轟かせて空中を走れば、一瞬明るくなって城全体が照らされる。

 暗闇の中で浮かび上がる禍々しき形。

「シフォンヌ、拷問部屋はどのあたりになる?」

「地下です。案内しますが、この人数が見つからずにたどり着けるかどうか……」

 ミドゴイルが言った。

「いい方法があるけえ。わしが魔法で魔王の手下に化けさせるで」

「そんなことができるのか!」

 ミドゴイルの魔法で、ザイン・レイはゾンビアーマーに、ジュークフリードは、姿形がそのままで、全身が透明なミントグリーンのゼリーになった。

 プルプル柔らか。食べればのど越し滑らかそうで味は爽やかそうだ。

 こんなところで、最初に願ったゆるいモンスターになるとは思わなかった。

「プルプルのモンスターにでも転生できたらよかったと思ったこともあったさ。でも、これじゃない」

 ジュークフリードは、ミドゴイルに泣きで頼んだ。

「もうちょっと格好いいモンスターにしてよ。ゼリーじゃ食われて終わりそうだよ」

「その体は最強でなあ。あとで分かると思うでよ」

「そうなの?」

 魔物に食われないか心配だけど、ミドゴイルの言葉を信じることにした。

「他の人は?」

「私は透明化できるから」

「私もです」

 エアリシアとシフォンヌは、透明化で潜り込むことになった。

 ブローノとミドゴイルに聞いた。

「二人は?」

「我々は、魔王の仲間の振りができるから、このままでいい」

 確かに、オークとガーゴイルは魔王側にもいそうだ。

「リントブルムは?」

「リントブルムは敵と見なされない。そのままでいいだろう」

「ピイイイ!」

 リントブルムは喜んでいる。

「では、行こう」

「表側には見張りがついている。特に、機械仕掛けの自動人形であるタロースは、休むことなく巡回している。いくら仲間の振りをしても、入る理由がないと怪しまれて攻撃される」

 タロースという言葉に、ジュークフリードはドキリとした。

 ザイン・レイはタロースじゃないと分かっていても、勝手に反応してしまう。

「ジュークフリードは、タロースが怖いのか?」

 ミドゴイルに見透かされた。

「全然。タロースがいたら、足首の栓を抜けばいいんだろ? 簡単さ」

「そうだ」

「しかし、正面突破は難しいとなると、裏からか……。迷わず行けるだろうか?」

「私が案内しましょう」

 シフォンヌが名乗り出た。

「魔王城の構造は、だいたい分かっています。見張りの手薄な裏道があります」

「あの短時間でよく偵察できたね」

 シフォンヌが、ニコッと笑った。

「すべての風は私の仲間。風は誰にも捕らえられない。下調べは簡単ですよ」

 頼もしい。

「私についてきて下さい」

 シフォンヌが、見張りの目をかいくぐれる裏道を案内してくれた。


 裏口に来ると、リントブルムを外に待機させて魔王城に潜入した。

「地下水の流れる洞窟を通ります。暗いので気を付けて」

 ネズミモンスターや昆虫モンスターに出くわしたが、ザコだったので倒しながら洞窟を進む。

 魔王城の地下はクモやネズミの巣窟。石造りの壁と床を虫が這いずり、カビと血の匂いが充満している。

 明かりも乏しく、怖々歩く。

 見張りのゾンビアーマーが歩いてきたので角に隠れた。

「ここは私が手本を見せよう」

 ブローノが先に行った。

「やあ、お疲れ」

 倒すのかと思ったら、仲間の振りでやり過ごす作戦のようだ。

「もう、交代の時間か?」

「ああ。あとは俺がやっておく。上がっていいぞ」

「時間が早く感じられるな」

 ゾンビアーマーは、手前の階段を上って行った。

 ブローノが親指を立てた。

 簡単にいったので驚いた。

「騙されるもんですね」

「普通の魔物は大丈夫。タロースだと、こうはいかない。奴らは休憩なんてしないから」

 タロースの恐ろしさが本気で分かってきた。

(休むことなく追撃するって、そういうことか)

 疲れを知らない機械。足の栓を抜くまで働き続ける自動人形。

 またしばらく歩くと、すすり泣く声が聴こえてくる。

 “ヒィィー、ヒィィー”

