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52受け継いじゃった

 壁際にいたカモミールさんは、静かにこちらへ近づいてきた。シンプルな紺色のドレスのポケットから白いハンカチを取り出して、目頭を押さえている。


「おめでとうございます」


 カモミールさんの視線の先には、クレソンさんがいた。クレソンさんの顔つきがふっと凛としたものになる。ここ、マリ姫様の豪華なお部屋をバックに立つと、一気に気品溢れる王子らしい佇まいになった。


「ありがとうございます、お祖母様」


 え、今クレソンさん、何て言った?


「ふふふ。驚いたか、救世主よ。儂はただの婆ではない。紛れもなく先代王の妃であった者よ」


 あちゃー。それって、つまりめっちゃ偉い人じゃん! 異様に威厳がある人だなと思ってたけど、王族だったなんて。私ったら侍女の中で一番偉い人と思い込んでたから、ずっと軽いノリで振る舞ってたよ。


「そこまで畏まることはない。今の儂は侍女だと思えば良い」

「でも、なぜ」

「夫亡き今、無闇に権力を振りかざし、後宮で退屈に過ごすことが性に合わぬからだ。それに、こうしておれば可愛い孫の側に四六時中ついておれるからの」


 カモミールさんは茶目っ気たっぷりに笑う。


「して、クレソンよ。随分と見違えたぞ」

「ありがとうございます」

「エースを見出し、我々ハーヴィー王家の味方につけたこと、大義であった。顔付きも以前とは全く違っておる」

「大切なものを見つけました」

「そのようじゃな。エースを未来の王妃に据えるつもりなのであろう?」

「はい」


 えっと、ちょっと待って。私はびっくりして、立ち上がって一歩前に踏み出した。


「あの、クレソンさん」


 クレソンさんの本気度は、前から分かっていた。でも、彼を好きになって、両想いになることイコール王妃だとは、全く気づいていなかったのだ。


「エース、僕は王子として復帰したい。そして王になる。だから、君には将来王妃になってもらいたいんだ」


 うん、そうなるよね。ちょっと考えれば分かることなのだけど、しばらく前までは騎士どころか、普通の日本の女子高校生だった私には、なかなか理解が追いつかない。


 クレソンは私をそっと抱き寄せて、耳元で囁いた。


「エース、駄目かな。僕はエースじゃなきゃ嫌だ。エースがいるから、何事もがんばれるんだ。エースだからこそ……」


 あー、お願いだから、こんな大勢の前で糞綺麗なお顔を近づけて口説かないでください! 羞恥で死ねる。


「んぁぁあ! もう分かりました!」


 もう悪足掻きはよそう。私は転移してからというもの、偉い人ばかりと関わっている。きっと私が王妃っていう偉い人になってしまうのも、そういう運命なのだ。


「私でよければ、王妃にしてください」

「良かった」


 クレソンさんは、心底ほっとした表情をしていた。そんなに心配しなくても、私は逃げも隠れもしないのにね。クレソンさんはまだ少し不安げに私を見つめていたけれど、はっとしたようにカモミールさんへ向き直った。


「お祖母様、一つお願いがあります。エースが僕のものだと分かるような印をいただけませんでしょうか」

「アレのことだね」

「そうです。アレです」


 カモミールさんが別の侍女さんを彼女の自室へ遣って、数分後。


「これは?」


 カモミールさんは、私に小さな小箱を差し出していた。箱の中には、仄かに白く輝く小石をトップスにした、白銀のチェーンのついたネックレスが入っている。


「代々の王妃が受け継いでいる国宝の一つ。通称『守りの石』じゃ。王妃が失踪した際、城に残されていた故、これまで儂が管理していたのじゃ」


 私は、はっとして顔を上げた。

 あまりにも既視感のある、この白い輝き。そして『守り』という言葉。これは、もしかして――。


「これはな、遠い昔、『救世主』と呼ばれた女性が王家に嫁ぎ、この国の王妃となった際に作ったものじゃ。これを身に着けておれば風邪も引かぬし、毒にも耐えられる。そして、余程の攻撃でなければ、その者は傷つけられることもない。本当に、どこぞの者とよく似た力を持っているとは思わぬか?」

「結界や治癒の力は、過去の『救世主』も持っていたのですね」

「それだけではない。『救世主』は、我々には無い知識も豊富じゃった。今ではかなり廃れてしもうたが、お主が広めているという米だけでなく、様々なものをこの世にもたらしてくれたと言われておる」


 なぁんだ。米も救世主と関係していたのか。つまり、前の救世主も日本人だったのかな?


