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80苦労話を聞いちゃった

 お父さんとお母さんから、話を聞く。


 やっぱりあの時、校舎からは普通に出ていたようだ。でも出た途端、二人揃って真っ暗な落とし穴に落ちてしまって、気づいたら辺りは見知らぬ森。うん、テンプレだね。トラックに轢かれるよりはマシな展開で良かったよ。


 その後は、行く宛もなく数時間二人で森の中を彷徨っていると、一人の女性が倒れているのを発見。近くの川で汲んで来た水を飲ませてみると、すぐにその方は元気になったので、お礼にこの村へ連れてきてもらったそうだ。じゃぁ、その人は命の恩人だね!


 お父さんとお母さんは、三者面談の後だから二人ともスーツ姿で、村ではとても偉い人だと勘違いされたみたい。この村は日本の世界で言うところのチベットの民族衣装をアレンジした感じの服が普段着なので、相当珍しい格好に思えたみたい。しかも、日本製の上質な織り地を使った洋服だから、初めは貴族か何かだと思い込まれていたとか。うふふ。完全に庶民なのに、おっかしー。


 さらに幸運だったのは、うちのお父さんとお母さんも、初めから言語系チートはあったということ。読み書き聞く話す全てクリア。後は持ち前のコミュニケーション力の高さで、すぐに村に馴染むことができたらしい。日本に帰る方法は探さなかったのかと尋ねたら、「普通に考えて、悪足掻きだろう。そんなことより、その日の生活が大切」と言うお父さんに、やっぱり私達は親子なのかもと思ってしまったのは内緒です。


 そうして、村人生活をスタートさせたお父さんとお母さんなのだけど、初めは村長宅でお客様のような形で住み始めたらしい。でも、ずっとその厚意に甘えているわけにもいかない。そこで、現代日本の知識を武器に、村内の様々な問題を解決できないかと思いついたらしい。


 そこからだ。二人の快進撃が始まったのは。


 まず、とりかかったのは治安維持についてだ。この世界、森には普通に魔物がいるし、魔物に襲われて亡くなる人もとても多い。田畑が少ないのも、すぐ魔物に荒らされてしまうからだ。隣村に行きたくても、それは基本徒歩移動なので、魔物に細心の注意を払いつつ、腕っぷしの良い冒険者を雇ってのこととなる。とにかく、魔物に怯えて、ほとんどの人が村から一歩も出ずに一生を過ごすのだ。


 こんなことは、どこの村でも同じだし、村民は別に不便だとも、おかしいだとも思っていない。でも現代日本人からすれば、どう見ても閉鎖的すぎるし、危険極まりない生活環境と言える。


 お父さんとお母さんは、この地に骨を埋めることを覚悟したこともあり、早速魔物狩りを始めた。我が両親ながら、ワイルドすぎない? 幸いと言おうか、異世界転移者である二人には、ほぼ全属性の魔術の素養があったらしい。村へ来るきっかけになった女性から魔術の手ほどきを得て、ゲームみたいにどんどん魔物を倒しまくっていたとのことだ。


 けれど、問題が一つ。


 魔物は、次から次へと湧いてくる。

 キリがない。


 たくさん間引けば、村周辺は安全になると思えば大間違いで、なぜか現れる魔物はどんどん大型化し、凶暴化していったのだ。これって、たぶん世界樹の力が減退している影響もあるよね?