「誰かが泣いているよ」

「あれは嘆きの岩だ」

「嘆きの岩? 岩が嘆くの?」

「そうだ。岩だけど、ずっと泣いている。そして、移動もする。こちらに気づくと追いかけてくる」

「岩が移動!? どうやって?」

「球体なのでゴロゴロ転がってくる。すすり泣きで誘い出し、感知すると体当たりしてくるんだ。どんな攻撃もあいつには効かない。泣いているから、つい弱いのかと油断してしまうんだが、決して、近づかないことだ」

「うわ、こわ!」

 岩の体当たりには敵いそうもない。

「奴には目がなく感知は鈍い。すすり泣きが聴こえたら、走ったりしないで慎重に進むこと」

「わかった」

「気づかれたら、どこかに隠れて向こうが見失ってくれるまで待つか、走って逃げるしかない」

「分かった。近づかない様にすればいいんだな」

 対処法を聞いて、何とかなりそうだと安心する。

 すすり泣く方には進まずに角を曲がる。

 鳴き声が聴こえなくなってホッとした。

 安心すると、岩の動くところを見てみたかったなどと思ってしまう。

 その後も数々の魔物をやり過ごし、幸い大きな戦闘にならず進んだ。

「リンドの捕まっている部屋はここだ」

 拷問部屋までようやくたどり着いた。

 ドアを開けると、体をずたずたに切り裂かれて血まみれのリンドが鎖に繋がれている。

「リンド! 約束通り、助けに来た!」

「その声は、ジュークフリードか……」

 ゼリーモンスターに化けていたが、リンドは声でジュークフリードだと見抜いた。

 瀕死状態でも、五感は働いている。

 ブローノが声を掛けた。

「リンド、心配したぞ」

「ブローノ教官まで……。ありがとうございます……」

 リンドがゾンビアーマーを見た。

「君は?」

「ザイン・レイだ」

「……来たのか」

 ジュークフリードは、疑心暗鬼のリンドに事情を説明した。

「君に眠り草を嗅がせてここに連れてきたのは、ザイン・レイじゃない」

「まさか……」

 簡単には信じられないようだ。

 ザイン・レイもリンドの誤解を解こうと身の潔白を主張した。

「本当だ。僕は君に何もしていない」

「ザイン・レイは、そのことを証明するため君の救出に名乗りを上げたんだ。この危険な魔王城まで来てくれた」

 ジュークフリードの言葉に、リンドはザイン・レイへの疑いを晴らした。

「そこまでするのなら、あれはザイン・レイじゃなかったと信じよう。それじゃあ、あれは誰だったんだ?」

 ザイン・レイが言った。

「おそらく、そいつはタロースだ」

「タロースが?」

「実は、僕の甲冑は、元々、タロースのものだったんだ。タロースを倒して甲冑をいただいた。足首に栓があるのはそのためだ」

「でも、声が君だった」

「魔王の力で僕の声色になったんだろう」

「そうだったんだ……。良かった……。ザイン・レイじゃなくて……。本当は君を疑いたくなかった」

 リンドは涙をこぼした。

 ジュークフリードも、名前じゃなくて『人間』と呼んでいたのはザイン・レイじゃなくてタロースだったんだと心の曇りが晴れた。

「リンド、その体って、大丈夫なのか?」

 リンドの体は、胴体が袈裟懸けに切断され、四肢は引き裂かれている。

「すぐに治る」

