そして2人は
アレクサンドラが公爵邸に来た次の日
朝からよく晴れた気持ちのいい日だ。
ディミトリアスはアレクサンドラをお茶に誘った。
「君に、話しておきたいことがある。見せたい場所があるんだ。」
ディミトリアスに連れられて、公爵邸の中庭にある東屋に来た。
「ここは…」
アレクサンドラが呟く。
「覚えているかな。君がほんの小さい頃、短い期間だったけれど、ここによく来ていたんだよ。」
そう言うと、ディミトリアスは、アレクサンドラの手を引いて、東屋に入った。
そこには、かつてのように、美味しいお茶とお菓子が用意されていた。
「…えぇ。覚えています。」
アレクサンドラは懐かしさに目を細めた。
ディミトリアスは、そのままアレクサンドラを自分の膝の上に乗せて座った。
「実は、私がアリーと会ったのは、殿下の婚約者選定の時が初めてではないんだ。」
「…そうでしたね…。わたくしも、公爵夫人の教育のために来た時に見たことがあるお屋敷だと思っていました。かなり曖昧ではありましたけど、場所やお義母様のお顔に覚えがありましたから。」
ディミトリアスは意外そうに目を開いた。ほんの小さな頃だったので、覚えていないだろうと思っていたからだ。
「覚えていたのか…。」
アレクサンドラは懐かしそうに辺りを見渡している。
「はい。とはいえ、公爵家に来てからですけどね。昔、よくここに来ていました。ここに来ると、いつも男の子が迎えてくれて、彼の膝の上でお菓子やお茶をいただいていました…。」
ふと、アレクサンドラの目線は目の前のディミトリアスで止まった。
「ミツォと、わたくしは呼んでいました。ディミトリアス様ですよね…?」
ディミトリアスは優しく微笑んだ。
「覚えていてくれたのか。殿下の婚約者選定の時に会った貴女は、とても美しく、素晴らしい淑女になった。そんな貴女を見て、またここで一緒にお茶をしたいと…死ぬまでずっとここで君とお茶をする人生でありたいと思ったんだ。」
ディミトリアスはアレクサンドラの額にキスを落とした。
途端にアレクサンドラの頰が赤く染まる。
「今回の事件は全く予測できないことではなかったのに、アリーを危険にさらして本当にすまなかった。アリーを私の婚約者にしなければ、起こらなかったことだ。それでも、私は貴女と夫婦になりたいと思っている。諦めることができないんだ。」
今度は赤くなったアレクサンドラの頰にキスを落とす。
「もうこんなことは二度と起こさせない。必ず私がアリーを守りきる。」
今度は唇に啄ばむようなキスをする。
「わたくしが疑われていた時も…ずっとディミトリアス様はわたくしを信じてくださってて…嬉しかったというか、ホッとしたというか…あの…わたくしも…よき公爵夫人になれるように…頑張ります…」
最後の方は消えそうなくらい小さな声だった。
それでも、その声はすぐ近くにいたディミトリアスの耳には間違いなく届き、満面の笑みを浮かべたディミトリアスは、再びアレクサンドラの唇にキスを落とした。今度は、恋人同士の深いキスを。
そのキスは長く続き、満足に呼吸もできなくなったアレクサンドラがディミトリアスの胸を叩き、抗議するまで続いた。
それでも懲りない彼は何度も深いキスを繰り返し、幸せを堪能した。
そうやって少しずつ恋人のふれあいを増やしつつ、ちょっとしたアクシデントに見舞われつつ、ディミトリアスの忍耐と理性がぎりぎり髪の毛一筋ほどまで細くなった頃、待ちに待った結婚式が行われた。
巨大なステンドグラスに煌めく大聖堂で寄り添いながら、微笑む新郎と新婦はそれはそれは幸せそうだったと社交界で大きな話題になったという。
2人が結婚して10年も経たないうちに、アルヴィ伯爵家は優秀な嫡男の手腕によって、多くの農作物の輸出による利益を得て、国内有数の豊かな領地となった。また、留学で学んだ治水事業の技術や人脈により、領内だけでなく、国を挙げての多くの水害に苦しむ地域の改善に貢献し、その道のエキスパートとして、国王にも重宝されるようになる。嫡男自身は、留学中に見初めた伴侶を連れて帰国したというが、それはまた別のお話。
そして、宰相夫妻は4人の子宝に恵まれ、幸せな生涯を送った。宰相閣下は、奥方と子どもたちにのみ、その怜悧な美貌を綻ばせ、奥方のみを溺愛していたという。
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10年前に会ったことは言ったけど、10年間何をしてたかは知らせない
以上でこのお話は最後になります。
読んでいただいた方、誤字脱字を訂正してくださった方、感想をくださった方、本当にありがとうございました。
初めての投稿でしたが、皆様のおかげで無事に完結させることができました。
また機会があればどこかでお会いできればと思います。




