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宰相閣下は愛でる

感想、誤字脱字のご指摘ありがとうございます!

感想で、続きを読みたいと言ってくださった方がいたので、喜びすぎてずうずうしくも書いてしまいました!

王太子殿下の婚約者選定は終わった。本当はプロポーズした後、私がアリーを伯爵家のタウンハウスまで、送って行きたかったのだが、さすがに仕事を抜けるわけにもいかなかった。





だが、明日から3日ほどは休みを取ってあるし、しばらくは仕事の量を調整して(部下に押し付けて)あるので、伯爵家へ通って、彼女との交流を深めていこう。





離れていた間は長く、いくら調べていたとしてもそれは情報でしかない。彼女の様子を間近で見ていたわけではないのだ。彼女に私を知ってもらうと同時に、彼女のことをもっと知っていきたい。






プロポーズの後、本格的にどうしていいかわからない顔をしていたアリーをしばらく抱きしめつつ、その柔らかな感触を堪能した。





無粋なフィルが呼びに来るまでは。

休暇中の仕事は優先的にこいつに振ろう。





心の底から名残惜しかったが、詳しいことは伯爵家で次の日に説明することにして、彼女を馬車までエスコートした。




アリーとしても、ほぼ初対面に近いと思っている人間からプロポーズされ、混乱しているだろう。少し家で落ち着いた方がいいだろうと理性ではわかる。




それでもどうしても離れがたく、別れ際にもう一度、額にキスをしてから別れた。

また真っ赤になっていた。かわいい。














「で、邪魔しにくるだけの理由があるんだろうな、フィル。」





執務室のソファにどかりと腰を掛け、フィルと向かい合う。




「こんな急ぎの用なんてないね。プロポーズされたと思ったら処女喪失なんていくらなんでもかわいそうだろ?」




睨んでやったのにさらりと流された。

そんなところまでやるつもりはなかったと言ったら鼻で笑われた。






「俺が入らなかったら、アレクサンドラ嬢を離せなかっただろうが。文官が半泣きで俺のところに泣きつきに来たんだよ。明日から休暇取るんだから我慢しろ。」






まぁ確かにフィルが来なければ、アリーを離すタイミングはなかったかもしれない。だがしかし、礼など言わない。お邪魔虫め。







「まぁ、緊急ではないんだがな。これからの大まかな方針だけ、もう一度休暇前に確認しておこう。お前もしばらくアレクサンドラ嬢のほうに力を入れたいだろ?」




「そうだな。エリザベート嬢に関しては、実家も本人についても問題ない。1週間後に国内に向けて公示し、半年後に婚約式だ。2年後に結婚式で調整している。」






王族の結婚式だから、国内外に向けて周知する期間と王太子妃教育のため、2年は妥当だろう。







「わかった。告知の根回しは俺がやっておく。あと、婚約式までの半年はまだ、妨害があるだろうから、王太子とエリザベート嬢に関しては警戒しておいた方がいいだろう。」






適当そうに見えて、フィルは仕事ができる。軽口は叩くがやるときはやる男なので、そこは信用している。





確かに、婚約式までは他の王太子妃狙いだった勢力からの妨害は多いだろう。仮婚約の間にエリザベート嬢を害してでも別の令嬢にすげ替えたいと思う筈だ。更に言うなら、婚約式から結婚式までも気は抜けない。





スヴェルドロフスク侯爵家は先々代に、大陸のほとんどを支配下に置くダレスペート帝国から皇女が降嫁している。その血を引くエリザベート嬢が王族に加わることで、帝国の干渉への危機感を抱く者も出て来るかもしれない。




実際には皇女といっても、庶民出身の第11側妃から生まれた第23子なので、あまり有力ではなかったようだ。侯爵家に対してその後干渉している様子もない。




スヴェルドロフスク侯爵家の現当主は、要職にこそ就いていないが、多くの貴族に対する発言力もあり、人望もある。何度か話したが、聡明であり、侯爵家の立場も正しく理解しているようで、外戚となっても立場を弁えた付き合いができるだろう。





「後日、スヴェルドロフスク侯爵家の当主を呼んで、警告と、近衛兵の警備計画のすり合わせをした方がいいだろう。一応出来る限り角が立たないように選抜したつもりだが、落とされたことを逆恨みする家もあるだろうからな。」





「そうだな。それで、お前はこれからどういう予定で動くんだ?それによって、どう仕事を分けるかも調整しなければならないだろう。」



「まずはひと月後に公示、2ヶ月後のデビュタントパーティーに公爵家の婚約者として参加する予定だ。その半年後に結婚式。」



デビュタントパーティーは年に一度だが、今年のデビュタントパーティーに間に合ってよかった。さすがに公爵家に入るからにはデビューさせないわけにはいかないので、もしもこの次の来年のパーティーとなると、結婚がかなり遅れてしまう。




