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10サボり隊と駄弁っていたら※

※今回はオレガノ隊長視点です。



「隊長、今日は来そうですか?」


 北門横にある側塔から北の空を見つめていると、第八騎士団第六部隊に所属する唯一の文官が声をかけてきた。


「リンデンか。今日の空に淀みは無いな」


 俺は、生まれつき特殊な能力を持っている。魔力の流れや色を見ることができるのだ。この珍しい目があれば、魔物の特性や襲ってくる前兆を見極めることができる。さらに、人間であってもその者が持つ魔力の量やタイプが分かるから、隊員の採用試験ではかなり役立っていると思う。


「これだけ強固な結界があれば、当分魔物も寄ってこないんじゃないですか?」


 リンデンは嬉しそうに笑った。

 こいつは今年十五歳。おそらく隊で二番目に若い男だ。薄いオレンジの髪に色白の肌。女装させても似合いそうな中性的な顔立ち。俺を親か何かだと思っているのか、時折甘えるような仕草をする。この歳で王立魔術学園を飛び級で主席卒業し、頭だけは良いが、日常生活ではどこか抜けているところの多い少年である。


「だといいがな」


 この結界の存在は、遠く北の森では察知できるものではないだろう。だから、()()()魔物の大群は、これまで通りにやってくると俺は見ている。そんなことよりも気がかりなのは、大群が来る頻度が減った場合のことだ。もしそうなれば、あの噂が真実であると思わざるを得なくなる。かなり面倒だな。


 もし魔物の大群の襲撃の一部が人為的なものであった場合、画策していた者達は次の手を考えるだろう。自然発生的な魔物の大群に自らの罪を擦り付けることができないとなると、結界に守られた王城内で別の動きが活発化する可能性も高くなる。


 第六部隊は城の門と外回りを守備範囲としているが、第八騎士団として見ると、これは無関係なこととは言えない。王家に近しいものが善人を装って城に侵入し、大きな顔で何かやらかすかもしれないのだ。そうなってしまうと、王族の逃げ場はいよいよ無くなる。何より、王族が一番信頼をおけるはずの第一騎士団が、既に反王派に飲み込まれつつあるという噂もあるのだから。


 こんなきな臭い時にやってきた新人が、エースだ。あいつは、一目見た時から入隊させようと思っていた。一般的に、人間の魔力の色はその人物の性格も反映されるのだが、エースの纏う色はこれまでの人生で見てきた中で、最も神聖な色をしていた。白と金だ。金は、主に王族が持っている色。きっと世界樹絡みの色だと思われる。白は、全ての色を含んだ究極かつ最強の色であり、よほど心が綺麗ではないと、あぁ真っ白にはなりえない。


 エースに行った面接は本当に建前上のものだった。主席魔術師以上の素質を持ちながら、本人はそれに全く気づいていないのがもどかしくなったぐらいだ。けれど、早速その日のうちに、結界という伝説の魔術まで成し遂げることになろうとは誰か想像していただろうか。


 コリアンダーの魔術は素晴らしいものだが、あれの上を行くものを死ぬまでに目にすることができるとは。あの白い光が王城を覆っていく間、俺は魔物から受けた深手の痛みも忘れて、その美しい魔術に見入っていた。これのおかげで、どれだけの人間が命拾いすることになるのだろう。だからもっとエースは胸を張ればいいのに、宴会の間もずっと女みたいにへらへら笑いながら、縮こまっていやがった。情けない。

 

 よし、こいつは俺が立派な騎士に育ててやる。

 俺は決心した。


「隊長」


 リンデンが上目遣いでこちらを見てくる。どうやら、()()()()をしてほしいらしい。俺は、リンデンの髪がくしゃくしゃになるまで頭を撫でてやった。これで、面倒な雑務を一手に引き受けてくれるならば安いもの。他の隊にはこういった文官が数人ついているが、うちにはこいつしかいない。これも反王派の嫌がらせだと俺は信じている。


「あの結界は、さすがの僕でも術式が想像できません。おそらく学園でも学べないような複雑なものでしょうね。あれがあるお陰で、昨夜は久々にぐっすり眠れました」


 いつもは眠りが浅いのかと尋ねようとしたが、やめた。ちょうどその時、塔の下でサボっている隊員を見つけたのだ。気配を消して、ゆっくりと梯子を降りる。隊員達は、俺の存在にまだ気づかずに話し続けていた。