 体の裂傷は、じわじわと接着していく。

 切断面から無数の白い神経が伸びて、お互いに繋がりあい、肉を引き寄せ、泡のような血が傷を覆って癒していく。

「凄いなあ。こうやって再生するのか」

「いくらバラバラにされても時間が経てば元通り。決して、死なない体。それが、ホムンクルスだ」

 体から傷一つなくなった。

 これで、もう、ここから逃げられる。

「では、皆で協力して、リンドを魔王の鎖から解放しよう」

「分かった」

「やろう!」

「やりましょう!」

 シフォンヌが、エアリシアが、ミドゴイルが、ブローノが、ザイン・レイが、力を合わせて呪文を唱える。

 ジュークフリードはそれを見守りつつ、敵がこないか外を見張る。

 鉄の枷が、“メキ、バキ……”と、音を立てて粉砕された。

「やった!」

「外れた!」

 皆で喜んだ。

 外に出ようとしたところで、タロースが入ってきたので動きを止めた。

 中の様子を窺っていた兜の奥の目が光り、手に持つ弓に矢を掛けた。

 矢の先は、燃える火の玉となっている。

 ブローノが叫んだ。

「全員、防御しろ!」

 エアリシアとシフォンヌは透明化、ミドゴイルは石化、ブローノとザイン・レイは魔法バリアを張った。

 ゼリーモンスターのジュークフリードだけ取り残された。

「え? あれ? 俺は?」

 戸惑っていると、タロースの放った矢がゼリーの体を貫いた。

「ウオ!」

「ジュークフリード!」

「ウウ……、やられた……」

 その場に、うずくまる。

 タロースが、シュン、シュンと、矢継ぎ早に矢を放った。

 その矢を、ザイン・レイの細身の(レイピア)が薙ぎ払った。

 その間に、透明化で気づかれずにタロースに近づいたシフォンヌが、足首の栓を引き抜いた。

 穴からドクドクと血が流れ出したかと思うと、タロースはその場に崩れ落ちて動かなくなった。

 姿を現したシフォンヌが栓を掲げた。

「栓を抜きました!」

「よし! よくやった」

「死ぬ……」

 うずくまるジュークフリードに、石化を解いたミドゴイルが冷静に言った。

「ダメージはねえで、安心せい」

「え?」

「ゼリーの体に矢は刺さらんで」

 すっかり刺さったと思っていたジュークフリードだが、体を見ると傷一つない。

「さっすが、ゼリーの体! これは最強だ!」

 ブローノが、タロースから奪った剣と弓矢を渡してきた。

「これを持っていけ。使える」

 ジュークフリードは、リンドを助けることのみに集中していて、すっかり、武器の持参を忘れて丸腰で敵の陣地に乗り込んでいた。

 ジュークフリードは、ありがたく使わせてもらうことにした。

「さあ、ここを出よう」

 皆でゾロゾロと部屋を出ると、禍々しきオーラを纏った白金のビキニアーマーの女がいることに気づいた。手には革の鞭を持っている。

「誰だ!」

 リンドが叫んだ。

「気を付けろ! そいつは魔王の側近フェルニナー! 私を拷問に来たんだ!」

「なんだって!」

 フェルニナーは美女だが、妖しい笑みで芯から冷えるほどゾッとさせられる。

 何とも言えない気味の悪さを内側に潜ませた女。

(こいつが、毎日リンドを拷問した奴か。四肢を引きちぎり、体を切り刻み……)

