表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/573

第90話 カイ討伐の報酬


 新年明けましておめでとうございます。今年もこの作品をよろしくお願いいたします。


 誤字報告ありがとうございます。ミミアンに変更しました。

 さらに1週間が経った。今日は前王、もとい本当の王であるブラント国の国王による今回の騒動の功労者である俺たちの叙勲式だ。ここまで伸びたのは街の復興が進まないとできないからという理由と俺の怪我が治るまで待ったからだ。


 回復魔法さえまともに効けばすぐに治ったのだが、俺はカイの強力な洗脳魔法さえ効かないほど魔力抵抗値が高い。強力な回復魔法をかけても俺に作用するのは一部の骨のヒビがくっつくくらいだ。それでも今ではまともに人に見せても大丈夫なくらいにはなった。


 一時期は顔が腫れ上がってまともに食事さえできなかった。内臓もボロボロでメリリドたちが適切な応急処置を施さなかったら死んでいた可能性もある。地球にいた頃の治療なら確実に全治半年、下手したら1年はかかるのではないだろうか。それが魔法のあるこの世界なら俺でも1ヶ月ほどの怪我にしかならない。


 今回の叙勲は選ばれたのは数名だ。俺にミミアン、それに知らない人二人。本当はメリリドさんたちもその対象だったんだけど辞退したらしい。帰って子供の世話をしたいのと、そこまでされるほどのことはしていないと言っていた。まあそういうことをされたい柄じゃないのだろう。


 この叙勲式は大々的に行うため、街の大通りを使って城までパレードを行う。だから今、こうして馬車の上で手を振りながら進んでいる。その盛り上がりようは半端ではない。あのカイが洗脳して無理やりやらせた盗賊退治の時のパレードの比ではない。


 おそらく人々はあの時の記憶があるため、その記憶を払拭しようと腹の底から声を出しているのだろう。このパレードはその辺の鬱憤を晴らす意味もあるようだ。


 パレードを行うこと1時間、ようやく城までたどり着いた。この城に入るのはこれで二度目だが、一度目と違って変な緊張というのはない。むしろ安心できる。城に入ると今度は兵士たちが拍手喝采で出迎えてくれる。


 なんというかむず痒い気持ちになる。こんなにも人々に歓待されたのは生まれて初めてだ。ここまでされることを確かにしたが、気恥ずかしいものには変わりない。


 案内されて到着したのはカイの時と同じ玉座の間だ。そこに座るのは老齢の国王だ。その威風堂々とした佇まいは確かに国王にふさわしい才覚があると言える。王の前までたどり着くと自然と腰を下ろして最敬礼をする。


 やはり王は王たるだけの風格というものがあるんだろうな。周囲の兵士たちを見てもカイの時とは違って全く油断がない。一国の兵士にふさわしいだけの風格を持っている。それを引き出しているのも全てこの王によるものだろう。


「これより叙勲式を行う。国王陛下のお言葉である。」


「面をあげてくれ。お主達はこの国の救世主だ。この国を救ってもらい本当に感謝する。ありがとう。」


 王がこうべを垂れる。それを見た周囲の兵士たちが少しざわつく。一国の王がこうして頭を下げるということは自身の権威のため、外交上のためにもやってはいけないことだ。しかしそんなことはわかっているはずの王が頭を下げる。それだけのことをしたいという気持ちの表れだろう。


「さて、それでは叙勲式に戻ろう。では頼んだ。」


 王がそういうと兵士が一人ずつ呼びながらその功績を讃える。俺が知らない二人は他の避難施設のトップらしい。その功績は怪我人や病人の保護と手当だ。洗脳下で放って置かれた病人を人知れず助け回っていたらしい。おかげで子供や老齢の方々の死者がだいぶ減ったらしい。


 彼らの功績は十分讃えるだけにふさわしいものだ。彼らのおかげで子供の死亡率がだいぶ抑えられた。彼らに対する声援もなかなかのものだ。それだけ多くの人々を助けたということだ。


「次にミミアン殿。そなたは前の二人と同じく多くの被害者を助けた。そしてあの苦しい中でも決して諦めず悪王カイを倒すことを諦めなかった。此度の功績はあなた方のおかげでもある。よってここに特別爵位を授ける。」


「ありがたき幸せ、心から感謝します。」


 ミミアンは王の元まで近づき直接その爵位を授かる。前の二人でもそうだったが、普通は王から一度兵士を通して渡されるものだ。それを直接ということは余程のことだ。


「ミミアン、お主達の境遇は聞いておる。お主達のように勇敢なもの達を奴隷として扱っていた貴族達はすでに家を取り潰し、牢獄送りにした。このような愚かな貴族の行いを許したわしを許してほしい。」


