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21大物が来ちゃった

★姫乃視点に戻ります。



 調理場は魔道具の宝庫だった。使い方はお風呂の時とよく似たもの。ビルトイン式のIHクッキングヒーターのようなものがあって、赤い丸の部分に指を当てるとコンロ部分が熱くなる。特に驚いたのはお鍋。見た目は普通の土鍋なのに、超高性能な圧力鍋仕様だったのだ。他には、現代日本にあるようなフードプロセッサーまでも存在していて、電気も無いのにこの国がここまで発展している理由の片鱗を知ることができた。

 

 とは言え、ここまで込み入った魔道具を数日間で準備できるクレソンさんっていったい……。王城の庭では、侍女さん達が細腕を酷使しながら井戸の水を毎日汲み上げしているのを私は知っている。だから、技術はあれど、魔道具自体はまだ一般的には出回っていない高級品であるはずなのだ。


 そういえば最近知ったのだけど、寮室にお風呂がついているのも私とクレソンさんの部屋だけらしい。大浴場で見かけないと、同じ班の先輩から言われたのだ。今となっては、それもクレソンさんが個人的に改装したんだろなと予想できる。大胆すぎると思うけれど、その恩恵を一身に受けている私は、一生クレソンさんに足を向けて寝られないだろうな。


 さて、そんな最先端キッチンで作ったお料理は全て好評だった。私が作ったのは、この世界ではおそらくまだメジャーではないものばかり。例えば、魔物の肉のから揚げとワイン煮、残り野菜の天ぷら、そしてピザトーストだ。本当は念願のデザート系やスープも作りたかったのだけれど、目をギラギラさせて完成を待つ先輩方を見ると、メインディッシュばかりになってしまった。


「お口に合いますか?」


 必死で料理を頬張るクレソンさんに尋ねてみると、


「城の晩餐会でもこんな美味しいのは食べたことがないよ」


 と、こんな返事が返ってくる。そんなあらたまった席に出ているなんて、やっぱりクレソンさんって偉い人なんだろうな。ちょっと遠い目になってしまうけれど、ラムズイヤーさんやディル班長はじめ、先輩方はみんな大喜びだったので、ランチ会は成功したのだと思う。途中でやってきたオレガノ隊長とコリアンダー副隊長も、滞在時間は一瞬だったけれど、ちゃっかりから揚げを食べてたし。


 私がこうやって異世界に転移してきて、住む場所と働く場所を与えてもらって安心な生活が送れているのはみんなのお陰。これからも、たまにはこうやって恩返ししていけたらいいな。


 それにしても、この部屋で気になることが一つ。やけに内装やインテリアが可愛らしいのだ。テーブルクロスは乙女趣味全開の花柄で、壁には手の込んだキルトの作品が飾られているし、奥にあるソファには凝った刺繍がなされたレースつきクッションが置かれている。これって、やっぱり私、クレソンさんに女ってことがバレているんじゃ……


 どうやってしらを切ろうかと考えていたら、突然誰かが私の肩を叩いてきた。


「あ、ディル班長。おかわりはもう無いんですよ。すみません」

「ちがう。お前、このキルト見てただろ」

「あ、はい。とっても素敵だなと思いまして。こんな緻密で綺麗な作品、よっぽどの腕とセンスがあるお針子さんが手掛けたんでしょうね」


 あれ、ディル班長の様子がおかしい。急に黙って俯いてしまった。


「どうかされました?」

「俺だ」

「何がですか?」

「そのキルト、作ったのは俺だ」


 マジですか? 下手したらヤのつく職業のような見た目なのに、まさかの乙女趣味とは。


「ディル班長って、器用なんですね。私でも、ここまでのものは……」 


 家庭科は不得意ではなかったけれど、ミシンではなく手縫いが基本のこの世界でこれだけ丁寧で均等な縫い目。よっぽど好きで、根性がないとできないものだ。色使いも華やかで私好み。


「そうか、エースはこちら側の人間だったんだな。よし、遠からずお前を俺の行きつけの店へ連れてってやる!」


 行きつけって、綺麗なお姉さん達がお接待してくれるところじゃありませんよね? 私が若干顔を強張らせた瞬間、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。オレガノ隊長かな? と思って振り返ってみると――。


「とっても良い匂いね」

「衛……じゃなくて、マリ姫様?!」


 桃色のふんわりとしたドレスを纏い、長い黒髪を緩めの三つ編みにしてサイドに流している儚げ美少女。むさくるしい騎士寮には、場違いと言っても過言ではない程の麗しさと尊さでそこに佇んでいた。突如現れた咲き誇った花の如き可憐な彼女。先輩達は驚きのあまり、金縛りにあったように動けなくなっている。


 最初に復活したのは、ディル班長だった。


「おい、エース。もしかしてこの超絶美少女はお前の知り合いか何かか?」

「えっと、知り合いというか……」


 幼馴染とも紹介できないし。私がどうやって説明しようかと悩んでいると、代わりに答えてくれる人が現れた。


「我が国の第一王女、ローズマリー様であらせられます!」


 そうです。あの残念系侍女さんですよ。そろそろ名前が知りたい。なぜか肩でゼイゼイ息してるんだけど、さてはマリ姫様彼女に黙ってここへやって来たな?


