第73話 危険な村
翌日、埋葬した二人に別れの挨拶をするとすぐに出発を開始した。これが意外にもすんなりと帰ることができ、まっすぐ馬車で移動していると昨日塞がれていた街道のその先の道についた。昨日あれほど迷ったのが嘘のようだ。
そこからの道中はこれといった障害もなく、のんびりとした道のりだった。俺はどうせなので昨日二人の遺体から回収した本の解読を始めていた。
片方はこの世界の言語のようだが、俺が読めるものではなかった。翻訳アプリでその文字を読めるようにするためには、金貨200万枚もかかるということなので当分は保留だ。
問題はもう片方の日本人のものと思われるものだ。草書なんて学校の授業で軽くやった程度なのでそんな簡単に読めない。しかも翻訳アプリでは対応していなかった。どうやらこの世界の言語のみ対応しているということなのだろう。
まさか同郷の人間のものの方がこれほどまでに読むのが辛いとは…しかもこの筆者はだいぶ文字にクセのある人物だ。通常の読み方では読めなさそうな文字ばかりだ。決して字が下手くそと言っているわけではない。達筆…ということにしておこう。
「まだこっちの遺書の方が読みやすいな。…え〜っと、『これを読む同郷の者へ、私の遺産の』…これはゼロ戦ってことだよな。零戦って文字が書かれているし。それと…設計図だよな。それも託すと。良かった、ちゃんと全部回収してきて。」
ある程度意訳しないと読めたもんじゃないな。あと後半の部分は失われた〜とか再び〜とかはわかるけどそれ以外がちゃんと読めない。まあこんなもん読めていれば十分か。
遺体に握られていた本はおそらく…日記的なものだと思う。日付が書かれているし。なんの役に立つかわからないけど、ゆっくり読み解いていこう。
そういや、いろんな設計図が書かれていたけどその中から何か作れるものとかなかったのかな?こういうことは社畜に聞くのが一番手っ取り早いか。
社畜『なんも造れないのである。あれは酷い欠陥品である。』
ミチナガ『は?なんでだよ。結構しっかり書き込まれていたぞ。』
社畜『書き込まれていても関係ないのである。どんなに読み解いても関係のない部品まで描かれているのである。おそらくそれっぽく書かれただけである。』
まさかのなんの意味もない図面…信じられなくて自分でも確かめてみたが、確かに部品の大きさと完成したものの大きさが合っていないものがいくつもあった。
俺の予想だが、日本人と思われる方が『俺の世界にはこんなのがあったんだぜ』的なことを言って、もう一人がそれを作るならこんな感じの部品を作ればいけるかな?的な感じで書いたものなのだろう。
二人で楽しく描いた夢の設計図というやつだろう。作図されたパーツ自体は他のものに転用すれば何か面白いものができそうと思えるものであった。まあそのパーツ自体何に使うのかまるでわからないけど。
遺書に書かれていた俺の役に立つというのは、おそらくこの設計図を転用してうまいことすればきっと君の役に立つよ、ということなのだろう。その転用の仕方は今の所全くわからないので意味はない。まあきっと役に立つと信じてみよう。
社畜『それよりもこのゼロ戦である!これは素晴らしい状態である!燃料さえあればいつでも動き出せるのである!』
ミチナガ『マジでか!燃料もあるじゃん!前に死の湖でたんまりとったあの石油が!』
社畜『石油は石油である。製油しない限り使えないのである。』
ミチナガ『…ちなみに精油する方法は?』
社畜『ないのである。これから造るしかないのである。』
ミチナガ『じゃあ造れよぉ〜とっとと造れよぉ〜』
社畜『む、無茶である!まだ製鉄所も…』
ポチ『頑張ろうねぇ〜』
断末魔のような社畜の叫びが聞こえたがまあ放っておこう。彼には当分頑張ってもらうしかない。しかしどうにもうまくいかないもんだなぁ…
「お、久しぶりの村だぞ。少し早いが今日はここで一泊するか?」
「いいですね、たまにはゆっくりと休みましょうか。というか休みたい…」
あれから3日。人気のない森の中を進み、時にモンスターに襲われ、時に塞がれた道を迂回して車酔いをしてと今までで一番ハードな旅だった。マックたちは慣れているようだが、俺は結構体がボロボロだ。
寝ても疲れは取れないし、夜もモンスターの恐怖で神経が張り詰めたままだった。ここら辺で一度ゆっくりと休みたいところだった。そんな時に現れた村。これはもう休めという天からの声に違いない。
このまま村へ直行と思ったら先にケックが村へ行き、話をつけるとのことだ。なんでも商人に偽装した盗賊もいるので、こういった大きな街から離れた村などでは一人が村長と話をつけてからの方が良いらしい。
ケックが話をつけている間、紅茶でも飲みながら待っていると遠くから数人の村人がこちらの様子を伺っている。しかしなんというか、痩せこけているように見える。
「大丈夫っす!話はついたっすよ。」
村の中からケックが大声でこちらに呼びかける。まあわざわざこっちまでくるのは面倒だからな。俺たちもすぐに馬車を出し、村へと向かう。そして村へ着くとよくわかる。この村は今、ギリギリの状態だ。
村にいる人々は全員痩せこけ、歩くのもやっとというくらいだ。辺りを見回していると、村人の中でも一番身なりの良い、とは言っても服が綺麗なだけで痩せこけているのは他の村人と変わらない人が来た。
「わ、私が…この村の…村長です…お、お願いです。食料を…少しでも良いので……」
「わかりました。すぐにでも用意します。ですので少し休んでください。」
村長は息も絶え絶えといった具合になんとか話している。弱々しい声だが、その必死さは痛いほど伝わってくる。俺はすぐにスマホから食事を取り出す。
しかしこの状況で肉料理でも出そうものなら、この村人たちは死んでしまう。これだけの飢餓状態の人間に下手な食事を与えると、却って死んでしまう。消化しやすく、それでいて栄養のあるものが必要だ。
ミチナガ『シェフ、甘酒を大量に用意してくれ。それから今ある甘酒を水で薄めてくれ。そのままだと今の彼らには濃すぎるかもしれないからな。』
シェフ『在庫が十分にあるので問題ないですよ。人肌より少し暖かいくらいのものを用意しときます。』
甘酒は飲む点滴と言われるほど栄養豊富で体にはいい。固形物はほぼほぼないので消化にも問題ないだろう。雑炊を今から作るよりも早いし、栄養も豊富だ。
「これを村人全員に配ってください。外にも出られなくて寝たきりの人も多いでしょう。一軒一軒回って配りましょう。」
「わかった任せとけ。」
マックたちにも手伝ってもらって村人全員に薄めた甘酒を飲ませていく。俺も使い魔たちを総動員させる。しかしそう時間はかからなかった。なぜならかなりの人数がすでに手遅れだったからだ。
「生きているのは20人ほどだ。元は100人以上いた村のようだが…それっぽっちしか助からなかったか。」
「多分この後も数人は死ぬかもしれません。しかし、なんとか今生きている人たちだけでもなんとか生かしましょう。ポーションか回復魔法はありませんか?」
「回復魔法は難しいんだ。俺は使えない。ポーションはあるが、この衰弱では却って死ぬかもしれないな。」
ウィッシの話によるとポーションは確かに傷を治すが、体が衰弱しきった今のような状態では治す際に体力を持って行かれてそのまま衰弱死してしまうらしい。その後、使い魔たちに生きている村人一人一人を注視させた。
しかし、翌朝までに3人が死んだ。