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40魔術で面白いことしちゃった

更新が遅くなってごめんなさい。

12月は少し頻度が落ちますが、週3更新ぐらいを目指してがんばります!

 午前中は嵐のように過ぎ去って、いよいよ城の敷地内に人々が入ってきた。私はマリ姫様が姿を見せる三時直前まで北門にいるはずだったのだけれど、現在ヘルプで南門の仕事をしているところだ。


「エース、こっちにも頼む!」

「はい、すぐ行きます!」


 私は南班の先輩の方へ走り出した。


 今日は南門を完全に開放しているので、案の定たくさんの人が城にやってきた。バルコニー前の広場は既に老若男女でごった返している。日頃立ち入ることができない場所に入れるとなると、マリ姫様に興味が無い人でも一度は来てみたくなるのだろうね。となると、溢れ出した人々が立入禁止の場所にまで雪崩込んでくることもあるわけで。そこで私の出番だ。


「ここですね」

「そうだ。さくっとやっちまってくれ」


 南班の先輩は腕を広げて、酔っ払った風のオジサン達を抑えてくれている。今日は王都中がお祭りムードなので、門の前にもたくさんの屋台が並んでいて、昼間から飲んでいる人も多いのだ。


 私は慌てて魔力を手に集めると、一気に解き放った。すると、あら不思議。騎士など、お城の関係者は通れるのに、一般人は通り過ぎることのできない結界の壁が完成だ。


 初めは、誰も通れない結界をあちらこちらに築いて対策していたのだけれど、いつものアレ、制限装置(リミッター)解除(クリア)されたので、入れる人を振り分けられるというハイテクな結界が作れるようになったのだ。こんなに真っ当な形で結界が仕事に役立ったのは初めてなんじゃないかな? ちょっぴり嬉しい私です。


 そうこうしているうちに、マリ姫様を一目見ようと集まる人々はぞくぞくと増え続けた。辺りは熱気で噎せ返り、城に入りきれなかった人々が南門前から続く大通りをかなり遠くまで埋め尽くしている。時刻は、ようやく午後三時を迎えようとしていた。


 マリ姫様、こんなにたくさんの人が集まってきちゃって緊張していないだろうか。昨日は久しぶりに「ランチを作れ」とのお達しがあり、まだ残っていたドラゴン肉の唐揚げなどを振る舞った。その時に、「姫乃、楽しみにしとけよ?」とニヤニヤしながら言われたことが、少し気になっている。すっごい金ピカなドレスでも着るのかな?


 こんなことを聞いてしまったので、私もちょっと皆を驚かせるようなことをしてみよう。先輩騎士の目を盗んで、こっそり南門の横にある塔に登る。城を敷地ごと覆う結界にそっと手で触れてみた。今の結界は、当初のものよりも透明になっていて、よく見ないと在るかどうか分からないぐらいの存在感。これに今から命を吹き込む。

 塔の時計が三時の刻を告げた。

 マリ姫様のお披露目が成功しますように。そんな祈りを込めて、私は結界に白い魔術を浸透させていった。


 みるみるうちに淡く光り始めた結界。それ自体が生きているかのように、光はうねりをもって強くなったり弱くなったりしている。その勢いが少しずつ増して、光のウェーブが城壁の上から、空高く城の天辺を目指して伸びていく。ついに天辺にたどり着いた時、パンっと花火のようにそれらは霧散した。


