第一話
まだ、薄暗い夜明けごろ肌寒さを感じる風が心地よく、青紅葉のなかに少しずつ色好き始めた木々は秋の始まりを感じさせる
なんて詩人じみたこと考えて見るが、いつもと変わり映えしない山の朝だ
「おはようコタ、良い朝だなぁ」
コタは返事をするように元気よく、ワォンと吠えた。俺はコタをなでると伸びをして大きく深呼吸をする、空気がうまい
「じいちゃんは、もう畑か?」
のんびりと畑に向かって歩き、その道中にある石畳の階段を上がると小さな祠に朝の挨拶をする
(真神様おはようございます、今日も一日お願いします)パンパンと手を叩いて立ち上がり礼をする
さぁ、次は畑仕事だ
ウワォーン
小屋に入り農具を取っていると、コタの雄叫びが響き渡る
嫌な予感がする
コタがこの雄たけびを上げるのは、いつも緊急事態だ、慌てて小屋を飛び出すとコタが飛びついてきた
「うわっど、どうしたコタ」
コタはグイグイと俺を押すと駆け出す、どこかに案内したいらしい
走って追いかけるとコタの吠えていた理由に気づいた、その先には
「っ、じいちゃん!」
祖父が、横たわっていたのだ
「コタ、兄貴呼んできてくれ!」思わず叫びじいちゃんに駆け寄る
「じいちゃん、じいちゃんっ」
(こうゆうときどうしたらいいんだ?救急車?何番だっけ、ここ山の中だけど来てくれるのか?)
初めての出来事にパニックになり頭が上手く回らない、泣きそうだ
ひたすらに声を掛け続けると「ううンン」じいちゃんが唸り声を出した
「じいちゃん!」ひときわ大きな声がでた
「そんな大きな声ださんでもきこえとるわい」横たわったまま力なく応えてくれた
意識が戻ったのに、安心して何とも言い返せない
ワォン、コタの声が聞こえると兄貴が慌てたように走ってきた
「おいっ、孝幸どうしたっ」
「ぎっくり腰だって」
病院のロビーで座っていると、兄貴が声をかけながら差し出してきたペットボトルを受け取り一口飲む、俺は安心からかため息をついた
あの後兄貴が来てじいちゃんを一緒に車まで運び病院へやってきたのだ
「兄貴が居る日で、助かった」
俺一人だったら危なかった、ぎっくり腰の痛みで気絶していたが、もし頭を打っていたりもっと重大な症状だったらと思うと血の気が引く
「今では、看護師をナンパできるぐらいには回復しているけど、しばらく入院させるよ
あの山奥じゃ心配だ」
確かに病院まで車で片道80分かかる山では何かあった時、対処出来ない
「いつまで?入院している間俺ひとりか」
兄貴は月に数回、物資を届けに来るが普段は仕事のため山を下りている
「とりあえず、じいちゃんの荷物取りに行こう、後の話は車の中で」
よく考えたら、最後に山を下りたのはいつだろうか
車窓に映り流れる景色は、空を覆い隠すようなビルに、どこか急いだように歩いて行く人でいっぱいで無機質に見えた
家族以外の人間を見るのも久しぶりで、ひたすらに窓の外をながめる
車の中は、静かだ兄貴は運転中ラジオも音楽もかけないらしい
さっきから何かをジッと考えこんでいる
信号は赤だ
「じいちゃんには、山を下りてもらおうと思う」
唐突に兄貴が切り出した、一瞬固まって言葉の意味を飲み込む
「なんで?、ぎっくり腰だろ?治ったらまた山で暮らせるだろ?」
何か、もっと重大な病気でも見つかったのだろうか
「大丈夫、じいちゃんは何ともないよ」
不安そうな顔をしていたのか、兄貴は安心させるように優しく言った
「なら、なんで?」
確かに不便な山だが、もう何年もあそこに住んでいる今更山を下りる理由がない
「元々、俺が泊まってたのはお前にこの話をしようと思ってたからなんだ」
信号が青に変わる
「孝幸、学校に通ってみないか?」
兄貴は、アクセルを踏んだ
俺が、学校?本気で言ってるのだろうか、だって俺はいや俺たちは...。
今日は朝から頭が混乱して、上手く回らない
「孝幸、それはあんまり関係ない」
俺だって学校に行ってたんだと兄貴は笑った。
そもそも兄貴が、学校に通っていたなんて初めて聞いた、俺が目を丸くしていると兄貴は更に言葉を続ける
「宮浜学園って言って、ここら辺では一番でかい学校だよ。寮もあるし、それに...。」
俺は、兄貴の横顔を見つめ続ける
「俺たちみたいな人外を、受け入れてる数少ない学校だよ」
!!!?
そんな学校が存在するのか!?
だって俺たちは、
人狼だぞ!?