表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/117

90お前さえいなければ※

★今回はジギタリス視点のお話です。

久々の登場なので簡単に紹介しますと、宰相トリカブートの右腕のような人で、第一騎士団副団長という肩書きがあります。





 状況が悪い。最近の私はかなり苛立っている。


 私は、宰相トリカブート様を世界樹のように崇めている。ずっとマジョラム団長の下で燻っていた私を取り立ててくださったばかりか、これまで多くの活躍の場を提供してくださった御恩は決して忘れまい。命を賭して一生ついていくつもりだ。


 何しろトリカブート様は、いずれ王になられるお方だ。今も実質的に王の役目を果たしていると言っても過言ではない。しかし、ここに来て目障り者共がさらに目障りな事をしでかした。


 王妃の発見である。


 実は、奴らのためにではなく、我らのためにずっと王妃は秘密裏に探し続けられていた。王が腑抜けでいるのは、王妃の失踪と深く関係している故、このまま腑抜けたまま逝っていただくには王妃が見つかっては困る。となると、先に見つけて始末する方が早いのだ。


 良くも悪くも、王妃の実家にあたるミネラール王国も失踪に関してこちらへ追求してくる兆しは無い。婚姻があちら都合の厄介払いだったという噂に信憑性が増すというものだ。しかしこれはこれで好都合。私は、世界樹のご加護がトリカブート様に味方していると確信した。


 ところが、事もあろうに王妃捜索隊がこれ程にまで早く見つけてしまうとは。私でなくとも想定外の出来事だったと言えるだろう。


 もちろん王妃捜索隊発足の折には、王や騎士団に対して反対の意を伝えていた。もしも、のことがあってはならないからだ。表向きは、騎士団の主力メンバーが城外に出てしまっては城の有時の際の戦力不足が否めないという理由を押し出したのだが。


 しかし、ある意味チャンスでもあった。この五年、我ら宰相派や第二騎士団の有志が国中を隅々まで探し歩いているというのに、なかなか見つからない王妃という存在。死んだ、という可能性もかなり高いため、おそらく捜索隊は徒労に終わるということも考えられた。


 つまり、捜索隊が長く留守をしている間に、城を実質的に占拠し、クーデターを起こす機会でもあったのだ。また、捜索隊の気が緩んだ隙に、まとめて葬り去るチャンスも考えられる。それ故、すっかり勝ち戦の気分だったのだ。なのに、奴らと来たら……!


 元々、これを戦いだと見なすと、戦況はかなり厳しかった。青薔薇祭ではクレソンの金の魔術に負けて派閥問わず奴に跪いてしまうという失態に始まり、手下の暴走でエースの拉致失敗事件など、手落ちが続いている。


 今回の王妃発見の報告もあまりに遅く、全てが後手になってしまった。まさか、伝統的に犬猿の仲であった騎士と冒険者ギルドが手を組んで情報網を築いているなど、思いもよらぬことも起きて、次の手を考えようにも手札の使い道に臆病になってしまう自分がいる。


 王妃も戻ったら戻ったでその地位を早くも元以上に固めてしまった。和食とやらの珍しい食材の権益を握ることで、彼女を排斥する動きを完全に阻止している強かさには舌を巻く。もっと鈍臭い箱入り娘だったはずなのだが、姿を消しているうちに性格が変わったのだろうか。


 こうなると、親王派の勢いはますます増してくる。最近ではこちらについていると見せかけながら、裏では寝返っている者もいるようだ。特に第二騎士団の動きが鈍くなった。散々トリカブート様にお世話になってきた癖に、恩知らずな奴らだ。けしからん。


 アルカネットも今は、トリカブート様から密命を受けて、悲願達成のための魔法薬を研究しているので使えない。となると、そろそろ私が直々に動かねばなるまい。


 私は早速トリカブート様にご拝謁した。作戦の相談のためだ。ところが――。


「今は雌伏の時。お前の考えが分からぬではないが、まだその時ではない」


 こんな悠長なことを仰せなのだ。さらには、姫様が最近よく笑うだとか、エースが王妃捜索時に引き上げてきた和食食材を食してみたら体の調子が良いだとか、呑気なことばかりおっしゃる。


