令嬢とお茶会1
誤字脱字の訂正、感想をありがとうございます。3位までランキングが上がっていてびっくりです!
ご質問いただいたのでここでお答えしますが、公爵夫人は息子がアリーと結婚したいこと、そのために地位を固めているは知っています。伯爵夫人はほとんど知りませんが、昔娘と遊んでいた近所のお兄ちゃんが迎えに来てロマンスね~くらいに思っています。
衝撃的だったプロポーズから一夜たった。名残惜しそうな顔の宰相閣下と別れて馬車に乗り込み、やっとタウンハウスに帰ってくると、踊り出しそうな勢いのお父様に出迎えられた。
「すごいじゃないか、サンドラ!あの公爵家と縁をつなぐとは!いったい何があったんだ!!」
なんともう家に連絡が来ていたらしい。閣下とはさっき別れたばかりなのにいつの間に?
「あなた、玄関でそんなに詰め寄ったらかわいそうよ?サンドラ、疲れたでしょう?着替えていらっしゃいな。落ち着いたら詳しく教えてもらいましょう。」
お母様に言われ、暑苦しいお父様を置いて自室に戻った。
…おかしいな…頭がよく働いてくれなくて、聞き返したら肯定に取られた。
「さすがはお嬢様です!公爵様との婚姻なんてすごいです!しかも、社交の場で見初められるなんて吟遊詩人の詩のようですね!」
私と同い年のアンナは、気が利くし気持ちのよい元気な子なのだけれど、侍女としてはいささか元気過ぎるわね。でも、私はそんなアンナにいつも元気をもらっているから、彼女のことが大好きなのだけれど。
とりあえず豪奢なドレスを脱いで、家族と合流し、事情を説明した。と言っても、私もわからないことだらけなので、どうやら殿下の婚約者選考の際に見初められたようだということくらい。
お父様のところに届いた手紙には、婚約したいこと、婚約の際には社交デビューを公爵家主導で行い、持参金やこれから掛かる費用については全て公爵家が負担するので、できる限り早く婚姻を結ぶために、近いうちに公爵家で教育を始めたいことなどが書いてあったそうだ。破格の条件だ。喜ぶ両親を横に見ながら私は内心首を傾げる。弟は実際に首を傾げていた。目が合ったので弟も私と同じ気持ちらしい。
そうして次の日、早速宰相閣下がいらして予定を詰めていった。8ヶ月後に結婚式。いくら何でも招待客や式の詳細を詰めたりするのに短過ぎやしないだろうか。しかし閣下によると準備はもうすでにある程度できているので、後は私の当日のドレスくらいだと言われた。ドレスは選ばせてくれるんだ。と変なところを感心してしまった。
後はお庭を散策したけれども、転げ回りたくなるので割愛。
後日、突然現われたセドリックに「お嬢様は閣下のような方に見初められて、お幸せでございますね。お嬢様のご結婚が無事お決まりになり、使用人一同とても喜んでおります。」と言われた。気配を出してから話し掛けて欲しい。
確かに、一時は結婚を諦めなければならないかもと思っていたし、条件としては我が家にいいことずくめだ。貴族の結婚は政略的なものも多いから婚約披露パーティで初めて顔を合わせるということもよくあるらしい。そう考えると、そんなにおかしなことではないの…かも…?
しかしなぜ私?閣下には人に言えない性的嗜好があるとか?過去の恋人たちが次々行方不明になってるとかだったらどうしよう。何それ怖い…。でもオリヴィア様によると恋人の影は未だかつてないらしいし…
恐れ慄きつつ、あっという間に公爵家での教育が始まった。初めて公爵家に入った時、そこが、子どもの頃よく来ていたお屋敷だと思い出した。お母様とよく来ていた。公爵夫人も知っている人で、「立派な淑女になったわね」と、閣下によく似た笑顔でおっとりと言われた。もしかしたら、ディミトリアス様とも、お屋敷のどこかで会ったことがあるのかしら?