「え、半年後?!今から8ヶ月後に結婚式ってこと!?はや!!」



「問題ないな。社交デビューも準備済みだし、結婚式に関してはおおよそ固まっている。後は本人の衣装くらいだ。」





ドレスのサイズも、優秀な侍女たちが把握しているので、アリーの希望を交えつつ案を詰めるだけだ。





「はぁ…アレクサンドラ嬢の置いてきぼり感がすごいな…おまえ、10年近くずっと調べてたこと、死んでも悟らせるなよ。確実に怖がられるぞ。」




「余計なことだな。これは私の愛だ。」




「愛とかいうなよ。鳥肌立つだろう。その愛は一般的にはドン引きなんだよ。嫌われたくなかったら、俺の忠告を聞いておけ。これは真剣な忠告だぞ。」





不愉快だが、まぁ今のところ教える必要もないだろうし、既婚者のアドバイスは受け取っておこう。














次の日、私はアルヴィ伯爵家のタウンハウスに来ていた。





現当主はそれはそれは嬉しそうな顔で、夫人と共に玄関ホールに現れた。最高の条件で、国内最高の公爵家と縁ができるのだ。満面の笑みだ。夫人は私の顔を覚えていたのだろう。柔らかく微笑んで挨拶された。もしかしたら母上から何か聞いているのかもしれない。





応接室に案内されると、しばらくしてアリーとクリストファーがやって来た。

アリーは昨日のことを思い出したのか、わずかに頰を染め、それでもきちんとした淑女の礼をした。





「こんにちは、アレクサンドラ嬢。どうかこれを受け取ってください。」



持ってきたカサブランカの花束をアリーに渡した。これは侍女から報告された、彼女の好きな花だ。





「ありがとうございます。」




嬉しそうに受け取ってもらえた。アリーはその花を、使用人に渡し、自室に飾るように指示した。気に入ってもらえたようだ。




紅茶が給仕され、落ち着いたところで、彼女へプロポーズし、受け入れてもらえたことを伝え、もう一度、当主に向けて、婚姻を受け入れてもらうように頼んだ。昨日使者に持たせたものと同じ内容だ。

庶民で言う、「お義父さん、娘さんを僕にください」というやつだ。


まぁ身分差があるので、実際には拒否権はないのだけれど。


しかも持参金なし、社交デビューの費用も公爵家、結婚式も同様だ。因みに、婚約式をやるのは王族だけなので、婚約は発表のパーティーを開くだけだ。

伯爵家にとって、破格の条件といっていい。






伯爵本人は単純に公爵家と縁続きになれるのが、嬉しいと思っているだけのようだが、優秀だという弟は訝しげな表情を崩さない。それはそうだろう。有力貴族ではないのに突然高位貴族から婚姻を打診されたから、何か裏があると思っているのかもしれない。





考え方としては妥当だが、顔に出す時点でまだまだ青い。




今後の予定を説明すると、アリーは明らかに戸惑った表情になる。眉を寄せた表情は最高に色っぽい。




「8ヶ月後に結婚式…ですか?」





さすがに早いと思ったのだろう。ここにきて初めて伯爵の表情が曇った。



「2年後の王太子殿下の結婚式と時期をずらす必要があります。若輩者ですが、宰相を拝命しておりますので。」




畳み掛ける。




「もちろん私が少しでも早く、アレクサンドラ嬢を迎えたい思いもあります。」




これは激しく事実。




「来週から、アレクサンドラ嬢には日中公爵家へ通ってもらい、母から公爵夫人としての勉強をしてもらいたいと思っています。王太子妃の選考でもマナーや振る舞いについては完璧ですので、教育にかかる時間は最低限で済みます。」




