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62罠を張っちゃった

 残念ながら、私の予想はバッチリ当たってしまった。今度は東部だってさ。


 今回は魔物ではなく、盗賊が出るらしい。その第六騎士団の管轄内にあるという村には、冬を越すために倉庫へ食料の備蓄がされているのだけれど、最近ちょこまかと中身が盗まれているとか。そこで、白羽の矢が立ったのが私だ。


 私はマリ姫様の生誕記念式典の際、城内の主要な場所を結界で覆って、関係者のみが立ち入れるようにしていた。今回も同じようなことをして、村人しか倉庫へ入れないようにしてほしいそうで。それ自体は簡単なのだけれど、なぜか面倒事の匂いがする。


 しかも、また遠征だ。クレソンさんは用事があって王都を離れられないし、今回はアンゼリカさんも都合がつかなかった。そこで、オレガノ隊長が一緒に行ってくれることに決定! 「お前は何となく放っておけないから 」という理由だそうで。確かに私は世間知らずで、ぼーっとしてますけどね。けっ。


 でも、道中が訓練になってるなんて聞いてないよ! 嫌な予感はこれだったのか。がっくり。


 東部にある今回の目的地は、西部の街みたいに山をいくつも越えた向こうにあるというわけではない。森や囃子を抜ける平坦な道をひたすら進めば着くのだ。つまり、比較的近い。だからって、全工程徒歩移動なんて。文明の利器を使いましょうよ、もったいない。


 とは言え、私の足でも一泊二日で辿り着けるんだけどね。クレソンさんからは、オレガノ隊長に襲われないように気をつけろと、何度も言われましたとも。大丈夫。以前私とラムズイヤーさんと隊長とで飲みに行った時に聞いた話では、隊長の女性の好みはミントさん寄りなので、私相手では触手が動かないはずです。悲しいことに!


 何はともあれ、こうして私は強行軍の旅へと出発したのだった。


 そして、お城を出て開放感に溢れている私に下った第一の指令。それは――。


「エース、これも訓練の一つだ。走っていくぞ!」


 これ、オレガノ隊長のご指示です。私は涙を滲ませて敬礼。その後は、捕物騒ぎでもあったのかという勢いで王都の繁華街を隊長と共に走り抜け、気づけば目の前には森が迫ってきていたのだった。


 私、もっと王都の景色を楽しんだり、あわよくばお店に入ってランチしたりショッピングしたりしたかったのにぃ……ぐすんぐすん。


 現実は厳しいものだ。

 隊長からの第二の指令「槍を持て!」を合図に槍を小型の魔物に投げて、何とか命中。ホーンラビットだ。それを隊長が慣れた手付きで解体し、私はおえっと吐きそうになるのを我慢。でも出てきた肉塊は美味しそうなピンク色で。こうなってしまえば、私の目にも可愛いウサちゃんではなく、ただの食材になってしまう。レッツ、クッキング!


「できましたよ」

「うむ」


 熟年夫婦の夕飯時のやり取りに近いのですが、これ、野営です。私はディル班長から借りてきた小型のお鍋でシチューを作った。今は初冬。温かいものを食べてぬくぬくしないとね。寒いからって、うっかりオレガノ隊長に抱きつかなければならないような事態になってもヤバいので、私は枯れ葉をたくさん集めてきて寝床を作った。私、もうこの旅は、アウトドアとして楽しむことにする!


「エース、やけに手慣れているな」


 なぜかオレガノ隊長は驚いている。


「もしかしてお前……そうか、そうだったのか。騎士団に来るまでは苦労してたんだな」


 あれ、もしかして、めっちゃ貧乏で野生的な暮らしをしていたと思われてる? 確かに田舎の一軒家に住んでたから、裏山でイノシシが出るとか普通にあったし、コンビニ遠いし、家庭菜園とかやってたけど、ちゃんと電気ガス水道インターネットは完備してましたからね?!

 と説明するわけにもいかないので、必殺「笑って誤魔化すの術」。


 こんなこともあったけれど、オレガノ隊長のご指導にはブレが無い。翌朝も早くから叩き起こされて、目的地に着いたのはまだ朝も九時のことだった。確か、出発前にコリアンダー副隊長からは夕刻にならないと着かないと聞いてたんだけど、あれれ?


 私はオレガノ隊長は、まず村の中へと入っていった。村を守る兵はいないが、騎士らしき人の姿はなぜか多く見かける。けっこう貧しい村なのか、築百年以上は経っていそうなボロい木造ばかり。そんな中、村長宅だけは石造りで、ノックして出てきたのは背が低く、サンタクロースみたいにボリュームたっぷりの白い髪と髭が特徴のおじいちゃん。でも目つきはかなり悪いし、やけに貫禄がある。戸を開けてくれたということは使用人かしら? オレガノ隊長と顔を見合わせていると、おじいちゃんは苛ついた声でこう宣った。


「じゃ、さくっとやっちまってくれ」


 再びあれれ。第六騎士団団長は? すると、オレガノ隊長が突然畏まって膝をついた。


「恐れながら、第六騎士団団長。村長殿にも一言挨拶をしたいのですが」


 マジすか? この方が? 私の困惑は深まっていく。


「儂が村長代行だ」


 団長がさっと後ろを振り返る。すると、奥の方に見えるベッドの頭の部分には白い布が被せられていて、その身内と思しき方がその周りを囲み、涙を流している。私はこの世界における喪の礼儀を知らないので、まずはオレガノ隊長に倣って胸元で手を交差し、故人に向かって頭を下げた。