ただ、基本お茶会は夫人と小さな子どもたちが参加するものなので、当時成人である16歳に近かった閣下と私が会っていた可能性は低いと思う。
そうやって始まった公爵夫人教育だったが、覚えることが多く、また結婚式までの期間が短いので目の回るような忙しさだった。日中は公爵夫人教育、夕方が近くなると閣下が帰っていらして、少しサロンでお茶をしてから閣下に送られて馬車で帰る毎日が続いた。馬車の中では人目がないからと膝に乗せられ、さんざんキスを贈られる。因みに閣下の送迎をお断りすると、笑顔でとんでもないことを言われたりされたりするので二度と断りません。
デビュタントパーティーを間近に控えたある日、公爵夫人教育にお休みをいただいて、久しぶりにオリヴィア様と共にエリザベート様のお屋敷にお茶会に呼ばれた。どこで聴いたのか、閣下から新しいドレスや小物を贈っていただいた。閣下からの連絡係は、黒い髪に紫の瞳のとてもきれいな少年であることが多い。基本的に無表情な子だが、お遣いに来たときに色々なお菓子を渡したり、お茶を勧めたりしていたら、少し懐いてくれるようになった。セドリックと同様、この子も全く気配なく現れるらしく、いつも誰の案内もなく部屋のドアをノックされる。この子がドレスや小物の箱に埋もれるようにして運んでくれたのだ。持たせたおやつは奮発しておいた。
父は未来の王妃様からお茶会に招待されたと(気が早い)とても喜んで送り出してくれた。最近国のトップに近い人たちとのつながりが突然できたので、お父様は少々浮かれ気味なようで、また誰かにだまされやしないか心配だ。
「お二人とも、よくいらしてくださいました。」
「お久しぶりです、エリザベート様。」
オリヴィア様と私は、自分の家の侍女を1人ずつ伴って侯爵家のサロンを訪れた。伯爵家とは比べものにならない広大な庭に沢山の花が咲き乱れている。
3人で再会を喜び合い、お茶が給仕されると女子会の始まりだ。手紙でもやりとりしていたが、3人が顔を合わせるのは、王妃様主催のお茶会以来だ。主な話は私とエリザベート様について。オリヴィア様はまるで記者のように話を聞いてくる。特に殿下とエリザベート様の恋に興味津々だ。エリザベート様も、頬を染めつつ、嬉しそうに話をしてくれる。オリヴィア様は「美少女のはにかみ顔、ごちそうさまです!」とテーブルの下でガッツポーズしていた。おもしろい人だわ。
オリヴィア様もエリザベート様も、去年社交デビューをしているので、いろいろな夜会に参加している。そのため、話題も豊富だ。途中から話題は、最先端のおしゃれや社交界での噂に移っていった。
ほどよく会話が途切れたところで、侯爵家の侍女が新しい紅茶を持ってきた。
「エリザベート様、こちらの紅茶はアルヴィ伯爵令嬢様からいただいた茶葉でございます。」
「最近入った侍女の出身地の茶葉ですの。花びらが茶葉に混ざっていて、とてもきれいですし、香りが華やかなのですよ。ぜひお二人にも味わっていただきたくて。」
初めてのお茶会のために、最近のお気に入りの茶葉を持ってきていた。体面上、結婚が決まって以来、伯爵家では使用人が何人か増えていた。私の嫁入りの際には侍女を数人連れて行くので、代わりが必要なのだ。そのうちの1人が、出身地で新しく出回り始めた茶葉だと言って持ってきた紅茶がおいしくて、我が家ではブームになっている。
「本当ですね。この黄色い花びらがポットの中で舞っていてとてもきれい…。」
茶葉に合わせて、ガラスでできた透明なポットも持ってきていた。ガラスで作らせたのは、中が見える方が目に楽しいという閣下の案だ。アルヴィ領のガラス職人に特注で開発させたものだ。
紅茶が注がれ、3人で口をつけた。花の香りがふわりと口の中に…あれ?…いつもとちが…う…
息が突然苦しくなり、慌てた侍女たちが駆け寄ってきたところで、私の意識は途切れた。
セドリック「援護射撃はお任せください。」