表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/117

89私のグッズができちゃった

 王様から、今後の詳しいことは騎士団の総帥から聞いてほしいと言われてしまった私。つまり、クレソンさんのところに行けってことだよね。私はお城の中にある総帥室を目指した。実は初めて行くので、ちょっとドキドキする。


 白壁と青みがかったグレーの絨毯に囲まれた長い廊下を進んでいくと、小さな銀色のプレートがかかった豪奢な扉が右手に現れる。ハーヴィー王国の国旗を背景に槍を持つ騎士と剣をもつ騎士が構えを取っている姿のレリーフもされていて、騎士団関連の部屋だということは一目瞭然になっていた。私はドアをノックする。以前コリアンダー副隊長から教えてもらったお作法通り、三回だ。


「どなたか?」


 いつになく、重々しい仕事モードのクレソンさんの声が返ってくる。私もそれに合わせて、しっかりと返事した


「第八騎士団第六部隊所属、騎士エースです。入室の許可を」

「入れ」


 やや冷たい感じがする彼の声も素敵だな、なんて思ってしまう私は、すでに末期かな。私は静かにドアを引いて中へ入った。


「来たか」

「お呼びとお伺いいたしました、総帥」

「その通り。そこへ掛けたまえ」

「はい」


 私は言われるがままに応接セットの下座に座る。目の前にはクレソンさんの執務机があって、書類が整頓された状態で積み重なっていた。一番高い山で、電話帳三冊分ぐらい。


 天井の梁の辺りには、歴代総帥と思しき肖像画がずらりと並んでいる。机の後ろの低い本棚にも、高価そうな壺などが並んでいるので、ちょっとした美術館みたいだ。


「さて、エース」

「はい」


 クレソンさん、分かってますよ。今仕事。しかも城の中で、総帥室。いくら久しぶりの二人きりだからって、気を抜いたり甘えたりはしません。副団長の名はあまりにも重いけれど、クレソンさんに少しでも近づけるのならば、私、がんばります。


 そんなメッセージを一生懸命目で訴えているのに、クレソンさんはやっぱりクレソンさんだった。


「茶番はここまでにしよう」

「は?」

「エース、後ろを見て?」


 ゆっくりと振り返る。この時の私の衝撃は如何ほどだったか。これは筆舌に尽くし難いものだった。


「今すぐ外してください!」


 何これ。

 なんと、壁一面に私の絵姿が貼られまくっていたのだ! 一万歩譲って、普通の騎士服の絵姿は良しとしよう。いや、良くない。ここは総帥室だよ? たぶん、私以外にもたくさんの騎士や城の文官などのお客様がおいでになる公の場所。そこにこれは無いと思う。


 中でも、問答無用で引っ剥がしたいのが、ビキニアーマーの姿絵。しかもこれ、等身大なんだな。地面から立っているように見えるように貼り付けられていて、しかもリアルなんだ、これが。


「クレソンさん?」


 地獄から這い出てきた邪鬼の如き低い声を出して威嚇してみる。でも彼は受け流す。ううん、お願い、流さないで! 私、恥ずかしすぎて生きていけないからぁあああ!!


「あ、それ気に入ったの?」

「そんなわけないじゃないですか! 今すぐ剥がしますからね!」


 私はソファから立ち上がると、怒りのあまりガニ股で壁際に向かう。するとクレソンさんが光の速さで飛んできた。


「ダメダメ駄目! それだけは駄目!」

「……なんでですか?」

「これ、高かったし、限定品なんだ」


 ん。それってつまり、これは一点ものではなく、どこかで売られていたということ? 私は顔から血の気が引いていくのを感じた。すると頼んでもないのに解説が始まってしまう。


