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第72話 ゼロ戦



 マックたちは野営の準備を始めている。家があるのだからその家にとりあえず泊まろうという案も出たのだが、俺が頼んでそれはやめてもらった。ゼロ戦があるということはもしかしたら日本人がいたのかもしれないからだ。


 まだいるかもしれないという可能性もあったのだが、窓からのぞいた限り長いこと使われた様子は見られなかった。俺はマックたちが野営の準備をしている間に家の中に入ってみることにした。


「お邪魔しま…ゲホッゲホッ…埃っぽいなぁ。数年…は経過していると思うけど、それにしては物持ちがいいな。埃は被っているけど朽ちたところがない。」


 とりあえず窓を開けて換気をする。窓から入って来た数年ぶりの新鮮な風が部屋に注がれる。しかし開けられたのは片側の窓だけだ。入って来た空気は部屋中の埃を巻き上げ、まともに目も開けられないほど部屋中に埃が舞う。


 まともに息をすると口中に埃が入りそうだ。なんとか部屋に入って来た時の記憶を頼りに反対側の窓を開ける。すると見事に部屋中の空気が入れ替えられ、呼吸ができるようになった。


「埃っぽいからって下手に窓を開けるべきじゃないな。あ〜…死ぬかと思った。」


 まあ埃を吸い込んだからって死にはしないけどね。しばらく換気をした状態で待つ。あらかたの埃が部屋の外へと流されたので部屋の中の探索を始めよう。そう思い振り返ると暖炉の前の2つのロッキングチェアが目に入った。


 風が入って来たことによって僅かに揺れるロッキングチェアにはそれぞれに白骨化した人の亡骸が座っていた。あまりの衝撃に思わずよろめく。骸骨なんて今まで見たこともない。そんなものがふと、目の前に現れるというのはあまりにも非現実的な出来事だ。


 まあ異世界に来るなんていうもっと非現実的なことを体験しているけどね。しかし驚きすぎると声も出ないものか。とりあえず一旦落ち着こうと思い、顔を背けて深呼吸をする。すると顔を背けた先に机があり、その机の上に一枚の何かが書かれた紙が見えた。


 手に取って見るのは劣化した紙が破けると困るので机に近づいて何が書かれているか読んだ。


『このメモを読んでいるあなたにお願いします。椅子に座ったまま死んでいる私たちを家の隣の木の下に一緒に埋めてください。そして、手に握られているそれぞれの本を持っていってください。それがきっと、あなたの役に立つことでしょう。』


「これって…遺書だよな。あ、もう一枚ある…けど読めねぇ。このミミズみたいな文字…草書だっけ…書いたの日本人なんだろうけど草書はそうそう読めねぇよ。ゼロ戦あったから戦時中の人なんだろうなぁ。解読するのに時間かかりそうだわぁ…」


 必死に読もうとするけどだめだ…読める気がしない。時間かければ…きついなぁ。なんでこの世界の言葉の方が読めて、同郷の人間の言葉の方が読めねぇんだよ。


 とりあえずこの遺書は両方ともスマホに保管しておこう。それから遺書に書かれていた通り、二人の遺体を埋葬しよう。さすがにこのまま放っておくようなことはしない。その前に回収するものを回収しておこう。


 ロッキングチェアに近づき、白骨化した遺体の手元にある本を回収する。腐敗した肉体が染み込んだのだろう。本にはシミができていた。しかし匂いはほとんどしない。かなりの年月が経っているようだ。本が破れてしまうといけないのですぐにスマホにしまう。確認するのは後にしよう。


 他にも何かないか探す…のはやめておこう。さすがにこれ以上はただの盗賊だ。マックたちを呼んで、彼らの遺骨を埋葬しよう。そう思いドアから出ようとする。その時、壁が目に入った。埃だらけで気がつかなかったが、何かが貼り付けてあるようだ。


 軽く埃を払ってやる。するとそこにはゼロ戦の設計図が描かれていた。


「え…もしかしてこの壁に貼ってあるのって…」


 埃をどんどん払っていく。すると他にもいくつもの設計図と思われるものが出て来た。戦車に戦闘機、果てには潜水艦の設計図まで書かれていた。


「この人…もしかして研究者とかだったのか?こんな設計図かける人そうそういないだろ。この設計図は誰かに見つかるのはまずいな…」


 これ以上は盗賊と同じとか思ったけど、これは見つかるのはまずいだろ。ピースたち使い魔を全員導入してどんどん設計図を回収していく。他にも仕舞っているものがないか探してみるといたる所から出て来ること出て来ること。


