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72ラップしちゃった

更新が遅くなってすみません。



 いやぁ、たまたまラムズイヤーさんが一緒で良かったよ。一人だったら今頃、また拉致騒ぎになっていたかもしれない。


 ここは、アルカネットさんの研究塔。私は中をぐるりと見回した。春に向かうこの季節、太陽は昇ったばかりで、部屋はまだ薄暗い。彼女に押し切られてここへ連れてこられたのは、れいの練習の成果を見せてもらうためだ。


「こちらは忙しいんだ。結界の魔術に小道具などいらないはず。さっさとやれ」


 ラムズイヤーさんは、壁際の戸棚前を忙しなく動き回るアルカネットさんに高圧的だ。彼はクレソンさんが総帥になると同時に、総帥補佐という微妙なネーミングの新役職を授かっている。騎士団と魔術師団は、公式にはどちらが偉いことになっているのかなんて知らないけれど、ラムズイヤーさんも随分出世したことは確かである。と言っても、日頃は私と一緒に北門の門衛をやっているので、個人的には実感が沸かないのだけれどね。


「坊やはアタクシの塒に呼んだ覚えはないのだけどね」


 アルカネットさんは、ラムズイヤーさんをイライラさせることが楽しいらしく、クスクス笑う。


「あった、あった。これだよ」

「何を探していたのですか?」


 私は、アルカネットさんが持ってきた香水瓶のような可愛らしい入れ物に視線を落とす。


「さて、準備はできた。アタクシの頑張りを見てちょうだい」


 アルカネットさんはマントを脱ぎ捨てて腕捲りすると、その瓶を掌に押し当てて、すっと真剣な表情になった。何が起こるのか分からないので、私とラムズイヤーさんは少し後ずさりして、その様子を見守ることにする。


 そして、時間にして一分余りが経過した。肌寒い季節柄にも関わらず、アルカネットさんは既に玉の汗をかいている。私は無理をしない方がいいと声をかけようとしたが――。


「……できた。見てくれた? ちゃんと白い光が出たでしょう?」


 私とラムズイヤーさんは一瞬顔を見合わせた後、慌てて首を縦に振った。確かに、瓶の中が白く光ったような気も……する。でも、それはほんの一秒間ぐらいのもの。それまでに様々な色の光が入り混じって虹色に輝いていたことの方が印象的だったな。ま、「アタクシを褒めて!」とばかりに目を輝かせているアルカネットさんに、そんな本音は言えないけどね。


「えっと、がんばってらっしゃるんですね」

「そうなの。アタクシはとてもがんばっているのよ? だけど、まだまだ結界魔術の展開には程遠いわね」


 確かに。


「そこで、ものは相談なのだけど、白の魔術を補助する魔道具を作ろうと思ってるのよ」

「そんなものが作れるんですか?」

「侮ってもらっては困るわ。アタクシ、これでも主席魔術師なのよ? でも、ちょっと特殊な材料がいるのよね」


 アルカネットさんはそう言いながら、机の引き出しからシャーレを一つと小瓶を一つ取り出してきた。


「エース、あなたの力を少しだけ分けてもらいたいの。ほんの少しでいいのよ? それを魔道具に適用して試してみたいことがあるの」


 聞くと、私から提供するのは髪の毛一本だけ。後は、小瓶の中を白の魔術で満たせばおしまいらしい。なーんだ、簡単なことで良かった。無理難題だったら困るなと心配していたのだ。


 ラムズイヤーさんに目配せすると、「それぐらいなら許す。さっさとくれてやれ! で、ここから早くずらかるぞ」とのお言葉が。良かった。私は、以前程アルカネットさんを嫌いには思えなくなっている。それに、未だ、これっぽっちも結界の魔術ができていないのが不憫なので、ちょっとだけなら協力してあげたくなってしまったのだ。


 私はシャーレに髪を置いて、小瓶の中に白の魔術を吹き込んだ。


「エース、どうもありがとう。楽しみにしていてね。絶対にびっくりすると思うわ」


 アルカネットさんはご満悦。こんなちっぽけな物から、大それたことなんて何もできそうにない気がするけれど。私は魔道具にそれ程詳しくないので、何とも言えないけどね。



   ◇



 そして、出発の日の朝を迎えた。


「嫌だ! これだけは譲れない!」

「駄目です。腐りますから!」


 私、初めてクレソンさんと喧嘩しました。なぜこんなことになったかというと、端的に言って食べ物が絡むと爽やか王子も人間らしくなる、ということだ。


「スープとか、どうやって持っていくんですか? 甘さ控えめのスイーツ類も、ちゃんと冷たい所に保管したって一日ぐらいしかもちません」

「えー、僕はエースのご飯が食べたいだけなのに。しかも、こんなに残していったら、勿体ないよ」

「大丈夫、それには考えがありますから。マリ姫様がご所望なんですよ。ついでに言えば、コリアンダー宰相も。ここは残り物を押し付けて、株を上げておきましょう?」

「ますます嫌だ」


 駄々っ子か。ふぅ。クレソンさんが、こんな面倒くさい人になるとは思わなかった。


「でも、今回の旅は長くなるかもしれませんし、それでなくても大荷物なんです。馬車で近づけない場所にも行く可能性もありますし、できるだけ身軽にするって言ってたのはクレソンさんですよ?」


 クレソンさんは、ようやく押し黙る。これで一件落着かな? と思っていたら――。


「結界魔術の応用でも、何とかならない?」


 あ、なるほど。私がぽんっと手を打ったその時、頭の中でいつもの不思議なアナウンスが流れる。


『第十六制限装置、解除』


 え、このタイミングで? 私は戸惑いながらも、無心でスープのお鍋に白の魔術をかけた。お鍋は白く光って、一瞬浮かび上がる。どうやら、結界がかかったようだ。でもこれ、何の効果があるのかしら? こんな時は、人に尋ねるのが一番だよね!


『マリ姫様、おはよう』

『んぁあ? あ、エースか。おはよ』

『ねぇねぇ、寝起きのところ悪いんだけど、一個教えてくれる?』

『何だ?』

『結界をかけた中身を状態保存するみたいな白の魔術って、あるかな?』


 どうやらマリ姫様は、世界樹の現管理人さんと繋がっているお陰で、知識が豊富なのだ。白の魔術の使い手でもないのに、先日も「もっと制限装置をクリアしろ!」って言っていたぐらいだし。


『うん、あるよ。そう念じて結界をかければいいと思う。心配なら、熱いものを結界で覆ってから、氷水につけて冷やしてみな。中はいつまでも新鮮で熱いままだから』


 まじで?! つまり白の魔術って、ラップ機能と品質保持機能があるってことじゃん! うわー、日本の主婦にこの力を分けてあげたーい。


 その後、クレソンさんに魔術で氷を出してもらってお鍋を冷やしてみたけど、確かに結界の中のスープは冷めなかった。これ、すっごく便利だよ。ラベンダーさんあたりに自慢して、悔しそうな顔を見てみたい。


『マリ姫様、上手く行ったよ。どうもありがとう!』

『エース、白の魔術は基本的に空間を操ることができる。固定概念にとらわれず、いろいろやってみな』

『分かった。旅の間に何か思いついたら試してみるよ』


 そうして私達は、大荷物を馬車に積み込んで、マジョラム団長を先頭に城を出発したのであった。



今回は短くてごめんなさい。

キリが良いので、一旦ここで切りました。



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