「あ、これね。この間ハヴィリータイムズで特集組まれてて、丁度便箋サイズの『騎士エースちゃん』ってタイトルのついたミニポスターがおまけでついてたんだよ」


 げ。そんなのチェックしてなかったよ! 最近、ビキニアーマー着ないのか?ってやたら周りから聞かれていたのはこれが原因だな。てか、ハヴィリータイムズ許すまじ! これ、日本だったら肖像権とかプライバシーの侵害とか適当にいろいろ難癖つけて訴えてやるのに。


「でね、その後ハヴィリータイムズ編集部に苦情が殺到したんだ」

「どうしてですか?」

「やはり便箋サイズは小さすぎたんだよ。エースを愛でるにはもっと大きくないと!っていう話が膨らみ続けて、ついに有志で画家が集まって、エースの実物大ポスターを作って、出版社からグッズとして販売されることになったんだ」


 クレソンさん、めっちゃ詳しいですね。嬉々として語ってくれるのは良いとしても、グッズって何? もしかして、他にも何かある……なんてことないよね? それに、私にはマージンとかないわけ? てか、駄目でしょ、そんなことしちゃ! 形だけでも承諾取りにきやがれ、ハヴィリータイムズ!!


 おっと、ごめんあそばせ。騎士ともあろう者が荒ぶってしまいました。ここは、冷静にこっそりポスターを剥がしておきましょう。ペラっ。あ、クレソンさんが涙目。見てみぬふりする私。限定二十枚だった? そんなもん知らんがな。


「なんか良いことないかなぁ……」


 こんなボヤキも出るのも仕方ない。


「エース、悪いことばかりじゃないよ」


 気づいたら、さりげなくクレソンさんが私の真後ろに立っている。何これ、忍者? 全然気配なかったんだけど。


「クレソンさん、私に第八騎士団副団長なんて、本当に務まると思います?」

「エースこそが適任だと思うよ」


 またまたそんなこと言っちゃって。どうせ好きな子は色眼鏡でしか見えないんじゃないかな?と思ってしまう。


「今後のことだけど、基本的に今と仕事は変わらないよ」

「え?」


 私はポスターを剥がす手を止めた。


「副とつく役職は、基本的に一つ上の役職の補佐的立ち位置なんだけど、その人の立場が盤石ならば、補佐なんてしなくていい」

「つまり?」

「偉い人なのに、自由がきくってこと!」

「なるほど」


 クレソンさんによると、私は第八騎士団における遊撃部隊みたいな役目を負うことになるそうだ。一応日頃の職場はこれまで通り第六部隊だけど、団長やクレソンさんから指示があれば持ち場を離れて別の仕事をすることになるみたい。


「衛介には感謝しないな。さっきラムに聞いたんだけど、アイツが父上に進言してくれたお陰でエースの昇進が決まったみたいなんだ」


 うん、なんかそんな気がしてました。


「エースは騎士に復帰して以来、たくさんの味方を増やしたと同時に敵の姿も明確になってしまった。これまで以上に狙われる存在になってしまったということだよ。でも肩書があれば、多少はそんな不利を凌いだり、逃げやすくなったりする。僕の目の届くところに居てもらいやすくもなる」


 そっか。単なるお茶目なイタズラ兼王妃発見のご褒美というよりも、私の立場を確立して安全を守ろうとしてくれていたんだね。さっきまで文句ばっかり言ってた自分が情けなくなってくる。


「それに、これでアンゼリカとは完全に対等だ。彼女は副団長という肩書になって長い。あれこれ聞いてみるといいよ」

「そうします。マリ姫様にもお礼の差し入れしておきますね!」


 ワラベ村からのお土産を見たら、マリ姫様も喜びそうだ。私は彼女の顔を思い浮かべて頬を緩ませた。



   ◇



 その後、私はびっくりするぐらい平穏な日々を過ごしていた。門衛のお仕事も副団長になったからか、夜勤は無くなってしまったし、規則正しい生活が続いている。槍の練習も再開して、たまにオレガノ隊長に相手してもらうことも。結果はまぁ……聞かないでほしい。


