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50魔道具について教えてもらっちゃった

謹賀新年。


今年もよろしくお願い申し上げます。




 槍の練習を始めてから、私の体つきは随分変化してきた気がする。痩せたというよりも、たくましくなって、引き締まったというか。それから喜ぶべきことに、胸が大きくなった気がする。目指せ、ミントさんレベル! って、それはさすがに無理か。


 青薔薇祭に向けての準備は、だいたい順調だ。

 私はアンゼリカさんのご実家でドレスのデザインを決めた。いや、私は流行とかよく分からないから、決めていただいた。後は仕上がりを待つばかりとなっている。たぶん、ドレスってすっごく高いと思うのよね。出世払いでいいですか?ってアンゼリカさんのお母様にお伺いしたら、ほんのお近づきの印として貰ってくださいなんて言われてしまった。アンゼリカさんも、ぜひ!と言ってくれるけど、未だにこの辺のお貴族様的価値観が理解できない私です。


 さて、槍の練習も順調ですよ! アンゼリカさんに言わせれば、隙しかないから、目を瞑っていても倒せるとのことだけど、私的にはこれでも成長してきたのだ。今の私は、どうしても動きを頭でいちいち考えてしまうから、何も考えなくても直感的に相手の動きに対応していけるぐらい、経験を積む必要がありそうだ。もうすぐタラゴンさんが王都にやってくるらしいから、彼にも稽古をつけてもらおうかな。実はまた手紙が来たのだ。なんでこんなに気に入られているのだろう。意味不明。


 さて、青薔薇祭は、役職についていない平の騎士だけに出場権がある。てか、強制的に出される。つまり、役職付きの人は、現在そこまで忙しくないというわけだ。


 ってことで、やってきました隊長室! 本日はコリアンダー副隊長と魔道具のことで相談する約束になっている。


「コリアンダー副隊長、そもそも魔道具って、どういうものなのですか?」

「そこから話さねばならないのか。君に渡した本にも書かれてあったはずだが?」


 最近は槍の練習ばかりで、すっかり魔術の本はご無沙汰になっているのがバレてしまった。コリアンダー副隊長はやれやれという顔をしながらも、早速説明をしてくれる。


「魔道具とは、ある一定の魔術を誰でも行使できるように仕込まれた道具の総称のことで、大抵は魔力を流すだけで発動するものだ。例えば、青の魔術が使えない者でも、青の魔術が仕込まれた魔道具は扱うことができる。一般的に、己の力量を補佐するための便利な道具だな」


 んー。私としては、魔道具と言えばキッチンにある様々な調理器具のことを思い出してしまう。だから、何となく家電っぽいイメージなのよね。家電は魔力ではなく電気で動くものだけれど、人の手でアナログに行えば時間がかかるものや、コツがいるものも誰でも簡単ににできるという意味では同じ。やっぱり、ちょっと似てるよね。


「だいたい分かりました。では、ずばりお尋ねします。私でも魔道具は作れますか?」

「それも、あの本に書いてあったはずだ」


 重ね重ね勉強不足ですみません。私の苦笑いで全てを悟ったコリアンダー副隊長は、呆れながらも教えてくれた。


「魔道具作成の基本は、まず核となるものを決めて、それに自らの魔術を注ぎ込むことが基本だ。つまり、作成する術者には、その魔道具と同じか、それ以上の力が必要とされる」


 核となるものは、何でもいいそうだ。例えば武器でも良い。ちなみに、私の槍は既に魔道具化しているそうだ。通常は、魔術を物に定着させるための呪文を唱えながら、無詠唱で道具に込めたい魔術を展開するという工程になるんだって。私は無意識にやってたけどね。


「物が魔道具になると、どこかに細かな魔術文字が刻まれることになる」


 コリアンダー副隊長は、さりげなく私の槍を手に取ると、くるくる回してチェックしてくれた。


「ここだ」


 確かにあった。ちょうど握り手の辺り。手で隠れてしまう部分だから、なかなか気づけなかった。しかも、ミジンコかミミズを散りばめたような極細の文字なので、ただの模様か傷にしか見えない。


