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宰相閣下は爪を研ぐ

ランキング入りさせてていただきありがとうございます!まさかの16位で驚きですが、これを励みに頑張ります!

ディミトリアス・ローラン・ロブウェルは25歳になった。



2年ほど前からは、恐れ多くもこの国の宰相を任されている。若過ぎるのではないかとの陛下への奏上もあったようだが、王太子率いる次世代への交代を一気に行うことはできないため、王太子の即位までに順次要職を替えていくということで、しばらく前宰相の元で執務を学んだ後、無事宰相に就任した。




また、それと同時にロブウェル公爵を継承したため、この2年は殺人的な忙しさだった。





これも一人の伯爵令嬢を娶るために必要なものなのだ。




「そろそろ王太子の婚約者を決めなければならんな。」


濃い茶色の髪の壮年の国王陛下は重々しく言った。


「次代の王族は、王太子と王女レイチェルのみだ。急いで他国と婚姻を結ぶ必要もなかったため、自由にさせていたが、そろそろ決めるべきタイミングだな。」



「恐れながら陛下、王太子殿下が自らお決めになるとすれば、かなりの妨害や、混乱が予想されます。国内から王太子妃を出すことは全ての貴族が知っておりますので。」




「ではどのように決めれば良いのだ?」







このセリフを待っていた。



「では、国内の上位貴族を集めての花嫁選考はいかがでしょうか。全ての令嬢にチャンスを与えたことにすれば良いのです。王宮に令嬢たちを集めれば、親にも手が出せないでしょうし、殿下のお気に召すご令嬢がいるやもしれません。」




「ほう。では王太子の婚約者選考についてはお前に任せよう。」




「御意にございます。」




宰相になって2年。そろそろ地位も固まってきたし、動き出していい頃だろう。

陛下の執務室から出て、自分の執務室に戻ると、ストロベリーブロンドの男が待っていた。



「何を考えてるんだ?宰相殿?」



気安く声を掛けてくるのは、彼が学生時代の友人であり、上級文官として共に陛下に仕える仲だからだ。



「王太子妃の選定を任された。話を詰めるぞ、フィル。」



端的に答えた。



「長く婚約者を決めて来なかったが、そろそろそうも言っていられなくなったのか。まぁ、婚約者決めはいつの時代も一大イベントだからな。親からの妨害や女性同士の嫉妬なんかで、殿下に近づくのも一苦労だしなぁ。」



フィルは明日の天気でも尋ねるように軽く言うが、過去にも血で血を洗うような争いを経て王族の婚姻を決めた例もある。現世代では王太子と次代の王を争うような勢力はいないが、だからこそ、外戚となれば政治の中枢に入り込むことができると虎視眈々と狙う狸たちは沢山いるのだ。



「殿下ももう17で、あまり時間がないから、2年後に結婚式をすることを目処に婚約者の選定を考える。


国内の上位貴族令嬢には公平にチャンスを与えようと思っている。ある程度絞った中から、殿下や両陛下に最終的に選んでいただこう。」



「面白そうだなぁ。」



そこでひとしきり相談し、ある程度骨子ができたところで侍女を呼び、紅茶を用意させた。





「ところでさぁ、お前はどうなのよ。ロブウェル公爵。愛しのご令嬢とはさ。」



「愛しのとかいうな、気持ち悪い。」



「だって気になるだろー。俺らもう25だよ?俺なんて2児の父だぞ?王族に次ぐ最高位の貴族の跡取りがいつまでも独身じゃあなぁ。」



たしかに2代前には王女が降嫁してきたこともあり、また国内で5家しかない公爵家の内の1つともなれば、それはもうハイエナのような女たちに辟易したことも多い。


あの手この手、果ては身体を使った実力行使など、呆れるほどくだらない策を弄してくるのだ。





「考えている。この選考を使って周囲を黙らせるさ。そのために10年近く足場を固めてきたのだから。」




「お前さぁ、めちゃくちゃ悪い顔してるぞ。社交界でなんて言われてるか知ってるか?氷の魔王だとさ。しかも女を袖にし過ぎて男色疑惑まであるんだぞ。中身は初恋拗らせただけの男なのになぁ。」



にやりとしながらこんなことを言ってくるのも、長い付き合いだからこそだ。宰相である自分相手にこんなことを言うのはこの男くらいだろう。



「アルヴィ伯爵家のアレクサンドラちゃんだっけ?年齢的にもこの選考に出るんじゃないか?いいのか?自分の好きな女を王太子妃の選考に出して。」



「この選考に残れば、それだけで令嬢として箔がつくだろう。」



「でも、最後まで残れるほどなのか?有力じゃない伯爵家だろ?」



「問題ない。」




伯爵が投資に失敗して、一家が社交から遠のいた後も、私は伯爵家の様子を調べていた。

伯爵家の使用人の中には、私の手の者を何人か潜り込ませてあり、定期的な報告を受けている。中でも執事補佐と侍女のライラは一家の信頼も厚い。

学園に入らない代わりに家庭教師を雇う際には、手紙のやり取りだけはしている母上から、いい家庭教師を紹介してもらい、将来の公爵夫人としての教養を身に付けさせた。家庭教師たちからの報告も、とても素直に頑張っていて、成長著しく立派な淑女になっていると報告された。さすがは私のアリーだ。

凡庸な現当主ではあるが、次期当主であるクリストファーが優秀であるのは嬉しい誤算だった。

幼い頃から勉学に秀でているとの報告を受けていたので、領地を発展させるためにと作物の品種改良や、国全体の問題でもある治水事業に興味を持つように誘導した。品種改良はまだ数年だが、いくつか実用的なものを作っているし、治水事業に関しては、アリーと婚約したら、未来への投資ということで、公爵家の援助で治水事業の先進国へ留学させる手筈を整えている。留学から戻ったら治水事業の第一人者として、国の要職に入れる可能性も考えている。そうすれば、有望な次期伯爵として評価されるだろう。伯爵家が一躍有力貴族になることも夢ではない。




「こっわ!お前やばいでしょ!伯爵一家は何も知らないのにお前の思う方へ誘導され過ぎ!!」





「別に誘導しているわけではない。アリーが安心して私の妻になるために必要なだけだ。結果領民も伯爵家も潤うのだから良い事尽くめだろうが。」



「婚約すらしていないんだろ?」





愛だけで結婚できるのはもちろん理想だ。しかし、最上位貴族であるからには、愛だけでは押し切れないのもわかっている。そのために入念に準備し、伯爵家の価値を上げることで周囲にはアリーと結婚する価値があると思わせなければならないのだ。もちろんそんなものは抜きにして心から彼女を欲しいと思っているが。



「なんか拗らせまくってる気がする…」



何かブツブツ言っているが、幸せなアリーとの未来に想いを馳せていて、よく聞こえなかった。




そして王族や国の重鎮たちに根回しをして、王太子の婚約者選定パーティーが行われることになった。

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