 トリカブート様。あなたには見えないのだろうか。日に日に勢力を増す親王派が。クレソンがいよいよ王子として再び返り咲こうとしている、その動きが。


 しかし、ここで諦める私ではない。私は気づいた。そして決意した。トリカブート様はきっとお疲れなのに違いない。それ故、戯れのようなことばかりおっしゃるのだ。こんな時こそ、右腕である私が力を尽くす時。真にトリカブート様のためになることを、成し遂げるのだ。



   ◇



「何か御用ですか?」


 決行は、早い方が良い。作戦を考えついた翌日の午後。私は姫様の部屋にいた。今日はたまたま王妃主催の茶会が催されるということで、城の庭では王妃、クレソン、エース、その他諸々の面子が平和ボケした顔で茶を啜っているのだろう。その間、体力のない姫様は部屋で一人眠っている、ということになっているはずだった。


 廊下から侵入すれば、流石に侍女の誰かに気づかれてしまう。これは、ひっそりとやり遂げたい仕事だ。私はこれでも騎士なので、身軽に壁を伝って窓から入った。窓の外し方など、以前第二騎士団の者に教わっていたので容易いもの。


 さて、あのお姫様はどんな顔をするだろうな。それとも、眠ったまま逝かせてやろうか。いや、むしろ私の顔をあの清らかな眼に焼き付けていただいてからがいいだろう。そう思っていたのに、彼女は全く驚いた様子を見せなかったのだ。


 姫様は、どこか生意気なほほ笑みでしれっと用件を尋ねる。おそらくこれから何が起こるか分かっているだろうに、堂々とした風体を保てるのは腐っても王女と言ったところか。


「ご機嫌よう、お姫様。そろそろ死者の国へ旅立つお時間です」


 世界樹信仰が強いこの国では、死ぬと人の魂は死者の国へ旅立つとされている。そして、長い時間をかけて世界樹の作り出す輪廻の輪に再び取り込まれ、いずれまた生まれ変わるとも言われているらしいが、この者には永遠に死者の国の住人でいてほしいものだ。


「それはあなたの独断なのでしょう? 後で、あの方から死ぬよりも恐ろしい罰が下っても、私死者の国からは庇い建てできませんわよ」


 なぜ見抜いた。なぜ、そんなにも笑っていられる。いちいちカンに触る女だ。だが、刃物の一つでも見せれば、すぐに怯えて小さくなるのだろう。どこまで耐えられるか、見物だな。


「お姫様にそこまでお気遣いいただけるとは、光栄ですね。しかし、そんな見栄っ張りな余裕もここまでです。あなたがこの世に存在し続けると、我が主の悲願はますます遠のくばかり。私が直々にお見送りいたしましょう。手下の破落戸でなかったことに感謝なさってくださいね」

「まぁ、男の癖によく喋ること。私、あなたのような人は嫌いだわ。そうだな。大っ嫌いだ。こちらこそ、殺したくなる程にな!」


 姫様の話口調が突然変化する。まるで少年のような。誰なのだ。この者は、姫様ではないのか? 妙な焦りが高ぶって、懐から取り出した短剣を握る手のひらに汗が滲む。


「お前、本当に奴の側近なのかよ? 奴が一番何を大事にしているのか見抜けもしないなんて、マジ終わってんな!」

「姫様、なのですか?」

「他に誰がいる? お前目が悪いんじゃねーの? 俺は正真正銘ハーヴィー王国王女ローズマリー様だ。お前みたいな小汚い騎士がお近づきになってはいけないようなお方なんだよ!」

「貴様っ!」


 もういい。当初は防音や証拠隠蔽など、様々な策を合わせて考えてあったが、そんなものが全てどうでも良くなった。


 この私を小汚い騎士扱いした罪、今こそ思い知らせてくれる!


 短剣をしっかりと握り直す。抜刀してすぐに切り込もう。あの運動不足で小枝のような貧弱な体の少女は、全くついてこれないだろう。しかし、次の瞬間、私は不測の事態に陥っていた。


 全身が、金縛りにあったように動けない。それだけではない。気づけば私の意識とは反対に体が勝手に床へ這いつくばってしまう。何だ、何なのだ。様々な可能性について考えを巡らせる。一秒後、すぐに思い当たるものがあった。だが、まさかこの小娘が――。


