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78懐かしすぎて泣いちゃった

 その村。城塞都市のように、高い塀で囲まれていて、四方には物見用の塔まである。これ、王城より強固な防御体制なんじゃないの? 何より、塀が石積みではなく、コンリートのように見えるのだ。


 上空から覗くと、村の中は建物こそどこにでもある木造造りや石造りが中心だけれど、大通りと思しき道などは、これまで辿ってきたアスファルト道と遜色が無い。マーケットなどの商業地域らしき部分や、塀の近くの方には畑らしきものも見える。


「これ、村じゃなくて街ですよね」

「いつの間に……以前来たときも、貧しいながらも、他の村とは違って村民に心の豊かさがあるのを不思議に感じていたが、まさかここまで大化けするとは」


 以前来たことのあるマジョラム団長は驚きを隠せない様子だ。


「何はともあれ、着陸しましょうか。マジョラム団長は、事前に村長に手紙を出して、先触れをしてくれてるんですよね?」


 クレソンさんの確認に団長は是と答える。ならば、早速村長宅に乗り込もうではないか。私は、この塀や道の発案者と早く会いたいし、会わねばならない気がしてならないのだ。


 私はゆっくりと結界の高度を下げて、村の門の前に着陸させた。ステビアさんは、心底ほっとした顔をしていたよ。恥ずかしそうにしているけど、大丈夫。あのS級冒険者も高い所が苦手だからね!


 門は金属製だった。日頃、門衛職の私は門の内側にいることが多いので、こうして外側に立っていつもと逆の立場になるのが新鮮だ。ここの門衛さんはどんな人だろう。やっぱり女の子はいないのかな。なんて思いながら、閉ざされた門につけられたドアノッカーを使って、トントンと叩く。すると門の脇の塀にあった小窓が開いた。


「誰?」


 そこから顔を出したのは、黄色の髪をツインテールにした、色白の少女。黒字にカラフルな色で刺繍の縁取りをした服を着ているようだ。


 まさかの女の子の登場に、私も一歩出遅れてしまう。


「この村は一見さんお断りなの。はい、帰って、帰って!」


 え? 門衛の仕事って、こんな感じだったっけ? てか、そもそもあの女の子は門衛なの?

 と、戸惑っているうちに、塀の小窓はピシャリと元通りに閉まってしまう。


「ちょっと待ってよ。こっちは、はるばる王都から来たの。ちゃんと村長さんにも手紙出してるんだから!」


 慌てた私の叫びは、静かな森にこだました。



   ◇



「ふーん。偉い人なのね」


 物怖じしない子ってたまにいるけれど、目の前の少女は筋金入りだと思う。ま、私もあまり他人のこと言えないけれどね。別世界からやってくると、誰に会っても新鮮すぎて、恐れ多さとか吹き飛んじゃうんだよ。


 さて。この堂々とした振る舞いの彼女の名は、サフランさん。たぶん私と同年代なんじゃないかな? 若干幼く見えるけど、きっと田舎育ちだからだろう。そして私が思った通り、職業が門衛さんらしい。仲間だね! 男性はいないのかなと思って尋ねてみると、「こんな辺鄙な場所、誰も訪ねて来ないんだから、門の前に突っ立ってないで他の仕事をするべきよ!」だそうで。うん。私、ちょっとこの子の性格分かってきた気がする。


 じゃ、アンタはどうなのよ? と言うと、彼女はこの村で村長の次に偉い人にお仕えしているとのこと。彼女はそれをとても誇りに思っているみたいなんだけど、村長の次って言うと助役とかだろうか。正直パッとしないので、なぜあんなに自慢げなのか、私は意味が分からない。


 兎にも角にも村に入れたのは良いけれど、物々しさは未だに解除されていなかった。門から一歩村の中へ入れば、農機具を片手にたくさんの村民が集まってきたのだ。歓迎してくれるのかな?と思えば大間違い。スコップや鋤の先端は、全て私達一行に向けられていたのだ。


 そして、群衆の中でもとりわけ恰幅の良いオジサンが前に進み出てくる。開口一番飛び出したのは。


「誰だ?!」


 それ、さっきも聞かれたよ。私は、ここでウンザリした顔をしては第一印象が悪くなると思って、無理やり笑顔をキープする。そしてマジョラム団長が、そのオジサンに名乗り、旅の目的を述べて今に至るのだ。


 私はこれまでも、いくつかの村へ行った経験がある。西部のダンジョン入口封鎖から、南部の盗賊騒ぎ。そして門衛をクビになった時は、フラリと北部に向かって足を伸ばした。でも、こんな敵意剥き出しの村、見たことも聞いたことも無い。


