全力でポッキーゲームをしようとしてくる後輩と、全力でポッキーゲームを断る俺
11月11日ということで、書いてみました!
ポッキーでも食べながら読んでみて下さい!
本日、11月11日。例えやすいのか何なのか、この日は異常に記念日の数が多い。
中でも代表的なものと言えば、ポッキーの日とかはみんな親しみがあるのではないだろうか。そしてポッキーと言えば、やはりポッキーゲームなんかは有名ではないだろうか。
そうだよ、ポッキーの両端をそれぞれで咥えてそのまま齧っていき、どちらが先に離すのかを競うチキンレース的あれだよ。最近では主客転倒して、最後まで食べてキスすることが目的みたいになっている節もある。
詳しくは知らんが、合コンとか飲み会とかでのレクリエーションとか、カップル同士のイチャイチャ助長とか。まあ、やるとしたらそんなシチュエーションだろう。
ふん、下らないね! ポッキーはそのまま食った方が良いに決まってるだろう。何をわざわざ面倒臭い食べ方をするのかね。食うなら食う、キスしたいならキスする、それで良いじゃん。何でポッキーを経由するのさ。意味不明である。
ツイ○ターでアホな奴らをみた俺は、心中で毒づいて、さっさと帰ろうと鞄を持つ。
そして教室を出ようとした矢先、明るい声で俺に話し掛けてくる生徒が一人。
「先輩、待ってましたよ〜。ささ、帰りましょー!」
「……何で俺となんだよ、他の友達と帰れば良いだろ」
「ふっふっふ。何だかんだと聞かれたら、答えて上げるが世の情け!」
ドヤ顔でどこかで聞いたセリフを言いながら説明をする後輩に、仕方なく付き合うことにする。
「今日って、何の日か知ってますか?」
「さぁな、何の日なんだ」
「ズバリ! ポッキーの日です!」
そう言って、後輩は鞄からポッキーを一箱取り出した。
「ここまで言えば、もうわかりましたね?」
「いや、全然わからないけど」
俺の回答に呆れた顔で溜め息を吐く後輩。凄くムカついた。
そんな俺を他所に、後輩は言ったのだった。
「先輩、私とポッキーゲームをしましょう!」
ざわ……ざわ……!?
後輩の言葉に、俺を含めまだ教室に残っていたクラスメイト達に動揺が走る。
が、そんなことはお構いなしだと、後輩はポッキーの袋を切って、ポッキーを一本その口に咥えた。
「はぁ、へんふぁい! ふぉーふぉ!」
「………………」
流石の俺も、これには絶句せざるを得ない。
駄目だコイツ……早く何とかしないと……!
俺はスーパーコンピューター並の速度で脳内演算を行い、今すべきことを導き出した。
「とりあえず、撤退だぁ!」
後輩の手を取り、俺は下駄箱まで疾走する。
即座に靴を履き替え、俺たちは学校から脱出することに成功した。
「良し、任務遂行……」
「もう、急にどうしたんですか先輩?」
ポリポリと咥えていたポッキーを齧りながら、後輩は不服そうに俺をみる。しかしすぐにニヤリと笑い、
「わかった、さては人前でやるのが恥ずかしかったんですね!」
と、見当違いな一人合点をする。
まったく、どうしたもんかね、コイツ。俺は心配だよ。
「じゃあ、二人っきりになったことですし……」
そう言って、またポッキーを口に咥えようとする後輩だったが、俺はそれを制した。
「待て待て、何でそんなに俺とやりたがる。そもそも、ポッキーゲームなんてそんな簡単にするもんじゃねぇぞ。せめて好きな奴とするとか――」
「私、先輩のこと好きですもん」
俺の言葉を遮り、後輩は言った。
見ると、後輩は珍しく真剣な表情をして俺を見つめていた。
俺はつい立ち止まり、後輩に向き直る。
「お前、今……」
「先輩が好きだと言いました」
俺が聞くより早く、後輩は答えた。
驚き、焦り、俺の中でいろんな感情が湧き上がった。
握りしめた拳に、手汗が滲む。
「流石に気づいてると思ってたんですけど、やっぱり先輩は鈍感ですねぇ」
気のせいか、若干悲しそうな顔をした後輩だが、すぐに元の表情へと戻った。
「改めて言います。私は、先輩のことが好きです。先輩とずっと一緒にいたいです。先輩の隣にいたいです」
一拍置いて、後輩の瞳が俺を射る。
「先輩、私と付き合ってくれますか?」
「……っ」
いつもとは別人のような後輩にたじろぎながら、俺は考えていた。
後輩が俺のことを好きだった。考えもしなかった。
ただ、俺に良く懐いているだけの、友人だと思って後輩に接してきた。
どうすれば良いのか、わからなかった。
後輩の気持ちに応えてやりたいとは思うが、本当にそれでも良いのかともう一人の俺が問いかける。
後輩を恋愛対象としてみたことはない。そんな俺が、今この場で容易に決断を下してしまって良いのだろうか。
暫く経っても返事がない俺に、後輩はまた少し悲しそうな顔をして歩き出した。