「俺が王族だったのを忘れていたのか?」

「もしや、金の魔術……?!」

「ご名答。おそらく現存する王族の中では、俺が最も使いこなしてるんじゃないかな」

「そんな馬鹿な」

「現実を受け入れることも時には大切だぞ、宰相の腰巾着」


 この者、どこまで私を貶めたら気が済むのか。


「お前こそ現実を見ろ。お前がいるからトリカブート様の判断が鈍るのだ。本当はトリカブート様もお前なんて早く始末したいと思っておいでなのだぞ!」

「それは、どうかな?」


 目の前の得体の知れる少女の皮を被った男は、ニヤリと笑う。


「出世にしか興味がないお前には死んでも分からないかもしれないが、アイツの全ての原動力は俺にある。俺を亡くした娘と同一視しているんだ。俺を殺すことは、自らの信条と生き甲斐を捨てるにも等しい。なかなか可愛らしいクソジジイなんだよ、あの宰相は」


 言い返したいことはたくさんある。だが、声が出ない。金の魔術の力が、ますます大きく膨らんでいく。


「確かに奴が王座についた場合、俺の存在は遅かれ早かれ邪魔にはなるだろう。俺自身が何もしなくたって、いつの世も第二、第三の勢力を作りたいヤツはいる。そういう奴らに担ぎ上げられる可能性だって理解しているはずだ。それでも殺せないだろうな、アイツには」

「お、お前に何が分かる……」

「お前こそ、何が分かってるってんだ? 俺がなぜあいつを毛嫌いせずに飯とか付き合ってやってるか知ってるか? 俺はな、前世で親を置いて先立ったんだ。アイツは、子どもを亡くした親という意味では、俺の親と同じ。罪滅ぼしにもならないが、俺なりにお情けをかけてやってるのさ」


 駄目だ。相手は指一本動かしていないのに、息が苦しくて堪らない。早く引導を渡してやりたいというのに。糞っ。


「俺さえいなければ、か。俺がいなくなると、アイツはますます弱くなる。ポキリと簡単に折れてしまうだろうな。それでもお前はアイツについていけるのか? ちがうな。お前はすぐに鞍替えするだろう。俺はそういうところが嫌いなんだ」


 もう、何を言われているのかもよく理解できない。頭痛が酷すぎる。


 姫さえいなくなれば、姫側についている民衆や騎士達も、旗印を失って迷走するはず。トリカブート様もこんな小娘に現を抜かさずに、政務へ集中できるというもの。そして一気にクーデターを起こし、この国を乗っとり、いや、あるべき姿に国を立て直していく。そういう計画のはずだったのに……どうして、声すら出せないのだ。


「お前を嫌う理由はもう一つある。俺が好きで世界樹の次期管理者でいるなんて思うな! 好きで姫なんて面倒なポジションにいるわけじゃない! 俺だって人として長生きしたかったし、姫乃をクレソンにくれてやりたくなんてなかった。でもな」


 あぁ、また魔術が強くなる。何と強力なのだ。これが、真に世界樹の加護を受けた者の実力なのか。


「俺は、この役目を全うする。世の中、運命ってものがあるんだ。避けられないことってあるんだよ。矛盾してたり、非情だったりするけれど、文句言ってたって仕方ない。それは必要なことなのだから。定められたことなのだから。それならば、俺は俺のやり方で最後まで足掻く。この世界を守って、姫乃を守るんだ」


 ついに視界も朧気になってきた。そこはかとない圧力が全身にのしかかる。空気とはこれ程にも重いものだったろうか。


「守りきるんだからな!」


 全てが闇に落ちた。意識が遠のいていく。第一騎士団副団長ともあろう私が、こんな小娘に……。


「邪魔はさせない。俺の決意を鈍らせるな」


 血の匂いも無いところへ消えていく。最期は、真っ白な空間へ吸い込まれていく感覚。


「俺は、ここに生まれてきた理由を全うしたいんだ。俺はまだ、死ぬわけにはいかない」


 もう、男の声も、聞こえない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

好きなキャラクターに一票をお願いします!

投票はこちらから!

お読みくださり、どうもありがとうございます!

gkwgc1k83xo0bu3xewwo39v5drrb_i81_1z4_1hc

新作小説『琴姫の奏では紫雲を呼ぶ〜自由に恋愛したいので、王女を辞めて楽師になります!〜』
連載スタートしました!
ぜひ読みにいらしてくださいね。


https://ncode.syosetu.com/n2365fy/

do1e6h021ryv65iy88ga36as3l0i_rt3_ua_in_1

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