「ああ…何をおっしゃいますか。我らは陛下を憎んだりしておりません。悪いのは愚かな貴族です。」


 ミミアンは王の計らいに心から感謝している。これでミミアン達の心残りも一切なくなった。さらに王は奴隷としてとらわれていた人々に故郷へ帰還するための一切の費用を負担する、もしくはこの国での永住権を与えることにした。その対応にミミアンも感涙に咽んでいる。


「そして最後に今回の最功労者への叙勲を行う。そのものは自身の手を尽くしあの悪王カイを倒した!他の功績も素晴らしかったが、この功績はその最たるものだ。彼がいなければこの国は未だあの屈辱の中にいただろう。そのものは…セキヤ・ミチナガ!」


 その瞬間の盛り上がりは最高潮だった。その声量で建物が震えるくらいだ。誰もがその歓喜を声で、体で表現している。あまりにもものすごい歓声でその後の進行がどうなることかと思ったが、決して止まない歓声のためそのまま無理やり叙勲を執り行った。


 その後も金品の授与などがあったはずだが、それどころではなくなってしまったのでここまでで終わらせたようだ。あとの細かいことはまた後で話し合うらしい。なんせこれに関わったのはここにいる4人だけではない。もっと多くの人々の功績によるものなのだから。


 その後はパーティーが開かれた。もちろん今回の騒動の功績者は全員参加した。ジャギック達も城で用意された衣服を着用してパーティーに参加している。ただしマック達はいない。あいつらは何の功績もあげてないからな。ウィッシもほとんど寝ていたし役に立ってない。


 俺は多くの人々から称賛の声を浴びていた。多くの貴族達と関係を持つことができそうだ。だからちゃんと自分の店の話をしておいた。オープンしたら多くの人が来てくれそうだ。




 翌日、俺たちは城で夜を明かした。あのカイに監禁されている時とは全く違う対応だ。実に心地の良い清々しい朝だ。今朝は王に呼ばれて功労者の一覧表をもとにその褒美をどうするかという話をするらしい。王の執務室に案内されるとすでにミミアンを含む他の3人は集まっていた。


「陛下、全員集まりました。」


「ああ、入ってくれ。肩苦しくしないでそこに座って紅茶でも飲んでくれ。」


 昨日までとは打って変わって威厳はあるが、どこか優しそうな王という雰囲気に変わっている。しかしどこか嫌そうな、やりにくそうな表情が隠れているようにも思えた。


 そんな王の周りには5人の魔王クラスと思われる兵士がいた。その中にアクラとジャイリスもいた。彼女達はあれだけの境遇から何とか立ち直れたらしい。その顔には今度は絶対に王を守るという決意の表れが見えるようだった。


「陛下、このような話し合いの場を設けていただき心から感謝を」


「ああ、気にしないで良い。気にしないで…良いのだ。」


 俺が知らない功績者の男がそういうとますますバツの悪そうな顔になった。なぜこうなっているか、実は俺はだいたいわかっている。言いにくそうだから俺からいうのもありなのかも知れないが、それはそれで失礼になりそうだな。


「実はな…此度の報奨金の話なのだが…この騒動のせいですぐには十分な額が出せそうにないのだ。すまない…」


「何をおっしゃいますか!我々はこの国のことを案じて行ったまでのこと。金欲しさではありません。」


「そうか、すまない。」


 王は少しホッとしたような雰囲気になる。この話はこれでおしまい。後々金が整い次第その報奨金を渡すという流れになりそうだ。しかし俺は空気を全く読まずにここは行くことにする。おそらくそれが正解だから。


「陛下、恐れながら申し上げますが報奨金は金が整い次第渡す…それはできるのですか?」


「お、おい。何をいうんだミチナガ!」


「良いのだ。必ずこの礼はする。それがそなた達への感謝の表れなのだから。だから」


「だから?だからそのためにはこの国がなくなっても良いと?」


 俺の発言にこの場にいた全員がざわつく。王も気がつかれていたのかという驚きの表情を見せている。まあ俺はここ数日は寝たきりだったからな。何も知らないと思われても仕方ないのかも知れない。しかし寝たきりだったからそのぶん色々なことを考えるだけのことができた。


「どうして…そう思ったのかね?」


「私は商人です。商人には情報が命、無知というだけで商人は損をしますから。すでにこの国から多くの商人が立ち去っているのを知っています。しかも大量の物資を持って。この国の今の状態ではそれを止めるのは不可能でしょう。下手に出国禁止命令でも出そうものなら再び暴動が起きかねない。」


 情報を仕入れるのは使い魔達だ。そんな毎日お祭り騒ぎの胴上げ祭りをさせていたわけではない。この国の各地に散らばせて情報の収集に当たらせていた。この情報網は俺でもちょっと驚くくらいの成果だった。


