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第80話 計画

「本当にあとをつけている奴はいないんですね?」


「大丈夫だ。俺たちでしっかりと確認した。それじゃあ戻るぞ。」


 翌日、スマホでポチの眷属を通してミミアンたちに追っ手がいないかどうかの確認をしてもらった。俺は眠れなかったせいでふらふらで、ジャギックは結構な歳なのに昨日の洗脳を受けたため、疲労が大きくまだ全快には至っていない。そんな状況で追っ手を撒くために小一時間ほど街中をぐるぐる歩き回った。


 そしてようやく確実に追っ手がいないことを確認できたので病院の地下のアジトに戻ってきたのだ。へとへとの状況で戻ってきたのでそのまますぐに眠りにつきたかったが、追っ手の話だけはしておきたかった。


「それにしても追っ手ね。国中の人間が洗脳状態なのに追っ手なんて…まだカイが怪しんでいてわざわざ洗脳がかかっていないか、怪しい人間を調べるように洗脳された可能性があるなんて……動きにくくなったわ。」


「そうですね。さすがにこの状況じゃこの先下手に動くのが怖いですね。もしかしたら既にここも特定されていて監視付きで野放しにされている可能性も…しかし今日確認した限り追っ手がいないのなら私の勘違いの可能性もありますね。」


「まあその辺もすぐにわかるさ。…きたか。」


 最終確認を終えたのか追っ手の確認をしてくれていた4人が戻ってきた。全員何事もないとちゃんと確認できたようだ。フードを外すとその4人の頭には可愛らしい耳がついていた。


「獣人の方々ですか。」


「ええ、獣人は差別意識を持つ貴族が多くてね。秘密裏に奴隷として捕まることが時々あるの。彼らは奴隷の鎖で魔力を封じられていても視覚や聴覚がずば抜けているから。こういうことをさせるのにはぴったりなのよ。」


「こんな時ばかりは奴隷で良かったと思える。それと俺たちの確認でも追っ手はいなかった。こんなことを言うのは失礼だが勘違いという線が有力だろう。」


 ひときわ体の大きい獣人の男は事細かにどう調査して、どう確認したかを説明してくれる。その仕事ぶりは舌を巻くものがあり、獣人の男の優秀さがよく分かる。是非とも俺の店で雇いたいものだ。


「それだけ入念に確認して怪しい人物がいなかったのなら俺の勘違いのようですね。」


「そうにゃ。私が昨日から確認したけど怪しいやつどころか人一人いなかったにゃ。」


「そうですよね。俺の勘違い……昨日から?」


「ああ、その子は関係ないわよ。昨日二人だけだと不安だから離れたところから監視しておいてもらったの。万が一のことも考えて近づかないように言っておいたから窓の外の怪しい影は関係ないわ。」


 なるほど、確かに戦闘能力皆無の俺と寝たきりの老人の二人組じゃあさすがに不安にもなるな。しかし離れたところから確認していたのなら窓の外の影とは関係ないだろう。するとその獣人、猫耳の少女はどう言うことなのかと詳しく話を聞いてきた。


 彼女は昨晩から俺たちを見守っていたため詳しい話を聞いていないようだった。なので詳しく話を聞かせておく。まあ俺の勘違いと言うことでカタがついたのでもうこれ以上詮索する必要もないのだが。


「と言うことで食事を作り、磨いたスプーンで背後を確認したらその怪しい影があったと言うことです。」


「ふ、ふ〜ん…にゃるほど〜〜……」


 怪しい。明らかに目が泳いでいるし音の出ない口笛まで吹いている。ここまで漫画のように嘘をついている人間を初めて見たぞ。ちょっと感激…じゃなくてゆっくりと問いただしてみる。すると初めはごまかしていたが次第にボロを出し始め、ついに……


「し、仕方なかったにゃ…夕食前に行けって言われたからお腹が空いて…気になって見に行ったにゃ……絶対に見られていないと思ったにゃ…」


 まさかの身内が犯人。ホッとしたと言うかなんと言うか…。もう疲れ果ててしまったのでとりあえず一旦休ませてもらい、また後で細かい話し合いをすることとなった。




 俺が起きたのは夕食どきだ。既にジャギックは起きていて、何があったかを報告したようだ。そしてある程度の作戦もたったらしい。とりあえず細かい話は夕食が終わってからということになったのだが、その前に…


「ごめんにゃ〜〜ゆるしてにゃ〜〜!だからご飯食べたいにゃ〜〜!」


「はいはい、わかりました…悪気はなかったんですもんね。」


 俺が起きるなり先ほどの猫耳の獣人の少女が俺に飛びかかって謝ってきた。ゆるしてもらわないと夕食はなしと言われたらしい。既に昼飯は抜きにされていて昨日の夜から大したものを食べていないらしい。


 早く許してしまったが、女の子に飛びつかれてちょっと嬉しかったのでもう少しそのままが良かった。猫耳の少女は俺が許すとすぐに夕食の席に戻っていった。なかなかに薄情だ。許さなきゃよかったかも。