「コリアンダー副隊長、これが魔道具の動きを決めるプログラムコードになるならば、この魔術文字を他の物に書き加えると同じ魔道具になったりしないんですか?」

「プログラムコード? 君にしてはまともな質問だな」


 あ、すみません。そのワードは現代日本のものでした。でも何となくの意味は分かってくれた様子。


「君の言う通り、この文字を別の物に書き換えるということは、はるか昔から行われてきた。だが、効果はオリジナルの千分の一から百分の一ぐらいまでに低下してしまうことが分かっている」

「それじゃぁ、魔道具とは呼べないレベルですよね」

「その通り。しかし、これは悪いことばかりではない。もし危険な魔道具が世の中に登場したとしても、簡単に複製されて拡散される心配が少なくなる。しかも、魔道具を作成することを生業とする者達の技や利益が守られることになるのだ」


 なんだか難しい話になってきたな。とにかく、簡単に魔道具は量産できない理由はここにあるんだろうね。コリアンダー副隊長によると、高価な魔道具になればなるほど、作成には大量の魔力と上級の魔術の組み合わせが必要になるらしく、誰にでもできるものではないらしい。


「というわけで、エース。君はどんな魔道具を作りたいのだ?」

「私が使える魔術は、ご存知の通り白の魔術だけです。ですから、作るとなれば、その魔道具を持つ人の安全を守るためのものになります」


 要するにお守りだよ! と言いたいけれど、お守りの意味が通じる自信がなかったので自粛。


「それは、かなり高価な魔道具になるだろう。もし作れたとしても、容易に人に渡してはならない。必ず、巡り巡って君の利益となるような人だけにしなさい」

「私は、いつもお世話になっているので、クレソンさんに渡したいと思ってます。もちろんコリアンダー副隊長やオレガノ隊長にも」


 コリアンダー副隊長は、驚いた顔をしていた。


「私はコリアンダー副隊長から杖をいただきましたので、そのお返しがしたいんです。おそらく隊長と副隊長は、この国で一番危険な仕事をしている人だと思いますので」

「そんなことを考えていたんだな。皆がそのような志をもって、魔道具と向き合っているのならば、世の中は平和になるのだが……」


 コリアンダー副隊長はどこか思いつめたような顔をしてしまった。もしかすると、以前彼の実家の屋敷で一時的に囚われた時のことを思い出したのかもしれない。確か、魔術を無効化する魔道具だったと思う。


「コリアンダー副隊長。私は魔術に頼らなくても生き抜けるように、槍の練習をがんばっています。でも、私の強みも活かさなくちゃ、もったいないと思いまして。もし、守りの魔道具が完成したら、受け取ってくださいますか?」

「あぁ。ありがたく受け取ろう」


 意外にも素直に頷いてくれた副隊長。それだけに、彼は今も身の危険を感じながら生活しているのではないかと勘ぐってしまう。できれば早い目に完成しなくちゃいけないな。


「でも副隊長、いずれは私、森の近辺に住む人にも守りの魔道具を広めたいんです」

「魔物除けということか?」


 その通り。はじまりの村は、お米のために村全体を結界で覆うことができたけれど、他の地域には何もできていない。できれば、守りの魔道具を安く流通させて、皆が安全に国中を行き来できるようになってほしい。


 これを話すと、コリアンダー副隊長はオレガノ隊長のように頭を撫でてくれた。


「エース、ならばもう一つの効果を道具に付与してみないか? 君は西部のダンジョンで、治癒効果のある結界を張ったらしいな」

「ご存知でしたか」


 でも、あれは無意識にやっていたものなので、もう一度できるかどうかは分からないのだ。


「おそらく治癒の力は、白の魔術の延長線上にあるものなのだろう。守りとは、外敵からだけではない。内なる憂いを取り除くという意味で、体の不調を取り除くことができるのだろうな」


 なるほど。そう考えれば納得できなくもない。私は単に転移に関係するチートなのかもと思ってたけど、治癒も白魔術の一種なのかもしれないね。


「エースが結界だけでなく、治癒までできるとなると、ますます君の価値は高まってしまう。つまり――」

「私はさらに危険に晒されることになるんですね」


 コリアンダー副隊長は渋い顔をして頷いた。素敵な能力を持てることは嬉しいけれど、大変なこともどうしても増えてしまう。どうしてこうなっちゃうんだろうな。


「だからエース。君を守るためにも、その新たな魔道具は必要だ。まずは量産なんて考えなくていい。確かな効果があるものを数個作って、絶対に信用が置けるものだけに配れ」

「はい」


 そっか。コリアンダー副隊長は、自分のことではなく、私のことを考えてお守りの魔道具を欲しがってくれていたのか。勘違いしていた自分が恥ずかしいやら、嬉しいやらで、私は言葉を失ってしまった。

