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宰相閣下は苛立つ

遅くなってすみません。子どもの春休みでなかなか更新できませんでしたが、よろしくおねがいします。

次はイチャイチャが入ります。たぶん。

「まだアルヴィ伯爵令嬢が犯人だとの確証はなく、アルヴィ伯爵令嬢とエリザベートの現在の立場を考えると、すぐにことを公表するのは得策ではないだろう。」




王太子殿下がすぐに指示を出し始める。





「この件は僕が指揮をとる。3人の誰が本当に狙われたのかも不明だから、警備を厳重にしなければ。あまり彼女たちを動かすのは、よくないのだろうが…


エリザベートは王子宮へ、伯爵令嬢2人は洛陽の塔へそれぞれ医師をつけ、万全の体制で移動させる。


この件については侯爵家、伯爵家、王宮ともに箝口令を敷き、彼女たちの体調不良以外のことは漏れないようにしろ。

アルヴィ伯爵令嬢のことは特に、漏れないように。


あくまでも、伯爵令嬢2人を保護し、円滑に治療をするために洛陽の塔に行かせる。王宮の近衛隊で厳重に。」




殿下が指示を出すと伝令の騎士は慌ただしく出て行った。



「殿下」




アリーの名誉のためにも、私は自分が指揮をとるつもりだった。眉根を寄せて殿下を見た。





「睨まないでよ。エリザベートは僕の婚約者なんだから、僕が指揮を執るのは筋が通るだろう?


アルヴィ伯爵令嬢が疑われているなら、ロブウェルが表立って捜査を指揮するのはまずいよ。もちろん裏ではロブウェルに頼らなければならないけどね。


とりあえず、今は洛陽の塔はだれも貴人はいなかったはずだから、2人の令嬢は近衛隊で身柄を保護する。」



「殿下のおっしゃる通りだ。ここは殿下の指示通りにしよう。おまえはアレクサンドラ嬢に会いに行くなよ。つらいだろうが、後々、余計な詮索をされてもこまる。」



「もちろん僕が指揮を執るが、実際には多くの部分でロブウェルに動いてもらうよ。真犯人がわかったあかつきには、法の範囲内でなら好きにしたらいい。僕もとても腹が立っているからね。」



殿下がニヤリと笑った。




確かに、殿下やフィルの言っていることは正しい。おおっぴらに自分が動くのが悪いのは理解できる。だが、毒を飲まされたアリーのことを思うと胸が痛い。できることなら代わってやりたい。



拳を握りしめる。





「殺してやる…」






ボソリというと、「私刑はだめだぞ。」とフィルに言われた。






「いるか。影。」




殿下とフィルが執務室から出ると、私は室内でだれにともなく声をかけた。



「おります。」



室内のどこからともなく声がする。『影』は私が持つ私設の間諜部隊のようなものだ。




「アリーの容体は逐一私に報告を。私や殿下の妻の座を、現在でも積極的に狙っている家を調べろ。それと、証言した侍女についても。父上と母上にも報告し、動いてもらってくれ。」




「はい。」






1日経った。時間が経つのが遅い。

毒物はやはり紅茶に入っていた。しかし、毒物の入手経路は未だわかっていない。


そもそも、社交デビューもしていない未婚の令嬢が毒物を入手すること自体が難しい。




「侍女は、毒物はお嬢様がご自分で手に入れたようだ、と言っていたが実際問題無理だろう。伯爵家と毒のつながりも今のところない。」



フィルが難しそうに言った。



「黒ではないが、無関係とも証明できないな。」



報告を聞きながら、ぐしゃりと手元の書類を握りつぶしてしまった。昨日から幾度となく書類をダメにしている。




そこへ、母上から面会の取り次ぎが入った。



「母上が?」



執務室には入れられないので、来客用の部屋にむかった。



「ひどい顔ですね。ディミトリアス。」




母は優雅に扇を開き、開口一番言った。



「嫌味を言いにいらしたのか。」



腹が立ち、ぶっきらぼうに言うと、母上はより笑みを深くした。



「あらあら。心配してあげたのよ?


