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第8話 料理アプリ


 あれから3日がたった。

 未だに魚は順調に売れていて、なんと3日で目標の金額に到達した。

 このままの調子でいけば良いが、毎日のように供給されていけばそのうち価格も下がるだろう。

 まあ販売相手が貴族なのですぐには値下げをすることはないとは思う。

 まあしばらくしたら新しい商売も始めよう。


 宿に戻ってからアプリを買おうと思ったが、アプリに必要な道具を買う必要もあるので、近くの食堂で食事をとりながら買うことにする。

 この3日間の間、あの使い魔には食事として露天で販売されていた食事を与えていた。


 ちなみに今はポチと呼んでいる。

 小動物っぽくてなんとなく呼びやすかったので、特に深い意味はない。

 ポチは毎日釣りを続けていたら、今では日に40匹以上を釣り上げるまでに成長した。

 これなら俺が釣りをしなくても十分に販売できる量が賄える。


 俺は早速スマホから購入するアプリを選ぶ。今回買うのはどこでもクッキングだ。

 おそらく名前の通り、料理のアプリなのだろう。

 これなら使い魔の食事くらいはなんとか自分で賄えるだろう。

 食材はそれなりにあるので、料理で稼げそうなら簡単な飯屋を開くのも良いかもしれない。


 本当なら砂糖など、確実に良い値で売れる菓子類を作れるようになるまで買わない予定だった。しかし砂糖が手に入るまで時間もかかりそうなので、先に買ってしまうことにする。まあ今のうちにアプリに慣れておくのも良いだろう。

 金貨20枚を支払い早速買ってみる。


『どこでもクッキング!みんなで楽しくお料理しよう!料理の仕方は簡単。レシピを買えばそのレシピの通りに作業をこなすだけ。レシピのない場合でも作ることはできるよ。』


「うん…それはいいんだけど何もない更地なんだけど。」


『作業台と道具は他の連動アプリから手に入れてね。それじゃあ頑張ってやってみよ〜!』


「声は可愛らしいけど、今までで一番シビアだな。支給されるアイテムも道具も何もないし、マジなクソゲーだろ。とりあえず多少は金があるし、色々買い集めるか。」


 文句を言っていても始まらない。

 売ってそうな店にいくつかあてがあるので早速買い物に行く。

 とりあえず確実に必要な鍋に包丁といった道具はすぐに買い揃えることができた。

 それから調味料もいくつか買い漁ったのだが、どれも値段が高い。


 まず味付けは塩くらいしかないのだが、その塩もなかなかの値段がする。

 本来なら内陸でも岩塩があれば十分に塩は取れるのだが、それも近くにないようだ。

 どこの料理も割と薄味なのはそれが原因なのかもしれない。

 まあ香辛料で多少はごまかせると思うので、それでなんとかしよう。


 食材に関しても俺がまだ育てていない野菜や肉など色々と集めることはできた。

 ここまではよかったのだが、ここからがなかなかの問題だ。

 それは設備の問題である。


 更地なのでガスコンロも水道も何もない。

 これに関してはどうすれば良いのかわからず、色々な店を歩き回ったが良いものがなかなか見つからない。

 諦めて焚き火でも起こしてやろうかと思った時にふと思い出した。


 それは魚の酸素ポンプに使っている、あの風の魔石とかいうやつだ。

 あれは風だったが、もしかしたら火や水といったものもあるかもしれない。

 しかしどこに売っているか見当もつかない。

 なので商業ギルドに聞きに行こうと思い向かっている途中で、横目に一軒の店が映った。


 その店は俺がこちらに来てから初めて入った、あの少し高級な店である。

 あの時はポーションしか買わなかったが、もしかしたら俺が思っているものもあるかもしれない。

 この店はあの時以来、品物の値段が高いので入っていない。


 物は試しと久しぶりに入ってみると、今日も俺以外に客はいないようだ。

 こんな客の少なさで正直やっていけるのか不安になる。

 色々と物色しようとすると奥から前に見たあの男がやって来た。


「これはこれは、お久しぶりですミチナガ様。」


「お久しぶりです…ってあれ?俺名前言いましたっけ?」


 正直最後に来たのは1月も前だし、すぐに店を後にしたので顔も覚えていないと思っていた。

 それに俺はこの男に名前を言った覚えは全くない。


「存じ上げておりますよ。なんせちょっとした有名人ですから。」


「有名人?」


「ええ。なんせ普通ではありえない時期にラディールを出荷し、さらには生きた魚を販売するという今まで誰もやってこなかったことを成し遂げたんですから。今やだいぶお金も溜まったんではないですか?」


