プロローグ
「さっさと、ハローワークへ行け!」
「わーった! 分かった!」
母親がゲーム機のコントローラーを晴雄の手から取り上げると、背中を押して家から追い出した。
「仕事が決まるまで、戻ってくるな!」
血管が切れそうになっている母親の怒声に追い立てられて、晴雄は家を飛び出す。
鈴木晴雄は、高校を卒業して以来、一度も働いたことがない、ただ、ただ、家にいるダメクズヒキニート。
母親は、働かない息子にイライラしてたまに爆発する。
仕事探しと称して出掛ければ、母親大魔神の怒りをしばらくの間だけ鎮められる。そのためのパフォーマンスとして外に出るのだが、習慣というのは恐ろしい。何度か通ううちに、足が勝手にハローワークへ向かうようになった。
晴雄はハローワークの受付で求人情報検索用端末機の番号札を貰うと、あてがわれた検索機で適当に探した。
(やっぱ、ないな……)
求人情報を一つも選ばないまま席を立ち、番号札を受付に戻す。
「あ、ちょっと」
「はい?」
「若い人向けにいろいろなサポートがありますよ。就職に有利な資格が取れる職業訓練校とか、ヤングキャリアカウンセリングとか、受けてみませんか?」
来る度に誘われている。
「職業訓練校では、『ものづくりコース』、『コンピューターコース』、『生産設備管理コース』を募集中です」
「え……、あ、いや、いいです……」
ダメクズヒキニートだと分かっているが、今の生活が快適でやめる気はない。
親がうるさいから、渋々ハローワークに来ただけ。
このまま、面接の予約もなしに帰宅すれば、母からまた文句を言われるのだろう。
「あー、転生してえー。 そして、毎日遊んで暮らしたい!」
そんなことを考えながらビルの出入口まで来ると、外が騒がしいことに気付いた。
ビルの正面に人々が集まり、上を見あげてワーワーと騒いている。
「今日って、デモの日?」
人々は、悲痛な顏で上を見ている。
外に出ようとすると、「出るな!」と、誰かが叫んだ。
(俺のこと?)と思った次の瞬間、意識が飛び、全てが真っ白になった。
“アンジェリカ・ジェリカ……”
晴雄は、ぼんやりと考えた。
(声が聴こえる……)
“アンジェリカ・ジェリカ……”
(どういう意味だろう……)
誰かが何かを伝えようとしているが、『アンジェリカ・ジェリカ』の意味が分からない……。
再び、意識を失った。