 この違和感は、他の人も同じだったようだ。クレソンさんはさりげなく私を庇うようにして前へ出て、アンゼリカさんは腰の剣に手を当てて、いつでも抜けるように構えている。


「エース、やっぱり気になるよね?」

「うん」

「おそらく、この者達は何かを隠しているな」


 私達は小声で意思疎通を交わすと、団長に目で訴えた。たぶん、ここに何かのヒントはあります。事を構えず、穏便に懐に入る方法を探りましょう、と。明らかに怪しいもの。ここで引き返すことにはなりたくない。マジョラム団長は、承知したとばかりに頷くと、村長へ出した手紙の写しを取り出した。


「先日、ここの村長宛てに、これと同じ内容の手紙を送ったので届いているはずだ。国直々の命令故、王家の紋章も入っていたはず。まずはそれを確認していただけないだろうか」


 やはり、お役所の書類というものは強い。団長の肩書きや、以前もこの村に来たことがあるという経験も手伝って、村長宅に招かれることになった。


「確かに。昨日届いた手紙と同じ内容じゃ。貴殿達を王都からの使者だと正式に認めよう。ようこそ、ワラベ村へ。先程は、村民が失礼なことをして申し訳なかった。詫びにもならぬかもしれんが、今夜は歓迎の宴を開くので楽しんでくれ」

「ありがとうございます」


 村長さんは、けっこうまともな人だった。人当たりの良い健康そうなお爺さん。良かった。でも村長以外の村人は、私達と打ち解けようとする様子が微塵も無い。


「村長、本当に信じて良いのですか? 手紙に書かれている日付は今から五日前で、出発予定はそれから三日後とあります。少々着くのが早すぎです」

「そうです。王都からの使者と名乗った偽物かもしれません。特に、そこの女!」


 え、私のことですか? 私はびっくりして氷つく。村人Bさんは、私の方をビシッと指さしていた。


「他の人間は王都から来たと言われれば納得がいく。そういうオーラがあるからな。でもお前はどうだ? 凡人そのものではないか!」


 えぇ、凡人ですもの。よくぞ見抜きましたね。私以外は全員貴族もしくは王族、またはその分野で数々の功績を上げて名を轟かせている人物。日本のごく一般的な家庭で生まれ育った女子高生にオーラなんて求められても、そんなのあるわけがない。


 私はすぐに村人Bさんを肯定しようとしたけれど、クレソンさんの待ったがかかった。背中が一瞬ヒンヤリしたので振り向くと、小さく首を振って制されてしまったのだ。


「エース、いいもの見せてあげて」


 あぁ、なるほど。やっちまえ!ってヤツですね。

 私は、村人Bさんに心の中で合唱しつつ、こちらも彼に向かって指をさした。結界の紐で俵巻きにしようかと思ったけれど、あれは辛そうなので、普通の結界に閉じ込めるだけにする。指先からは、まっすぐ白い光の線が伸びて、たちまち村人Bさんは光る半透明の箱の中に囚われてしまった。Bさんは、中から出してくれ!と叫んで、結界を叩き割ろうとしているようだけれど、その音すらこちらには伝わってこない。もちろん、結界が崩れるわけもなく。


 ふと他の村人達の顔を伺うと、総じて青くなっていた。あれ、またやりすぎちゃったのかな。


「村長、こちらも手の内を見せました。むしろ彼女こそが、こちらの切り札です。そろそろ腹を割って話しませんか」


 クレソンさんが爽やかな笑顔で村長ににじり寄る。村長は、思いつめた顔で俯いていたが、やがて口を開こうとした。


「村長、駄目です! 私達は、必ず守ると約束したではありませんか!」


 村人Aが金切り声をあげた。それにハッとして、村長は再び表情を厳しくする。


「今夜は、ワラベ村特産のミソを使ってウドンや季節の野菜を煮込んだナベというものをメインにします。楽しみにしていてください」


 そう言い残して、村長達は応接室から出ていってしまったのだった。


「チェックメイト、でしょうか」

「ほぼ王手だと思いたいが……」

「まだ油断はできませんね。後一歩だと思いましたが、想像以上に村長の取り巻きは慎重派が多いようでした」

「まだ大丈夫です。歓迎の宴の席で、隙きを狙いましょう」


皆思い思いに今後のことを話しているけれど、私はそれどころではない。


 味噌風味、うどん入りの鍋。


 私、実は麺類が大好きなのだ。中でも特に好きなのはうどん。うどんは、小麦粉と水と塩の絶妙な組み合わせの配合や温度管理、熟練の腕によって生み出される、正に奇跡の白い魔術の如き食べ物。


 実はクレソンさんにキッチンをプレゼントしてもらって以来、二度程自作にチャレンジしているのだけれど、出来はびっくりする程いまいちで。


 この村は、味噌や醤油などの調味料を筆頭に、本格派の和食がある様子。これはうどんも期待ができる!


