小さな異変-2
明くる日の昼頃、ルゥとメイは龍の居る洞窟の前に立っていた。洞窟は一ヶ月前に龍によって追い出されたときと同じく、荘厳な雰囲気を保っていた。
「あの日から、もう一ヶ月経ったんだね……」
「そうね……。 龍先生はもう怒っていないかしら?」
「そうだと良いんだけど……」
そうして不安な表情を見せながら、ルゥとメイは洞窟へと足を踏み入れたのであった。
そして、洞窟に入る2人の背を当然のようについていく、母狼と4匹の子狼の姿があった。
「久しぶり―! ドラゴン先生!」
「おや、本当に一ヶ月、ここに来るのを我慢できるとはねェ」
「龍先生との約束だもん!」
ルゥとメイがまるで母親に向かって自慢をする子供のような仕草で、龍に向かって大きく胸を張る。その様子を見て、龍は呆れたようにため息を着くと、ルゥに視線を向ける。
「ところで、ルゥ。アンタ、体は大丈夫かィ?」
「うん! なんだか、怪我をする前よりも調子が良いみたい!」
「龍先生、ルゥったら最近じゃあ”火矢”も上手くなっていて、誰かにバレるんじゃ無いとハラハラさせれられていたのよ!」
「魔法がうまくなってる、ねェ……?」
じろりと龍はルゥを見ると、顎に手を当てて何かを思案する。
そして、何か思い当たることがあったのか少しだけ目を細める。
「……ルゥ。アンタ、魔法を使ってみなァ」
龍は鋭い爪をルゥに向ける。ルゥは頭に疑問符を頭に浮かべながら、魔法を唱える。
「”火矢”!」
ルゥの手から一筋の火の矢が放たれる。その火の矢は辺りを明るくして、宙に消えてる前に弾けて消える。
一ヶ月前では、細く頼りない火の矢であったものからすると、著しく成長をしていた。
「ドラゴン先生、どう?」
「あァ、すごいねェ。じゃあもう一度やってみなァ」
「わかった! ”火矢”!」
再度、ルゥは魔法を唱える。すると、先ほどよりも明るい火の矢が宙に放たれる。
「もう一度だァ」
そうして、ルゥと龍の間に何度も同じやりとりが繰り返される。
メイと狼たちは、不安げながらルゥと龍を交互に見やる。そうして幾度目かのやりとりの時に、ルゥに異変が起こるのであった。
そのことに、龍とルゥの真横に居たメイが同時に気がつく。
「……!」
「ルゥ、それ、どうしたの……」
「……えっ?」
それはルゥの右手の平に広がる、赤き艶のある鱗。それは、龍の体を覆う強靱な鱗に酷似していたのであった。