勉強の成果-1
2人が”火矢”を覚えて次の日、ルゥとメイは、母狼と子狼を引き連れて禁足地の中を歩き回る。
その目的は龍へのお土産探し兼、魔法の勉強の成果、そして狼とルゥたちのご飯。
「おっかしなー、ここら辺に居たみたいなんだけど」
「もう少し、奥なんじゃない?」
ルゥとメイが探しているのは、野豚の一種である、ミミウス。彼らの村では、よく大人たちが狩りをして持って帰る獲物が、その野豚であった。
2人は、獣が残した跡を捜しながら、森の奥へ奥へと進み続ける。
そうして、ルゥとメイは道なき道を歩き続け、野豚の姿をとうとう見つける。
ルゥの背丈よりも倍は大きく、体重はメイを4人分にしても足りないような大物であった。
野豚の姿を一目見た2人は、草むらに戻ると匂いに気づかれないように風上へと移動する。
「……おい、メイ」
「……何よ、ルゥ?」
ルゥとメイは顔と顔を近づけて、小声で話す。2人のすぐ先には、野豚とその巣穴。ミミウスは巣穴に入ろうと、その大きなおしりとくるくると巻かれたしっぽを揺らしながら鼻を穴に突っ込んでいた。
「……作戦があるんだ」
「……どんなよ?」
2人は小声でこそこそと話しながら、作戦を練っていくのであった。
*
2人は話を終えると、分かれて移動し始める。
メイは巣穴に近づき、ルゥは草むらへと身を隠す。
ルゥが考えた作戦はとても単純なものであった。1人が火矢で巣穴に居る野豚を驚かして外に出し、外に待機したもう1人が仕留めるといったものであった。
メイが巣穴に足音を忍ばせながら、ゆっくりと近づくとルゥに向かって口パクで合図を送る。その内容は「ルゥ、準備は良い?」であった。その問いかけにルゥは両手を使って大きく丸を作る。
そして腰から、小さいナイフを抜くと野豚の襲来に備える。
「”火矢”」
メイが魔法を唱えると、その手の先から小さな火の矢が飛び、それは巣穴へと消える。
その瞬間、野豚の甲高い鳴き声が辺りにこだまし、黒い巨体が巣穴が飛び出してくる。
「うわぁぁぁぁっ!?」
ナイフを構えていたルゥは、自らに突っ込んで来る想像以上の野豚の速度と勢い、そしてその恐怖により情けなく叫び声を上げてしまう。
「”火……(グレ……)”」
咄嗟に魔法を唱えようとしたルゥであったが、それももう間に合わない。
野豚がルゥに突っ込もうとしたその時、黒い影が野豚に飛びかかる。
それはルゥについてきていた母狼。母狼は野豚の首に噛みつくと、2匹の死闘が始まったのだった。