 

 コリアンダー副隊長との面会はここまでだった。ディル班長には、最近魔物もあまり来なくて暇だから、魔道具研究に時間を割いてもいいと許可をもらっているし、副隊長の話を参考にもう少し一人でがんばってみようかな。


 今私の中で困っているのは、通信の魔道具についてだ。安全や治癒の力は、そのうち何とかなりそうな気がする。でも、通信に関してはクレソンさんですら聴いたことのない魔術だ。となると、誰かに付与してもらうこともできないから、まずは自分で使えるようになるしかない。


 あぁでもない、こうでもないと頭を捻っていたら、あっという間に夕飯の時間だ。私は食堂に向かって、いつものようにお盆を手に取ると、長蛇の列の最後尾に並んだ。さーて、今夜は何を食べようかな? もちろん、自分のキッチンで自炊することもあるのだけれど、やっぱり人に作ってもらったものを食べるのも好きなのだ。


 そこへ、調理場から一人の女性がこちらへ向かって駆けてきた。


「エースって、お前さんだよね?」

「はい、そうですが」


 食堂のおばちゃんが、私にご用?


「あんただろ、米っていうのを流行らせてるのは。姫様のお披露目式典以来、城下では一大ブームになってるよ。って言っても、口にできるのは、ほんの一部のお貴族様だけさ。後は、あの日、ふるまいで米にありつけた貧民街のおチビちゃん達だけさね」

「え? もうそんなことになってるんですか?!」

「あら、当の本人は何にも知らないのかい? 食べたのはおチビちゃんだけじゃない。けっこうな偉いさんもたくさん召し上がったって話だよ。白くてツヤツヤしていて、噛むと甘みもある。しかも、どんなオカズでも合うらしいねぇ」

「はい」


 私は、おばちゃんの勢いにタジタジだ。


「私も早く食べてみたいよ。噂じゃ、はじまりの村でもうすぐ収穫できるって話らしいね。きっと相当な高値でしか出回らないんだろうよ」


 え、もう収穫? あれから一ヶ月も経ってないのに、もう? 


「これを見て、他の村でも米の栽培は始まってるんだとさ。庶民も食べられるようになる日も近いかもしれないね。って、いけない! あんたには聞きたいことがあったんだ」


 おばちゃんは、ポンと手を打って、私の肩を引っ掴んだ。


「それがね、姫様も米がお好きらしいんだ。で、そのオカズになるものを作ってくれって、姫様から食堂に依頼が来たのさ。こういうのは普通、城の中の王家直属の調理師が作るものなんたけど。おかしいよねぇ」


 おばちゃんは、食堂にお声がかかったのが余程嬉しかったのか、ガハハと豪快に笑う。


 その通りだ。確かにおかしい。これまでだったから、マリ姫様から私に直属ランチを作れだとか、命令が下っていたはず。でもそういえば、最近は脳内通信もやっていないし、すっかりご無沙汰。私の頭の中は、クレソンさんと青薔薇祭でいっぱいになっていた。マリ姫様、ちょっと疎遠になってたから遠慮してるのかな。忘れたつもりではなかったのだけれど、結果的にそうなってしまっている。私は心の中で、マリ姫様というよりも衛助に向けて「ごめん」を繰り返した。


 私は食堂のおばちゃんとのお喋りはそこそこにして、そのまま食事を摂ると、騎士寮へ戻った。すると、一通の手紙が届いてるではないか。またタラゴンさんだったら嫌だなぁと思いながら開封してみると――。


「マリ姫様からだ」


 それは、クレソンさんと私宛に姫様から送られた、お茶会の招待状だった。

 なぜか、お腹が痛くなる予兆を感じた。



次はマリ姫様とのお茶会です。

作者的には、重要回になる予定。




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