28貰っちゃった
勝利の余韻を味わうのもそこそこにして、ようやく地上に戻ってきた私とタラゴンさん。待ち受けていたのは、冒険者さん達からの称賛の嵐だった。
「マジ、カッコ良かったです! さすがでした!」
「タラゴンさん! いつから空飛べるようになったんですか?!」
「寿命が縮むかと思いました。倒してくださってありがとうございます!」
タラゴンさんによると、彼らは先日の討伐で辛うじて生き残った方達だそうだ。あの圧倒的な強さを持つ魔物に立ち向かった勇者だからこそ、今回の討伐の成功は感動もひとしおなのだろう。
「いや、褒められるのは悪い気しないが、ドラゴンをやったのは俺じゃない。エースだ」
タラゴンさんの言葉に、全員が「嘘だろ?」みたいな顔をする。うん、当然の反応だよね。自分でも、あんな巨体を一撃で倒したなんて信じられないもん。
「でも、こんな……少年がどうやって」
言いたいことは分かるよ、冒険者さん。私、あなたの図体の半分ぐらいの細さですものね。
「エースは優れた魔術の使い手だ。今回は結界の応用で空に飛んで、ドラゴンの死角に回り、魔石の真上を狙って仕留めた」
タラゴンさんは、私の肩に腕を回す。肩を組む格好になる。
「ま、最後にドラゴンの追撃からエースを守ったのは俺だけどな。エース、礼がしたいなら体で払ってくれてもいいぞ」
「なっ……!」
私の顔が真っ赤になった瞬間、目の前に誰かが立ちふさがった。あれ、アンゼリカさん?
「エース、ご苦労さま。あなたが命を落とすようなことになれば、私がクレソンに殺されるところだったから、無事で何よりだわ。それにしても、どういうこと? なんで、コイツがあのことを知ってるのよ?」
もちろん、私が女の子であるという秘密のことだ。他の冒険者さん達は何の話か分からず、首を傾げている。
「実は以前戦った時にバレてしまったみたいで」
アンゼリカさんは、不機嫌な顔を崩さないままクレソンさんに向き直った。
「このことはエースの最大の秘密なの。もし、他の人に言いふらしたらどうなるか、分かってるわよね?」
「おぉ、怖いこわい。さすが今月の『ハヴィリータイムズ』の巻頭を飾る美女だけあって、怒ると迫力あるんだな」
え、あのインタビューされていたアンさんって方は、アンゼリカさんのことだったの?!
「私もさっきエースから借りた雑誌を読んで知ったばかりよ。でも、街歩きの事実は私の弱みにはならないわ」
「あ、アンゼリカさん。私、タラゴンさんの弱み知ってます」
「何なの?」
「さっき空に上がった時、タラゴンさんってば……」
と、私が言い始めると、タラゴンさんが大人の男性らしからぬ狼狽っぷりで騒ぎ出した。
「ちょっと待った! それだけは止めてくれ!」
「えっと、タラゴンさんは、実は……」
「あーもー、分かったって! お前の秘密は誰にも言わねぇよ」
「本当ですか?」
「本当だ。あ、それからお前、あの約束はいずれちゃんと守ってもらうからな」
「え、さっきもう果たしたじゃないですか」
「あんなの無効だ!」
なぜか意地になっているタラゴンさん。そんなに私と普通のデートがしたいのかな? ともかく、彼が高所恐怖症でよかった。これで私の秘密は守られた。
◇
村長は、私が空へ上がった時点で泡を吹いて倒れたらしい。冒険者の方々が手際よくドラゴンの討伐証明になる角と牙と魔石を回収してくれている間、アンゼリカさんは村長さんに応急処置。なかなか意識が戻らない彼は、角と牙と一緒に私達の馬車に乗せて村まで戻ることになった。
そして村の入口。今朝は明るいせいか、心なしか村民の顔色にも翳りが少ないように見える。
「タラゴンさん、どうでしたか?」
近づきてきた村人の一人は恐る恐るといった風に尋ねる。ホーンホーンから降り立ったタラゴンさんは、もったいぶって何も言わず、村民達が作る輪の中に歩いていった。
「ドラゴン討伐は……」
ここで、こっちを見るタラゴンさん。あ、そういうことか。証拠を見せなきゃいけないものね。
「大成功だ!」
彼の声に合わせて、私は馬車から引きずり出した討伐部位を頭の上に掲げてみせた。湧き上がる歓声。それにつられたのか、民家の中からは、わらわらとさらに人々が飛び出してきて、子どもの声も聞こえてきた。
良かった。
この村の平和は守られた。
私がほっとして、アンゼリカさんとほほえみ合っていると、タラゴンさんがまた大声を張り上げた。
「皆、聞いてくれ。今回の討伐の立役者を紹介する。俺の友、エースだ!」
またたく間に集まっていた村民達に拍手の渦が広がっていく。私はびっくりして動けなくなってしまった。こんなに良い意味でたくさんの人から注目されるのは初めてだから。なんだか気恥ずかしくもある。けれど、それ以上にあったかい。私っていう異世界から来た異分子でも、心から受け入れてもらえている奇跡がありがたくて、ありがたくて。