 というわけで、今度は村を高い塀で囲うという策に出た。これには、うちの両親と、助けた女性の三人が力を合わせたらしい。やはり、コンクリートのイメージで造ったらしいのだけど、実際は金属系の成分も高い素材なので、コンクリートよりも強固なんだって。王城の塀と壁もこれにしたら安全性が高まりそうだなぁ。


 塀ができる前は、木の柵しかなかったワラベ村。それが砦級の防御力を持ったので、中に住む人も随分と気持ちが楽になったし、塀の中では子どもも自由に遊び回れるようになったそうだ。しかもこの活躍で、お父さんとお母さんは、村民からかなりの信頼を集めることになった。娘としても誇りに思います。


 でも、この二人、こんなところでは終わらない。

 やはり、日本人はなんだかんだで食にうるさいのだ。次にとりかかったのは、食の改革だった。


 元々、この村の食事は素朴なものが主流。良く言えば、素材を活かした料理と言おうか、味付けがかなりシンプルなものだ。悪く言えば、なぜか塩胡椒ぐらいしか調味料が無いという状況。だから不味くはないのだけれど、グルメな日本人は数カ月もすると飽きてしまう。他の味も食べたくなってしまう。もっと言えば、和風調味料が恋しくなるのだ。


 お父さんとお母さんは考えた。もしかすると、既にこの世界には和風調味料が存在しているかもしれない。けれど、月に一度やってくる商人に尋ねても、そんなもの知らないという。似たものはありそうだが、村の場所が辺鄙なこともあり、値段は高くなり買えそうもなかった。


 すると、「じゃ、自分で作ればいいじゃない?」という答えが導き出されるわけだ。


 ここでフル活用されたのは、意外にも雑学王である精密機械メーカー勤めだったお父さんと、料理好きで食品メーカーの研究部門に勤めていたお母さんの知識。


 初めに仕込み始めたのは味噌。仕込んだ後かなり長い期間寝かせないといけないからだ。材料のお豆は、森で見つけてきて、その後村の中に畑を作ったらしい。ちゃっかり初めから量産準備しているあたりがすごいよ。でも、一番大変だったのは麹種の準備だったらしい。お父さんが食中毒になりかけたとかなんとか言ってたけど、危ないことはやめてほしいなぁ。


 だけど麹のお陰で醤油も仕込みすることができたとのことなので、私の今後の食卓は、かなりレパートリーが広がりそうです。お父さんの犠牲に感謝。


 それから、お酢。初めは梅酢作りからスタートした。ここで酢種を準備して、後は日本酒を作るような工程を辿りつつ、数え切れない程の試行錯誤を繰り返して完成させたそうだ。


 それにしても私、ちょっと疑問があるのだけれど。


「お父さんとお母さんは、一体何年前にここへやって来たの?」

「確か、二年近く前よね」

「そうだな」

「そんな短期間で、ここまでのことをするって、おかしくない?」


 これは、一緒に話を聞いていた王城からの一行全員が思っていたことのようだ。皆しきりに頷いている。


「え、そんなに驚くようなことか?」

「時間を進ませる魔術があるから、日本よりも研究が捗って楽しかったわ」


 は?

 私以上に目が点になっていたのは、クレソンさんだ。


「今、時間の魔術とおっしゃいましたか?」

「誰もが使えるわけではないけれど、以前から存在していたものだとは聞いていたのだけど。そんなに珍しいものなの?」


 クレソンさん筆頭に、王都組は総じて遠い目をする。皆、ごめんね。ほら、うちの両親ってこの村しか知らないから、この世界の常識なんてあってないようなものなんだよ。


 でも、時間っていうのはちょっと気になる。私の白魔術だって、空間を操作するという意味でいろんなことができる。物理的におかしなことすら、できるようになってしまった。そういう応用が時間の魔術にも使えるのなら――。


「ところで、姫乃は時間の魔術使えないのかしら?」

「私は、空間を操る白魔術だけなんだ。それ以外はからっきしなの」

「まぁ」


 お母さんは、驚いて一瞬悲しそうな顔をしたけれど、すぐに元通りの笑顔になった。


「でも、その空間の魔術って便利そうね。私達はそれ、使えないのよ」


 その時だ。


「時間。空間。魔術。もしかすると、私達親子が力を合わせて魔術の組み合わせと応用を施したら……」


 お母さんも、ハッとした顔でお父さんの方を見る。





「僕達は、日本に帰れるんじゃないか?」





 隣に立つクレソンさんが、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。



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