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12癒やされちゃった

 ただいま! いろいろあったけれど、衛介こと私エースは無事に第八騎士団第六部隊に戻ってきたぞ。いぇい!


 実は、私が家探ししていた時にやってきたのが、オレガノ隊長と冒険者ギルドの美人受付嬢ミントさんだったのだ。ディル班長から詳しい事情を聞いた二人が、すぐに王城内を捜索してくれたらしい。オレガノ隊長は自分の隊の管轄を巡回しているということで誤魔化せるかもしれないけれど、ミントさんは完全に不法侵入したことになる。大丈夫かなぁ。


 そして北門に戻ってきた今も、二人は私を護衛するかのようにぴったりと隣に立っていて離れない。心配かけたのだなと思うと申し訳なくなる。


「あの、ここまで戻ってくれば安全ですし、大丈夫ですよ」

「大丈夫なもんか! そういう問題じゃぁない。ほら、普通こういう事は、きちんと命令系統を正しく通すものだろ? それを全てすっ飛ばしたあげく、城内の部屋に軟禁など……」


 なるほど。隊長も立場がありますものね。ほいほいついていってしまって、すみません。後ろを振り返ると、いつの間にかやってきたコリアンダー副隊長も怒り心頭だった。


「それだけではありません。第一騎士団の十八番『紅の手錠』を使ったことは許せませんね。解除には魔力がかなり必要だというのに。そもそもあの魔術は、魔物や手に負えない重罪人を一時的に生かして捉えるためのもの。それを大多数の無抵抗な隊員へ向かって使うなど、正気の沙汰とは思えません!」


 やっぱり、その紅のなんちゃらの解除には、コリアンダー副隊長のお力が必要だったようだ。お手間をおかけいたしました。


「エース、怖かったね。あの宰相と言い、第一の副団長は、口を開けば毒しか垂れ流さない悪魔のような奴らだから。後で僕が癒してあげるからね」


 あ、クレソンさんも駆けつけてくれました。癒やすって、何をしてくれるのだろう?


 という風に、他の隊員の方達からも突然降ってきた不幸に対する慰めや労りの言葉をもらい、私は少しずつ緊張の糸をほぐし、元気になっていった。だけど、中には例外もあるわけで。


「エースくん。君なんか帰ってこなけりゃよかったんだ。昨日から隊長はエース、エースって、君のことばかりだよ」


 あら、こんなところに可愛らしい少年が。ショタ萌えするタイプではないつもりだったのだけれど、リアルなショタがいるとついつい手を伸ばしてしまう。


「僕何歳? 可愛いねぇ? お名前は?」


 私がショタの頭を撫で回していると、すぐに剣呑な視線がトロンと蕩けるようなものに変わってしまった。


「リンデンだよ。歳は秘密」


 まだ小さいのに、軍属になって働いているなんて、とっても偉い。クレソンさん、私はもうリンデンくんで癒やされましたのでご心配なく!


 それにしても――。


「ミントさん、昨日ぶりです。この度は素敵な職場を紹介してくださってありがとうございました。早速いろいろありましたけど、まぁ、なんとかやっていけそうです」

「あなた、戦いとは無縁のタイプに見えたけど、それならば良かったわ。それより!」


 ミントさんは、私の手を引っ張って隊員達の輪から引き離すと、城壁際まで連れていった。そして声を落として囁く。


「今日はね、女の子グッズを持ってきたの。昨日は慌ただしかったから、いろいろ持たせてあげられなかったし」


 なんて気遣いができる人なんだ!


「この袋の中には、化粧品とか下着とか生理用品とか、いろいろ入ってるから。有名な魔術書もあるわよ。後で寮室に戻ったら確認してみてね」

「本当にありがとうございます。でも、化粧品は使わないかも……」

「あなた、ちゃんと毎朝鏡を見てる? もちろんその騎士服を着ていれば、どこから見ても男の子だけれど、他の格好をすれば女の子に戻れるのよ?」


 でも、そんな機会はもうやってこないと思う。ということを考えると、長年女の子をやってきた身として酷く寂しくなるのだけれど、これも私が選んだことだ。ミントさんには、頷き返すに留めておいた。


「何から何までありがとうございます。でも、何でこんなに良くしてくれるんですか?」

「それは、まだ秘密」


 ミントさんはいたずらっぽく笑うと、ひらりとスカートを翻して門の外へと出てっていった。今回は、「妹に似ているから」と言わなかったことが、なぜかとても気になった。



   ◇



 さて。私が寮に荷物を片付けにいった後は、お待ちかね! やっと門衛らしいお仕事を……とはならなかった。まず、オレガノ隊長が槍の基本を仕込みたいと話していたのだけれど、コリアンダー副隊長は魔術関連と、魔術が必要な書類仕事を覚えさせたいと言い張り、一時険悪なムードに。私の直属の上官にあたるディル班長の存在が完全に忘れられていて、ちょっと気の毒になってきた頃。場をおさめてくれたのはクレソンさんの一言だった。