 まさか、異世界に来てまで食べられるとは思わなかった。まだ味噌の香り、出汁の香りすら漂ってきているわけでもないのに、目からの豪雨が止まらない。


 すると、何かを察してくれたのか、クレソンさんが皆の輪から抜けてやってきた。何も言わずに、ゆっくりと背中を撫でてくれている。その全てがありがたすぎて、また別の涙が流れてきたよ。



 ◇



 結論から言おう。お鍋は、完璧なお鍋だった。それも、お店じゃなくて家で作るようなシンプルでナチュラルな味。すっと懐かしい味噌の香りを体いっぱいに吸い込み、コシのあるうどんを口と喉で味わう。野菜には甘さがあって、体の芯から温もってくる。お肉は、何かの魔物肉かな? スープを一口啜れば、包容力のある優しさが全身に染み渡っていった。


 しかも鍋が土鍋なのがイイ。取り皿も王都でよく見かけるような白いのではなくて、焼き物系で、しっくりと手に馴染む。もちろんカトラリーはお箸オンリーで、私と交流の深いクレソンさんとアンゼリカさん以外は、使い方に四苦八苦している様子だ。


 あぁ。そういえばお鍋は、よく冬の寒い日にお母さんに作ってもらって食べていたものだ。お父さんと三人で炬燵に入って、カセットコンロの上の鍋をつつく。そう、これはお母さんの味。お母さん、お父さん。もう食べることができないと思っていた物を食べられるなんて。


 お父さんとお母さんがいなくなったのは、学期末に三者面談があった時のこと。張り切った両親が揃ってやってきたものだから、同級生からは注目を浴びちゃって。ちょっぴり恥ずかしかったのも、今となってはかけがえのない思い出だ。面談の後、私は図書館に本を返しに行くから両親と別行動をしたのだけれど、それが今生の別れとなってしまった。


 お父さんとお母さんは、一年二組の教室から廊下を歩き、確かに校舎を出た。その後は、運動場を突っ切るようにして校門へ向かっていたはずなのだ。なのに、校門に設置された監視カメラには二人の姿は写っていなかったし、ついぞ家にも帰ってこなかった。


「神隠しみたい」


 と、クラスの子が言った。私もそれを信じることにした。そうすれば、まだどこかで元気に暮らしてるんじゃないか、生きてくれているんじゃないかって思えるから。


 とは言いつつ、私も内心では分かっている。お父さんとお母さんがいなくなった原因はどうあれ、私はもう二人には会えないのだろう。


 だからこそ、クレソンさんにはお母さんである王妃をちゃんと探してあげたい。彼は完全に自立した大人だけれど、やっぱりお母さんっていうのは特別な存在にはちがいないだろうから。もしかしたら、王妃様はもう王家と音信を持ちたくないのかもしれないけれど、今もどこかで無事に生きているということぐらい知りたいと思うのは、やっぱり子どもの我儘になるのかな。


 私が物思いに耽っている間、宴は静かに営まれていた。というのは、実は参加者が私達以外に村長しかいなかったのだ。歓迎されていないっぷりが、すごい。


 村長は、主にクレソンさんやマジョラム団長と話していた。王妃様の話題を出すと、途端に口を閉ざしてしまうので、まずは商談を進めているところ。


「では、特産品を王家に卸すというのは了解いただけるのですね」

「他の者は何か言うかもしれんが、それでこの村を守ることができるのであれば」

「ここの特産品は、どれも魔術的価値がありますね。ぜひ、作り手の方にもお会いしたいものです。商談の際、生産現場を確認させてもらうことは、よくあることですしね」


 村長は困ったように俯いてしまう。今は、援護射撃してくれる味方もいないものね。ごめんなさい、と思いつつも、私はマジョラム団長の押しの強さに感謝していた。


 たぶん生産者の方がどんな方であれ、和食の素晴らしさや美味しさを語り合うことはできると思うのだ。それに、王家に卸すということは、安全性の確認も必要だもの。後々、特産品を召し上がった王様に何かあったりしたら、困るのは村の方。私はそれを説明したけれど、村長はただ一言「これだけは秘匿せねばならん」としか答えてくれない。


「それでは、後ろめたいことがあると堂々と言っているも同じです。あまりに頑なですと、王家に対する謀叛として、動かざるをえません」


 クレソンさんは、渋々切り札を出した。できれば強硬手段は取りたくないのだ。せっかく見つけた画期的な食料や調味料。これが王家の圧力で、歴史から失われてしまうようなことになれば、あまりに勿体ない。それに、もしここに王妃様がいらっしゃった場合、またどこかへ移動して身を隠してしまったら、一から探し直しになってしまうのだ。


 その時だ。村長以外の全員が、ハッとして部屋の扉に注目する。


 誰かが、来た。


 明らかに、何か特別な気配がある。



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