 想像しただけで、吐き気を催した。

 フェルニナーがリンドを睨みつけた。

「リンド、どこへ行くつもりだ?」

「……」

 リンドの歯が、ガタガタと震えている。

 フェルニナーは、手の鞭をちらつかせながら脅してくる。

「おとなしく、部屋に戻れ。今なら魔王様には黙っておいてあげるぞ」

「ウウ……」

 リンドが、部屋に戻ろうとしたので引き留めた。

「リンド、しっかりしろ! 俺たちがついている!」

 ジュークフリードはリンドを必死に励ました。

「俺たちがあいつを倒して、魔王も倒す! リンドも一緒に戦うんだ!」

 フェルニナーはジュークフリードの言葉を笑った。

「そんなことを本気で考えているのか。面白いね、君たちは。そうだ。気に入ったから、君たちには私からプレゼントを差し上げよう」

 フェルニナーが片手を上げて呪文を唱えると、周囲に見るも忌まわしい拷問器具がいくつも現れた。

 鉄の処女(アイアンメイデン)。頭蓋骨を締め上げ粉砕する万力の鉄兜。鋼鉄の針がびっしりと敷き詰められた地獄椅子。

 それらがフェルニナーの周囲でフワフワと浮いている。

「リンド、奴は一度に複数を操れるのか?」

「一度出してしまえば、拷問器具が勝手にターゲットを追い回す」

「ということは、敵味方関係なく?」

「そうだ。だから、フェルニナーの周囲には、巻き添えを食わないように誰も近づかない」

「どうりで、援軍が来ないはずだ」

 フェルニナーに見つかったのだから、すぐに手下が集まって囲まれると思っていたのに、いつまでも静か。

「ここには、用事がないかぎり誰も近づかない」

「じゃあ、あいつに集中して戦えるな」

「フハハハハハ! お前たちは、私に指一本触れることはできない! 行け!」

 拷問器具が襲ってきた。

 エアリシアとシフォンヌは透明化、ミドゴイルは石化、ブローノとザイン・レイは魔法バリヤ。

 ジュークフリードだけ、無防備に突っ立っている。

「デジャヴ!?」

 ついさっきも同じ状況に陥った。

 しかも、今度はタロースよりもやっかいな敵だ。

 拷問器具がジュークフリードに集中して向かってくる。

「絶体絶命的な!?」

 鉄の処女がジュークフリードを体内に取り込もうとした。

 そのままではジュークフリードの体は内側の鋼鉄の針が刺さって穴だらけとなるだろう。

「ギャアアア……アア? あれ?」

 針が通らず、プルンプルンのゼリーの体はノーダメージ。

 今度は地獄椅子に座らされ、頭には鉄兜が乗っかった。

「ウワアア! って、ならない?」

 鋼鉄の針を弾力で跳ね返し、ベルトで締め付けられても窒息しない。

 ツンツンされた。

 拷問器具が強い力で鋼鉄の棘を刺そうとしても、跳ね返して痛くもない。

 体のどこを刺そうとしても、同じ状況となる。

「針が刺さらない上、痛みも感じない!」

 ミドゴイルが、ゼリーの体を『最強』と言った理由が分かった。

 この体には、拷問器具が得意とする締め付けや針攻撃が一切効かない。

「クソ! これではどうだ!」

 フェルニナーは、違う拷問器具を出した。

 爪を剥ぐ鉄の指輪。体を二つ折りにする鉄輪。それらがジュークフリードに襲い掛かるが、痛くも痒くもない。

 爪もないから、鉄の指輪が困っている。

 ゼリーの体に、首絞めもへし折りも効かない。

「ざまあ!」

 フェルニナーは、他のメンバーを鞭で攻撃するが、こちらもダメージを与えられない。

 ひたすら防御体勢で攻撃を凌いでいる。

 その様子を見ていて、ジュークフリードはある問題に気づいた。

 攻撃を防ぐのみで、誰も反撃していない。

(うちのパーティー、防御力は最強! その代わり、攻撃力が皆無!)

 さきほどはシフォンヌの機転でタロースを倒せたが、フェルニナーに隙はない。

 下手に動けば、拷問器具の攻撃を受けてしまう。

 それが分かっているから、ブローノもザイン・レイもミドゴイルも、防御体勢を崩せない。

(唯一、攻撃の効かない俺だけが動ける。これは、もう、やるしかない!)

 ジュークフリードは、タロースから奪った弓矢をフェルニナーに向けて構えた。

「お前と私の一対一だな」

 フェルニナーは、鞭から背中に背負っていた大斧に持ち替えると上段に構えた。

 重量がある分、当たれば一撃で粉骨砕身。その代わり、敏捷さでは不利のはず。

 その時、ジュークフリードの耳にあのすすり泣きが届いた。近づいてくる。

(あれは……。そうだ!)

