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11バレちゃった?

 ガチャッという扉を施錠する音が聞こえた。そして遠ざかっていくジギタリス副団長の足音。


 ここはおそらく王城内にある客室だと思われる。広過ぎも狭すぎもない部屋で、手前に応接セット、奥にチェストとご婦人のためのものと思われる鏡台、そしてベッドがあり、最奥にある二つの扉はお手洗いとお風呂に繋がっているのではないかと予想できた。


 はふー。つまり、私はここに泊りがけで軟禁されるということなのかしら? 窓の外を見ると、さすが城の五階だけあって見晴らしが良い。と同時に、窓から壁を伝って逃げられそうもない。あまりに危険だ。


 これってもしかして、ピンチっていう奴なのかな? さっきの話では牢屋に入るということだったのに、いざ来てみればまるで高級ホテルのような場所。しかも一人きりなので、思わず日本にいた時のように寛ぎたくなってしまう。けれど、さっきの宰相から放たれた氷のような視線を思い出すと、すぐに背筋が伸びて気持ちが引き締まるのだった。


 さて、どうしようか。


 方法その一。すぐ近くにあるフカフカお布団にダイブしてお昼寝し、来たる宰相来訪(決戦のとき)に備えて体力を温存しておく。でも、うっかり熟睡してしまって、だらしない格好を王城の人に見られるのは恥ずかしいな。却下!


 そのニ。大声を上げる。宰相は男色で、騎士をこっそり手篭めにしようとしているとか、宰相の髪はズラだとか叫んで、煩くしてみたらどうだろうか? 反王派以外の人が気づいて、私を助けてくれるかもしれない。いや、ちょっと冷静になってみよう。たぶん、この部屋からつまみ出されて、今度は本当の牢屋行きになるのは間違いないな。はい、却下!


 その三。んー。もう、大人しくここで三角座りしているぐらいしか思いつかないや。その時、私の頭の中に啓示の声が降り注ぐ。


 そうだ。あの手があった。


「開けゴマ!」

『おはよう、姫乃。今何時?』


 すると、昨夜の自称眠り姫のいかにも起きたてのようなふにゃふにゃの声が脳内に直接響いてきた。欠伸もしているようだ。


「えっと、まだ七時半になったばかりだよ」


 私は壁際の時計を見て答える。そう言えば、朝ご飯がまだなんだよね。集合前は早すぎて、まだ食堂が開いていなかったのだ。


『お腹空いたなら、侍女でも呼べば?』

「え、呼んだらご飯とか持ってきてくれるものなの?」

『少なくとも、俺の経験ではそうだな。てかお前、なんでそんなところにいんの?』

「もしかして、私のいる場所が分かるの?」


 眠り姫曰く、私と意思疎通ができる間は、私の視界に映るものが彼女にも見えるようになるそうだ。私は、朝から起こった事件について、眠り姫に説明した。


『なるほどな。あいつらは俺も気に食わない。いつか、死ぬよりも辛い方法でいたぶってやるのが俺の夢だ』

「お姫様がそんな物騒な夢を抱いちゃダメ!」

『じゃ、お前が俺の代わりに何とかしろ。俺が言わなくとも、きっと周りがそうさせるだろうけどな』


 ん? それってどういう意味だろう。眠り姫は、考えていた以上に私の事情や環境について精通している。もしかすると私に親しい人の親戚や関係者なのかもしれない。


 だけどそれよりも、やっぱりこの口調、どこかで聞いたことがあるんだよね。誰だっけ?


 少し追求してみようかと思った瞬間、私のお腹がぐーっと鳴った。


『侍女を呼ぶには、ドアの近くにある呼び鈴を鳴らせばいい。そうだな。三三七拍子で鳴らしてみな。おそらく、すっ飛んでくるぞ』

「ありがとう、やってみる!」


 侍女さんが来たら、扉も開くので逃げ出すチャンスもあるかもしれない。ううん、その前に腹ごしらえだ! 腹が減っては戦はできぬ。


 私は早速、眠り姫に言われた通りのリズムで呼び鈴を鳴らしてみた。すると、魔物が押しかけてきたのかと思うぐらいのスピードで何かが近づいてくる。そして扉が解錠されて、開け放たれた。


「姫様?!!」


 肩で息をしているのは、足首ぐらいまで裾丈がある黒のシンプルなロングワンピースを着て、その上に真っ白のエプロンをつけた女性。見たところ、私よりも年上のお姉さんだ。


「あの、侍女さんですか?」

「えぇ。良い年して嫁にも行っていないベテラン侍女ですが何か?!」


 いや、そんな自虐的な自己紹介は期待していなかったのだけど。


「あなた、ここで姫様をお見かけしなかった? つい先程、姫様だけが使うリズムの呼び鈴が、確かにこの辺りから聞こえたのよ」


 あ、それ私です。てか、姫様って眠り姫のこと? 彼女は私の脳内に住むゆるキャラではなく、実在しているのかもしれない。


「あの、お姫様は見かけていませんが、一つお願いがありまして」

「私は、あの世にもお気の毒な境遇にありながら、世界一愛らしい姫様の命令しか聞きません!」


 姫、愛されてるな。それから、私の朝ご飯はお預けか。こっそり肩を落としていると、部屋の前に誰かの姿が見えた。げ、ジギタリス!