感動のあまり目を潤ませていると、アンゼリカさんがわたしの隣にやってきた。
「さ、エース、そろそろ行きましょう。村長が倒れたから仕方なく村に戻ってきたけれど、私達は旅を急いでいる身なのだから」
「そうでしたね」
私、第四騎士団と合流する前だけど、既に一仕事を終えた気分だよ。ふぅ。でも、西部にあるダンジョンの街でも、きっと誰かが困っているんだ。私はそう念じて自分を奮い立たせると、アンゼリカさんと共に馬車へ向かおうとした。その時――。
「騎士さん、ちょっと待っとくれ。これを持っていっておくれよ」
人垣の中から年配の奥様軍団が出てきた。数人がかりで何やら大きな物を運んできたようだ。ん? これ、既視感がある。
「うちの村は貧しいから礼として渡すものがなくてねぇ。でもこれはね、村の聖樹に供えてあったものさ。絶対にご利益はあるよ。うちらのずーっとずーっと大昔の代からの言い伝えでな、村を救う人が現れたらこれを渡すことになっとるんだ。うちらにとっちゃぁ、食い物にもなりゃしない代物なんだけど、見る人が見たら価値が分かるとかでねぇ」
アンゼリカさんは、説明するオバサンを訝しげに見つめる。こんな大荷物、邪魔にしかならないと思っているのかもしれない。
私は、ゆっくりとその大荷物に向かって歩み寄っていった。どこからどう見ても、俵にしか見えないそれに。
「エース、もしかしてお前、これ知ってるのか? こんな麦のできそこないみたいなもの、嫌だったら俺が突っ返しておくぞ」
「そんなこと絶対しないでください」
私は、無意識に低い声を出していた。なぜなら。
私は、懐かしさがこみ上げて泣きそうになっている。
私は、喜びに打ち震えている。
私は、自然と涎が溢れてきて困っている。
俵らしきものの端っこを破いて、指を差し入れてみた。すると思った通り、サラサラと米粒が流れ出てきたではないか!
「奥さん」
「はい!」
私の呼びかけに、奥様軍団のボスっぽいお方が敬礼する勢いで返事した。
「これ、この村で毎年作ってるですか?」
「そうだよ。食べるためじゃないけれど、聖樹のお供え物は昔からコレって決まっているしねぇ」
「では、これからも作り続けてください」
「はい?」
「私が買いますから!」
気づいたら、私は奥様の手を両手で握りしめて、上下にブンブン振りまくっていた。もちろん、今後もよろしく!の握手である。奥様は困惑しきり。
「この供物は、この辺の気候がよく合うみたいでよく育つんだ。でも、すぐに周辺の魔物とかに食い散らかされちまうから、量は採れないよ?」
魔物?
私の米が、魔物に襲われるだって?
ならば、やることは一つだ。
私は右手を天高く突き上げた。何が起こるのだろうと、村人達全員がこちらに注目する。
実は、出発前にコリアンダー副隊長からこんなことを言われていた。
「君はお人好しなところがある。旅先で無闇に結界を張ってしまうと、今後世界中にある全ての建物に結界をかけなければならなくなるぞ。過労で死にたくないならば、軽率な行動は慎むように」
でも、コリアンダー副隊長。ここで結界を使わずして、どこで使う。これは、他人のためではない。私が私の米のために自分の能力を使うのだ。
「はっ!」
私が気合を入れた声を出した瞬間、私の手からは白い光線があらゆる方向へと縦横無尽に飛び出していった。そして作り上げられたのは――。
「すげぇ。これ、城と同じじゃないか」
タラゴンさんがポツリと呟く。
私も手を腰にあてて、空を仰いだ。
「これでよし!」
村全体よりも少し広いぐらいの地域を巨大な天球状の結界が守っている。城と同じように、方眼紙の目のように細かな白い線が縦横に走っていて、若干空の色が薄く見える以外は問題ないと思う。
「『はじまりの村』の皆さん、これは米という食べ物です。これまでよくぞ伝統を守り続けてくださいました。この米は私の故郷にある主食で、様々な美味しい料理を作ることができるんです!」
せっかく演説しているというのに、村人もタラゴンさん達も、私を可哀想なものを見るような目で見ている。皆、米の偉大さを分かってないなぁ。今に見ててよ? 少なくとも私以外にもう一人、米が大好きな大物が王城に存在する限り、これから米ブームは絶対に来ると思うのだ!
その後『はじまりの村』は、初心者冒険者の聖地としてだけでなく、米の産地として名を馳せることになる。さらに、騎士を嫌うといった冒険者の風潮が幾分マシになり、騎士志願の若者が急増したとかを私が聞くことになるのは、これからずっと後のことだ。
お米ゲットです!
次回は、王都の話。
エース不在の間にひと悶着ありました。