 ジュークフリードは、フェルニナーに向かって叫んだ。

「俺は負けない! お前などいちころだ。さあこい! フェルニナー」

「このピンチに大口を叩くとは余裕だな」

 フェルニナーは、ずっと不敵に笑っている。

「へっぴり腰のフェルニナー! 拷問器具がなければ何もできないくせに!」

「なんだと?」

「ヘヘン、へそで茶を沸かすよ!」

 ジュークフリードは、わざと煽りながら大きな足音で付近を走り回った。

「私の恐ろしさで、ついに正気を失ったな」

「こっちだ、こっち! イェーイ!」

「そこまでだ! デヤアアア!」

 ジュークフリードを狙って、大斧を振りかざしたフェルニナー。

 次の瞬間、背中に衝撃を受けてフェルニナーが体勢を崩した。

「ウオ!」

 フェルニナーに嘆きの岩が激突していた。

「な、ん、で……」

 嘆きの岩がなぜ自分にぶつかったのかと、理解できないフェルニナーは混乱している。

「さっきから嘆きの岩の泣き声が聴こえていたのに、お前は気づかなかったようだな」

 ジュークフリードはあの声が嫌で敏感になっていた。

 遠くから聴こえてきたとき、これを利用してやろうと考えた。

 それで、わざと大きな声を出して騒いだのだ。

 嘆きの岩は、計算通りにジュークフリードを見つけて突進してきた。

 嘆きの岩は魔王の手下を攻撃しないだろう。そこで、すばやくフェルニナーの前に回り込んだことで軌道を変えられず激突。計算通りとなった。

 フェルニナーにとっては、嘆きの岩が自分にぶつかることはないと、その存在を気にしていなかったのだろう。

「この私にぶつかるとは……」

 フェルニナーは、怒りと恥辱でブルブル震えている。

 立ち上がると大斧を嘆きの岩に向かって大斧を振り落とした。

 バゴン! と、大音響とともに嘆きの岩は粉砕された。

「これは当然の報いだ!」

 砕け散った嘆きの岩は、もう泣くことはなかった。

「そこだあ!」

 ジュークフリードは、その隙をついてフェルニナーの大きく開いた胸に弓矢を放った。

 胴体を貫通。

 赤い炎が全身を包む。

「グワアア……」

 フェルニナーは、もだえ苦しみながら床に崩れ落ちる。

 周囲の拷問器具が、一斉に消える。

「やったぞ! みんな、もう大丈夫だ!」

 拷問器具がなくなったので全員復活。エアリシアとシフォンヌも、姿を現してやってきた。

 喜んでいるジュークフリードに、リンドが注意した。

「油断するな! フェルニナーは、その程度では復活する!」

「え?」

 よく見ると、フェルニナーの体はダメージで変わっていない。

 体から炎の消えたフェルニナーがニヤリと笑うと、再び大斧をジュークフリードに向けてきた。

 その時、上空からミドゴイルが槍を掴んで飛びかかった。

 石化を解いたミドゴイルが、とどめの一刺しをフェルニナーに向けたのだ。

 ミドゴイルの槍がフェルニナーの脳天をズブリと貫く。

「ジュークフリード! これでとどめを!」

 ブローノが、自分の剣をジュークフリードに渡した。

 ジュークフリードは、その剣を受け取るとフェルニナーの体に切り込む。

 フェルニナーは、二度と声を発することもなく白目を剥いて倒れた。

 エアリシアが叫んだ。

「見て! フェルニナーの体が変化していく!」

 フェルニナーの体が、ジワジワと結晶化していく。

 全てが結晶化すると、ボロボロと崩れてガラスの砂礫となり粉砕して消えた。

 ブローノが説明した。

「魔王の作り出したモンスターは、傀儡人形。生命力を失うと、形を保てなくなり、結晶化して崩れるんだ」

「こいつのような魔物をいくらでも生み出せるのだから、魔王というのは恐ろしい奴だな」

 ジュークフリードは、魔王の恐ろしさを改めて感じた。

「しかし、嘆きの岩をうまい具合に使ったもんだな」

 ブローノが粉々に砕け散った嘆きの岩に感心している。

「声で近づいていることに気づいたから、利用してやろうと思って。でも、フェルニナーが倒してくれるところまで考えていなかったよ。一挙両得だったなあ。これでびくびくしながら歩かないで済む」

「一体しかいないわけじゃないだろうがな」

「他にもいるんだ……」

「だが、こいつを倒せることがわかっただけでも収穫だ。ジュークフリードのお陰だ。やったな!」

 ブローノは、ジュークフリードの背中を叩いて手柄を称えた。

「ありがとうございます」

 ジュークフリードは、目を輝かせた。

「この勢いで、魔王のところまで行くぞ!」

「いや、待て、この勢力ではまだ無理だ」

「そうですよね」

 止められて、あっさり撤回する。

 今の戦いで、攻撃力が皆無という脆弱性が顕在化した。

 今回は運よく嘆きの岩を利用できたが、いつも使えるわけではない。

 仮免勇者のジュークフリード一人で魔王を倒すことは難しい。

 そもそも、そんなに強くない。装備も貧弱。

 ブローノが提案した。

「勇者ハイドサクルの記念碑に行こう。あそこには魔王を倒した時の最強装備品が保管されている。それを使わせてもらおう」

 勇者の最強装備品を貰いに行くことにした。

 魔王城を出た時点で、ジュークフリードとザイン・レイが元の姿に戻った。

 ジュークフリードは、人間に。ザイン・レイは、タロースの甲冑に。

「ザイン・レイって、ゾンビアーマーになる必要ってあった?」

「なかったかも」

 タロースのままで、充分、敵の目を誤魔化せそうだ。

 ジュークフリードの元へ、空にいたリントブルムが待ちかねたように飛んできた。

「ピイイイ!」

「よしよし。いい子にしていたか」

 頭を撫でる。

 リントブルムに三人で乗らせて貰ったが、ヨタヨタと重そう。

 安全な場所まで着くと、地上に降りて歩いて記念碑へ向かった。


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