 みんなで夕食を食べ終えると早速作戦会議に入る。とりあえずミミアンが今回集めた情報をまとめて簡潔に説明し始めた。


「カイのこの国での足跡だが、どこからきたかは不明。ある日突然いたらしい。なんでも異世界から来たってもっぱらの噂よ。それよりもやつ自身すぐに洗脳を始めたわけではなく、冒険者ギルドに登録した形跡が見つかった。2週間ほどは冒険者として活動していたようだが、どうにも力不足だったらしい。ゴブリンにもまともに勝てず、パーティを組むこともできなかったようよ。」


 戦闘能力は皆無なのに無謀な挑戦ばかりしていたようだ。とはいえ人伝に聞くことはできないので、冒険者ギルドにある書類を元に考察したようだ。討伐依頼ばかり受け、そのほとんどを失敗する。と言うか成功した依頼がなかったようだ。


「その後足跡が一度消え、次に確認できたのが今の洗脳を振りまき、この国を乗っ取ったこの状況の始まりということ。カイについてだけど女好きでくだらない知恵を偉そうに洗脳で教え込むことくらいよ。ほとんど調べるまでもないようなことばかりね。だけどジャギックたちの方は収穫あったみたいね。」


「ああ、まずこの洗脳から守る指輪。抗魔の指輪というらしいが、この指輪をつけた状態なら城に近づくことまではできた。しかし時々行う奴の洗脳魔力を多量に放出した瞬間には耐えることができないらしい。洗脳はされないが身動き一つ取れなくなる。自身で必死に抵抗するためかなり疲弊する。この指輪をつけても奴に近づくことは不可能だろう。しかし、ミチナガ君は違うようじゃ。」


 そこで俺に視線が集まる。一斉に注目を集めると緊張するし、なんか照れ臭い。しかしこの話を聞く限り、計画の中心になるのは間違い無く俺だろう。


「まず結果からですが、私にはジャギックさんが洗脳を受けた際も嫌な感じがするくらいで、特に他にありません。私にはほぼ洗脳魔法は効かないと思います。」


「その結果を私たちは求めていたわ。これでできることがかなり増える。それとルシュール領地での冒険者を雇うという話はどうなっているのかしら。」


 そういえば俺もその件は全く確認していなかった。全部シェフとその眷属に任せっきりだ。確認のため、しばらく時間をもらう。


ミチナガ『“シェフ、冒険者を雇う件はどうなった?”』


シェフ『“もう雇って向かわせているよ。条件に当てはまるのは全部で4人。メリリドさんを含む元パーティメンバーだから腕も十分。報酬はある程度弾んだから金貨を用意してね。”』


ミチナガ『“仕事が早くて助かる。メリリドさんのパーティってことはA級冒険者だな?連絡手段はあるか?”』


シェフ『“眷属を全員連れて行かせた。俺は残ってルシュール様との連絡役。”』


 完璧じゃないか。普段料理しかしていないが、こういう仕事をやらせても十分活躍できるんだな。これは新しい発見。他の使い魔たちもいろいろなことをやらせてその能力を調べていくことをやってみるのもいいかもな。まあそれはおいおいということでとりあえず今はこっちのことに集中しよう。


「連絡が取れました。A級の冒険者4人を雇うことができました。既にこちらに向かっているとのことです。」


「A級!それはありがたい。ちなみになんというパーティだろうか。」


「すみませんパーティ名はよく知らなくて……メンバーの一人はわかりますよ。メリリドという人です。」


 メリリド、俺がそういった瞬間全員の顔がひきつるのがわかった。やはりそれなりに有名のようだ。しかもおそらく悪名の方で。よく知らないけど何者なんだよメリリドさん。


「メリリド…その名前でA級ということは暴虐のメリリドね。準魔王級と言われているあのメリリド…パーティ名は暴虐の戦鬼だったわね。リーダーの戦鬼と呼ばれるガヴァドに暴虐のメリリド…敵に回したらそれほど恐ろしいものはないが、味方ならこれほど頼りになるものはない。しかしよく雇えたわね。彼らは気まぐれだとよく聞くけれど。」


「あ、今メリリドさんはうちの従業員なんですよ。子供ができたんで育児に専念したいそうです。」


 そこで先ほどまでよりさらに大きいリアクション。驚愕というものを全身で表すとこういうことになるんだということがはっきりとわかる。それほど予想外なのだろう。俺としては無理やりおっとりとした風に装っている人妻って感じだけど。


「いや、もう何も聞かないわ。彼らならこの国まで数日でこられる。それまでに計画をしっかりと立てておかないと。」


 再び、万が一のこともないように念入りに作戦を練る。既にこちらの手札は揃った。あとはその手札をどう使うか。十分な手札は揃えられたはずだ。その手札をどう使うかによって結果が変わる。失敗は許されない。




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