 広場から大きな歓声があがる。

 と同時に、ファンファーレが辺りに響き渡った。


「ハーヴィー王国第一王女ローズマリー様のおなり!」


 この世界にも拡声器のようなものはあるらしい。人々は一斉に城のバルコニーの方を見上げた。私はそのまま塔の上からマリ姫様の登場を待つ。


 すると、数秒間を置いて、バルコニーの辺りにグリーンの人影が出てきた。結い上げた黒髪に、雪のように白い肌。マリ姫様だ。


 マリ姫様は堂々としたふるまいで前の方へ進み出てくると、ゆったりと辺りを見渡す。人々がその美しさや神々しさに息を呑む様子が、塔の上からははっきり見えた。


「皆様、はじめまして。私が我が国の第一王女ローズマリーです」


 この時点で、バルコニー前広場の最前列の人々が気絶し始める。さてはマリ姫様、あざとく笑顔を振りまいたな? 彼らは三日前の夜から南門で行列を作っていたという猛者達なのに、肝心の場面で倒れてしまうなんてお気の毒。でも、彼女が声を発した瞬間、確かに世界の空気が柔らかくなった気がするのだ。彼女から遠くにいる人も含め、誰もが、可憐な姫様の存在感とお声に恋をした瞬間、事件は起こった。


「今日は、私は皆様にお知らせがあります」


 お知らせ? ざわめきが広場から大通りへと広がっていく。


「私は、世界樹の次代管理人です。昨今活発化している魔物の問題、農地での実りが少なくなっている問題など、遠からず解決することをお約束します。そのために、皆様には……きゃっ!」


 マリ姫様が倒れた。いや、それにしては不自然だった。急に姿が見えなくなったのだ。疑問をもつ者は私だけではない。広場中が、もう一度姫様を出せ、姫様はどこへ行った?などと声を上げ始める。次第にそれは怒りに変化していき、もう収集の見込みがないのではないかと不安になり始めた頃、宰相の声が響き渡ったのだ。


「本日はローズマリー様のお加減が急変したため、生誕式典はこれにて終了する」


 宰相め……! ここで彼が出しゃばってきた時点で、私からすれば彼が黒だ。これまで、マリ姫様が世界樹の次期管理人であることは、ずっと秘密にされてきた。それがこのような場で知れ渡ってしまったことから、焦りが出たのかもしれないな。


 噂では、アルカネットさんが世界樹システムを信じていなくて、王家の血筋を滅ぼそうとしているとされている。でも本当の黒幕は宰相だ。彼は確かに国を乗っ取るつもりのように見えるけれど、その一方でマリ姫様を溺愛している。王家を滅ぼすためには、いずれマリ姫様にも手をかけなければならないのに、どうしてあんなに慈しんでいるのだろう。私は、辻褄の合わない宰相の行動が分からなくなってきた。彼が本当にしたいことは、何なのだろう?


 すっかりマリ姫様贔屓になった人々は、不穏な空気を纏いながら少しずつ城の敷地から帰っていく。中にはマリ姫様の名前を呼びながら暴れる人もいたけれど、すべて騎士達が取り押さえていた。何だかすっきりしない式典だったな。


「エース、どこ行った? 南門で人員整理するぞ!」

「はーい」


 私は、南門の先輩の声に返事をした。

 とりあえず、今は仕事しよう。何があったのかマリ姫様に尋ねるのは、夜会など全てが終わった後にする。



   ◇



「ディル班長、料理上手いですね」

「お前に言われると自信つくな!」


 日が少し陰り始めて、バルコニー前広場には料理人が勢ぞろいしていた。日本で言えば、デパートでたまに催されている〇〇特産展みたいな感じ。小さなお店がたくさんあって、それぞれから食欲をそそる良い匂いが立ち上っている。今日は王城からだけでなく、下町の有名店からも料理人が出張してきているらしい。


 そんな中、私がせっせと作っているのは焼きおにぎりである。

 隣ではディル班長が野菜を炒めて、クレープみたいな皮で包み、濃厚なソースをかけて訪れた人に手渡している。


 私のおにぎりは見た目が地味なこともあって、初めは誰も興味を示してくれなかった。でも、ディル班長が兄弟と呼ぶ孤児の子ども達が食べてくれて、大喜び! もちっとした食感や、おなかにずしんっとたまる幸福感を分かち合えて、私も嬉しくなった。子ども達の反応があまりに良かったので、それを見た大人達も少しずつ食べてくれるようになり、今は必死でおにぎり結んでます。