 カモミールさんは、私の手にネックレスをしっかりと握らせた。


「エースよ。お主は今後、どんな素晴らしい事をもたらしてくれるのであろうな。儂は楽しみでならぬ。王妃となった暁には、お主もそれ相応の権力を持つことができよう。それを上手く使い、ハーヴィー王家とハーヴィー王国を発展させてほしい」

「はい」


 私は、カモミールさんの気迫に慄いて、控えめに頷いてみせる。


「あの、カモミール様。実は早速考えていることがあるのです」

「何じゃ。言ってみよ」

「このネックレスは、ある種の魔道具ですよね。それも、白の魔術の。私はこれをさらにランクアップさせたような物を作ろうと思っているのですが、まだ作り方がよく分からなくて。このネックレスはどうやって作られたか、ご存知ありませんか?」


 カモミールさんは、視線を天井に向けて、ちょっと考え込むような顔になった。


「代々の王妃に受け継がれている話では、大雑把なことしか分からぬのじゃ」

「それでもいいです。教えてください」

「うむ。先々代王妃の話では、救世主自身の魔力が結晶化して石の形になっているそうじゃ。そして、当時の王、つまり救世主の夫となる人物への強い想いが込められると聞き及んでおる。当時はこれと同じものが二つあり、一つは王が持っておったのじゃが、長い歳月のうちに失われてしもうての」


 つまり、魔道具作りには、魔術と同じでイメージや気持ちの強さが大切ということなのかも。これは大きなヒントになりそう!


「なるほど。ありがとうございます! では、魔道具研究をする間、このネックレスをお借りしてもいいですか?」

「何を言っておる。もう今この時より、その国宝はお主のものじゃ。そして、それを受け取った限りは、もはや王妃の座から逃げることは叶わぬ」


 国宝。王妃の座。うっ、重いよ。何なんだ、この外堀から埋められていく感じは。クレソンさんに目をやると、彼も視線で「逃げられないよ」と言っていた。思わず乾いた笑いが出てしまったのは許してほしい。


 こうして私は、様々なものを受け継ぐことなってしまったのだった。


 さて、王家に関わる大切な話がてんこ盛りだったけれど、そこに王の姿が無いのってどうなのだろう。ちょっと微妙な気持ちになったのは私だけかな?



   ◇



 その後は、クレソンさんがカモミールさんと話すことがあるというので、私だけ先に第八騎士団第六部隊へ戻ることに。ネックレスのこともあるし、直接北門へ戻らずに、先に隊長室へ顔を出した方がいいかな? ということで城内を歩いているのだけれど、実は私一人ではない。


「ラベンダーさん、今日は何となく可愛らしいですね」


 って、せっかく褒めてあげたのに、一瞬のうちに鬼の形相になっちゃったよ。


「どうせ年増で、行き遅れで、自立しすぎてて、可愛げなんてありませんよーっだ!」


 ラベンダーさんとは、私がマリ姫様の部屋へ行く度に気安い関係になってきている。私としては、少し年上の姉ができたような気分なのだけれど、彼女は未だに私と変なところで張り合い続けていて面白い。


「そんなことないと思いますよ。少なくとも、おっぱい大きいし、腰細いし、教養はあるし、お作法も完璧だし。ただ、顔がちょっと地味なだけですよ」

「分かってるわよ、そんなこと!」


 あはは。また怒らせちゃったか。でもね、地味顔に見えるのは、周りの人、特にマリ姫様が美少女すぎるからだと思う。カモミールさんもお年を召しているけれど、とても美しく歳を重ねている方だしね。そんなのと比べちゃいけない。ラベンダーさんも街を歩けば、そこそこイケてる方だと思うのだ。


「で、なんで私と一緒に騎士団へ行くことにしたんですか?」

「そ、それは……エース様が道中危険な目に遭わないように私が……」

「私は一応騎士ですし、侍女さんに守ってもらわなくても大丈夫なんですけど」

「うっ」


 ラベンダーさんは俯いてしまった。ほら、可愛い。彼女の用事は薄々気がついている。彼女の手には、クッキーが入った籠があるのだ。これを想い人であるオレガノ隊長に差し入れしたいのだろう。


「隊長、きっと喜びますよ。基本的に女っ気ない方ですし、こんな差し入れしてもらってるところなんて、私は見たことありません」

「え、そうなの? 脈あるかしら?!」

「たぶん」


 確かオレガノ隊長も、ラベンダーさんをいやらしい目で見ていたぐらいだから、余程のことがなければ上手くいくんじゃないかしら? と思いつつ、何があるか分からないので笑って誤魔化しておく。ラベンダーさんは、ポッと頬を染めた。