決定事項でどんどん流していく。あらかた説明したところで、義弟のクリストファーが口を挟んだ。





「あの、この婚姻に公爵家にはどのようなメリットがあるんですか?」




無邪気を装って聞いてくる。彼が天才と言われていることを知らなければ、騙されたかもしれない顔だ。

まぁ、今までの流れだと、なにか公爵家にもメリットがないと怪しいだろう。




「私が、アレクサンドラ嬢に恋をしたから結婚を申し込んのです。彼女を妻に迎えることができるのが、公爵家のメリットですよ。」



笑顔で本当のことを答えた。アリーには、駆け引きでプロポーズしたと思われると困る。



「そうですか。失礼なことをお聞きしてすみません。」




こちらも笑顔でさらりと返された。これ以上突っ込むのはやめたようだ。何か同じ匂いを感じる気がする。




「もちろん公爵家としては、妻の実家に対する援助も惜しみません。」





そこで、義弟の留学に関する案も伝える。さすがに驚いたようで、義弟もアリーによく似た青い目を大きく開いていた。




「これはアレクサンドラ嬢の夫としてだけでなく、宰相としても期待しているのです。もちろん、クリストファー殿にその意欲があれば、ですが。」



ほんの少し、嫌味を込めたようにいうと、的確に意図を汲み取ったようで、バカにするなとばかりに、もちろん機会があるなら行くと言った。まだまだだな。









そして、気を回した伯爵夫人の一言で、私はアリーに屋敷内を案内してもらうことになった。





昨日の今日で、少し緊張したようなアリーの後について廊下に出る。




「あの、屋敷の中をと言っても、きっと公爵様のお屋敷に比べると貧相だと思います…。」




そんなことはない。アリーといるだけでどこでも天国なのだから。





「ご存知でしょうが、我が家はあまり裕福ではありませんので…でも、中庭だけは、花を絶やさないようにしております。」




廊下を抜けると、こぢんまりとした中庭に出た。確かに、バラや百合をはじめとした様々な花が咲き乱れている。バラのアーチの先にある、ベンチの方へと案内された。薄いピンクのシフォンのドレスを着てバラを背景に佇む姿は、まるで妖精のような美しさだ。





あまりに美しくて、彼女の頰につい手が伸びてしまった。





「とても…美しい…」




「閣下…?」





困った顔でアリーがこちらを見上げる。閣下だなんて。




「昨日も言った通り、ディミトリアスと呼んで。もうすぐ、夫婦になるのだから。」



頰に置いた手をそのままに、彼女の細い腰を抱き寄せた。恥ずかしかったのか、顔を逸らされてしまった。そんな仕草も堪らなく可愛い。




「あの……ディミトリアス様、困ります…慣れておりませんので…」




もちろん、慣れてなどいたら相手は殺す。




「ディミトリアス、だよ。慣れてもらいたいな。少しずつでいいから。」



安心させるように微笑む。下心は綺麗に隠して。




「ディミトリアス、様は…変わったお方ですね。私のような娘に結婚を申し込んでくださるなんて。」





「恋に落ちるなど一瞬あれば十分ですよ。私はアリーに恋をした。だから結婚を申し込んだ。魅力的な貴方を、他の誰にも取られないようにね。」





そのまま、昨日と同じように額にキスをした。





頰を染めたアリーに気を良くして、もう一度今度は頰にキスをした。



「ベンチに座らないかい?」




アリーを誘って、ベンチに腰掛ける。勿論アリーの定位置は私の膝の上。恥ずかしがる彼女をなだめすかして、昨日と同じように横抱きにする。

私の胸を押しやって離れようとするので、片手の指を絡ませた。もう片方の手は私の首に回すようにする。むせかえるようなバラの香りに混じって、アリーの肌からいい香りがする。

これはいい。恋人らしい感じだ。


にこりと笑顔を向けると、微妙な顔をされた気がする。


彼女の腰に置いていた手を首の後ろに移動し、頭を引き寄せて今度は唇にキスをした。


アリーの唇は甘い気がする。

昨日よりも長く口付け、最後は啄ばむようにして唇を離した。





「ディミトリアス様は、キスがお好きなんですか…?」



眉をハの字にして聞いてきた。




「アリーとのキスが好きだよ。可愛い唇に何回でもしたくなる。貴女はキスが嫌かい?」




アリーの顔が真っ赤に染まった。赤いバラより尚赤くなった。


そんな顔をされると理性が揺さぶられる。さすがにこの先まで一気に進むのはかわいそうなので、にっこり笑顔を貼り付け、大人の余裕で我慢する。嫌だと言われたら立ち直れないかも、とちらりと考えたけれど、今まで拒絶されていないので、大丈夫だろう。





「き、嫌い…では…ないと…思います…たぶん…」



どんどん声が小さくなる。嫌いの「き」が聞こえた瞬間、押し倒してしまおうかと思ったが、続きを聞いて安心した。まだ紳士でいられそうだ。




「そうか。もっとしても…?」




囁くように聴くと、真っ赤になったまま、わずかに頷いた。たぶん。





そのまま、私は侍女が呼びにくるまでしばらくの間、彼女の顔中にバードキスを贈った。少しでもアリーに私の愛が届くように。

セドリック「とぐろを巻くキス魔」

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