 なるほど。確かに色々とやって来たからな。

 有名になるのもおかしくはないか。

 俺の情報は色々なところに知れ渡っている可能性が高いから、今後少し注意したほうがいいかもな。

 まあ基本宿にこもってスマホ弄っているだけだけど。


「まあそれなりにですかね。それで今日は少し欲しいものがあって来たんです。おそらくここなら置いてあるかと思いまして。」


 おしゃべりも良いが時間が惜しいので、端的に用件を伝えて行く。

 すると俺の目当てのものの在庫がいくつかあるということなので、それを見してもらうことになった。


「これがうちで扱っているものでございます。魔石式コンロは数種類ありますが、お話を聞く限り長時間タイプのもので持ち運びはあまりないとのことなので一番お勧めするのはこちらです。」


 そう言って紹介されたのは他のものよりも、ひと回り大きい大型のコンロだ。

 火口は3箇所あり、それぞれが離れているので大きな鍋を並べても問題なさそうだ。


「これはうちで取り扱っているものの中でも最新式です。まず火力の変更機能はもちろんのこと、最大火力で3箇所を同時に使ったとしても5時間は持ちます。しかも全ての魔力が消費されても1時間で完全に回復する仕様となっております。さらに回復力を上げるために、こちらに魔石を投入すればすぐにでも再使用が可能となります。」


 試しに使ってみると最大火力は数十センチほど火柱が登るし、最小火力はうっすら目に見えるほどまで下げることができる。

 これはかなり良いものだ。

 これ一つあればかなり料理の手間が省けるだろう。


「ちなみにお値段は金貨50枚です。」


「はい?そんなにするのこれ…」


「うちの最新製ですから。これでもお安い方なんですよ。多くの貴族の方に購入をいただいていて、月に数十台は売れますから。」


 な、なるほど。

 貴族相手に商売しているのか。

 それならこれだけ人が入らなくても商売として十分成り立つよな。

 数十台売れるってことはこれだけで月に金貨1000枚以上稼いでんのか。

 意外とこの人やり手だわ。


「さすがにこれでは手持ちが足りなくて…他のにしようかなぁ」


「貴方様でしたら分割払いでも構いませんよ?多くの貴族から信頼されておりますし、収入も十分ありそうですしね。ただ少しだけ利子をいただきますが。」


「いや…でも…うーん……」


 さすがに借金はとも思ったが、ここで下手なものを買ってまた買い換えるよりも、今のうちに良いものを買って長く使うほうがお得かもしれない。

 け、決してうまいこと流されたわけではないぞ。


 その後も欲しかった水を生成する魔道具や照明の魔道具、風を送る魔道具に、ポーションに十得ナイフなど色々と購入し続けた結果、金貨200枚の借金を抱えることになった。

 なんだかうまいことやられたような気もするがこれら全てきっと役に立つ。

 十得ナイフなんてこれ一つあれば10本分だからな!

 …あれ?どういうことだ?


「たくさんのご購入ありがとうございます。返済期限は来月の終わりまでということで、それを過ぎた場合は利子が嵩むことになるというこちらの契約でよろしければこちらにサインを。」