「あいつ、髪も目も真っ黒だったよな」

「魔力量は瞳の色によく出るって聞くぞ。主席魔術師でさえあそこまで黒くはなかったはずだ」

「にしても、そんな馬鹿みたいに魔力が多い奴が、なんでわざわざ第八騎士団第六部隊(うち)に入隊してきたんだろうな。実は、けっこう訳有りなんじゃね?」

「あの顔で昔はヤバイ仕事してたとか? やめてくれよ、人間不信になっちまう」


 腹を抱えて笑い合う二人。確か、西班に入って五年目の奴らで、元冒険者だったな。


「お前ら、根も葉も無いことで盛り上がるな」

「げ、隊長」


 二人は慌てて敬礼した。


「本人のいないところで出身とか過去とか詮索するな。これは第八騎士団第六部隊(うち)の掟だ」

「はっ!」


 返事は良いが、どこまで理解しているのだか。俺は立場上採用面接することもあるため、ほぼ全ての隊員の出自や魔力を把握している。中には貧困街で長年悪さをやっていた奴もいるし、リンデンのような秀才もいる。本当にいろんな奴らが集まってきて、同じ窯の飯を食い、同じように命を懸けて戦っているのだ。その中には隊長、副隊長、班長という役職こそあれ、それ以外の身分は存在しない。必要なのは、剣や魔術といった腕っぷしと協調性、度胸、最後に「守る」という信念だけだ。しっかり働いてくれさえすれば、それで良い。ま、クレソンのような例外もいるけどな。


 あいつは正真正銘ハーヴィー王国の第一王子だ。本来ならば守られる側の人間。それが第八騎士団第六部隊(こんなところ)に来た経緯は……また今度話そう。


 さて、そろそろリンデンとコリアンダーが処理した書類の決済でもしにいこうか。と思ったが、サボり隊の二人はまだ言いたいことがあるようだ。


「隊長、おっしゃることは分かりますけど、あいつは人生の中で忘れていた大切な感情を思い出させてくれるような……どこか特別な雰囲気なんです」

「お前、何、詩人みたいにカッコつけてんだ? 要するにアレだろ? 癒やし系だ」

「そう、それ! コリアンダー副隊長ですら、猫みたいで良いって言ってたぞ」


 コリアンダー、いつの間にそんなことを。


「俺も若い時に結婚してたら、今頃エースぐらいの子どもがいてもおかしくないからなぁ。とにかく可愛いがってやりたくなるというか、守ってやりたくなるんだよ」

「おい、そんなこと言ったらこの歳で独身なのが惨めになってくるだろ?」

「ばーか。俺達は門衛だ。いつ死ぬか分かんねぇのに所帯なんて持てるかよ?」

「だな」


 こいつら二人だけで盛り上がってやがる。俺、ここにいる意味あったか? けれど、こいつらの言い分は一理も二理もある。こんなむさ苦しい職場に現れたエースは、俺達の心のオアシスだ。エースの何が良いって、あの外見と物腰なのに男であることだ。こういう命を削る仕事場では、女がいるとそれだけで士志も下がるしトラブルも増える。本当に、エースが男で良かった。


 しかも、隊の中では若干浮いていたクレソンともうまくやっている様子。後はさっさと仕事を覚えてもらうとするか。第八騎士団第六部隊には、けっこういろんな仕事があるのだから。


 その時、視界の端に緑色をした強力な魔力の流れが現れた。嫌な感じはしないが、気になってそちらを見ると、猛烈なスピードでこちらへ向かってくる黒い影が。


「珍しいな」


 それはピタリと俺の目の前で停止した。紫の腰まである豊かな髪を靡かせて、こちらを射殺さんとばかりに睨んでいる。もう少し分かりやすく言うと、殺気が駄々漏れで今にも大魔術を展開しそうな勢いで怒り狂っていた。


「Sランクへの昇格を拒否した上、冒険者ギルドなんかに引っ込んじまった最強の魔術師エルフさんが、こんなところで何か用か?」

「何言ってるの? 最強は王城の主席魔術師っていうことになってるの。滅多なことを言っては、あなた明日にはクビになるわよ? って、そんな御託を並べてる場合じゃなかった」


 元Aランク冒険者で、ハーヴィー王国冒険者ギルド本部ギルドマスター、ミント。俺が、絶対に敵にはしたくない人物のうちの一人だ。


「さっき、そこの騎士に聞いたわよ? 私のエースが、なぜ宰相の手先に連れ去られたの? まさか、あなたの不始末じゃありませんでしょうね?!」


 は?

 あまりにも、寝耳に水。



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