 そう言えば、ミントさんとタラゴンさんからお祝いの品が届いた。ミントさんからは、またまたエルフ族に伝わるというブレスレット。金色の石がついていて、これに魔力を通すと自分だけでは使えない属性の魔術もちょっとだけ使えるようになるのだ。これまで遠征して野宿する時には、火や水が出せなくて苦労していたけれど、これがあれば万事解決! ありがとう、ミントさん。


 タラゴンさんから届いたのは、彼らしからぬ物だった。包装こそ可愛らしい黄色のリボンがかかっていたのだけれど、箱を開けてみると、中身は書類の山だった。


 なんと、私が和食好きなのを知って、それらしきものを各地で見つけては情報をまとめてくれていたのだ。だいたいがド田舎の村で、はじまりの村のようにお供え用の米を栽培しているということみたい。なーんだ。これで米の収穫量増やせるじゃない!


 そうそう。米と言えば、マリ姫様だ。現在、王家公認で米を栽培しているのは、始まりの村だけ。そこの米は一度王家が買い上げて、貴族達や力を持つ商人に下ろしている。流通先や利益は姫様が握っている状態だ。


 そこへ今回、他の調味料なども増えた。ここで、王妃様が登場! 彼女がその他の和食食材についても管理してくれるようになったのだ。ここでおさらいしよう。和食食材の第一のメリットは、魔力アップ効果である。そして、特産地であるワラベ村との一番のパイプは王妃様。となると、彼女の立ち位置はたちまち固まって、いろいろ心配していた貴族からの反発や側妃押し付け問題なども、今のところ起こらずに済んでいる。ほんと良かったね。


 さらに良かったことと言えば、王家が国内の大切な物の流通を握り始めることで、クレソンさんの情報収集活動も活発にできるようになったことだ。流通という口実があれば、クレソンさんや姫様関連、つまりカモミール様と旧知の方なども、様々な場所へ赴きやすくなる。そして各地の実態と問題を把握し、城へ持ち帰ることができているのだ。


 だいたいの問題は、その地にいる役人の横暴な行為や取り立て、汚職なので、クレソンさんお済み付きの人員と入れ替えることで解決することが多い。その際は大々的に王様の名前とクレソンさんの名前を出すので、少しずつ国内における彼の権威も復活してきているようだ。素直に嬉しい。


 でも心配事がひとつ。

 最近、宰相派の動きが鈍いのだ。


 これは、私達が捕捉できていないだけなのか。それとも本当に派閥自体が弱体化しつつあるのかは判断しかねるところ。何はともあれ、油断禁物というのがクレソンさんが旗印となる親王派の意見だ。


 間もなくコリアンダー副隊長とラベンダーさんの結婚式がある。普通のお祝いとしてのセレモニーではなく、親王派の決起集会としての色が濃くなりそうなイベントだけに、私は少しラベンダーさんのことを心配している。


 だって、女の子にとって結婚式って特別じゃない? ただの政治的な集まりの飲み会で終わらないように、私も何か出し物とか考えてみようかな。



限定品に弱い王子って、どうなんだろう……

人間臭くてすみませんw


グッズはですね、他にもあるんですよ。

コスプレセットとか、エースがよく行く店の場所が書き込まれた街歩き用のマップとか、ポスター以外に絵葉書サイズのもあります。

たぶんハヴィリータイムズは儲かってると思います。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

好きなキャラクターに一票をお願いします!

投票はこちらから!

お読みくださり、どうもありがとうございます!

gkwgc1k83xo0bu3xewwo39v5drrb_i81_1z4_1hc

新作小説『琴姫の奏では紫雲を呼ぶ〜自由に恋愛したいので、王女を辞めて楽師になります!〜』
連載スタートしました!
ぜひ読みにいらしてくださいね。


https://ncode.syosetu.com/n2365fy/

do1e6h021ryv65iy88ga36as3l0i_rt3_ua_in_1

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