「ちょっと待ってくださいね。一応目を通しておきたいんで……これなら大丈夫そうですね。」


 そう言ってサインをする。

 かなり高い買い物になったのは間違いないが、うまくやれば今月中にでも返済することは可能だ。

 もっと返済期限を延ばしてもよかったのだが、伸ばせば伸ばすだけ利子が増えるので短期間の一番利子の少ない金額にしてもらった。


「ありがとうございます。これでミチナガ様との契約は問題なくされました。今後ともよろしくお願いします。」


「よろしくお願いします…えーっと……」


「これは失礼を。私はこの商会、シンドバル商会の商会長、ラルド・シンドバルと申します。」


 シンドバル商会。

 そういえば何度か商業ギルドに納品に行った際に聞いたことがある。

 親子のたった2世代だけでこの街で5本の指に入る商会。他の街にも多くの支店を持つ。かなり影響力が高く、貴族であっても強く出られないほどだという。


 そんな大物だとは全く知らなかった。

 なんせこの店にはまともに看板がない。

 いや、なくても知っている人は知っているのだろう。

 限られた富裕層のみを相手にしていても、十分に仕事が成り立つというその商才は見習うものがある。




 色々と衝撃の事実を知ったそのあとは、別にだからどうするというわけでもなく、いつものようにスマホを弄ることだけだ。

 むしろそれ以外にやることなんてないのだ。宿に戻り早速どこでもクッキングを開く。


 そこで早速アイテム使用欄があったので、使えるものを全て並べていく。

 すると地球ならどこの家庭にもありそうなキッチンが完成した。他にもグリルなど欲しいものは山ほどあるがまあこれ以上は金もないし当分無理だろう。


 料理に関しては一人暮らしも長かったのである程度はできる。

 それにレシピもあるようなので特に問題はないだろう。

 そう思いレシピを探してみる。

 するといつもの通り、また課金アイテムだ。


「うっわ…目玉焼きのレシピ大銀貨2枚かよ。焼き魚も同じくらいするし高過ぎだろ。一つ一つは今までよりもはるかに安いけど量が半端ないし、全部買ったら今までの最高額行くんじゃないか?」


 カレーといった香辛料の配合が複雑なものは買う必要はありそうだが、ある程度は買わなくてもなんとなくでやればどうにかなるだろう。

 とりあえずまずは肉でも焼いてみようと思い、早速試してみる。


 操作はなんとなくでもどうにかなる。

 伊達にスマホで散々遊んできたわけじゃない。

 簡単に肉に塩とスパイスをふりかけフライパンで焼いて行く。

 あとは適度にひっくり返してやれば。


「焦げた肉の出来上がり〜…っておい!」


 おかしい。

 そんな焦げたようなエフェクトも何もなかったはずだ。

 それにそんなに長時間焼いていたわけじゃない。

 それから何度挑戦しても生焼け肉、焦げ肉、炭といった、料理できない系ヒロインみたいな失敗ばかり起こした。


「これは…今までで最難関かもしれないな。レシピ買わないとダメだわ。」


 手元に残っているのは金貨1枚だけだ。

 これが俺の全財産である。

 しかも明日からの稼ぎも、ほとんど借金の返済にあてるので自由に使える金は少ない。

 しかしこのままでは何も料理ができそうにないので、3つほどレシピを買う。


 買ったレシピはステーキ、焼き魚、魚の3枚おろしの3つである。

 正直最後のは料理でもなんでもないのだが、このような料理の技法も売られている。


 試しにステーキを作ろうとすると先ほどまでとは違い、味の付け方から焼き方まで全てアシストが入ってくれる。

 俺はそれに合わせて操作するだけで良いのだ。これはレシピが必須なのは間違いないだろう。


 こればっかりはどんなにこちらで勉強しても、ゲームと現実では全く勝手が違う。

 しばらくするとステーキが焼きあがった。

 試しに俺が食べても良いが、料理をしている途中から使い魔のポチが腹をすかせながら眺めていたのだ。


 うまくできているかわからないが、お預けするのもかわいそうなのでそのまま食べさせてみる。

 するとなんの問題もなく美味しそうに食べ始めたのでどうやら成功したと思う。

 その後もう一枚焼いて取り出して自分で食べてみると、味付けが少し物足りない気はするが、しっかりとできていることがわかった。


 その後は焼き魚を作ったり三枚おろしをした。

 少し慣れてきたところで改めてレシピのないオリジナル料理を作ってみたが再び失敗してしまった。

 どうやら料理も生半可な技術ではできないようだ。




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