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第79話 探索

 今日はいつもよりも疲れが取れない。それもそのはずだ。なんせこの狭い部屋に雑魚寝で隙間がないほどぎゅうぎゅう詰めで寝たのだから。俺が起きるとすでに話し合いが始まっており、情報と戦うための物資を入手するために人員を振り分けている。


「やっと起きたか。すでにあらかたの振り分けは終わったよ。あんたはどうするんだい?」


「魔道具を取り扱っている店に行きたいと思います。それに城の周辺で様子を窺ってみようかと。」


 いざという時のために俺でも使える武器が必要だ。準備しておくことは無駄にはならないだろう。店は閉まっているところが多いので、場合によっては盗みに入ることも考えておいたほうがいい。


 それと諸悪の根源であるカイについての情報も必要だ。奴の好みや癖など、一つ残らず情報を入手したい。何か奴に取り入るための情報でもはいれば万々歳だ。


 それと使い魔も洗脳されてしまうのでスマホから使い魔は出せない。だから今は全員ルシュール辺境伯の領地での準備のために動いている。とはいえ、俺のミチナガ商店に作った使い魔の家はシェフで登録してあるので、シェフとその眷属しか使用することができないらしい。


 それでも従業員にも手伝ってもらい、なんとか人を集めてくれているらしい。こちらの方は任せっぱなしでいいだろう。それとルシュール辺境伯にお願いした洗脳から身を守る魔道具だが、とりあえず6個は用意できたようだ。しばらくはそれをこちらで使い、情報収集のできる要員を増やす。


「じゃあこの爺さんについて行って。できるだけ目立たないように二人だけの方がいい。この爺さんは魔道具を扱う店の主人だ。何か良い物が入ると思う。」


「よろしく頼む。うちの店にあるものなら好きに持って行ってくれて構わない。」


 確か昨日俺の魔力が少ないと洗脳魔法にかからないと証言した老人だ。話を聞くとなかなかの知恵者ようで、洗脳魔法が半年持つという計算をしたのもこの老人らしい。城の魔道具の設計もいくつかしたこともあるのでそれなり内部の情報に詳しいらしい。




 老人に案内されるまま移動して来た。道中はそれはそれは面倒だった。朝だというのにまだ騒いでいる人間が多い。そんな人たちに紛れるように肩を組みながら笑ってスキップして来た。正直そんな気持ちになんてまるでなれなかったが、もう半分やけくそだった。


「ここじゃよ。さあまた飲み直そうじゃないか。」


「そうですね、飲み直しましょう!」


 全く飲む気分じゃないが、とりあえず誤魔化すために言うだけ言っておく。案内されたのはジャギック魔道具店。この老人の名前から来ているらしい。笑いながら扉を開けて店の中に入る。しかしそこは何者かに踏み荒らされて商品が盗まれた後だった。


「おそらく兵士に押収されたな。奴にとって魔道具は危険なものもある。それこそこの洗脳から身を守る指輪のようにな。何か残っておれば良いのじゃが…」


 至る所に荒らされた際に壊された家具やガラスの破片が散らばっている。俺も周辺を見渡してみたが魔道具らしいものは一つもなかった。


「どうやら全滅のようですね。何一つ残っていないか…別の店にも行ってみましょう。」


「まあそう焦るな。少しだけだが隠しておいたものがあるはずじゃ。」


 そう言うとジャギックは壁に触れ、何かしだした。すると壁にわずかな亀裂が走り、ゆっくりと崩れた。その中からはいくつかの魔道具らしきものが出て来た。


「それは一体なんですか?」


「これはな、店に窃盗犯が入って来たときに捉えるためのものじゃ。この丸いのは相手にぶつけると粘着性の液体が飛び出る。こっちの短い棒は作動すると相手に絡みつく。そして地面に打ち付ければ相手を引き寄せることも可能じゃ。それからこの首飾り。しばらくの間なら攻撃から身を守ることが可能じゃ。おぬしでも使えるように魔石もある。役に立つはずじゃ。」


「ありがとうございます。これはかなり役に立つはずです。」


 店のいざという時の防犯道具か。逃げる相手を引き寄せて、その場から動けないようにくっつける。自分の身も守れるように防御も忘れない。それに魔力が切れた時のことまでしっかりと考えてある。実に用意周到な計画だ。


 まあ壁の中にそんな風に仕舞っておいたらいざという時使えなかったかもしれないけどね。逃げる窃盗犯相手にそんな悠長に壁から取り出す時間なんてないだろうし。しかし、今回はそれが役に立ったな。普通に仕舞っておいたら押収されただろう。


 なかなか良いものが揃った。他の店を探索してみても良いのだが、おそらくどこも押収されているだろう。裏組織とかがあったとしてもこの洗脳の状況ではそいつらも自ら魔道具を手渡した可能性もある。まあその辺の収集は他の人員も行ってくれているそうなので任せておこう。


 何もないなら多少のリスクを負ってでも探しに行ったが、それなりに揃ったので、下手に騒ぎが起きないようにこのくらいでやめておくのが得策だろう。


「ではこの後は城の近くに行ってみましょう。色々実験をしてみたいこともありますので。」




 城の前。そこは女たちが集まり国王であるカイに対して求愛の声をあげている。はっきり言って異常な状況だ。正直気持ちが悪くなってくる。しかし彼女たちの行動も洗脳によるものだ。無理やりそういう行動を取らされているのだろう。