「マジかよ。でもそんなお方が、こんなところへいらっしゃるとは思えないし……」

「てか、お前ら、今までに姫様の顔って拝見したことあるか? 確か、決して人前に出てこないって話だったような」

「でもよ、この綺麗さは半端ねぇぞ。ここまでの高貴オーラ放ってんだから本物だろ?」

「それより、エースはミントさんとデキてるんじゃなかったのかよ? こんな美少女まで侍らせてるなんて、聞いてねぇぞ?!」


 ざわつく室内。なんかマリ姫様は、私の隣にぴったりとくっついている。なんか、変な汗が出てきた。マリ姫様は小悪魔な顔でほほ笑むと、こちらを見上げて小声で話しかけてくる。


「会いに来てやったぞ」

「もうちょっと立場を考えて行動した方が良いんじゃないの?」

「……嬉しくないのか?」


 そこで私は、初めてハッとする。そうだ。これまで衛介一筋だった私ならば、今頃再会に感激してハグぐらいしていてもおかしくない。それに、もっと喜びでいっぱいになっているはずなのに、なぜ以前ほど衛介にときめかないのだろう? やっぱり、見た目が女の子になっちゃったからかな?


「ううん、嬉しいよ。でも次からは私が行くね。っていうか、来る前にいつものアレで連絡してくれたらよかったのに」

「呼びかけたのに、反応なかったのはお前じゃん」


 あ、もしかしたら料理に夢中で気づいていなかったのかも。


「ごめん、ごめん」

「今日のお前、何か変だぞ。もしかして、好きな男でもできたのか?」

「え……」


 一瞬、頭の中が真っ白になって、あの夜のことを思い出してしまう。言葉に詰まった私が思わず唇に手をやったその時、マリ姫様はふっとこちらから視線を反らした。


「あら、お兄様」


 クレソンさんがこちらを見つめている。でも、完全に表情が消えていて何だか怖い。


「ローズマリー、今日は眠くならないのかい?」

「えぇ。愛しの騎士様がお城にいらして以来、随分と調子が良いんですの。ね?」


 て、そこで私に振らないでよ、マリ姫様。しかも衛介モードと姫モードのギャップが酷すぎません?! 周りの先輩達は興味深そうにずっとこちらへ注目しているし、どうやって繕えばいいのやら。微妙な雰囲気に包まれて、軽くピンチに陥った私。それを助けてくれたのは、意外すぎる人物だった。


「ローズマリー様」

「げ、ストーカーだ」


 マリ姫様は分かりやすく嫌悪感を示す。いつの間にかトリカブート宰相が部屋の入口に立っていたのだ。


「あなた様のようなお方が、こんな魔物の巣穴のようなところへおいでになってはなりません。汚れてしまいますよ。さ、早くお戻りになってください」


 宰相は、マリ姫様を愛しげに見つめている。まるでここには彼女一人しかいないみたいに。それはちょっと、異様な光景だった。部屋は静まりかえり、大物二人の言動を見守っている。マリ姫様は諦めたように小さくため息をつくと、こちらへ向き直った。


「エース、またお会いしましょうね。次の土産は、日本食がいいわ。それではごきげんよう」


 マリ姫様も宰相には逆らえないらしい。さりげなく手料理を催促してくるあたりは衛介らしいけれど、表情に少し陰りがあったのが気になってしまう。私は頷くだけの返事をして、マリ姫様、侍女さん、宰相の背中を見送った。


 こうして、妙な感じで幕を閉じたランチ会。そろそろ皆、持ち場や訓練に戻ろうか。そんな雰囲気になった時、ディル班長が思い出したように呟いた。


「そういえば、エース。あさっては城外演習って知ってるよな?」

「いいえ」


 そんなのあるのか。初耳だ。


「いつもは料理できる奴がいなくて地獄だけど、今回はエースがいるから安心だな。外の演習は水中訓練とか日頃できないこともやるから楽しいぞ。期待してろよ!」


 うん。確かにちょっと楽しそう。でも、嫌な予感がして仕方がないのだ。


 ん? 水中訓練?


 私は、お皿を洗う手を止めた。まさか、脱いだりしないよね?


「エース、大丈夫だよ」


 クレソンさんが手伝いにきてくれた。慣れない手付きで、私が洗ったお皿を布で拭いてくれている。


「……ちゃんと何とかするから。だから、大丈夫だよ」


 そんなに危険な訓練なのかな? 大丈夫と言われれば言われる程、なぜか不安が増す私であった。



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