「エース、これは面倒なことになったぞ」


 オレガノ隊長が、静かに舌打ちをする。


「どういうことですか?」

「結界かけただけじゃ帰れねぇってことだな」


 先日まで元気でピンピンしていた村長が死んだ。そこへ駆けつけた第六騎士団の騎士達。確かに不穏な空気ではある。


「当たり前だ」

 

 第六騎士団の団長さんは不機嫌そうな顔のまま、さらに続ける。


「だから、さっさとやっちまえと言っただろうが。殺しにまで手を出す盗賊はもはや人ではない。魔物と同じだ。お前ら第八騎士団第六部隊にはちょうどいい獲物ではないか」


 あ、やるって、殺るの方だったみたいです。でも、そんなの無理だよ! 魔物は狩ることができる。けれど、人相手にはそんなこと。


「エース、そんなに固くなるな。何もお前が殺すところまでやらなくていい。まずは、捕まえるところまでだ」


 オレガノ隊長はそう言うと、私の首根っこを引っ掴んで村長宅を後にした。



   ◇



 結局私がとった手は、予定通り倉庫へ結界を張ることだった。ただし、トラップ付きの。もちろん『第十五装置』とやらが解除されましたとも。これって、ピンチに陥らないと目覚めない系みたいなんだよね。マリ姫様からは、早くいっぱいクリアするように言われてるけれど、後いくつあるのだろう。クリアする数だけは私は災難に遭わなきゃいけないっていうことなので、ちょっぴり憂鬱なこの頃です。


 さて、私とオレガノ隊長は、倉庫近くの茂みに身を隠していた。倉庫の中には、第六騎士団から村長ご逝去の見舞いという名目で、大量の食糧が運び込まれている。それも騎士達が派手な行列を作って村にやってきたものだから、盗賊達の知るところにもなっているだろう。


「隊長、こんな分かりやすすぎる罠に引っかかってくれるものですかねぇ?」


 盗んでもらうための餌を用意して待ち伏せするなんて、盗賊でもちょっと考えれば分かるようなことだ。そこへわざわざ乗り込んでくる程の馬鹿なんて、なかなかいないと思うのだけれど。


「いや、奴らはやってくる」


 オレガノ隊長の言葉にはなぜか確信めいたものがあった。その根拠はいかに?


「盗賊は、おそらく山一つ越えた所にある別の村が組織立って行っているものだという噂だ」

「随分遠いところから来るんですね。それと何か関係が?」

「それぐらい貧しいってことだ。この季節、南部のこの地域も冷え込みは厳しい。山には森があるが、魔物の巣窟で狩猟も農業もほとんどできないからな。毎年多くの民が飢えて死ぬ」


 そんな死に方……。私は言葉を失ってしまった。なんだかんだで、私がずっとお世話になっていた王都はかなり栄えた場所だった。貧困街もあるらしいけれど、実際にひもじくて倒れている子どもなどは見かけていない。もちろん日本も豊かな国だったし。


「だから奴らは死に物狂いだ。そこに罠があると分かっていても、仲間のうち一人でも生き延びて、村へ食糧を持ち帰れれば良いと考えている。死ぬ覚悟をした奴は強い。エース、お前も覚悟を決めろ」


 覚悟って、何のこと? まさか――。


「隊長、それでも私は殺しはやりません。生け捕りにします」


 そりゃぁ、盗賊がとち狂って私に直接攻撃をかけてくる可能性もある。でも、私は隊長から事情を聞いたからこそ殺人はできない。

 オレガノ隊長は、しばらく私を睨んでいたけれど、やがて静かに頷いた。


「分かった。俺はお前の結界を信じよう」




 そして二日後。ついに盗賊がやってきた。

 朝、村長宅の床で雑魚寝していた私は、オレガノ隊長に叩き起こされる。現場である倉庫へ向かってみると、ものの見事に黒づくめの不審な男達が結界に囚われて身動きが取れなくなっている。この結界、倉庫にある一定距離まで近づくと発動するもので、全身が地面に縫い留められたようになってしまうのだ。事前に勇気ある村人Aさんで練習していたので分かっていたことだけれど、これだけの人数が倒れているのはある意味壮観だな。


「ざっと三十人か」


 オレガノ隊長が呟いた。この結界は、村人か私、もしくはオレガノ隊長であれば誰でも解除することができるようになっている。オレガノ隊長と私はすぐに第六騎士団を呼び、盗賊達を縄でぐるぐる巻きにしてから結界を解くという作業をこなしていった。


 オレガノ隊長とこんなにたくさん仕事したの初めてじゃないかな? 城でもよく声をかけてくれるし、槍の訓練の面倒も見てくれる。少し前には、飲みにも連れてってもらった。でもそれ以外ではどこか遠くから姿を見ているか、指示をもらうかだけだったから、こういうのは新鮮なのだ。


「オレガノ隊長、私は役に立っていますか?」

「お前、今更なこと聞くなよ。役に立つどころじゃない。お前がいてこその第八騎士団第六部隊だ」


 隊長の笑顔にじーんっとしてしまう。

 

 けれど、この誉め言葉に惑わされてはいけない。やはり城への帰り道も馬車ではなく、ダッシュだったのだ! 悲鳴をあげる私の筋肉。これ、女子の許容を超えてます。でも、道中のおしゃべりや野営は何だかんだで楽しかった。


 私の恩人。私の尊敬する大人。私を信頼し、私も信頼できる、頼りになる上司。そして、ずっと私の傍にいて、その立派な背中を見せ続けてくれる男性。それが、オレガノ隊長だ。



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