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60貸しは二つになっちゃった

 ステビアさんは、私に袋を突き出してきた。粉々になった剣の破片をここまで拾い集めるのは、どれだけ大変だっただろうか。それを思うと、急に切ない気持ちが込み上げてくる。ほら、がんばってる男の子ってちょっと応援したくなるじゃない?


 私は、素直に袋を受け取ると、その上に手をかざした。少しずつ、掌に身体中の魔力を集中させていく。


 ステビアさん、何となくウザイところもあるけれど、話してみると案外悪い人ではないと思った。だから、彼を助けよう。私と同じく、アンゼリカさんと仲良くなりたいと思ってる人だし。もしかしたら、良い友達になれるかもしれない。


『第十四制御装置、解除』


 いつものアレが頭の中に響く。


 すると、袋の中にあった銀色の破片達が、磁石にでも引き寄せられるかのように、少しずつ浮かび上がって、私の掌の方に集まってくる。私は彼の剣の外見を必死で思い出しながら、集中力を途切らせないように息をするのも忘れて、魔力を流し続けた。やがて、集まった銀色が一瞬液体になったかのように溶け合って複雑なうねりと共に混ざり合うと、強く白い光を放つ。


 よし、後もう少し。


「この剣が、ステビアさんを守り、ステビアさんの力を遺憾なく発揮してくれますように」


 祈りを言葉にして、魔力と共に剣に刻み込む。

 次の瞬間、剣の形をした光る物体は突然空高くひとりでに舞い上がり、そして、真っすぐステビアさんの足元に落ちてきた。


 地面に突き刺さった刀身。

 その凛とした佇まいに、同じくキリリと表情を引き締めたステビアさんの顔が映りこむ。


「奇跡だ」


 呟くステビアさん。


「私、天才ですから」


 私は、にっこりほほ笑み返す。ま、転移チートが凄いのであって、実際は普通の人なんだけどね。


「これで……再戦できるな」

「はい。でも、勝つのは私ですよ」

「何だと?!」

「その剣を白の魔術でコーティングして創造したのは私。創造主が、それに負けるはずがありません」

「ふはっ!」


 ステビアさんは、壊れたオモチャみたいに笑いだした。もしかして、厨二っぽいこと言いすぎて呆れられちゃったかな? 私もつられて笑いだす。


「今度、一緒にアンゼリカさんの御屋敷行ってみます?」

「いいのか?! って、そんな恐れ多い……いや、ちょっと待て! お前、もしかして常連なのか?! あのお方にお前みたいな虫がつくなど許せない。やはり俺がアンゼリカ副団長を守らねば!」


 たぶん、ステビアさんよりもアンゼリカさんの方が強いので、心配ありませんよ。と言うわけにもいかないので、お友達になった記念に良いことを教えてあげることにした。


「ステビアさん。あなたは約束を守れる人ですか?」

「いきなり何だ?」

「私は今から、とても良いことを教えてあげます。ただし、もしこの話を他人に言ってしまったら、あなたの家宝の剣はもう一度……」


 私が、ジェスチャーで「粉々」を表現すると、ステビアさんは顔を青くする。


「そんな面倒なこと聞きたくないぞ」


 まぁまぁ、そんなことを言わずに聞いてくださいな。

 私は、彼の耳元で囁いた。


「私、女の子なんです。アンゼリカさんとは、普通の女友達なんですよ」


 ステビアさんは、へなへなとその場に座り込んだ。


「エース、これで貸しは二つだ」

「一つは剣で、もう一つは?」

「いや、知らないとは言え、青薔薇祭では思いっきり殴って悪かったな」


 あ、なるほど。ステビアさん、女の子に乱暴してしまったことを気に病んでいるのか。良いとこあるじゃない!


「あれは闘いの上でのことです。気にしないでください」

「ま、お前もアレだ。いろいろ大変だろうから、何かあったら頼ってくれていいんだぞ」


 ステビアさん、何か顔赤くない? でも今は見ないフリをしておくのが淑女というものだろう。私は素直に礼を告げた。


「ありがとうございます」



   ◇



 この日の仕事は、青薔薇祭の観戦のために滞在していた貴族達が城から出ていくのを見送るばかりで、時間がどんどん過ぎていった。やはり、優勝したクレソンさんは大人気で、たくさんの人に握手を求められていて、自分のことのように誇らしい気分になる。


 そして空が暗くなり、夜勤の人と交代の時間になった。


「クレソンさん、戻りましょう」

「そうだね。エースとは今夜、ちょっと()()しないといけないしね」


 あれ、クレソンさんの目が笑っていない。


「今朝、第七の騎士と仲良くしていたそうだね」


 仲良くというか、剣を修理していたというか。ん……もしかして、クレソンさん妬いてる?!

 彼はその絶妙な笑顔と言えない笑顔でこちらへ接近してくると、私の両肩に手を置いた。


「僕は、寂しいな」


 そのまま抱き抱えるようにして寮へお持ち帰りされた私。道中の皆さんからの視線が生温かいの何のって! 百歩譲って、女だとカミングアウトしている状況だったならば、まだ耐えられる。でも私、男の子だと思われてるんだよ?!


 そして荒いざらいステビアさんとのやり取りを吐かされた後、昇天しそうにるまでスキンシップ攻撃を受けたのだった。


「もう、無理」

「エースは自覚が足りない。こんなに可愛い顔してたら、どんどん女の子だと知る人が増えてしまいそうだよ」

「それは困ります」


 喋りながらキスできるって器用だな。私は息継ぎのタイミングが分からなくて、呼吸が浅い。


「この前の夜会だって、あのまま僕がどこかへ攫っていきたかった。知ってる? 騎士達がみんなエースのこと見てたんだよ。こんな素敵なお嬢様なんて知らない。誰も手を出さないんだったら、自分がって、誰もが考えていたんだ」

「そんな大袈裟な」

「ううん、これは本当のこと。皆隠した牙でこの柔肌を傷つけたくてたまらなかったんだ」


 クレソンさんが、私の首の付け根をカプリと噛む。地味に痛い。


「クレソンさん、これぐらいすれば、もう満足なんじゃないですか?」

「ううん、まだまだ足りない。エース成分がもっと欲しい。」


 何その成分。不味そうなんだけど。


「じゃないと、エースがまたどこかへ行ってしまいそうで不安になる。エースは僕のものなのに」


 クレソンさんの声が、切なげに響いた。


 さて。前置きはかなり長くなったけれど、未だ私は甘々モードのクレソンさんの膝の上だ。あの手この手で逃げようとしているのだけれど、百戦錬磨の美男子には敵わない。こうなったら少し真面目な話でもして、この恋愛脳の人を正気に戻すしかないだろう。


「そういえば、クレソンさんと戦った第五騎士団の人って、あれからどうなったんでしょうね」


 クレソンさんが一瞬真顔になる。これは、何か知ってるな?


「エースはそんなこと気にしなくていいよ」

「クレソンさん、いいんですか? 今から教えてくれなかったら、私は自分で動きますよ? また他の騎士さんと仲良くなっちゃうかもしれませんね」

「それは駄目だ! ちゃんと僕が説明するから!」


 クレソンさんの必死っぷりが物凄い。青薔薇祭で黒の魔術を目の前にしても表情一つ変えなかった人と同一人物なんて思えない程の狼狽えぶりだ。


「私も、本当はクレソンさんから聞きたいんです」

「分かった」


 すると、クレソンさんの雰囲気が一変する。声を落として伝えてくれたことは、私が全く想像していなかったことだった。


「実はね、あの騎士、ソレルはもう退団したんだ」



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