まぁ、顔を見に来たわけではないわ。私の可愛い義娘のことよ。


証言をした侍女だけれど、我が公爵家の侍女の縁者として、伯爵家に紹介状を用意したそうよ。


ただし、我が家の侍女は、その娘が本当に縁者かどうかは確認が取れないそうよ。

子どもの頃に会ったきりで、髪と瞳の色や雰囲気は合っているから特におかしいとも思わず、紹介状を用意したと言っていたわ。突然連絡が来て、伯爵家に奉公できるように頼みたいと言われたと。」




「なんですって?あの侍女はアルヴィ伯爵領のものではないと?」



「しかも、我が家の侍女を使ったと。嫁入りのために人手を増やしたい伯爵家に1番近いのは、現在我が家ですからね。」




母上がパチリと大きな音を立てて扇を閉じた。これは苛立っている時の仕草だ。




「アレクサンドラはもう公爵家の者も同然です。我が家の娘に手を出すなど、愚かなことをしたものです。隔離されている伯爵家の侍女にはセドリックにも事情を聴くように指示しました。手段は問わないと言ってあります。」




「母上…。」



「私は全てを知っているわけではないけれど、全く知らないわけじゃないのよ?」



パチンとウインクして、「ではまたわかり次第遣いを出すわ。少しは休まないと。アレクサンドラの前に隈のできた顔で出たくないでしょう?」と言い置いて、母上は颯爽と部屋を出て行った。



嵐のようだった母上だが、どこまで知っているのか。こういうところは自分と親子だと感じた。



私も新たな指示を出すために客室を出た。







2日たち、アリーの意識が戻ったと連絡が入った。

聞いた瞬間、足元から力が抜けるような感覚がした。このような経験をしたのははじめてだった。



自分の状況を聞いて、どんなにか不安なことだろう。すぐにでも顔を見て抱きしめに行きたかったが、まだ疑いが完全に晴れてはいないため、私が会いに行くことはできない。代わりに『影』に伝言を託した。





母上からと、セドリックからの情報を元に、侍女の身元を再調査したところ、とある子爵家の領地出身で子爵の庶子であること、その子爵の裏にいくつかの貴族家があることまではわかった。




「だが、決定打にかけるね。下手をすれば証拠が不十分だと逃げ切られ、子爵家はトカゲの尻尾切りのごとく切り捨てられる。」




毒物もあまり一般的なものではない、ともすれば新種の毒物の可能性がある。



今回、3人とも一口飲んだところで意識を失い、それ以上飲まなかったこと、淑女のマナーとして、多くを口に含まなかったことが幸いしたが、それでも数日意識不明になるほどの毒だ。茶葉に毒物を仕込むという技術も聴いたことがない。


王都で出回れば恐ろしいことになる。




「早く元凶の貴族を特定して、毒物を押収しないと大変なことになります。茶葉に含ませただけであの症状ですから、原液など考えるに恐ろしい。」



「なんとしても、尻尾切りで終わらせるわけにはいかないね。問題はここからどうやって貴族家を絞るか…」



ひとしきり方針を相談し、殿下の御前を辞して自分の執務室に戻る途中、回廊のところに1人の女が立っているのが見えた。


女もこちらに気づくと、艶をにじませた笑顔でこちらに向かってきた。




「ご無沙汰しております。ドミニク侯爵令嬢。」



「まぁ。わたくしとディミトリアス様の仲ですのに!どうぞ、アニカとお呼びになって?」





ドミニク侯爵令嬢は私の腕に自分の腕を絡ませて胸を寄せてくる。






不快だ。名前を呼ぶのも、私に触れていいのもアリーだけなのに。

眉間にシワが寄りそうになるが、なんとかいつもの無表情を取り繕う。流石に高位貴族の娘をあまりぞんざいに扱えない。




腕に絡み付いてくるのがアリーだったら…あぁでもきっと彼女は顔を真っ赤にして恥ずかしがってしまうだろう。真っ赤な顔を下に向けてしまうに違いない。



もう何日彼女に触れていないことか…



ため息を嚙み殺し、現実逃避をしていると、勝手にドミニク侯爵令嬢が喋っていた。




「わたくし、ディミトリアス様をお慰めしようと思ってまいりましたの。」




「慰め?」



何を?




「婚約者になった女が、王太子殿下の婚約者を毒殺しようとしたなんて!恐ろしいですわ。きっとディミトリアス様のことも宰相様だから狙っていたのですわ。そんな女と婚約していたなんて、ディミトリアス様がおかわいそうでわたくし、居ても立っても居られなくて…」



腕に絡みついたまま、潤んだ目で見上げてくる。他の男なら魅了されたかもしれないが、私にはそんなものは通じない。



それよりなにより…




私は適当に彼女をいなして、再び王太子殿下の執務室に向かった。


ライラ「奥方様はどこまで掴んでいるのか」


セドリック「私紳士ですので」

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