「皆さん、気が早すぎます。まずは騎士として最低限の体力をつけさせないと。初めは、走り込みからでいかがでしょうか?」


 全員、我に返ったような顔をしていて面白かったけれど、その直後から、私は地獄を見ることになる。オレガノ隊長が、隊長室から『新人メニュー』と書かれた紙を持ってきて、それをディル班長に渡したのだ。ついでに、「お前とこの班、最近たるんでるから、全員同じメニューこなしとけ」なんて言うものだから、私は針のむしろになってしまったのだった。


 でも、メニューその1、城内のランニング三十周を始めてからは、皆さんもう開き直ったのか、私を睨むこともなくなった。でも、次は別の困ったことが。


「お前、ミントさんとどういう関係なんだ?」


 えっと、昨日の朝、冒険者ギルドで知り合ったばかりで、なぜかとても親切にしてくれるお姉さんです。と答えたいけれど、息切れがして声が出ない。ちなみに、まだニ周目だ。電車にクルマ、自転車がある便利な日本からやって来た女子高生の体力なんて、こんなものだよね。


「もしかして、答えられないようなところまで進んでるのか? お前そんな顔しておいて、昨日のことと言い、なかなかやるじゃないか!」

「ちくしょー。ミントさん、彼氏持ちだったのか。まさか年下好きだったとは」

「いや、俺はまだ諦めないぞ! いつかあの柔らかそうなおっぱいを、げふんげふん」


 なんだか、変な誤解が深まった気がする。ここで訂正しなかったことを私は後々後悔することになるのだけれど、今は次の一歩を踏み出すことで精一杯だったのだ。


 そして、ついに十周目。いつの間にか隊の中では、私は入隊するまでミントさんと同棲していて、近々結婚する予定だとか、隠し子がいるだとか、とんでもない噂が広まって盛り上がっていた。そんなところへ、オレガノ隊長がこちらへ近づいてきた。


「た、隊長、もう駄目です」

「これぐらいで泣き言なんか言ってたら、四十周に増やすぞ? と言いたいとこだが、お前に呼び出しがかかっている」


 残念ながら、私が今にも倒れそうなのを見るに見かねて声をかけてくれたのではないらしい。


「今度はどなたですか?」

「王だ」

「そんなこと言いながら、またジギタリス副団長だとか?」

「いや、今回は正規ルートで指示が下っている。ほら、見ろ。ちゃんと出頭命令の書類も届いている」

「マジですか」

「マジだ」


 あの、私、今超汗臭いんで、お風呂入りたいし明日でもいいですかね? と断りを入れて逃げようとしたけれど、現実はそう甘くない。


「命令に従うのは基本中の基本。今すぐ行ってこい!」


 じゃ、次の手。


「でも、私が宰相室からくすねてきた資料のことも気になりますし、それどころじゃないというか」

「それならば、今コリアンダーが一通り目を通している。北の魔の森の地図や、特殊な魔術について書かれたものなどもあった。だが、どれも鍵のついた箱に入っていたわけではないのだから、信憑性には欠ける。もしかするとお前ならこういうことをしかねないと予想した上で仕掛けられた罠という可能性もある」

「じゃ、私は無駄なことをしてしまいましたね」

「そういう意味じゃない。ただ、あの資料だけを信用して動くには危険すぎるということだ。お前がやったことは、騎士道には反するものの、第八騎士団第六部隊としては褒められるべきことだぞ!」


 やっぱり、褒められた気がしない。


「というわけで、お前は何の心配もせずともいい。さっさと行って、ちゃんと帰ってこい」


 帰ってこい、か。帰りを待ってくれる人がいるっていいよね。


「分かりました。いってきます!」


 私はびしっと敬礼をキメてみた。隊長も敬礼を返してくれる。


「あのな、エース。伝令の者によると、お前が結界をかけてから眠り続けていた姫様の様子に変化があったそうなんだ。おそらく呼び出しはそれと関係していると思う」


 変化っていうか、単に目覚めただけだと思う。さっき侍女さんが言ってたもん。お姫様が目覚めることは、たぶん悪いことではない。だからお叱りを受けることはないだろうけれど、やっぱり緊張する。


 だけど、もしかすると件の姫様にもお会いできるかも?と思うとちょっとだけワクワクしてきた。どんな格好しているのかな。ファンタジーな世界らしく、ヒラヒラのドレスとかだといいな。もし会えたら、『開けゴマ』の眠り姫にも自慢してやろう!



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