「なぁ、エース。さっきの姫様のどう思うよ?」


 またディル班長が話しかけてきた。


「たぶんあれ、姫様の体調不良じゃないと思うんですよね」

「だよな。どうせ、宰相に都合の悪いことでも言っちまったんだろ」

「でしょうね」

「姫様もせっかく喋ってたところをあんな奴に邪魔されて可哀相にな。エース、この後は姫様の心も晴れるような奴をぶっ放してこいよ!」

「任せてください!」



   ◇



 いよいよ外が暗くなってきた。ふるまいは、早々に食料が尽きて、あっという間に各店が完売。私の焼きおにぎり屋もさっき畳んで、私も間もなく始まるショーに向けて最終調整中だ。先輩方もそれぞれ持ち場についていて、後は私の合図を待つだけになっている。


 そして午後六時半。夜会は予定通りに開催されているらしく、バルコニーの向こうにあるホールからは灯りが漏れていて、ダンスする人達の人影が見える。


 それでは始めましょう。

 世にも不思議なイリュージョン!


 私が南門近くの塔の上から、塔の下にいる先輩に向けて合図を送る。すると、彼は空に向けて手を伸ばし、第一発目を高らかに打ち上げた。花火みたいにシュルシュルと音を立てて登っていく青い光線。続けて、敷地内のあちこちに次々と青い光の柱が出現する。それに緑の柱も追加されて、次第に城が青と緑で照らし出されていく。まるで、城自体が光を放っているかのよう。荘厳な風格が暗闇の中に浮かび上がる。


 しばらくすると、私は合図の白い光線を出した。途端にさっきまで無数に立っていた光の柱は消え失せる。代わりに、バルコニー前の結界に向かって光が集中していく。青と白と緑。そこにはハーヴィー王国の巨大な国旗が空中に浮かんでいた。


 結界に光を当てると、結界に色がつくことから思いついたこのショーは、名付けて「魔術でプロジェクションマッピング」だ。


 先輩方が絶妙な魔術コントロールをしてくれているお陰で、光の強弱で旗がゆらゆらとはためいているように見える。


 すると、バルコニーの方から盛大な拍手が巻き起こった。遠く、街の方からも人々のざわめきが聞こえる。良かった。皆見てくれた!


 私は、十分に時間を置いてから、そっと国旗の白の部分の光を消した。すぐに青と緑の光も消える。ここからは、私が仕上げをしよう。


 塔から手を伸ばして、結界に直接触れる。魔術はイメージが大切だ。私は、小さい頃家族で行ったプラネタリウムを思い出していた。夜空に浮かぶ輝く星々。この世界でもお月さまや星は見えるけれど、私の知るものとは違う。だから今夜だけは、ここから遠く離れたどこかにある地球から観える景色を再現しよう。これが、私にできるマリ姫様へのプレゼント。


「マリ姫様、十七歳のお誕生日おめでとう」


 私の呟きと共に、結界に白の魔術が流れ込んでいく。それらはするすると無数の光の粒になって結界の表面を滑っていった。


 できた。


 見上げると満点の星空。ほら、はくちょう座にこと座、わし座が作る夏の大三角形もある。さそり座の目立つ星は私の魔術では赤く再現できなったけれど、見覚えのある星の並びでくっきりと浮かび上がっている。


「綺麗だね」

「クレソンさん」


 気づいたら、クレソンさんが隣に立っていた。なんか、こういうことよくあるなぁ。


 今日のクレソンさんは、騎士の仕事ではなく、隣国の使節の接待に駆り出されていたはず。まだ夜会は終わっていないだろうに、こんなところに来ていいのだろうか?


「来ちゃった」

「いいんですか?」

「一緒に見たいなと思って」


 私も、一緒に見たいなと思っていた。

 クレソンさんの手が、遠慮がちに私の手の指先に触れる。私が彼を見上げてコクリと頷くと、今度はしっかりと手を握ってくれた。


「エース、聞いてほしいことがあるんだ」



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