「お前、私が目を離したこんな僅かな隙に、第八騎士団第六部隊の分際で侍女を連れ込むとは……!」


 あ、そっか。今の私は男の子だから、適齢期の女性と部屋で二人きりというのは不謹慎だということなのかもしれない。でもこちらとて、お腹が減っていて仕方なかったのは事実。だけど、悪の権化の手下であるジギタリスは、下手に言い返すと言葉尻の揚げ足を取って反撃してくるような、ねちっこいタイプかもしれないので、私は言い返すのをぐっと我慢した。

 すると、ジギタリスが驚くべき行動に。


「君は大丈夫か? まだ未遂だな?」


 なんと、侍女さんに人間らしい気遣いを見せたのだ。この顔でレディーファーストできるなんて、似合わない。てか、未遂ってあれですか? 私、そういう趣味はないんだけど。


「えぇ、何もございませんでしたわ。お気遣いくださり感謝申し上げます」


 侍女さんは楚々とした美しい礼をすると、そのまま部屋を出ていってしまった。あ、ヤバイ。またこいつと二人きりか。


「予定より早く、主席魔術師の時間が空いた。来い」


 それにしても第一騎士団の副団長って暇なのかしら? もっと王様とお妃様の護衛とかで忙しくしていても良いものを。私はムスッとしながら、再び王城の中をドナドナされるのだった。



   ◇



「坊やがエースなの? こんな可愛らしい子がアタクシの先生とはねぇ」

「お前はあの結界を真似できないと言ったではないか。そんなことでは主席魔術師の名が泣くぞ」


 現在、ジギタリス副団長の同席のもと、主席魔術師様と初対面を果たしたところ。私、タジタジです。


 再び宰相室に戻ってきた私を待ち構えていたのは、藍色の髪の妖艶なお方だった。確か、名前はアルカネットさん。長い足を優雅に組んで、ソファに堂々と座っている。黒地に金の刺繍が入ったいかにも魔術師という感じのマントを羽織っていて、身体にぴったりと沿ったボディスーツという出で立ち。赤い口紅もよくお似合いだ。お胸はミントさん程ではないが、かなり大きなものをお持ち。


 とびっきりの迫力系美女と言いたいところだけれど、一つだけ言わせてほしい。骨格があまりにも女らしくないし、声が低い。それに気づいた私は、ある、一つの可能性に辿り着いていた。


 と、ドギマギしているうちに、主席魔術師はソファから立ち上がり私の方へと近づいてくる。え?と思ったときには、黒革のグローブに覆われた大きな手が、私の顎をくいっと持ち上げていた。


「アタクシが今更誰かに師事するなんてありえないことだと思っていたけれど、あなたならば楽しめそうね。同性同士、仲良くしましょう?」


 同性?

 私は頭が真っ白になった。


 もしかして見抜かれた?


 どっちだろう。女性を自負する彼が、私を女性だと気づいてそれを匂わせてきたのか。それとも、自分が女性の姿ながら男性であることを告白してきたのか。どちらにせよ、私が今までに関わったことのないタイプ。

 今も、反応に困っている私を見て楽しんでいるようだ。おそらく、とても頭の切れる人なのだろう。転移してから、何だかんだで良い人ばかりと出会ってきたけれど、今朝からは違う。ジギタリスと言い、この魔術師は相当の癖者だ。


 アルカネットさんは、無言の私を見つめるのに飽きたのか、ふっと笑った後、ジギタリス副団長に目配せをした。


「アタクシの性別について動揺しないなんて、この子は珍しいわね」

「馬鹿だから感性が鈍いのでしょう」


 私はこっそりとジギタリス副団長を睨んだ。こいつ、いつか殺す! 


「では、顔合わせはこれまでとする。結界の魔術の修得は一ヶ月以内にするようにとの、宰相様からのお達しだ」

「アタクシ忙しいのよ? 面白そうだけれど面倒だわ」

「魔術師団の予算を倍額にしてやった恩を忘れたか? 宰相様の命令は絶対だ。ゆめゆめ軽んじることがないように」


 その時、いつの間にか一人の侍女さんが壁際で立っているのに気がついた。気配、全然なかった。この世界にも忍者はいるのか!と思った瞬間、その侍女さんは切羽詰まった声でこう告げる。


「ひ、姫様がお目覚めになられました!」


 それがどうしたの? とぼんやりしていたのは私だけ。ジギタリスは何も言わずにさっさと宰相室を出て行き、アルカネットさんは魔術でも使ったのか、煙と共にその姿が見えなくなった。


 何だったのだろう。

 急に辺りが静かになって、私は瞬きを繰り返す。


「隊に戻ろう」


 あの和気あいあいとした第八騎士団第六部隊が懐かしく感じる。私は鬼のいぬ間に、ということで、そそくさと部屋を出ようとした。


 でも、ちょっと待って?

 今、ある意味、敵を追い落とす絶好のチャンスなんじゃない?


 ここは宰相室。先程からの話を聞くに、どうやら噂とは違ってアルカネットさんよりも宰相の方が悪者のような気がする。つまりここは、悪党の基地! きっと私的なものや、悪巧みの資料などがわんさか眠っているはずだ。うしししし。


 私は唐草模様の風呂敷を被ったつもりになって、いそいそと執務机の引き出しの中や、戸棚に並ぶ書類をチェックしていく。


「見ーつけた!」


 出るわ、出るわ、怪しいものがいーっぱい! これを持ち帰ってオレガノ隊長やクレソンさんに相談すれば、今後の反王派の動きを予測したり、弱みを掴んだりできるのではないだろうか。そして、それをカードとして悪党共と駆け引きをし、命を削って働く第八騎士団第六部隊の労働環境を改善してもらう。ついでに、お給料も上げてもらおう!


 と、敵のアジトに居るにも関わらず、張り切って夢中になっていたのがいけなかった。


 突然身体に突き刺さる殺気。

 一瞬のうちに私の全身から血の気が引いていく。


 私は意を決して、ゆっくりと扉の方を振り返った。



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