「返事は今すぐじゃなくても良いです。でも、いつかちゃんと伝えて下さい。それまで、待ってますから」
「……あぁ……わかった」
俺は去って行く後輩の背中が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。
ポッキーの日から一週間、後輩は俺との接触を避け続けていた。
俺は最初こそ戸惑ったが、いても気まずいだけだろうと思い、俺もなるべく後輩のことを気にしないようにした。
だが、何だこれは。寂しいような切ないような、何だか最近おかしい。
後輩のことばかりを考えている気がする。
以前の俺ならば、ようやく一人の時間が増えたぜとか考えそうなものだが、今は真逆。後輩に会いたいと、思っている。
この俺が……まさか……。こんなことを思うようになるとは。
「お前さぁ、恋愛マンガとかって読んだことあるか?」
「まあ、少しくらいなら……」
俺はどうしたら良いかわからず、長年の付き合いである友人に相談してみた。
友人は呆れた表情をしながら言った。
「かぁー! まったく、何だよこりゃ! リアルラブコメかよ!」
「おい、意味わかんねぇこと言ってないで少しは助言とかないのか? 結構真剣に悩んでるんだぞ」
俺がムッとして言うと、友人はついに大笑いを始めた。
「もう良い、お前に頼った俺が馬鹿だった」
友人の態度に腹が立った俺は席を離れようとするが、友人が「まあ待てよ」と俺を引き留めた。
「悪かったって、ちゃんと相談に乗ってやるから、とりあえず座れって」
「…………」
俺は不承不承ながらも席に着く。
すると、友人は語りだした。
「結論から言うとな、もう答えは出てるも同然だ」
「は? どういうことだよ?」
「つまり、お前も後輩ちゃんが好きだってことさ」
友人の言葉が理解出来なかった。
「お前、何言ってんだ?」
「何言ってんだはこっちのセリフだっての。良いか? お前は元々、後輩ちゃんと一緒に過ごすのは楽しかった訳だろ?」
「まあ、そうだな」
何だかんだ言っても、あいつといるのは悪い気分ではなかった。むしろ、もっと一緒にいたいと思えるような……って、俺は何を。
「それだよ!」
急に上がった友人の声量にびっくりする。
「何だよ……大声出すなよ」
「良いか、良く聞けよ」
友人はコホンと咳払いをし、言葉を紡いだ。
「つまりだ、お前は元々、自覚がなかったたけで、後輩ちゃんが好きだったんだよ。だが恋愛感情というものを知らないお前は、それを友情だの何だの都合の良いように捉えていたんだ。そんである日、後輩ちゃんから告白を受けたお前は、一種のパニック状態になっちまったんだろうよ、感情の整理が出来なかった。そして今、お前は後輩ちゃんがいなくて寂しかったり切なかったりしてるんだろ? 後輩ちゃんに会いたいんだろ? お前、これを恋と言わずに何と言うつもりだよ。お前は、後輩ちゃんが好きなんだよ」
「――そう、か……」
青天の霹靂だった。
俺はあいつが好きだったのか……。
そう思えば、不思議と納得出来てしまう。何で今まで気づかなかった……?
「まったく、こんな惚気話に付き合わせやがって! あー、甘い甘い! ごちそうさまですっと」
友人が小言を言っている。
こいつには感謝しないとな。
「ありがとな、俺、ちょっと行ってくるわ」
「おう、行ってこい。戦果報告を待ってるぜ!」
俺は後輩に用件を伝える為、二階にある後輩の教室へと赴いた。
そして、放課後。
学校が終わり、俺は待ち合わせ場所へと向かう。
俺らの間で待ち合わせ場所と言えば、帰り道の途中にある古い公園と決まっていた。
俺が着いた頃には、後輩は既にブランコに腰掛けていた。
「悪い、待たせたな」
俺が声を掛けると、後輩は微笑を湛えて言う。
「それで、先輩。どうしたんですか? 改まって話があるだなんて」
すっとぼけやがって……まあ、悪いのは俺の方だから、今回は咎めないでおこう。
「お前に、俺の気持ちを伝えにきた」
ブランコの側まで行って。
俺は胸の内の思いを言葉にした。
「俺は……お前のことが好きだ。お前とずっと一緒にいたい。お前の隣にいたい」
後輩が息を呑む音が聞こえた。若干潤んだ後輩の瞳をしっかりと見据えて言った。
「俺と、付き合ってくれ」
「……っ……!」
口を抑え、俯いた後輩だが、すぐに笑顔で立ち上がった。
「本当に、私で良いんですね?」
「あぁ」
「私のことを愛してるんですね……?」
「あぁ」
「私のことを幸せにしてくれるんですね……?」
「――あぁ」
後輩は輝くような笑顔を咲かせ、俺に寄り添う。
「先輩、大好きです」
「俺も、お前が好きだ」
後輩がつま先立ちをして、それが健気で微笑ましくて……。
俺は精一杯の愛情を、唇に込めたのだった。