小さな異変-1
ルゥたちが龍に住処から追い出された後のこと。
家に帰ったルゥは、居間でその頭の傷をすぐさま母親であるアレリアにバレることとなる。
滋養草のお陰で、多少なりとも良くなっていたが、それでもひどく裂けた皮膚は隠しようがなかったのだ。
「ルゥ、この傷は一体どうしたの!?」
「森で転んじゃって……」
「森で転んだくらいで、そんな傷になる訳がないでしょう!?」
「本当だよ!」
ルゥは必死にごまかし、アレリアはその嘘を突き崩そうと躍起になる。
だが、ルゥは母親に向かって嘘を貫き通す。なぜなら、ルゥはこの傷の本当のことを言ってしまえば、龍のことも話さなければならなくなる。
そして、龍のことを話してしまえば、龍に掛けられた魔法の”忘却”によって記憶を失ってしまうのだ。魔法を使えた記憶も、遺物に触れた記憶も、龍に会った記憶すらも。
「おれを信じてよ! 母さん!」
「アナタが心配だから言っているのよ! 今日はメイちゃんとも一緒だったんじゃないの?」
「そ、そうだけど、森で1人になったときに転んだんだ!」
それだけ言うと、ルゥは自室へと走り出す。制止しようとアレリアは手を伸ばすが、間に合わない。
「ルゥ、待ちなさい! 話はまだ終わってないわよ!?」
ドアが閉まる大きな音が響き、そこで話は終わりとなる。
アレリアはルゥの木製のドアを何回も叩くが、中からは物音1つしない。アレリアは諦め混じりに大きなため息を吐くと、踵を返したのであった。
*
その日より2週間が経った夜のこと。
ルゥは自室に籠もり、火の消えたランプを見つめていた。
「”火矢”」
ルゥが魔法を唱えると、その指先より小さな火の矢が放たれる。
そしてランプに付いた火は、周りを明るくするがすぐにルゥによって吹き消される。
「もう1回……!」
再度ランプに向かって呪文を唱えると、ルゥの手より小さな火が放たれて、ランプに火が着く。
このようにして、ルゥは龍の元に行けない代わりに、魔法の練習をしていたのであった。
魔法を練習しているルゥのその手に小さな鱗のようなものが浮かび上がってきていることに、ルゥはまだ気づいていないのであった。