「あのクールな横顔。凛とした佇まい。私、思い出すだけで胸が苦しくなってしまって」


 ん? それ、本当にオレガノ隊長? ちょっと訝しく思いつつも、私は隊長室の扉をノックした。


「入れ」


 あ、オレガノ隊長の声が返ってきた。私はドアを開けて、中へ入って行った。すると――。


「あ、あの、私、姫様付きの侍女で、ラベンダーと申します。これ、作ってきました。よかったら召し上がってくださいませんか?!」


 ラベンダーがすっ飛んでいって、一気にまくしたてたその相手。それは、オレガノ隊長ではなく――。


「うむ。もう少し甘さが控えめな方が私の好みだ」


 え、コリアンダー副隊長?! しかも、早速クッキーつまみ食いしてるし! ラベンダーさんは、にっこりとほほ笑んだ。


「かしこまりました。オレガノ隊長様」

「ん?」

「は?」

「え?」


 一瞬、静寂に包まれる隊長室。ヤバい。これ、誤解を解く役目は私はしかいないよね?


「あの、ラベンダーさん。どうやら、あなたが想いを寄せているのは、コリアンダー副隊長みたいです」


 すっごく言いにくいけれど、ちゃんと訂正しておかないと。


「え……コリアンダー副隊長?」

「そうです」

「そうだ。私はコリアンダーだ」


 ラベンダーさんは私の方を向いて怒った顔をしたのも束の間。コリアンダー副隊長に急接近していった。


「あ、あの、私、また会いに来てもいいですか?!」


 ラベンダーさん、積極的すぎ。きっと過去は、これで失敗し続けてしたのに違いない。うん、絶対にそうだ。いつもクールなコリアンダー副隊長でさえ、ちょっと狼狽えてるもん。


 でも、ここからは誰もが予想しなかった事態になる。


「お前は貴族か?」

「はい。伯爵家の長女です。家は兄が継いでおりまして、親王派です」

「良いだろう。では、結婚しよう」

「え?」


 この時ばかりは、部屋の隅で書類仕事をしていたリンデンくんでさえ、驚いた顔をしていた。そりゃそうだよね。オレガノ隊長以上に女っ気がなく、しかも女性に全く興味がなさそうな堅物のイメージの彼が「結婚」って言ったんだよ!


「あ、あの、それ本当ですか?」

「こんなことで冗談を言ってどうする? 私もいい加減身を固めねばならない歳だ。お前ならば私と歳もさほど離れていないし、自立した女性は手がかからなくて楽ができる。しかも、親王派ときた」


 コリアンダー副隊長の口調は、すっかり普段通りのものだ。


「私が姫様付きであるお前と結婚すれば、姫様がどちら側の人間なのかがはっきりする。すると、式典でマリ姫様贔屓になった国民は、宰相のことをどう思うだろうな? そして、我々の味方が増えるとは思わないか?」


 コリアンダー副隊長は、いつの間にかラベンダーさんにというよりも、私やオレガノ隊長に向かって語りかけていた。うん、副隊長の話はご最もだと思う。でも、そんな夢も希望もない政治的判断でお嫁さんにされるなんて、ラベンダーさんは悲しくないのかな? と心配していた私が馬鹿だった。ラベンダーさんは、感動したかのように瞳を潤ませて、顔を真っ赤にしている。


「コリアンダー副隊長様、ありがとうございます」

「コリアンダーで良い。夫婦になるのだろう? 役職名はいらぬ」

「コリアンダー……様」

「これでお前の希望通り、いつでも会えるぞ」


 何、この急激な甘々展開は! 


 私が恐る恐る視線をオレガノ隊長に向けると、ばっちり目が合ってしまった。


「エース、お前は責任持って、今夜俺に付き合え! 飲みに行くぞ! ほら、そこの扉の影で聞き耳立ててるラムズイヤーもだ!」


 え、いたの?! 気づかなかったよ。


「その前に城の周り百周して来い!」

「えー?! もうこれからは、人に名前を教える時には間違えないように気をつけるので、勘弁してくださーい!!」


 と言いつつも、反省のために進んで十周だけ走った私であった。


 そして夜。私は初めてオレガノ隊長に連れられて、飲みに行くことになる。



オレガノ隊長、ごめんよ。(作者、心の声。)







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