 しかしこれだけの量の設計図、しかも種類が様々だ。戦時中の人間かと思ったが、冷蔵庫や洗濯機の設計図まで出て来る。一体いつ頃の人間なのだろう。


「これだけの設計図…この人の能力なんだろうな。じゃないとさすがに説明つかないだろ。」


 設計図ばかりで作り上げたものが無いのは材料が手に入らなかったからだろう。設計図を書き上げた理由は…よくわからん。趣味だろうな。


 部屋の隅から隅まで探すと、隅から隅まで設計図が出て来る。せめてちゃんと一箇所に仕舞っておけよ。そんなことをしていると設計図を探しているうちに部屋が綺麗になってしまった。


ピース『もう他には無いと…思います。』


ミチナガ『ありがとうな。じゃあ遺体の埋葬をするか。』


 外ですでに野営の準備を終わらせたマックたちを呼び、事情を説明する。するとそういうことならと快諾してくれた。ウィッシの土魔法なら埋葬するための穴を掘るのもすぐに終わる。ものの数分で遺体を運び、木の下に掘った穴に埋葬した。


「ありがとうございます。しかし…なんか手馴れていましたね?」


「まあな。冒険者なんてそこらへんでくたばることの方が多い。むしろモンスターに食われて、遺体すら残らねぇからな。だから遺体が見つかった時は身元がわかるものを回収して埋葬してやんのさ。」


「今は誰かを埋めても明日は我が身っすからね。俺らも死んだ時はちゃんと埋葬してほしいっす。」


 なるほど、そういうことか。普段から死と隣り合わせの生活をしているから、そういったものには敏感なんだろう。俺はそんな生活にならないように頑張ろう。


「さてと、遅くなったが飯にしようぜ。今日も頼んだぜミチナガ。働いたんだからうまいもん食わせてくれよ。」


「はいはい、どうせですからこの二人を明るく送ってあげましょう。酒でも飲んでパーっとやりますか。」


「お!いいっすね。」

「そうこなくっちゃな!」





 スマホで時間を確認する。すでに次の日になってしまったようだ。マックたちはというと全員夢の中のようだ。ウィッシ曰く、ここは結界の中なのでモンスターはまず入ってこられない安全地帯だという。だからマックたちも安心して寝ているらしい。


「目が冴えちゃったな。歯を磨きながら散歩でもするか。」


 とはいっても散歩できるのはこの結界の中だけだ。開けた場所なので観るところは限られて来る。埋葬した彼らのところにでも行こう。


 スマホから取り出した歯ブラシで歯を磨きながら二人を埋めた木の下に行く。すると木の下に何か白い影が見えた。まさか幽霊!っと思ったら使い魔の誰かだ。けど見覚えのない使い魔だな。


ミチナガ『お前まだ名無しのやつだな?お前がスマホの外に出て来るなんて珍しい。というか初めてじゃないか?』


名無し『…これは……聖樹…珍しい。』


 うおっ!喋ったぞ。こんなの初めてだ。なんせ他の使い魔ともまともに喋ったことがないやつだからな。かなり貴重な体験。


ミチナガ『ん?聖樹ってルシュール様からもらった種の中にあったような…育てるのものすごい大変だったような…』


名無し『難しい…この聖樹……結界の要…』


ミチナガ『この聖樹がこの結界を作っているのか。この二人…もしくはどっちかはそういった分野で優秀だったんだろうな。』


 聖樹を育て上げ、魔法まで組み込めるなんて相当な技術者だったのではないだろうか。まあ魔法を組み込むのは簡単かもしれないけど。それでも育て上げることができるだけで十分だ。生きているうちに会ってみたかったな。


名無し『隣のそれ……持って行く…この木の…願い……』


ミチナガ『このゼロ戦を?本当にいいのか?』


名無し『それ…空を飛ぶもの……ここにいても…意味ない……』


 まあ確かにそうだけど…まあ持っていっていいなら持って行くか。それにしてもこいつが初めて役に立っているな。植物と意思を疎通できるのって考えてみれば結構便利かも。


 すると名無しの使い魔は聖樹を登り始め、一本の枝を折って持ち帰ってきた。すごい満足そうなんだけど。


名無し『聖樹…種から…時間かかる……枝なら…すぐ…』


ミチナガ『ちゃんと許可はとったんだろうな?まあいいや、それにしてもお前は植物に関しては目がないんだな。森の妖精…ドルイドって感じか。じゃあお前の名前ドルイドにするか。』


ドルイド『気に入った……枝…育てる…』


 そういうとドルイドは枝を持ったままスマホの中へ入っていった。


「さてと、歯も磨き終わったし、このゼロ戦仕舞ってとっとと寝るか。明日にはこの森抜けて元の街道に出ないとな。」


 パパッとスマホにゼロ戦をしまい、寝ることにした。休んでおかないとまた車酔い、もとい馬車酔いするからな。






『遺産を確認しました。実績が解除されます。報酬の入手までの残り時間は……』



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