「全員10代から20代…って言うところでしょうか。よっぽどの女好きですね。」


「わしもここまで近づいたのは初めてじゃが異様な光景じゃな。そういえば毎日のように兵士が綺麗どころの女を城まで連れて行くらしい。既婚者だろうが聖職者だろうが御構い無しにな。その現場を見たことはなかったがどうやら事実のようじゃな。」


 なんちゅう胸糞悪いことをしていやがるんだよこいつは。正直見ているだけでもムカムカしてくる。しかしここで実験したいことがある。そのためにももう少しここにいる必要がある。この気持ちをぐっと堪えなければ。


「もう少し近づきましょう。洗脳にどこまで耐えられるか知る必要がありますから。」


「なら人気の少ない場所がある。そこへ行こう。わしもこの指輪の力を信じておるし、お主のことも信じておるぞ。わしらが洗脳されたら奴にこの計画のことを話してしまいかねないからな。」


 この実験は結構危険なものでもある。下手に洗脳されたらその時点でもうおしまいだ。俺たちは洗いざらいみんな喋ってしまうだろう。そうなったら隠れている仲間たちのことも話してしまう。危険な賭けだが、これは絶対に必要なことだ。


 ジャギックは人目につかずに城へ近づけるところまで案内してくれた。そこで俺たちは安全を喫するために城に近づき5分待つことにした。それで平気なら10歩近づきまた5分待つ。ゆっくりゆっくり洗脳されないギリギリのラインを探っていく。


 そんな地道な作業を繰り返し、とうとう限界まで城に近づけるところまで来た。そこでも5分ほど待って見たがどうやらなんの問題もないようだ。


「どうやらその指輪の効果は本物ですね。ここまで近づいても問題ないなら十分本番でも使えるでしょう。」


「何もなくても問題ないお主の方がすごいがな。この件が終わったら保有魔力による研究でもしてみるか。…待て!これはまず…」


 突如何かが押し寄せる感覚がした。俺は何か嫌な感じがしただけで済んだが、ジャギックはそれだけで済まなかったらしい。目が虚ろになり、表情が消えた。しかしまだ洗脳されているようには思えない。まだ必死に抵抗しているのだろう。しかしここにいるといつか洗脳されてしまう。俺はなんとかジャギックを担いでその場を離れた。




「ジャギックさん!大丈夫ですか!?」


「う…うあ…うぅ……だ、大丈夫じゃ……」


 相当精神的に疲労したのだろう。返事を返すことはできるようになったが、寝かした状態から起き上がれそうにない。今は城から離れた人気のない家の中に入り休息を取っている。もしもの場合、今日はここで一晩を明かすことになるだろう。とりあえずミミアンたちに連絡を取っておいた方がいい。


ミチナガ『“と、言うことで今日はここで一晩を過ごす。心配はないって伝えておいてくれ。”』


ポチ#2『“わかったよ〜”』


 もしもの時のことを考えてポチの眷属を一人置いてきてよかった。こうしておけば連絡を取ることも簡単だ。それからすぐにポチの眷属を通してミミアンたちから「わかった」と返事が帰って来た。


 誰かが迎えにくることはやめてもらった。なにせ今日は怪しい行動をしすぎた。城にゆっくりと近づき、その後老人を抱えて離れて行った。そんな行動は誰が見ても怪しい。まあここまでもなるべく人気の少ない裏路地を通って来たのでそこまで問題はないはずだが、念には念を入れておく。


 ジャギックの様子がやっと落ち着いてきたのは日も落ちた頃だ。辺りはすっかり真っ暗で、月明かりだけが周囲を照らす。人気の少ない裏路地の空き家なので街灯も少ないのだろう。次第に腹も減ってきたので、飯にすることにした。


 わざとらしく喋りながら食事をわざわざスマホから取り出して作り始める。監視されている可能性も考え、念には念を入れておく。これで誰も見ていなかったら失笑ものだ。まあ誰かが見ているわけないと思うけどね。鼻歌交じりに調理を進める。この光景は絶対誰かに見られたくない光景だ。


 調理を進め、ある程度完成する。あとは少し煮込めばいいだけだ。なので食器の用意をする。用意するのなんてすぐに終わるが、とある昔見た映画を思い出す。磨かれたスプーンを鏡がわりに使って背後を確認するというやつだ。


 試しにスプーンを綺麗に磨きながら左右に動かして背後を確認する。湾曲しているので若干使いづらいが、確かに背後を確認できるではないか。心は探偵の気分だ。じっくり何か異常がないかスプーンを磨きながら背後を確認してみる。


 窓枠に小さな黒い影が見えた。四角い窓枠なのに1部分だけ出っ張りがあるのだ。あまりの恐怖に一度スプーンから目をそらす。いや、きっとこれはゴミか何かだ。再び確認すると今度はごく普通の四角い窓枠だけが見えた。


ミチナガ『“やばい、誰かいる。もしかしたら猫かもしれないし確認してきて。”』


ポチ『“外に出たら洗脳されちゃうから無理だよ。下手に確認しないでそのままにしておこう。”』


 まじでか。しかし確かに下手に確認しに行って監視にばったり遭遇、殺される。なんてこともありえなくない。俺は震えながら先ほどまでと同じように鼻歌を歌いながら食事をとった。


 これほどまで恐怖で味のしない食事というのは初めてだ。無理やり胃に詰め込むとそのまま眠ってしまおうと横になるが、全く眠れない。気を紛らわそうにも下手にスマホを使って国王のカイにバレるとまずい。結局、スマホを使わず、一睡もできずに朝を迎えた。



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