「問題は商人が去ることではない。物資が持ち出されることです。この国は生産が完全に止められていた。それなのに消費ばかりが加速しました。今この国の備蓄はどれくらいですか?次の生産まで持ちますか?」


「なるほど。しかしその程度ではこの国は潰れんよ。お主の考えは実に早計だ。足りないのなら他国から物資を買い取れば良い。それだけだ。」


「確かに、ですがそれができないとしたら?今回の騒動が他国による攻撃も含まれていたらどうですか?それともう一つ、他国から物資を買うための資金は?我々に支払うだけの金貨もないのにどうやって買うんですか?」


 俺が寝ている間に考えついた一つの結論。それは他国からの攻撃だ。カイは知ってか知らずかそのどこかも知らない他国に利用されていたのだ。おそらくもう十分と言えるだけのこの国への攻撃が済んだ。だから今回こうして消されても問題ないと判断され、今回の騒動を止めることなく消されたのだろう。


「…お主の話を聞こう。」


「まずは周辺の村々を渡り歩いて村人達を集めたのになぜ魔虫退治用の村だけ何もされずに残ったかです。カイの洗脳能力でも周囲の村までは影響できません。だから村々を渡り歩いた際に全ての村人を集める必要があった。あの村は単純に遠いから行かなかっただけかも知れません。しかしあの村は魔虫退治のために必要だからわざとカイに知らされなかった。」


 なぜ魔虫退治の村が必要だったか。それは魔虫による被害が出ると他国から支援を行わなければならないからだ。俺は前まで知らなかったが、この国はすでに英雄の国の領地内の国なのだ。だから領地内の国同士の戦争は禁止されているし、災害時には国同士で支援を行わなければならない。


 だから魔虫被害による他国からの支援を行わせないためにその防波堤の村だけは残した。そうすればこの国は洗脳による影響で疲弊する。そうすれば王による統治力の欠如ということで他国がこの国を得ることも可能なのだろう。


 あくまで武力による国取りではなく、たった一人に国を弱らされてしまう王への不信による王位の簒奪ということだ。もしかしたら国ではなく領地だけを取る案なのかもしれない。物資と領地の交換、その方が現実的かもしれない。しかしそこまでは俺にはわからない。


「ではそう考えた時それは誰の仕業だと思うかね?」


「おそらく宰相でしょう。彼はカイのブレーン役として働いていた。というより半分カイを操り人形にしていたんじゃないですかね。あの宰相は動き方が洗脳されている人間とは違うように思えた。確証はないので確実とは言えませんが。しかし宰相ならばこの国の金を動かすことも可能でしょう。すでに他国に持ち運ばれたからこの国は財政難になっている。そもそも洗脳されているのに国の金がなくなることはないんですよ。」


 この国に入った人間は全員洗脳される。洗脳された人間はこの国から出られない。それなのに国が財政難になることはおかしい。使い魔達の調査でも市井に大量の金貨が溢れているような話はなかった。むしろ少ないくらいだ。


 おそらく城から城外へ運び出されたのだろう。城にはいざという時のために王を逃がすための出口があるはずだ。そこならば自由に外へ出ることができる。そこから金品を運び出せば簡単なものだ。


「王よ、あなたもそう思ったからここに宰相を呼んでいないのでは?あなたも怪しいと思う点があるのでは?」


「…そこまで気がついてしまったか。その通りだ。この国はとてつもない危機に瀕している。正直、立て直すのは難しいだろう。」


 王の言葉に全員騒然とする。アクラやジャイリスも気がついていなかったのだろう。なんとか平静を保とうとしているが手が震えている。国民達も気がつくまでにしばらくかかるだろう。今はカイを倒して洗脳から逃れたという歓喜の思いしかないのだから。


「奴隷にされていた人々のためと言いつつ、財源確保のために貴族を取り潰しにしたがすでにそこも手が回っていてな。大したものは残っておらんかった。」


「物資はどの程度あるんですか?あとどれだけ持ちますか?」


 俺は聞くと王は引き出しの中から紙の束を取り出した。俺はそれを手にとって確認する。そこには可能な限り探し出されたと思われる物資の量が書かれていた。俺はスマホからポチを呼び出してその帳簿から計算させた。使い魔総動員で計算すれば割とすぐに計算できる。


「持って1ヶ月…いや2ヶ月ですかね。」


「これからこの辺りは寒くなる。そうしたら1ヶ月持つかも怪しいところだ。商人達が物資を持ち出さねばもう少し持ったのだがな。」


 あまりに辛い現実。カイという悪夢は去ったというのにこうして新たな悪夢が来てしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 91までしか読んでいないのですが…主人公は同族を殺めたこと何も感情を抱いていないのですか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